「テングさん、どうですか?」
最早、慣れた問いかけである。
その主は当然メイスであり、手にしたデバイスの画面を隣の席からこちらへ傾げている。
「すごく綺麗です、涼しげでスカッとする色合いが出てますね」
僕は今、彼女の作品の写真を見せられて、その感想を答えるというやり取りを延々と繰り返していた。
「うへへ……そんなにですか?」
「そんなにです」
ここは例によって、メイスと二人で作戦の目的地へと向かう車内。つまり僕に逃げ場は無い。
一度運転手さんにまで声をかけ始めたのを静止してしまったので、この状況を甘んじて受け入れるしかない。
「じゃあ、これはどうですか?」
そう言いながら、ほんの少しだが座る位置をこちらへずらして来る。
下着の上にスケスケ雨ガッパ一枚の美女が、である。
「こっちは落ち着いた雰囲気ですけど、もっと拡大して見たいくらい情報量がありますね」
平静を装いながらも、視線は泳ぎまくっていた。この状況、どう対応するのがお得、じゃなくて健全だ?
うん、一回言及しよう。流石に。
「すみません、あまり近くに来られると、その……恥ずかしいです、そんな服装で」
かなりしどろもどろになってしまった。恥ずかしいので離れて下さい、とも言えないから仕方なしか。
「だ、大丈夫ですよ。人間だって、ホントは透明なんですから」
何を言っているんだ。後半が本当とて、前半の理由にはならんだろ。だったらせめて服は不透明にしてくれ。
落ち着け。これから自分がすべき事を考えろ。
僕の今の中期目標は戦場に出して貰う、つまり駒として重用して貰う事で、世白を相手に単騎で出撃して無双したいとかではない。
今までみたいにサポート役としての有用性をアピールできれば、誰かとセットで重用して貰える道もあるはず。
つまり、他の人と同様にメイスともツーマンセルを問題なくこなすのは必要不可欠。
これはその為の試練である、と思おう、うん。
「到着しました、どうぞ」
うわ助かった。率直にそう浮かんだ。
「行きましょう、メイスさん!」
彼女は口惜しそうに息を吐きながらも、手にした端末をポケットに仕舞って腰を上げた。
「ここが、今回の作戦区域ですか」
青々とした芝生の中心に建つ、シャープな形状の建造物。一面真っ白な姿は砂糖菓子を思わせる。
けれど、僕はこの形を知っている。県立の美術館だ。
「美術館が、世白の被害に」
昨日のアーケードもそうだが、こうした人間の生活圏にまで出てくるのが恐ろしい。
ここにまた人々が戻って来れるかは、僕達に懸かっている。
「内部の美術品は避難させてあるそうですが、同時に世白も入り込んでしまったそうです。」
デバイスを覗きながらそう述べるメイスの表情は暗い。
気を引き締めつつ歩を進め、建物の前に立つ。
「さて、ここが入口なのですが、先に外側から塗れるだけ塗りましょう」
メイスの言葉に従い、デバイスから資料を閲覧して。
そこで初めて気が付いた。
「この壁って、ガラス張りだったんですか」
この、白い壁が。
つまり、透明という色が奪われているのか。
「そうですよ?来たことなかったんですか?」
メイスは呆れた声を発しながら、既に手を動かし始めていた。
「来たことはありましたが、記憶がおぼろげで。すみません、どう塗ればいいのか分からなくて」
「透明だったら、奥にどんな景色が見えるかを描くんです。簡単なことですよ?」
簡単なことではないですよ。
そう言った所で仕方がないので、資料とメイスのWIPから大体の見当を付けてメイスの反対側から貼り進めてみるとしよう。
川の水面や遠くの曇を題材に作った経験と、昨日受けたコルマ先生のレッスンを思い出しながら紙を取り出す。
和紙の貼り絵にだって、透明感は出せる。
典具帖紙や、雲龍紙。薄く光を通す和紙がある。最近は絵の支持体にする為の厚い紙ばかり作っていたから、忘れていたけど。
奥行きを意識して、層を重ねながら色を組み立てる。映画のポスターくらいの面積を何とか貼り終えた所で、横からメイスが顔を出した。
「下手ですね。私のと比べて分かりませんか?」
「拝見します」
比べるべく壁から離れてみると、すぐ隣まで迫っていたメイス担当箇所のまあ上手いこと。
平面に描いた一枚とは思えない程だ。そう感心している間に彼女は僕の貼った部分を上から描き直していた。
「かえって描き辛くて時間の無駄です、私の邪魔しないでください」
すみませんでした。
程なくして美術館の外観にほんの薄いグレーが広がり、色を取り戻せたのが分かった。
しかしガラスから弱い日差しが届く範囲より先は、依然として不自然な純白が続く。
まあ画力不足は今に始まったことでもない。気を取り直して、ここからは屋内戦だ。
世白との遭遇に備えて、制服の袖を引き上げる。
電気は通っているようで、自動ドアは問題なく開いた。
しかしさっきから、メイスがなんか明らかにピリピリしてるよね。車で話した時と大違いだ。
まあ人の機嫌は僕にコントロールできないモノなので、どうもせんけど。
少しだけ彼女から距離を取りながら、エントランスへ足を踏み入れた。
「まずは順路に沿って一通り回りましょう」
そう提案するメイスを。
「はい、ですがすみません、メイスさん」
そう呼び止める。
「居ます、あそこ」
気が引けるが見っけちまったもんは仕方ない。
順路の反対側、物販コーナーの棚の奥に、うごめく白が確かにあった。
「近づきましょう」
即断だった。それどころか僕が指差す先へ早足で歩み寄るメイスを慌てて追う。
その時スルリと、世白が回転した。
いや、振り向いたのだ。あいつ、長い。
生き物で例えるなら、ウミヘビが近い形か。
しかしまた頭を廊下の奥へ向け、こいのぼりが空を泳ぐ様にスイスイと消えて行く。
ダッシュに切り替えて追跡したが、やがて一面の白に混じって見失ってしまった。
「あのタイプは、足が速くかつ面積も広い。普通では倒しにくいです」
廊下の途中で僕が息を整える中、そう苦々しく呟くメイス。
先輩からしても難敵なのか。
追って駄目なら、あとできることは。
「思い付きがあるんですが、試してみていいですか」
唐突な提案だったが、メイスは興味深そうに。
「可能なのでしたら」
そうOKをくれた。
そして、10分程度メイスの案内に沿って館内を歩いた頃。
左手を軽く引っ張られる感触があった。
「来た、ヒットです」
「捕まえられたんですか?」
僕の左手首から伸びる和紙の紐。それがピンと張ったり緩んだりしながら、少しずつ伸びていく。
「はい。でも網に掛けたってよりかは、釣り針を噛ませたって感じですね」
何をしたかと言うと、僕の紙をこよって紐状にしたのを館内の所々に引っ掛けて仕掛けたのだ。
僕の紙は世白には強力にくっつくので、釣り糸であると同時に釣り針でもある。
それがどこかしらでヒットして、僕と世白を繋ぐ手錠になったという訳だ。
美術品が置いてあったらモノ壊しそうでできなかっただろうな。
「トドメはお願いできますか?」
紙紐を辿りながらの僕の言葉に、メイスは分かりやすく考えるそぶりをする。
「そうですね。こういった人工的な壁や床がある場所なら、そこへ誘い込むのが定石ですが。テングさんの彩能で面に拘束できますか?」
回収した紙紐を左手に巻き取りながら歩く。設置した分の半量は回収しただろうから、世白は近い。
「それはちょっと難しいですね」
なかなかデカかったからな。今までのようにはいかないだろう。
そうして、エントランスまで戻ってきた。紙紐は二階への階段へ続いている。
「そうですか。でしたら……一色の、なおかつより広い背景で溶かし込みましょう。たとえば」
メイスはピンと指先を立てた。その先には、ガラス越しに曇天が広がる。
「空、ですか」
「正解です。テングさんのお陰で逃がす心配も無いのなら、ここから追い出しましょう」
その瞳には怒りが滲んでいた。
これは失敗できないな。
そして二人して入口に陣取り、自動ドアを開いた状態で止めておく。
「巻き取り、始めます」
切れないように時々緩めたりもしつつ、格闘することしばらくして。
階段の先から大物が顔を覗かせた。
「メイスさん、準備をお願いします」
彼女は右手を胸元に当て、ぴしゃりと弾く。
瞬く間に、その指先が栗色の平筆へ変化した。
お互い構える中で、突如世白が動いた。一気に入口の風除室を突っ切り、外へ飛び出す。
「っく、今です!」
「えーい、えーい!」
メイスはピョンピョンと飛び跳ねながら、僕の上空5mあたりを舞う世白を目掛けて腕を振るう。
何がとは言わんが、めちゃくちゃ揺れていた。
「あ、もうちょっと巻き取りっ、うあっ!」
そうして僕が気を取られ、バランスを崩しかけ。
「えっ、大丈夫ですか!?」
メイスがそれを心配してか僕に寄ってきて。
ヒュンヒュンと風を切る音が聞こえるくらいに、世白が辺りを急旋回した結果。
僕とメイスは二人まとめて向き合ったまま、紙紐でぐるぐる巻きにされた。
「ひゃあ!テングさん、何するんですかぁ!」
「僕は何もしてません!何が起きたんですか!?」
今はかろうじて直立しているが、横倒しになったら本格的に行動不能になる。
その状況を理解し、僕が最初に取った行動は。
「すみませんホント!わざとではないです!」
謝罪と釈明だった。だってしょうがないじゃん。
「ダメですそんな、状況分かってるんですか!?離れてくださいー!」
「メイスさんが誤解してます、僕の意思じゃないんです、世白が暴れてあああー!」
押し問答の内にバランスが崩れ、僕はメイスを押し潰すよりはと自ら後ろに倒れてる事を選択した。
「ぐえ」
背中は痛かったけど、胸には柔らかい感触を覚えた。
「離してください、今すぐ!」
メイスの顔が近い。美人。
「できません。今の僕達は、釣りのリールなんです」
幸いお互いに両手は自由だ。
僕の左手は紙紐の出所なので動かしにくいが、残る右手で低空飛行を続ける世白に繋がった分を握り、手繰り寄せる。
「獲物がかかっているなら、巻き取るまでです!このままお願いします!」
「嫌です!」
そうですか!
「僕の意思じゃほどけないんですよ!だから先に」
そう説得を試みる中、メイスが立ち上がった。
倒れたままの僕から離れて。
「え、いつの間に!」
辺りには千切れた紙紐が散らばる。よく見ると所々暗く変色している、いや違う、濡れている。
水彩で和紙を濡らして脆くしたのか!
「えいえいえいっ!」
地面に這いつくばったまま、それでも右手に掴んだ紙紐だけは離すまいとする僕にメイスの放つ絵の具しぶきが降りかかる。
そんな中ふと、手応えが消えた。
立ち上がる僕の顔の前に、ピースサインを掲げるメイス。
「やりました!」
一瞬逃げられたかとも思ったが、どうやら上手くいったらしい。
「ありがとうございます。世白完制、ですね」
「ふふ」
彼女は僕の言葉に、どこか不自然に笑う。
「そ、それ、コルマさんが勝手に言ってるだけですよ?」
「え、そうなんですか」
ちゃんとした用語かと思ったのに。
「真面目、なんですね。ふふ」
そうはにかむメイスを見る内に気恥ずかしくなって、話も程々に散らばった紙紐の回収に移った。
そうしてまた、美術館の中へ戻って。
「これでゆっくりと復元できますね。誰かと一緒に回るのは、久しぶりです」
その声はどこか寂しく笑うように聴こえた。
「そうですか」
やめてよ、なんかそう言われるとデートみたいとか思っちゃうじゃん。
「それで、なんですけど」
斜め前から、チラリと視線を向けられる。
「ごめんなさい……さっきのこと、謝りたいんです」
しおらしい目線だった。彼女はこちらに向き直って続ける。
「最初の復元の時に、テングさんにひどいことを言ったと思います。大切な美術館が真っ白になってて、イライラしていて」
ああそっちか。さっきのぐるぐる巻きハプニングが強烈過ぎてそれまでのこと全部忘れてたけど、あったねそういえば。
「いえ、お気になさらず。お気持ちは分かりますし、ならなおさら世白を倒せて良かったです」
安心したような表情を浮かべるメイスと、白い廊下を進む。
「教えてください、大切な美術館のことを」
そのお願いに、今日一番の笑顔を見せてくれた。
「はい。ガイドしちゃいますね♪」
***
「出撃お疲れ様でした。本日より資料室の利用許可を与えますので、適時利用して学習にお役立てください」
資料室か。ご褒美としては弱いよ。
しかしまあ、今までの出撃で世白についてもっと知る必要があるとは思っていたし。
「一度、行くだけ行ってみるか」
して、到着。
図書館みたいなイメージを抱いていたけど、実態は本棚と長机が並ぶだけのコンパクトな部屋だった。
「あ、テングさん」
その中心から僕へ手を振る人影。メイスである。
「お疲れ様です、ちょっと世白について調べようと思って。メイスさんは?」
「時々SNS用の写真を撮るのに使ってるんです、照明が自室のよりも向いてて……ナイショですよ」
せっかくここで会えたのだから、次に会った時話そうと思った事を伝えてみる。
「人間が透明っての、ホントなんですね。表面下散乱なんて初めて知りました」
「常識ですよ、お絵描きする人だったら」
謙遜かもしれないがちょっとムカつく言い方だな。
人間の肌の内側で光が散乱するのが、そんなにメジャーな現象なのか。
「……ねえ、テングさん。今って、お時間は大丈夫ですか?」
一呼吸置いて、メイスがそう切り出した。
珍しい、今まではそんな確認もなく話し始めてたのに。
「はい、特に用事はないので」
「できたら、聴いていただきたいんです。美術館じゃなく、私のことも」
ほう。世白を倒してからの修復作業の中で、あの美術館の豆知識は一通りご教示いただいたが。
「構いませんよ。座りますね」
一つ椅子を引いて、腰を据える。
メイスはまた深く息を吸って、僕の目を見た。
「私、あの美術館のすぐ近くにある大学の、デザイン学科に通ってたんです」
ああ、存在は知っている。前に駅の構内にクールなポスターが貼り出されていた。
「でも、クラスでは成績が悪い方で、SNSに作品をアップロードしても、見向きもされなくて」
ふむ。今しがた気が付いたが、またしても服装がヤバいな。ベアトップって言うヤツ?胸から上丸出しなんだけど。
「それで一回、透明水彩で偶然性を狙って描いてみたんです。ほんの遊びみたいに」
いかん集中しろ。透明水彩ってのは、その名の通り透明度の高い水性の絵の具だよな。
「それが突然、沢山の人から評価していただけて。それに私に目覚めた彩能も、水彩だったから」
バズった、ってのか。その口ぶりだと、元々は違う画材がメインだったのかな。
「それからは、そればっかり描いて。でも、友達からは前の方が良かったって言われちゃって」
なるほどね。
まあなんとなく察しが付く部分もある。
デザインの大学とかに詳しくはないが、通っていたなら入試に受かったってことだろうし、美術館の復元の際も極めて正確に色を置いている様に見えた。
つまり彼女、本当は狙って描く絵も上手い。
それがある時、専門外のでバズって、そればっか描いてたら友達から批判されて、と。
難儀だな。もしかしてその結果、こんな風に人の注目や賞賛を求める性格になったのか?切実な露出趣味だ。
そう聞いて、僕個人の意見としては「そんなに他人の目を気にしなくてもいいんですよ」になるのだが。
この人にとっちゃあそうもいかんから、今こうなってる訳で。
めんどくさいし適当にその場しのぎの褒め言葉でも、まあいいんだけど。できるのなら、正直に向き合った上での言葉を送りたくなった。
「……複雑ですね」
とは言っても、そううまいフレーズが浮かびもせず。
なんとか捻り出した共感の言葉に、彼女はキッと目を吊り上げた。
「知った風におっしゃいますね、クラス内の順位付けも、12時間のデッサンも、私の苦労も努力も、なんにも知らない癖に!」
知った風におっしゃったかい?それにお前から頼んでもないのに語り出したんだろ。
かと思いきや、バッと顔を伏せて。
「ごめんなさい、私、羨ましいんです。テングさんが、とっても羨ましい」
そう悲痛な声を紡ぐ。
「自分にしかできない仕事があって、色んな人の役に立ってる、テングさんが」
そうだな。メイスの言葉というより、メイスがそういう風に思うことに、そう思った。
「僕も最初は嬉しかったです」
言ってから否定的なニュアンスの滲みを恥じて、声色を明るくする。
「けどそうなったらなったで不満が出てきて、つまりはまあ、欲張りなんです、僕は」
彼女は俯いたままだが、なんとなく聴いてくれていると思えた。
「だからメイスさんも、欲しいモノは欲しくていいと思うし、その為に色々と試すのは良いことだと思います」
そこまで続けた所で、顔を上げてくれた。
「……はい」
柔らかな声だった。
「任務の時の服装は、僕はちょっと困りますけど」
そうだこれも言っておこう、免罪符とかではなく意思表明として。任務以外のも正直、だいぶアレだけど。
「そうですか?もっと見てもいいんですよ?」
いいんですか!?
じゃなくて。
ありがとうございます!
でもない。
「えと、冗談ですよね?」
よし。
「でも、そうですね。欲しい。うん、私ももっともっと欲しいんです」
確かめるように言葉にする、その表情は晴れやかだ。
「今度、またコンテでデッサンなんかも描いてみますね。私が描いてみたいから」
「素敵だと思います」
前向きになってくれたなら良かった。
立ち上がり椅子から離れようとして、袖を掴まれる。
「そしたら、ちゃんと見てくださいね♪」
えっ可愛い。メイスだけ座ってるから上目遣いになってて、不覚にもキュンとしてしまった。
「はい、楽しみにしてますね」
努めて平静を装い、微笑んで返す。
すると袖は解放してくれたので、本来の目的である世白関連の調べ物に取り掛かることにした。
しばらくのち。
「進捗はどうですか?」
「何も分かんなかったっすね」
結論、成果なし。ニュースとかで耳にできる以上の情報は得られなかった。
「まあ、機密情報の保管場所ではありませんからね」
デバイスをいじりながら困り笑いを浮かべるメイス。
「何をご覧になってるんですか?」
「SNSですよ、他にありますか?」
色々あるよ。
「そこの二人!ラクガキを止めろと何度も言っているだろ!」
「逃げろー!」
「あっ!ごめんなさい!忘れてた!」
そんなやり取りの中、外からドタドタと聞こえる。
アロとレオと、最初の声は所長さんじゃん、二人とも敬語使えよ。
そのまま、バタバタと足音が近づいて。
ガチャとドアが開き、バタンと閉まり。
「あっ、メイスじゃん、ちょっと匿って!」
甲高い声が加わった。
「げ、お前もいんの」
げ、とか言うな。露骨に苦い顔するな。傷つく。
「テングさんとお話してたんです」
「ふーん」
アロはぶっきらぼうにさっきまで僕が座っていた椅子を占拠して、居心地の悪そうな目線をくれる。
「明日は、アロちゃんとテングさんが当直でしたよね。応援してます!」
静かに帰ろうとしてドアノブに手を掛けたタイミングで、メイスの言葉が待ったをかける。
「はい、頑張り、ましょうね!」
ます、にするか迷ってアロに呼びかける方を選択。
「……」
無視ですかそうですか。
じゃあもうこのタイミングでやれる行動はなさそうなので、お暇しましょう。
不機嫌を隠そうともしないアロの表情を伺いながら、ゆっくりとドアを閉めた。