僕らは白が許せない   作:sorasumi

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カラースプレーのガス抜き方法

「……」

 

 お互いに、無言。

 相乗りするは、色眼鏡の少女。

 今日掛けてるやつは黄色と緑だった。カラーバリエーションがあるようだ。

 

 フウと息を吐いて、対角線上に座るアロと目を合わせようとする。

 彼女の目線は依然、デバイスに向けられているが。

「ちょっと一回本当にお話させていただけませんか」

 こちらからの、お願いである。

 

「やだ」

「はい」

 目もくれない。じゃあもうしょうがない。

 

 早く目的地に着かないかな。

「着きました」

 着いたそうだ。

 

「早く出て」

「はい」

 追い出されるように車を飛び出し、アスファルトに降りる。

 

 今日の作戦区域は広い運動公園だ。

 駐車場から芝生に踏み込み、目指すは雪が積もったように白が広がるエリア。

 公園の中心にある球場も、その半分は白に侵されている。

 

 アロは両手をシャカシャカと振りながら、早歩きで進んでいく。

 白い芝生にも躊躇なく踏み込むと、二本の指で指を差す。

 するとカラースプレーが辺りに舞い、新緑がみるみるうちに蘇った。

 

 どんな仕組みかと目を凝らせば、それぞれの手の人差し指の爪を中指で押しているっぽい。

 そこがスプレーで言うプッシュボタンになっているのか。

 

「出しゃばんないでよ」

 とのことなので、邪魔にならないように縁石とか遊具とかの小物を担当する。

 

 風景の復元は順調。それどころか、アロはフワフワと近寄って来た世白をスプレーの一閃で瞬殺していた。

 言うだけのことはある。

 

 だからか、つい油断してしまっていた。

 大きめの遊具に取り掛かった僕は、アロが小型の世白を追いかけて球場を挟んだ反対側まで離れてしまったのに気が付かなかった。

 

「ひいっ、ない!どこっ、どこ!?」

 微かに、悲鳴がして。

「やだあぁ!来ないでえ!」

 声の方向に駆けると。

 

 白い世界の中に、アロがへたり込んで泣いていた。

「アロさん!」

 彼女の元へ走りながら目を凝らす。居る、いくつも。

 しかもその内一体は、コルマと戦ったヤツよりも更にデカい。

 

「ひっ、ひっ、う」

 アロはと言えば、酷く怯えた顔で浅い呼吸を繰り返している。色付きの眼鏡もいつの間にかなくなっていた。

 戦闘不能だ。つまり、ここで僕が取るべき行動は。

 

「失礼、訴えてくれるなよ!」

「ぎゃあ!ヘンタイ!」

 違うわ!

 

 選んだのは撤退。両手に抱え上げ、一目散に世白から距離を取る。

「下ろせ、バカっ!」

「ぶっ!」

 普通に殴られた!

 

「ひいいい!イヤぁ!」

 下りて一秒で後ろ見てまた腰抜かした!アホ!

 

 視線の先には、やはり世白。

 デカいのは追っ来てはいないが、ちっこいのがチラホラと見える。

 

 どうする?また紙テープで拘束するには、準備ができていないし相手が多い。

 いや、難しく考えるな。デカく描けば、強いんだ。

 アロが描くみたいに、もっとハミ出せ。俺の身体なんかより、ずっと大きな紙を!

 

 左腕から引き出したのは、分厚い一枚。いや違う、何重にも折り畳まれた、一枚だ。

 ノート位のサイズが開いて2倍、また開いて4倍、また開いて8倍、もう一度開けば16倍。

 

 レジャーシートのように広がった深緑の一枚を背後に投げれば、風に煽られてこちらを追う世白に覆い被さってくれた。

 

「今のうちに!」

「さわんな!」

 まだ触ってないのに、股間を襲う衝撃。堪らず膝を付く僕を置いて、アロは駐車場の方向へ消えて行く。

 

 しかしそのおかげで、少し離れた地面にアロの色眼鏡がポツンとあったのに気が付いた。芝生の緑に溶け込んでて危うく踏む所だった。

 拾ってみると幸い、割れたり曲がったりもない。

 このままだと色眼鏡の弁償までさせられかねないので、後で返そうとポケットに仕舞う。

 

 後ろではまだ大きな紙が世白を遮り、足止めしてくれている。

 その隙に僕も車へ急いだ。

 

 そして、空の駐車場。

 デバイスの通知が、コルマとメイスの急行とアロの帰還を告げていた。

 

 ***

 

「今回の敗因は、テング君とアロちゃんっていう組み合わせが悪かったな。大雑把に色を載せるっつー得意分野がカブっちまってるし、アロちゃんに新人を付けるべきじゃなかった」

 

 あれから件の世白は別の車で現場に駆け付けてくれたコルマとメイスによって倒され、帰りの車内で反省会。

 回収したデカい紙を丸めて抱える僕に、二人が温かい視線を向けている。

「最初からもう一人入って、細部をカバーすべきだったな。それに、大型も居たとは」

 

 先輩方にお手数をおかけしたが、なんとか事なきを得たにしても。

 気になるのは、アロについて。

「お手数おかけしました、コルマさん、メイスさん」

 

 頭を深く下げた後、意を決して口を開く。

「アロさんの様子についてなんですが」

 

「そこは、あまり踏み込んでやるな」

 迷いなく、そう言い放たれた。

 

「誰にでもあるだろ、踏み込まれたくない場所は」

 隣のメイスも無言で首肯する。

 それはもちろん、分かる。

 けれど。

 

 このままだと僕は、彼女を肯定できない。

 そのまま一緒に働くってのは、ちょっと嫌だ。

 できれば、分かりたい。

 

 難しいことなのは分かっているから、できればだけど。それでも。

 

「……なんか待ってるなアイツ」

 コルマが呟く。

 顔を上げて辺りを見渡すと、ちょうど対策庁の門をくぐったところだった。

 

 フロントガラスの奥を覗いてみると、ホントだ居る。

 目立つなあ。

 

 色眼鏡は初めて会った時の赤と青のに戻っていて、また手を忙しなくシェイクしている。クセなのかな?

 

 すごい嫌な予感がするが、ともかく車から降りて。

 すごい険しい顔でつかつか歩いてくるアロに、拾った色眼鏡を差し出す。

 

「これ落ちてまし」

「返して!」

 返事も待たずに引ったくられた。まあ想定内。

 

「フゥン!」

「痛え!」

 体重の乗ったローキックを喰らった。想定外。

 

「アロちゃん、落ち着いて」

「コイツに無理やりカラダ触られたぁ!」

 諌めるメイスに、アロが僕を指差して叫んだ。

「うおぉい!?」

 こんのチビスケ。

 

「ッ、最低!そんな方だと思いませんでした!」

「信じるなよ!」

 こんのスケスケ!

 

「待て待て待て、アロちゃんが動けなくなってたのを運んでくれたんだろ?不可抗力だ、そう言ってやるな」

 おお、やっぱ頼れるのはコルマだ。信用あって良かった。

 

「えー!なんでそっちの肩持つの!」

「ああ、そうだったんですか。すみませんテングさん」

 アロは不満げだが、メイスの誤解は解けたようだ。

 

「っ、喰らえー!」

 話が収集ついたかと思ったタイミングで、真っ青なエアロゾルが一瞬にして爆ぜた。

 

「おいアロ!車の側でやんなっつってんだろ!」

 すかさずコルマの怒号が飛ぶが、車の側じゃなきゃいいってのかよ!

「ぐっほぇ、ゲホゲホ!」

 どうなってんだ周り、煙の爆心地だから何も見えねえ!

 

「泣いてないもん!怖くないもん!負けてないもん!おもらししてないもん!」

 車の塗装に使う塗料が、何層にも重なってできる宝石みたいなのがあるらしい。

 アロの泣き声を聞きながら、そんな事を思い出して現実逃避していた。

 

 制服が塗料を吸って重い。俺の全身は今やカラフルな現代アートだろう。

 後で覚えてろ、ホント。

 

 ***

 

「出撃お疲れ様でした。本日より娯楽室の利用許可を与えますので、適時利用してストレス解消にお役立てください」

 

 浴場から自室へ戻った僕にデバイスが告げる。

「あれ、失敗したのに。優しい」

 

 空がオレンジっぽくなってきた時間。

 実際ストレス解消が必要な気分だし、娯楽室とはいい響きだが、今日はまだすべきことが残っている。

 

「外に居るかな、アロさん」

 デバイスだけポケットに仕舞い、部屋を出た。

 

 ***

 

「いた」

 存外あっさりと見つかった。

 寮の裏、非常口からも離れた隅っこにポツンと座っている。僕がお風呂入ってる間に怒られたんだろうなあ。

 

「失礼しまーす」

 歩み寄り、1メートルくらい距離を空けて同じく体育座りになる。

 色眼鏡はさっき渡したのに変わっていた。

 

「……聞いてあげる」

 両腕に遮られて、表情は窺えない。

 

「何を?」

「お話だよ。今なら聞いてあげる」

 

 なんだ、案外素直なのか?

 それとも、精神的に弱っているのか。

「ありがとう。でも、先に質問をさせて欲しい」

 

 そのどちらでも、彼女を追い詰めないように。

 ゆっくりと声を投げる。

「君は、何がイヤなの?」

 

「……恐怖症、なんだって」

 しばしの間を置いて、答えが返る。

 か細い、悲しげな声。

「白と黒が、どうしても、イヤで」

 

 聞き逃すまいと集中して、耳と心を傾ける。

「見たくないの」

 

 ……それだけ?

 と、言葉が浮かんだのを振り払う。

 

 彼女の言葉はあまりに断片的だ。

 けれどその分重く、尖った欠片が食い込む様に僕には伝わった。信じよう。

 

 きっと本当に、白と黒がただ怖いんだ。

 昨日に資料室で見た所によれば、世白による直接的な人的被害は少ない、らしかったが。

 この様子は十二分に、被害者だ。

 

 というか、こんなどう見ても中学生の子供まで矢面に立たせてる時点でアレだが。

 まあそれ以前に俺もだいぶ非人道的な事させられてたからなあ。この組織はワルだね。

 

 閑話休題。この子が反抗している相手は、大人とかルールとか、ましてや世白でもない。

 自分にとっての無理を押し付けて来る世界、そのものなんじゃないか。

 

 色付きの眼鏡も、ビビッドカラーの服装や髪も、全てはその恐怖への対処として説明できる。

 僕の初陣の時に、灰色のスプレーを被った僕をわざわざ極彩色に塗り直したのだって。いやアレはだとしてもちょい許せんけど。

 

 いや、また考え過ぎた。視線を彼女に戻す。

「そっか。ごめんね、今は白っぽい服着てて。イヤなんだよね」

「別にいい、そういうのウザい」

 はいすみませんでした。気を取り直して。

 

「教えてくれてありがとう」

 うん、ありがとうだ。きっと勇気の要ることだ。

 

「世白が出て来るより前からずっと、君は戦ってたんだね」

 そう言うと、アロが瞳をほんの少し覗かせた。

 抱える感情までは、読み取れない。

 

「……褒められたくて、戦ってるんじゃないもん」

 今度は、怒りの込められた声に聴こえる。

 

「ノート開くだけで気持ち悪いのに。もし本当に、全部真っ白になっちゃったら」

 けれど、悲痛さはそのままに。

 

「ウチは、生きていけないもん」

 やりきれない、と嘆くように。

 

「だからしょうがなく塗りつぶしてるだけなのに、みーんな怒って」

 重く、暗く、痛い声だ。

 

「でもここに来たら、今度はみーんな褒めてきて、それも気持ち悪くて」

 震えて、籠もった声。

 

「どうしたらいいか、自分でも、分かんないの」

 

 僕は意識してゆっくりと、呼吸をした。

 そうしないと、息ができなかった。

「そうなんだね」

 

 行いが行いだから説教してやりたくもなるし、少しはそのつもりでここへ来たのだけど。

 僕はやっぱり、今ここでは、とても彼女を叱れない。

 

 ならもう、正直に思ってる事だけ言おう。

 前に、コルマは僕にそうしてくれたのだし。

 

「……君の抱えるものは、本当に重くて、仕方がないものだと思う。辛いと思うよ」

 思いを言葉にして伝えるだけのことが、今は怖い。

 

「でも、だから、それを理由にして他の人に迷惑を掛けちゃうのは、僕は止めて欲しい」

 でもきっと、もっと怖いはずなんだ、アロは。

 

「君がただワガママしてる人だって、周りから思われて欲しくない」

「それは、オマエのワガママじゃん!ちょっと聞いただけで、お説教しないで」

 

 彼女の視線に憎しみが宿る。

 だから僕は、一度憎しみを忘れる。

「そうだね。ワガママなお願いでいいから、聴いて」

 

「我慢した事とか我慢できない事を、君が良かったら誰かに話して欲しい。もちろん僕でもいいよ。言葉にして、伝えて欲しい」

 勝手だな、とどこか冷静な僕の中の僕が口を挟む。

 

「これは僕のワガママで、僕からのお願い。だから君も、僕にお願いがあったら言ってね」

 それでもこれが、僕の総意だ。

 

「……ないよ、そんなの。どうせ皆には分かんないもん」

 今度は寂しそうな声だ。

 

 そして彼女は、沈黙した。どうしよう。困る。

「僕は、君と仲良くしたい」

 

 いやなんかさっきのセリフは違かったか?

「んー、君が仕方なくでも戦ってるお陰で助かってる人だって大勢いるとおも」

 

 プシューとスプレーが鳴り、視界が深紅に染まる。

「だおっ、うおっ、おえっ、くっ口の中は止めろよ!」

 言葉に詰まってちょっと褒めようとしたらコレだよこのチビッコ!

 

 目痛い、喉気持ち悪い、ケミカルなニオイする!今着てたの私服だぞ!

「っふ、あははは、ねえ見て後ろ、マスキングになってる!テングのシルエット!」

 

 目を擦って睨むと、映るのは人影が浮き出た壁面を指差してそうはしゃぐ、笑顔のムカつくおチビ。

「こんなん上から貼り直してやる!」

 

 引き出した紙で丸ごと覆う。壁の穴をポスターで隠す要領だ。

「あー!ズルズルズルズル!芸術弾圧だー!」

 

 その声と同時に、イエローの煙に襲われた。

「ブオッフォッおま、お前ふざけんなよマジでぇ!」

 3日ぶり、二度目の二度塗りだ。許せない!

 

「あはははは!」

 僕の憤慨をよそに、アロの笑い声がいつまでも耳に残った。

 

 ***

 

 すっかり時間とカロリーを無駄にしてしまった。やはり感情的になるべきではないと反省する。

 入浴が早まったせいで、夕食のことをすっかり忘れていた。

 

 食堂でビビッドパープルのシャツを揺らしつつ席を探すと、すぐにビビッドオレンジのパーカーの少女が目に付いた。

 まあそれが無くてもアロは髪ピンクだし分かるけど。

 

 今々なので少し気まずさはあったが、話の種もあるので向かいの席にトレイを置き、声を掛ける。

「こんにちは。この服似合ってる?さっき購買部で買ったんだ」

 

「ダサぁい」

「即答かよ」

 悲しい。やっぱ一人で食べようかな。

 

「……でも、イヤじゃないよ。もしかして、ウチがモノクロ嫌いだからって、そういうの選んだの?」

 これを選んだ理由はそうだけど、これが必要になった理由はさっき着てたのが君のせいでダメになったからだよ。

 

 というのは心に秘めておいて。

 いざそっちの口から言われると、配慮してやったんだからさ、みたいな感じでバツが悪い気もするが。

 

「まあ」

 否定するのも違うので、こういう返事になっちゃう。

「ふーん」

 

「やっぱり、テングって、違う」

 複雑そうな声色で、最後はよく聞こえなかった。

 

「違う?」

「ううん」

 なので訊き返したのだが、要領を得ない返事。

 

 なんか気まずいので、強引に話題を変えよう。

「話替わるけど、娯楽室って行った事ある?」

「行くの!?」

 アロは机を押し込む勢いで身を乗り出した。

 

「利用許可貰ったからこれから行ってみる」

「いこいこ!」

「待って、食べてから」

「じゃあとっとと食べて!」

 ああもう、休まらないなあ。

 

 ***

 

「わぁー!」

 娯楽室の扉を開いて第一声、期待に満ちた歓声から。

 

「つまんな。もっとデカいモニターとかゲームとかないの?」

 一転して、シケた顔。ホントこいつは。

 

 まあ娯楽室とは名ばかりの、囲碁将棋のボードやトランプが隅に積まれただけの質素な部屋だったから、僕もそう思う気持ちは分かる。

「あら?お疲れ様ですテングさん、アロちゃんも」

 

 そして先客も居た。

 メイスがいつもの服装で奥に片付けられた卓球台にキャンバスを立てかけている。

 こいつどこでも私物化してんな。

 

「でもアロちゃんって、ここの利用許可は出てなかったんじゃ」

 おい。

 抗議の目線を送ろうとした、まさにその瞬間。

 

「……無理やり連れ込まれたの!」

「シャレになんねえぞ!?」

 このチビスケ、ホンマこんの!

 

「ヒドい!ケダモノだったんですね!」

「だから信じるなって!」

 こんのスケスケもマジこいつ!

 

「あれ、テング!アロとメイスも、どうしたの!?」

 レオの声だ。入口で騒いでいたのを聞きつけたのか、廊下から手を振っている。

 

「テングがウチを無理やり」

「待ってくれレオ、僕の話を聞いてくれ」

 これ以上噂を立てられる訳にはいかない。

 レオにも僕の真剣さが伝わったのか、目を見て頷いてくれた。

 

「僕がアロさんを娯楽室に連れて来たんだけど、アロさんはここの利用許可が出てないのが分かった。僕が悪いんだけどどうしよう」

 

 わざと切羽詰まった声で、一息にそう弁明した。

 結果は。

 

「いいんじゃない別に!?こっそり逃げちゃえば!」

「そういうことだったんですね、私ったらつい」

 うわ二人とも単純で助かった。

 

 ***

 

「これ知ってる?ウチはけっこう好き」

「飲んだことないけど、ネットで賛否両論なのだけは知ってる」

 

 所変わって、購買施設。

 僕としてはもう疲れたのでサッと買い物だけ済ませ、今日は終わりにしたい。

 けれどなんかアロも着いてきた。

 

「アロさんって炭酸飲めるの?」

 お互い飲み物だけ選んで、セルフレジを通す。

「なにそれ。バカにしてる?それに」

 

「名前。アロでいいよ」

 言われてようやく、もう砕けた感じで話してるのにさん付けは続けているチグハグさに気が付いた。

 

「ああ、アロ……ちゃん」

 流石に呼び捨ては、なんとなく遠慮してしまう。

「ま、それでもいいケド」

 

 自動ドアを抜けて、寮へ戻る廊下の、僕の部屋への分かれ道。

「じゃあ、ここで失礼しますね」

「ん」

 

 仕事は失敗したけど、まあいい一日になったなとか思っていると。

「おーい」

 呼びかけられて振り向いた瞬間、ペットボトルが僕の顔面に着弾した。

 

「あげる!一応、お礼ね。庇ってくれて」

 

 うん、言いたいことは多くあるが。

「ありがとう!まあ庇ったっていうか、本当だし」

 頂き物を掲げて振りながら答えると、彼女はフンと息を吐いた、ように見えて。

 

「またね」

 そう、ハッキリと言った。

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