ある日本企業たちの・・・   作:適当でいいです

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第148話

2050年 2月 愛媛県 宇和島市 EXE-LA不動産 愛媛支店

 

EXE-LAグループが近年矢継ぎ早に立ち上げた『EXE-LA不動産』と『EXE-LA証券』。

この2社がタッグを組んで展開している事業は、かつて本家の連合が『L不動産』と『月影証券』を駆使して構築した「専業トレーダーおよびクリエイターの囲い込み(住居提供×運用環境提供)戦略」の模倣(フォロワー)であった。

 

これもまた、EXE-LAが得意とするスモールスタート方式――まずは愛媛などの地方都市で数軒の賃貸アパートを持つ不動産会社と実験の提携をして、システムを組んで運用実績を確認してから正式に事業化する――という手順を踏んでいる。

 

『EXE-LA証券』も本家と同じくネット証券の形態を取っていたが、その内部システムには本家と決定的な「差」が存在していた。それは徹底度合いと、背後にある資本力の差だ。

本家の連合システムは、何万ものトレーダーがコンマ数ミリ秒(ミリセカンド)単位で叩き込む膨大な板情報を、一切の遅延なく記録・処理し続ける超絶的なサーバー容量と資本力をすでに誇っていた。

だが、EXE-LAにそこまでの怪物級のインフラを構築する資金も技術も存在するはずがなかった。自社グループの社内システムですら容量は常にカツカツだったのだから。

 

ゆえに、EXE-LA式トレーダー救済システムでは、取り扱う取引を『株式現物のみ』へ大胆に限定・削ぎ落としていた。

現物取引(現物買い・現物売り)に限ってしまえば、信用取引のように同じ資金で一日に何度もレバレッジをかけて売買を繰り返す高速高頻度取引(HFT)は大幅に激減する。サーバーにかかる負荷を極限まで抑え込み、管理を容易にするために、彼らはあえて連合のオリジナル思想を曲げたのだ。

 

そもそも、連合がこのプログラムを展開する最終的な目的は『粗削りだが実力のあるトレーダーを独自アルゴリズムで発掘・評価し、将来的に連合系列の巨大ファンドのファンドマネージャーとして迎えること』にあった。不動産事業としての家賃収入など、彼らにとっては二の次・三の次のオマケに過ぎない。

 

だが――EXE-LAは、そんな国家レベルの野望染みた構想など最初から一切考えなかった。

 

「……ハッ、家賃が毎月きちんと確保できて、建物の修繕費や固定資産税がペイできるなら、俺たちはそれで十分やる価値がある。」

 

愛媛支店の応接室で、支店長が缶コーヒーを口に含みながら自嘲気味に笑う。

 

「幸いなことに、大手の信用保証業界はいまだに意固地になって旧来の与信基準を変えていませんからね。それどころか、下手に連合の真似をして無謀な投資家向けアパートに手を出して資金ショートして散っていった新興企業どもを慰み者にして、『ほら見ろ、定職のない奴らに部屋を貸さない我々の基準は正しかったのだ』なんて高笑いしている始末です。」

 

担当社員が書類をめくりながら同意する。

 

「だからこそ、こうして我らEXE-LAは細々と家賃収入で食っていけるのさ。物件のメンテを多少手抜きして壁紙が薄くなっていようが、入居者に文句を言われる筋合いも空気もないからな。なにしろ、あいつらは本家の連合や、政府系の投資育成プログラムの厳格な審査から真っ先に叩き落とされた『野良のフリーター投資家』ばかりなのだから。」

 

そう――居住環境の手厚さや専用端末のスペックでは『連合』が圧倒的であり、家賃の補助金が出るという意味では『政府系プログラム』が最強だった。定職のない野心的な若者たちは、誰もがまずその二大巨頭を目指す。

しかし、その極めて高い審査基準からあえなく脱落した投資家たちは、路頭に迷わないためにEXE-LAをはじめとする野良の類似プログラムを展開する不動産屋のドアを叩くしかなかった。

 

連合も政府も「2流」の原石を相手にしている。ならば、そこから溢れた「2流〜2.5流」の売れないトレーダーを拾い上げるのがEXE-LAの生存戦略だった。

 

ただし、EXE-LA側も野垂れ死にされると家賃が焦げ付くため、入居条件として少なくとも『単発含むアルバイトの義務化』もしくは『年1回の資産審査面談』のどちらかを受け入れさせていた。

投資の世界では、たった1回の大敗で『手持ちの掛け金(種銭)』が激減することがある。種銭が減れば、いくら運用成績のパーセンテージが良くても、得られる絶対的な収益金額が毎月の最低生活費を下回り続けるという致命的な死のループに陥る。

だからこそ、日雇いバイトで種銭の減耗を補わせるか、審査面談で「口座残高の推移」と「日々の生活費」の数字を突き合わせて冷酷にフィードバックを行うのだ。

 

「まあ、審査と言っても我々が見るのは『貯蓄額の推移』と『信用情報』、そして『投資成績の数字』だけですからね。」

 

「貯蓄の変化は不動産(ウチ)が見て、信用情報と運用成績はEXE-LA証券が見る。……こんな穴だらけの張りボテ制度で、よくぞここまでしっかり収益化できたものだよ。」

 

本家の連合も政府系も、すでに全国規模でこの投資家支援アパートを展開していたが、どれほど網を広げようとたった2系統で日本の広大な市場すべてを網羅することなど不可能だ。

その隙間を突こうとして安易に模倣し、自滅していった無数の敗走企業――彼らが全国に残していったボロ物件や、行き場を失った住人たちを丸ごと泥臭く拾い集めたのが、現在の『EXE-LA不動産』であった。

 

入居者がこのアパートで種銭をコツコツと数千万円まで増やせば、おそらく一般不動産でもそれなりのまともなマンションを借りられるようになるし、愛媛の郊外であれば中古の一軒家をそのまま買えるかもしれない。

そこまで行かなくても、運用実績さえ作れれば、もっと環境の良い「連合」や「政府系」のプログラムへ再挑戦してステップアップしていく道も残されていた。

 

「俺たちEXE-LAは、彼らがここに住んでいる間、毎月滞りなく家賃さえ払ってくれればそれでいいのさ。」

 

「それにしても……これを一番最初に始めた連合って、一体どんな連中なんでしょうかね? 簡単に言ってしまえば、金融のサブプライム層(低与信者)を狙い撃ちにした不動産回収スキームでしょうが……。」

 

社員の問いかけに、支店長は首を横に振った。

 

「あいつらは根っからのバケモンだから、まともに深入りして考えない方が身のためだぞ。そもそも、地方の……こんな宇和島の郊外にあるボロ小屋すら確実な収益源に変えてしまうこのスキームが無ければ、今頃うちのグループは東京や大阪の市内中心部にある高額物件の固定資産税の重みに耐えかねて、ヒイヒイ悲鳴を上げて倒れていただろうよ。連合には感謝こそすれ、絶対に直視しちゃいかんのだ。」

 

本家の連合は、トレーダーだけでなく「クリエイター(作家・イラストレーター・エンジニア)」も専用のアパート棟で分類・集約し、なんと不動産会社自身がそのクリエイターたちの営業代理人となって仕事を獲ってくるという狂気的なビジネスを展開していた。

さすがのEXE-LAのようなコバンザメ企業には、そこまで手間とリスクのかかる狂気的なシステムを真似できるはずもなかった。

 

したがって、EXE-LAの管理するアパートでは、投資家が住む隣の部屋に売れない駆け出しのWeb小説家や漫画家が普通に住んでいたりする。そして、EXE-LAが彼らの営業代行などできるはずもなかった。

 

「今のところ、うちの物件に住むクリエイターへの支援と言ったら……グループ傘下の電子書籍販売サイトか、グループ企業内でイラストや執筆の案件が出た時に、優先的に発注を割り当てることくらいですね。」

 

「まあ、それもネット上じゃ『EXE-LAのサイトも会社の評判通りのごった煮だな』って叩かれてるけどな。掲載ジャンルに節操が無さすぎて。」

 

「いいじゃないですか、黒字なら。……それに、成人向け(アダルト)コンテンツのラインは完全に別会社へ切り離して孤立させてますから、東証や大手株主からのイチャモンも完全に回避できてますし。」

 

クリーンなコンプライアンス経営を厳しく求められる上場株式市場。そこで成人向けコンテンツを直接扱う企業が上場を維持することは極めて困難だ。

ゆえに、EXE-LAグループは入居者の中でそうしたアダルト系のコンテンツを制作する者たちのためだけに、グループの枠組みの外へ「完全に独立した別会社」を設立させていた。

設立資金も出さず、社名に『EXE-LA』の文字を一文字もかすらせず、利益の分け前すら一切受け取らない――法律的にも資本的にも100%遮断された完全隔離会社である。

 

「そうさ。何度も繰り返すが、入居者が己の腕で稼いで、ウチに家賃を払ってくれさえすればそれでいい。欲張ってあの隔離会社の利益に手を伸ばせば、上場企業として一生背負っていかねばならないコンプライアンスの罪になるからな。」

 

「ええ。『あくまで、たまたまウチのアパートの入居者だった人たちが個人的に立ち上げた会社とサイトに、同じ泥水をすすっているよしみで、ウチの入居者クリエイターを優遇して発注や販売掲載してあげているだけ』――そういう建前ですから。」

 

宇和島のミカン畑を見下ろすボロアパートの片隅で、今言った建前を口の中で何度も反芻しながら、支店長は冷めたコーヒーを飲み干した。

 

本物の怪物(連合)が力づくで開拓した市場の影で、そのおこぼれをすくい上げ、法律と規制のギリギリの隙間をすり抜けながら泥臭く生き残る。

それこそが、2050年における「EXE-LAグループ」の逞しくも醜悪な、真の生存戦略であった。

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