僕らは白が許せない   作:sorasumi

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インタラクティブ・ホリデー

「おはようございます。本日の起床時間です。本日はテング様は非番となっておりますが、外出許可は与えられておりません。どうぞ施設内でご自由にお過ごしください。」

 

 ですってさ。

 なんとなくパジャマから着替えて、身だしなみを整え、施設内を出歩けるスタイルにはなったが。

 することないな。なんか飲み物でもあったかな。

 

 と、冷蔵庫に手を伸ばした所で。

 ビーとブザーが響く。来客のようだ。

「テングくーんいるだろー休みなんだろー」

 コルマの声だが、珍しくリラックスした調子だ。

 

 ドアへ歩きながらデバイスで確認してみると、今日の当直はコルマとレオ。

「おはようございます。お仕事はいいんですか」

「そりゃ、出撃命令が出たら行くさ。開けてくれ」

 まあ、上司がそう言うなら。

 

「邪魔するぜ〜っと。これやる」

 鍵を開けるとコルマは遠慮なく押し入って、僕がさっきまで寝転んでいたベッドにビニール袋を投げた。

 

「なんですかそれ」

「食い物とプロテインとシェイカー」

 こぼれた中身を見るに嘘ではなさそうだ。

 あのプロテイン、前にドラッグストアで見たけどけっこう高かったよな。いいの?

 

「お茶とか飲みますか?」

 自室への来客というシチュエーションを全く想定していなかったが、飲み物を出すくらいの気遣いが必要なのは知っていた。

「いい、どうせすぐ帰る」

 

 コルマは腕を組んでこちらへ向き直り、僕の身体を脚先から舐めるように見つめる。

「なんでしょう」

 セクハラだったらどうしよう。

 

「もっと鍛えろ。2時間はジムでマシントレーニングして、もう2時間ジョギング。毎日」

 え、嫌だ。セクハラより嫌だ。

 

「やだって顔してるな。なら最初は半分でいい、とにかくやれ……ちょっと来い!」

 その言葉と共に、首根っこを掴まれた。

 パワハラに含まれるよなあ、と思いながらジム施設までズルズルと引きずられて、体重計に引っ張り上げられる。

 

「思ってたよりは体脂肪率低いな」

 そう言いながらなんか右手でデバイスに文字入力する仕草をして、その指先を僕に向けて言い放った。

「よし、来月頭までに1.5%減らせ。記録したからな」

 感覚的にピンとこんけど無理難題くさいぞ。

 

「アタシが守るって言っただろ?」

 確かに言ってたけど。 

 守るってそういう、スパルタに世話焼く感じなの?

 俺が社会経験浅いから知らないだけで、世の上司ってのはここまで部下の面倒見てくれるモンなのか?

 

「分かりました。努力します」

「おう」

 観念して、並んで部屋への帰路を歩く。

 肩越しに見えるコルマの顔に赤みはない。珍しい。

 

「今日も二日酔いだったりします?」

「逆。飲んでねーんだ、珍しくな」

 シラフでこの過干渉をやってるのか。

 

 そう呆れ混じりに顔を向けて、目が合った途端に視界に彼女の髪がかかる。

 抱き寄せられていた。胸元が温かく、首筋に息遣いを感じる。いつものアルコールの臭気はなく、僅かに石鹸の香りがする。

「なあ、アタシはお前が、大切なんだ」

 

 不意だったせいか、ときめいてしまった。率直に。

 そして再び目が合う。

 さっきまでは普通だった彼女の頬が、うっすらと色づいていた。

 

「いやすまん、忘れてくれ」

 無理だと思います。

 

「ダメだな、やっぱし飲んでねーと余計に喋っちまう」

 逆だろ普通。

 頭ではそう冷静にツッコミながらも、心はまだドキドキしている。

 

「ああ忘れてた、連絡先よこせ」

 部屋の前に着いたところで、話を変えるついでかデバイスを取り出すコルマ。

「業務用なら、もう登録されてます」

「ちげーよ、プライベートの。いいだろ?」

 

 言われるがまま、私的な連絡先を交換し。

「なんか分かんなかったら訊けよ。じゃあな、サボんなよ……元気してろよ!」

 言うだけ言って、廊下の向こうへ消えて行った。

 

 部屋に入って、ロックがかかったのを確認。

「はぁ〜」

 な、なんだったんだ。

 

 あの感じ、母親を思い出してしまった。ちょくちょく連絡は取ってるけど、たまには電話とかしてみるか。

「思い立ったがなんとやら」

 

 と、通話ボタンに指を伸ばした所で。

 またしてもブーと響く。

「テングさーんいらっしゃいますよねーみてくださーい」

 メイスだな、面倒なのが来たな。

 

「一昨日言ってたデッサン描いたんですよ、楽しみって言いましたよね!」

 確かにそれは言った。

「ぜひ見たいです。どうぞー」

 流石に門前払いする僕ではない。

 

「緑茶でいいですか?」

「はい、おかまいなく!」

 用意する間とりあえず座っていただくこととしたが、またとんでもない服着てるなあ。

 すっごい身体に張り付いてるのに、デリケートな部分は空いているというか。おかげで蒸れはしなさそうだ。

 もちろん、わざと見てはいないけどね。

 

「はい!どうですか!」

 その声と共にスケッチブックが開かれる。

「おお、メチャメチャ上手いですね。白いとこは紙のまんまの色なのに黒いとこは二度と白くできないくらい全力で黒入れてて、コントラスト効いててすごいカッコいいです」

 

 全文、お世辞ではなく本音である。

 上手いんだよ、絵は凄く上手い。

「ありがとうございます〜!」

 さて、帰ってくんねーかな。

 

「じゃあ次なんですけど」

 帰ってくんねーなこれ。

 よく見れば、スケッチブックを2冊持ってきていた時点で観念すべきだった。

 

 しばらくして。

 

「ありがとうございました!お休みなのに、付き合わせちゃいましたね」

「いえいえ」

 ええまあ。

「それで、お礼がしたいんですけど。これ、プレゼントです!」

 

 メイスはそう口にして、脇に置いていた2冊目のスケッチブックを僕に差し出した。

 新品だし、デッサン用の鉛筆も添えられている。プレゼント用だったのか。

 

「ありがとうございます。僕、鉛筆とかで描くのはあんまり経験なくて、やってみたかったんです」

「そ、こ、で!私のお絵描きのイロハ、教えちゃいますね!さあスケッチブックを開いてください!」

 ありがた迷惑。お腹空いてきたんだけど。

 

 また、しばらくして。

 

「真ん中のグレーを基準に考えるってことですか?」

 メイス先生のデッサンレッスンはつつがなく進む。

 コルマの置き土産のプロテインと昨日アロに投げつけられたペットボトルを静物として、鉛筆一本で描き進めていく。

 

「違いますよ〜普通に分かりませんか?見たまんま描くんですよ、ベシャ!って!」

 なんかときどき素で言い方キツいんだよなこの人。

 教え方も感覚的だし、それでよくイロハ教えちゃいますとか言えたな。

 

「まあ、最初はしょうがないですけどね。私みたいに描けるようになるまでは、なかなか」

 悪意ゼロでコレなん?ムカつくんだけど。

 

「それでは、今日はここまでにしときましょうか!ちゃんと毎日描いてくださいね、忘れちゃいますから」

 余計なタスクだなあと思いもするが、この仕事でやってく以上は避けられない研鑽でもある。仕方ない。

 

「あとちょっと気になるんですけど、テングさんっておいくつなんですか?」

 また急だな。

「22です」

 

「わ、同じ!じゃあ、これからはテングくんですね」

 テングくん!?えっドキッとした。

 なんか急にメイスが高嶺の花のマドンナに見えてきた。いや、元々ビジュアルは美人さんなんだけど。

「まあ、構いませんけど、メイスちゃん」

 

「えーそれはやめてくださいー」

「はいすみませんでしたメイスさん」

 僕も言ってから後悔したんだよ。

 まあ笑ってくれてたからまだ良かった。

 

「そうだ、じゃあせっかくなので連絡先交換しましょう!」

 うわハイリスク。すげー時間吸われそう。

 

 と思ったとて、断る訳にも行かないし。まあむしろ、いちいち対面で来られるよりはいいだろう。

 そう思うことにした。

 

「今度、そのスケッチブックも見せてもらいますから!それじゃあ、私の作品はアプリでまたお見せしますね!待っててくださいねー!」

 ああ、やっと帰ってくれる。

 

 ガチャ、とドアが閉まり息をつく。

「ふぅ〜」

 宿題増えたなあ一日で。

 

 スケッチブックの表紙をめくって、デッサンの成果と現物をまじまじと見比べる。

 だいたいの形と色味は描き写せたと思うんだが。

「こことかもうちょっと濃いか」

 

 再び鉛筆を取り、黒を載せようとした所で。

 三度ブーと響く。

「てーんーぐー」

 アロか。アロが、僕の部屋に。なんで?

 

「入れてよ。昨日、話して欲しいって言ってたじゃん」

 確かにそれも言った。

「分かったよ、入って」

 どうも今日は、人と縁がある日のようだ。

 

「お菓子とかある?」

 入って開口一番それか。すげえ厚かましいな。

「ん、コレもらうね」

 

 振り向くと、すでにビリビリと袋を開けていた。

 コルマがくれた食料の中の、プロテインホワイトチョコバー。

「どうぞ。机の上で食べてね」

 

 僕の部屋には子供の勉強机みたいなデスクも一応備えられている。

 アロはセットのオフィスチェアに腰掛け、クルクルと回転しながら食べカスをこぼし始めた。

 しばくぞ。

 

 もうこの際細かいことは気にせず、冷蔵庫に向かう。

 こんなヤツでも飲み物くらいは出してやろう。

「緑茶か牛乳ならあるけどどっちがいい?」

「んー」

 んーじゃねえよ。

 

 そう思って振り向くと、机に置きっぱなしだった炭酸飲料に口を付けていた。

 それ、お前が昨日僕にくれたのに。

「なにこれ、ぬるいんだけど」

「……コップと氷出すよ」

 ああ、もういいやどうでも。

 

 座談会の環境が整ったので、観念してベッドに腰掛けて傾聴の姿勢を取る。

「話すことが決まってるなら、聞くよ」

「ここありえない!反省文書いて出せって言われた!」

 アロは怒りをあらわにして、目の前に一枚のプリントを突き出した。

 

 すでに軽く折り目が付いているそれを受け取ると、そこには「始末書」の文字。

 縁取りの中は真っ白で、学生時代に書いた進路調査票を思い出した。

 

「反省文っていうか……これもらったのは初めて?」

「絶対に出せって言われたのは、初めて」

 初めてじゃないな。常習犯だコイツ。

 

「もしかして、昨日の出撃のこと?」

「知らない」

 知らない訳ないだろ出せって言われてんだから。

 お前に心当たりがなかったら僕にはもっとないのよ。まあ、昨日のあれこれの内のどれかだろうけども。

 

「ふむ。でも世白を倒せなかった件なら、僕にもこれが出されてないとおかしいもんな」

「そうじゃん!」

 うわうるさ。急に大声出すな。

 

「テングはこれ、渡されてないんだよね」

「うん」

「じゃあ、テングがちゃんとしてるせいでウチがワルモノにされてるんじゃん!反省文代わりに書いてよ!」

 そう立ち上がって騒ぎ立てながら、僕を指差すアロ。

 

「どういう理屈だよ」

 と言いつつ、仮に昨日の件の始末書であれば、あの時あの場でうっかりはぐれた僕にも非と責任がある気もしてきた。

 そういう意味では、彼女の言い分はあながち理不尽でもない。

 

 アロはこちらを睨んだまま、動かない。イエスと言うまで動かないつもりだろう。

 ならもう、譲歩した方が僕にとっても得策である。

「折衷案になるけど。文字も僕が書くと筆跡でバレるだろうから、文面だけ考えて教える。それでいい?」

 

「ち。いいよ。さっさと書いて」

 なんでそっちが偉そうなんだよホント。

 雑記に使っているノートを取り出し、文字書き用の鉛筆を手にする。

 僕個人に始末書の経験はないので、ウェブ検索にも頼らせていただこう。

 

「えーと、怒られてどう思った?」

「ウルサイナー、ハンセイシテマース」

「次からこうしようとかは?」

「シリマセーン」

 参考にならん。

 

 結局デバイスから閲覧したお手本の形式に沿って、僕がアロの視点に立って捻り出した文章が完成。

 ビジネス文書のフォーマットに則り、建造物への落書きと、任務の失敗と、あと僕を置いて車を出させたこともバランス良く盛り込んだ自信作だ。

 

「これをボールペンでその紙に写して。机と椅子使っていいよ」

 破ったページとペンをセットでアロが睨む机に置く。

 僕はベッドに座って、脇に置いていた対白紙、つまり僕製の紙が積まれた折りたたみコンテナを持ち上げた。

 

「じゃ、僕はここで紙作ってるから。頑張ってね」

 依然として給紙ノルマは健在。休日とて逃れられないのである。

 

「もっと短くなんなかったの?」

 そう言いながらも、とりあえずペンを持つのが見えて安心した。リテイクを要求されたら追い出そうと考えていたところだ。

 

 そして、僕が給紙という単純作業に集中し始めた頃。

「ねえ」

 不意に静寂が破られる。ひどく不機嫌か、不安そうに聴こえた呼びかけだった。

 

「怒ってる?」

 むしろそっちが怒ってそうな声色してると思うけど。

 

「今は怒ってないよ」

 明るくそう返す。いくらか困ってはいるけどな。

「そ、じゃいい」

 その返事はいつもの調子に聴こえた。

 

 しばしの間、紙をめくる音とペンが走る音だけが部屋を満たす。

 そしてバシン、とペンが机に叩きつけられた。

「はーい、終わったよ。これでいいんでしょ」

 だからなんでそっちがやれやれみたいな雰囲気出してんだよ。

 

 歩み寄って、成果をチェックさせてもらう。

「白い紙に書くの、大丈夫だった?」

「いちいちウザい、そういうの。眼鏡あればヘーキ」

 ちょっと心配しただけなのだが、あまり気を遣い過ぎるのも悪印象みたいだ。女心は難しい。

 

「あと、これからは予備のメガネ持ってくとか書いてあるんだけど」

「こういうのは、具体的な行動とか改善策を入れないと納得してもらえないから」

 うん、字はやはり乱雑さが残るが、欄はしっかり埋まっている。まあ、大丈夫だろう。

 

「それかいっそ、眼鏡じゃなくてゴーグルみたいなのにしてみたら?」

 軽い気持ちの提案だったが、アロは露骨に不快感を示して反駁する。

「それだとホントの色が分かんなくなっちゃうじゃん。世白はホントの色で塗らないとなのに、バカ」

 

「ああそっか、ごめん」

 瞬時にオンオフができないと困るのか、なるほど。

 このスタイルが彼女が辿り着いた最適解なんだな。出過ぎた真似だった。

 

「やっぱり、アロちゃんは頑張ってるね」

 そう伝えると、アロの表情はなんか絶妙に心持ちが読み取れないものになった。

 またなにか気に障っただろうか。

 

「テングも、そうやって紙を作ってたんだね」

 その顔のまま、椅子に体重を預けて回転しながらポツリと呟く。

「ああ、うん。この紙さあ、みんなホントに使ってんの?無駄に作らされてる気がしてんだけど」

 

 つい漏れた不満に、アロは表情を緩める。

「テングがその場に居たら、要らないんじゃない?」

 あそっか。視点が偏ってたな。

 

「だったらその分ノルマ減らして欲しいけどね。この施設ヒドいよねー」

「だよね!」

 うおすごい喰い付き。人と仲良くなるには共通の敵を作れってのは真実なのか。

 

「今度僕も壁に勝手に貼って占領しちゃおうかな」

「しよしよ!」

「そしたらアロちゃんがその上から描いてね」

「うんうん……ってぇ!ウチのせいにしようとしてる!」

「バレたか」

 

 そこまで話すと、アロは歯を見せて笑った。

 初めて正面から笑顔を観た、と思う。

 可愛かった。

 

「これやってる?」

「やってる。交換させて」

「ウザかったら切るからね」

 と、本日恒例となった連絡先もゲット。

 

「提出してくるから。じゃあね」

 そしてお菓子のゴミを散らかしたまま、要は済んだとばかりにアロは部屋を後にした。

 

 仕方ないなと思いつつ片付けて、デバイスを覗く。

 三人のコードネームが並ぶ連絡アプリの画面を見て、不意に感激が胸を満たした。

 

 え、なんか充実してるじゃん、僕。

 頑張ってきて良かった。

 

 そう感慨にふけっていると。

 通知音が3回、続けて鳴った。

 

 順番に確認すると、コルマからは具体的なトレーニングメニューの指示、メイスからは自信作だというイラスト作品の画像と感想の催促、アロからは始末書の提出が済んだとの報告が届いていた。

 

 さて、どうするか。

「まず昼食べるか。食いながら考えよう」

 

 カップラーメンの完成を待つ間にそれぞれ返信を済ませ、麺を啜る。

 

 コルマのは非常に見やすいレイアウトの筋トレメニューと食事制限のリストだった。

 メイスのは美しい色彩をした静物のイラストが、なんと28枚。

 アロのは「出した」と一言。お礼とか謝罪はナシ。

 なんというか、個性が出るよね。

 

 あと今日すべきことは、残りの給紙ノルマ以外だと。

「筋トレね……しゃあねえ、今日から1時間は頑張るか」

 人と繋がるとはコストが掛かるものである。

 ああ、喜んで支払うとしよう。

 

 ***

 

「これか?」

 どれも同じに見えるトレーニングマシンをデバイスの検索結果と見比べ、お目当てを探し出す。

「あっ、テング!こんにちは!」

 その向かいにはレオが座っていた。

 

「こんにちは。チェストプレスに使うのってこれで合ってるかな?」

「合ってるよ!もしかしてテングも筋トレ!?」

 ここまで来てたらそれ以外はなくないか。あるいは、僕が筋トレに励むのがそれほど意外か。

 

「うん、コルマさんに勧められて。僕はぜんぜん初心者なんだけど、レオはよく鍛えてるみたいだね」

「ありがとう!身体を動かすのも好きだから!」

 

「それじゃ、僕も頑張るね」

 意を決し、マシンに乗る。目の前には足の裏でパネルを押し引きしているレオ。

 あれ、なんか気まずいな。他人がトレーニングしてるところって、視界に入れていいのだろうか。

 

 という雑念は、いや雑念を持つ余裕はトレーニングを始めてものの5分もすれば消え去った。

 しんどい。マジでしんどい。

 

 コルマ提案のメニューを半分済ませた頃には、持ってきたタオルもすっかり濡れている。

 今までも運動を怠っていた訳ではないが、単純にその強度が段違いだった。

 

 しかし目の前にどこかライバル視している先輩が居るという状況が僕の心と尻に火を点けたのか、開始1時間半後に課されたお題はコンプリートと相成った。

 

「お疲れ様!」

「うん、ありがと、ホント、うん、疲れた、ありがと」

 

 ビショビショの僕を自前のタオルで拭ってくれるレオ。そのコミュニケーションはだいぶ距離近くないかと思いつつも、疲れもあってされるがままとなる。

 

「テングも運動好きなんだね!」

 すっげえいい笑顔を向けるレオ。眩しい。

「好きっていうか、頑張んないとだから」

「え、どういうこと?」

 

「えーと……これからこうなりたいってのがあるから、その為にやってる、みたいな」

「分かんない!」

 うん、僕の説明も多分悪かった。

 

「僕は今まで、閉じ込められてたからさ。これから色々やってみたいんだ。その為には、自分が強くなって、皆の役に立って、認められないといけないんだ」

「分かんない!」

 あらら。じゃあ僕にはどうしようもない。

 

「ボクは、今までとかこれからとか、よく分かんない。今やりたいことができたら、それだけで十分なんだ」

「……そうなんだ」

 

 それは、どうなんだ?おかしくないか?

 いや、おかしいという言葉を当てはめるのも、価値観の押し付けになってしまうけど。

 享楽的とか、サッパリした性格、という形容で片付けていいのだろうか。

 

「じゃあ、テングはこれで終わりなんだよね。ボクはもうちょっとやってくから、またね!」

「うん、また」

 

 元のマシンへ歩いていくレオの後ろ姿を、僕はぼんやりと見つめていた。

 僕が抱いたこの違和感が、勘違いではなかったと分かったのは。

 もう少し、後の話だ。

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