ある日本企業たちの・・・   作:適当でいいです

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第152話

2050年 6月 東京 虎ノ門 国民自由党本部

 

この年、与党第一党・国民自由党に――いや、日本の政財界全体に、かつてない激震が走った。

なんと、これまで徹底して政治の世界から一定の距離を置き続けていたあの『連合』が、自前の政党設立に向けた政党設置申請を総務省へ提出したという情報が駆け巡ったからだ。

 

日本の法制度において、思想や立場を問わず、どのような団体であれ政党を結成し、選挙に出馬する権利は等しく保障されている。

ゆえに、与党であってもこの動きを法的に差し止めることなど不可能なのだ。

 

「……連中、一体何を考えてやがるんだ?」

 

国民自由党の党員や議員たちの胸の底には、かつて連合によって永田町を「クリーンな牢獄」に変えられたトラウマとも言える激しい憎悪が渦巻いていた。

だが、それと同時に彼らは知っていた。連合という組織が、国内の山積する社会課題をビジネスの力で次々と鮮やかに解決し、今や欧米の主要政府すら手玉に取るほどの圧倒的な実績を積み上げてきたという事実を。

その怪物がバックに控え、自らマイクを握って国政の場へ乗り込んでくるのだ。

 

「ま、まあ待て……いきなり結党初戦で100人もの議員を叩き出すなど、現実的にあり得るはずがない。彼らには既存の政党のような全国的な集票組織も、強固な支持基盤もないのだから……」

 

党幹部を含めた関係者たちは、焦りを打ち消すようにそう分析し、すがるような祈りを口にする。

しかし――その「支持基盤」として、政権に不満を抱く「多数の国民」がそのまま雪崩を打って付いてしまえばどうなるか?

100人とまではいかずとも、初陣で20人や30人規模の大勢力を形成してしまうのではないかという悪夢のようなシナリオが、頭をよぎらずにはいられない。個々の候補者の実績が皆無であろうと、背後にある『連合』という組織の実績があまりにも巨大すぎるのだ。

 

かつて、自分たち国民自由党の側から、連合の人気と集票力にあやかろうと連合役員たちに自党からの出馬を熱心に打診した過去すらあった。その事実を考えれば、今の狼狽ぶりは半ば論理性を欠いた醜態でもあった。

 

「……もちろん、我々の得票が削られて議席を奪われるのも大問題ですが、それ以上に恐ろしいのは……連中が国会に入って一体『どのような政治』を推し進めようとしているのか、分析するまでもなく予感できてしまうことです」

 

「ええ……間違いなく、国家予算と行政機構の『徹底的なコストカット』に動くでしょうね……」

 

密室で議員たちが顔を青くして危惧する「コストカット」。

そこには、下世話な話だが、自分たち政治家が長年かけて築き上げてきた天下り先の外注機関や、党にぶら下がる各種業界団体に対する「容赦のない外科手術」の意味が多分に含まれていた。

 

現に文部科学省は、慢接的な定員割れと赤字経営で機能不全に陥っていたFランク大学への私学助成金を容赦なくカットする方針へ舵を切っていたが、そうした定員割れ大学の理事や顧問には与党議員もしっかりぶら下がっていた。

文科省自身の自爆(オウンゴール)が引き金だったとはいえ、その背後でFラン大学の淘汰を裏から加速させたのは、間違いなく連合の教育・雇用戦略であった。

 

「とにかく、我々にできることをやるしかない……! 関連の業界団体に対し『市場の秩序を破壊する私企業政党が政界になだれ込んでくる』と危機感を煽り、締め付けを強化して結束を高めるのだ……!」

 

一つの私企業グループが政治の力を用いて、自社の都合の良いように法案を操作する権利を持つ。それは民主主義の崩壊であり、資本主義による独裁への道筋だ――そう世論へ訴えかけるしかない。

だが、そのネガティブキャンペーンがどこまで有効かは甚だ疑問だった。実際に投票所で票を投じるのは、団体の幹部だけではなく、連合のサービスや商品によって恩恵を受けている圧倒的な数の個人も含まれているのだから。

 

2050年 8月 東京 虎ノ門 国民自由党本部

 

D社の超一流法務部が隙なく仕上げた完璧な申請書類と、あらゆる法規チェックをクリアした質疑応答体制の前に、総務省はわずか1か月半で受理手続きを進めざるを得なかった。

 

新党の名は――『政党・れんごう』。

 

これまで自分たちから名乗ったことは一度もなく、周囲やメディアが勝手に呼び始めた「連合」という蔑称兼愛称。彼らはそれを、政党設立という最大の局面で初めて公式名称として採用してきたのだ。

名前をあえて「ひらがな」表記にしているのは、複数の野党が選挙用に結集した際に使われる汎用的な「連合政党」という名称との混同や法的トラブルを、最初から完全に回避するための工夫だという。

 

「……ついに奴ら、自分から『れんごう』と名乗り始めたか」

 

「ああ。『連合』と名のつく団体や労働組合は昔から世の中にいくつもあった。しかし、圧倒的すぎる事業実績の差で、今や世論にとって『連合=24社連合』という認識が完全に定着した。使えるブランドイメージなら、泥臭く何でも使うのが奴らのやり方だ……」

 

結成当初のオリジナル構成企業は24社だったが、2050年現在の提携企業はすでに300社を超えている。だからこそ、今さら「24」という数字に拘泥することもなく、シンプルな名称を選択したのだ。

 

幹部会議室の巨大モニターを見つめながら、情報分析担当の議員が重い口を開く。

 

「シンクタンクからの途中経過報告ですが……やはり、衆院選における『政党・れんごう』の獲得予想議席数は【20議席前後】に上るという試算が出ました。特に、彼らのスクールや主力工場が存在するお膝元の青森、高知、沖縄、鳥取、島根といった地方小選挙区では、既存政党を圧倒する圧倒的なネームバリューを誇っています。そこに比例代表で、日本全国の労働者層や若年層を中心とした幅広い票が積み上がると推測されています」

 

「……それ、実質的にほぼ全世代の層から票を吸い上げてるって言いたいのかね?」

 

「恐らくそうなります。ですが、見方を変えれば『20議席程度に抑え込める』とも取れます。確かに一部の拠点地域では最強格ですが、それ以外の地方都市や都市部では『結局、連合の関連企業に便宜を図るためのポジショントーク政治をするのではないか?』という私企業への不信感も根強く残ると見ています。故に、小選挙区で全国の拠点から10名から15名、比例代表で拾い上げて5名ほど……というのが極めて妥当なラインのようです」

 

幹部たちが重苦しい雰囲気の中でリサーチ結果を議論している最中、会議の議長を務める幹事長・倉本の胸ポケットで携帯電話がけたたましく震えた。

 

「……はい、倉本です。……何? ……本当か」

 

次の瞬間、倉本の両目が大きく見開かれたのを、周りの幹部たちは見逃さなかった。

普段は人前で決して感情を表に出さず、常に冷徹なポーカーフェイスを崩さない倉本が、誰の目から見ても明らかな「驚愕」の表情を浮かべていたからだ。

 

通話を終えた倉本は、低くかすれた声で静かに告げた。

 

「……『政党・れんごう』が、青森県の青森市長選挙に独自候補を擁立してきた」

 

会議室に絶句と動揺が走る。

青森県青森市――そこはまさに、かつて「24社連合」が発足した第一歩として、大手電機メーカー・B社が汎用レガシーメモリ工場を建設し、さらにB社との採用ラインをがっつり繋いだ『日本総合職業専門スクール・青森校』から毎年200名単位の現場エリートを排出している、文字通り連合の“真の創業地(お膝元)”であった。

 

「す、すぐに現地の世論調査と対立候補の擁立動向を――」

 

本来なら即座に選挙対策本部を立ち上げて動くべき場面であったが、幹部の誰一人として動こうとしなかった。

調査などするまでもない。選挙結果など「圧倒的な獲得票数で、2位以下の候補にダブルスコア以上の差をつけての圧勝」になることが、調べるまでもなく容易に想像できてしまったからだ。

 

「……当選するだろうね、確実に。……さらに追加情報だ。現在の青森市長の任期満了日は9月末……つまり連中は、政党設置のタイミングから逆算して、最初からこの市長選に照準をぴったり合わせていたということだ」

 

地方自治体の首長選挙は、任期満了日の50日以内に告示され、立候補者を募る。その後はわずか7日間の短期決戦だ。

連合は、自前の政党立ち上げのインパクトと認知度を最大化させるため、この超短期戦のタイミングにドンピシャで照準を合わせてきたのだ。

 

別の幹部が、机上のタブレットを操作しながら青ざめた顔で数字を読み上げる。

 

「……青森市の東部に半導体工場を2棟建設し、工場単体で延べ8,000名以上の直接雇用を生み出している。しかも地理的に、その従業員のほとんどが工場西側の市内住宅地に居住……。工場需要によって地元の不動産、飲食、サービス業は今も空前の活況を呈している。おまけに、第三セクターである青森鉄道の駅近くに位置し、インフラ維持にも寄与……最悪だ。これまでの経緯から、市内全域が完全に連合の『企業城下町』と化している……」

 

「今、最新の自治体統計データを引っ張り出しましたが……青森市の人口推移も、連合が本格参入して以降、長年の人口減少から一気に増加へと反転しています。自治体運営の数字としては、国や県から文句の付けようがほぼ存在しません……」

 

もはや、既存の政党が生半可な対立候補を立てようが太刀打ちできる相手ではなかった。

いや、たとえ元閣僚や地元出身の重鎮議員を刺客として送り込んだところで、連合が過去20数年で青森の街と市民にもたらした「あまりにも圧倒的で具体的な実利」という実績の前では、どんな政治的パフォーマンスもかすんで消えてしまう。

 

こうして、政治進出を掲げた『政党・れんごう』の最初の砲撃は、東京の永田町ではなく、彼らが泥臭く基礎を築き上げた北の城下町・青森から、静かに、そして確実に放たれたのであった。

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