ある日本企業たちの・・・   作:適当でいいです

147 / 149
第147話

同月 福岡県 北九州市 EXE-LAグループ新加盟企業

 

15年前に結成された新興企業グループ「EXE-LA(エグゼラ)」。

日本全国の多様な中堅企業や地方企業を傘下に集め、着実な成長を続けているグループだ。

彼らが採用している成長の手法は、拍子抜けするほどシンプルかつ当たり前のものだった。

 

――それは、『連合の真似(フォロワー)』である。

 

突拍子もない奇抜なアイデアで前人未到の新たなビジネスモデルを創出する創造性においても、圧倒的な生産効率を叩き出す『マニュアル経営』の精度の高さにおいても、連合の領域に追いつくことは不可能であった。

 

しかし――連合という圧倒的な先駆者は、常に『競合の存在しない手つかずのブルーオーシャン業界』を自ら切り拓いてくれていた。

自ら莫大なリスクを冒して暗闇に飛び込むよりも、連合が開拓した市場の後ろを泥臭くついていく方が、経営戦略としての期待値は遥かに高い。

 

当然、その結論に達した企業は日本中に大量に存在した。誰もが同じことを考えて連合の背中を追いかけて参入するのだが、その大半は何らかの理由で早々と撤退を余儀なくされていた。

EXE-LAグループは、それらの敗因を『真似をするために必要な初期投資と、目に見えない隠れコストの罠に嵌まったため』と冷静に分析していたのだ。

 

「……はぁ、まーたEXE-LAが子会社を増やしているよ」

 

「本当だな。節操がないというか、何を目指しているんだか……」

 

EXE-LAグループは株式市場にも上場していた。しかし、証券アナリストや機関投資家からの評価は決して高いとは言えなかった。

日本の株式市場には、今なお根強い「アメリカ型企業崇拝」の風潮が残っていたからだ。半導体メーカーなら半導体だけに集中し、小売チェーンなら店舗経営だけにリソースを絞る「選択と集中」こそが正義とされる世界である。

 

対して、日本の旧来型企業には、かつては何らかの繋がりがあったのかもしれないが、今となっては相互のシナジー効果など見出せない多様な子会社を抱え込むケースが多い。

冷蔵庫を作る技術と発電所機器を作る技術に関連性が果たしてどれだけ残っているか?という話だ。

その典型例がかつての総合電機メーカーであり、現代におけるその代表格こそが、このEXE-LAグループであった。

 

「――では皆様! これより、我がグループの新たな力となる『EXE-LAディスカウント』結成の祝賀会を執り行います!」

 

小倉駅近くのホテルの宴会場で、グループ役員たちが一堂に会する華やかなパーティが催されていた。

連合の真似をしていると口では言いながら、こうしたホテルでの派手な経費の垂れ流しを見れば、本家の連合経営陣は間違いなく苦々しく顔をしかめるだろう。

だが、これこそがEXE-LA独自の流儀だった。

 

――『達成感のリアルな実感』。

 

連合のように、端末の画面や決算書のペーパーの上で数字が増えていくだけでも、一応の達成感は得られる。しかし、泥臭い叩き上げの地方経営者たちにとっては、それだけでは決定的に物足りないのだ。こうして二流ホテルの宴会場に集まり、酒を酌み交わして成果を披露し合うことでしか得られない高揚感がある。

そして何より、この泥臭い「宴」こそが、グループ全体の結束を生み出す強力な粘着剤となっていた。

 

なにしろ、このEXE-LAグループは連合と同様に「外部の他社リソースを買収・提携して活用する」手法を多用している。

つまり、今日この場に集まっている役員たちのほとんどは、元々はグループの身内ではなく、全く無関係な他社の経営者たちだったのだ。だからこそ、互いを繋ぎ止める人間的な「結束」が何よりも必要とされていた。

 

「連合の真似は徹底的にやる。しかし、完璧に真似することは絶対にできない。……ならば、真似できない空白の部分をどうやって独自の工夫で埋めるか? それを泥臭く考えることこそが、我々企業の存在価値だ」

 

例えば――かつて政府閣僚が勘付いたような、連合の根本哲学である『不便・不快・非効率を起点としたPDCAサイクル』という概念を、EXE-LAは知る由もない。政府が確証が無いとして一切公表していないからだ。

連合のAIマニュアルがどのようなアルゴリズムでプログラムされているかも分からない。だから、それをシステム的に完全再現することなど不可能だった。

 

そこで、それらのブラックボックスを埋めるためにEXE-LAが叩き出した独自の解法――それこそが、『超・明文化(ジャイアント・ドキュメント)』と『明解タグ付け手法』であった。

 

連合が個々の従業員のスキルに合わせて情報を自動で整理し、一人ひとりに最適化された最小限の指示書を配布するのに対し、EXE-LAが到達したのは真逆のアプローチだった。

『とりあえず、過去に社内で発生したあらゆる経営判断や現場のトラブル対応を、すべて力技で文書化してデータベースに残す。ただし、検索性(タグ付け)だけは絶対に妥協しない』という泥臭いシステムである。

 

現場で判断に迷う事態が発生し、過去の前例を参考にしたい時は、この膨大なライブラリから簡易的な生成AIに指示を出して類似ケースを探し出させる。

人間の曖昧な判断を徹底的に省いたのが連合ならば、EXE-LAは「過去の人間たちの大量の泥臭い判断データ」を蓄積することでそれを代替したのだ。

 

「……フッ、また一歩、彼らの『漁夫の利』戦略が進んだな」

 

「ええ。連合や財閥が展開する狂気の格安スーパーのすぐ隣に、あえて『普通のディスカウントスーパー』を出店する……。格安店の品揃えの極端さに妥協できなかった溢れ客をそっくり拾う戦略ですね。大手のオール・グロッサリーあたりがよく使う手ですよ」

 

宴会場の壁際でグラスを手に話し合っているのは、招待客として参加していた取引銀行「第一博多銀行」の行員たちだった。彼らはEXE-LAグループの独特な成長プロセスを間近で観察し続けていた。

 

連合や財閥の格安店舗(丸得やスマート・ディスカ)は、コスト削減を極限まで追求するあまり、その日に最も安く仕入れられた単一の品種しか棚に並ばず、欠品も日常茶飯事だ。

そんな時、買い物客の中に生まれる『いくら安くてもこの品質の野菜は買いたくない』という忌避感や、『いつも買っている馴染みのメーカー品が欲しい』というこだわり、あるいは『お目当ての品が売り切れていた』という難民化――EXE-LAディスカウントは、そうした溢れ出た需要を確実にすくい上げつつ、通常の買い物客も同時に取り込んでいく。

 

ただ、一度連合の「異常な安さ」を目にしてしまった客からは、普通のチェーンスーパー価格であっても「高い」と錯覚されがちだ。だからこそ彼らは、連合に一歩及ばないギリギリの価格ラインで妥協する――いや、妥協せざるを得ないポジションを狙い撃ちしていた。

 

行員たちは静かに頷き合う。

EXE-LAのやり方は、どこまでも徹底していた。

 

彼らが新しい業界へ参入する際、まず手をつけるのは「実験的な単一店舗(プロトタイプ)」の確保だ。ゆえに、最初から全国展開しているような巨大チェーンや中堅企業を買収する必要はどこにもない。地域に数店舗を構える程度の小さなローカル店さえあれば、十分に実験は可能だと割り切っていた。

 

さらには、最初から強引に子会社化するのではなく、まずは緩やかな「経営実験の提携」から打診する。そこで実際に数字や実績が出た段階で、初めてグループへ正式に吸収・買収していくのだ。

そうして段階的に仲間入りを果たしたスーパーだからこそ、こうして『新入メンバーの歓迎会』という泥臭い顔合わせの場が必要不可欠となる。

 

連合の提示する圧倒的な効率化の波にタダ乗りし、その足元にこぼれ落ちる利権を泥臭く拾い集めるコバンザメ――それこそが、ハイエナのごとき強かさで生き残る『EXE-LAグループ』の正体だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。