英雄伝説・光の剣神 作:光の剣神
次の日。俺は朝早くから部屋の片付けをしている。片付けば屋敷の使用人に任せていたので綺麗だが、旅先で見つけた本等を収納する必要があった。その傍らで、部屋で魔術を練っているローゼリアの相手……何故いるかは聞かないでほしい。昨晩親父と話をしていたみたいだが内容は聞いていない。せめて部屋に泊まるなら言って欲しかったのだが。
「まさか部屋に泊まるとはな。どうしてだ?」
「ヌシの父が部屋を用意せんなんだ。別にヌシの部屋で寝ることぐらい何も感じんが」
「野宿の時に寄り添って寝るのは普通だったからな」
なので一緒に寝るぐらいは抵抗がない。と言っても昨晩は俺はソファで寝たけど。因みにローゼリアは10時頃まで起きなかったのでルーチェがのしかかりで起こしていた。中々いい悲鳴をあげていたぞ。
「昼飯どうする?家で食べるか外行くか?」
「そうじゃの。久しぶりに皆で食べたいしヴィクトの奢りで外で食べるか」
「俺の奢りかよ……」
俺の残金を知ってて言っているのか?そもそも俺の財布は何故かルーチェが持ってて管理してるし……そのお陰で俺達の無駄遣いは減ったからいいのかもしれんが……。
「時にヴィクトリア。気になっている女子はいるのか?」
「それならこの部屋にいるだろう?」
「……妾?」
不思議そうに自分を指さす。この部屋にはローゼリア以外いないはず。他に誰かいたら怖いぞ。
「妾は長であり聖獣。ヌシに気に入られるような奴ではない」
「……そうだな。だが俺が知っている君は聖獣でもなければ長でもない。ローゼリア・ミルスティンという名の1人の女だ」
「……そうじゃの。すまぬ忘れてくれ。妾と旅をしている時も同じ事を言ったな」
「あぁ。それに君の笑った顔は好きだからな。君を悲しませる奴は俺が斬る」
(……こやつは……全く変わらぬのぅ)
「……ん?」
笑みを零すローゼリア。うん……良い顔だ。ルーチェとレイヤ。リアンヌもいいがローゼリアは特に良い。いつまでも絶やさないでいて欲しい。
「さて……行くか。確か屋敷にいたはずだから声をかけよう」
「任せた。妾は後で向かう」
「りょーかい」
リアンヌ達を呼びに屋敷へと向かう。久し振りに皆で食べた昼食は中々楽しかったが色々と暴露されるのであった。
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日付が変わる少し前。屋敷の広間で弟のシオンと酒を飲んでいた。その近くではルーチェが光魔法をローゼリアに見せている。ルーチェが編み出した光魔法を魔女の魔法に加えるらしい。理由は聞いていないが娘の魔術を後世に伝えたいのだろう。その光景を見ていると、シオンが微笑みながら言った。
「それにしても出来た子ですね兄上」
「あれでまだ7歳だぞ。絶対に旦那を尻に敷く奴だわ」
「いいじゃないですか。母上も似たような方でしたよ」
「親父は頭上がらなかったからな……」
懐かしい話だ。母は既に他界しているが親父はあの人の尻に敷かれていた。1番記憶に残っているのはサンドロット伯と朝まで飲んだ次の日。広間で正座していたり閉め出されていたのを覚えている。その度に泣きながら何か言っていたのを覚えているが……どうなったかはあまり考えないようにしよう。
「……で。次はどちらに向かわれるのですか?西と南は回られたと話していましたが」
「今度は北だ。これから寒くなるし俺とレイとリアンヌで行ってくる」
「リアンヌもですか?ならルーチェは留守番……雪山を登るのは大変ですからね」
「アイゼンガルド連峰方面も行くから尚の事だな」
ルーチェには相当駄々を捏ねられたが仕方が無い。この時期は天候も変わりやすく雪崩も起きやすい。魔獣も手強いので守れない可能性が出て来る。リアンヌが同行するのは予想外だが彼女も色々と見てみたいのだろう。
「そんな訳だから2か月は連絡出来そうにない。家の事は頼むぞ」
「はい。無事をお祈りします。兄上ならいらぬ心配だと思いますが」
「分かってるじゃないか。その為にも今日は早く寝る。ルーチェ。そろそろ寝るぞ」
「分かりました。お母さんはどうします?」
「妾はもう少し……」
「折角なので川の字で寝ましょう」
「いやだからもう少し……」
どうやらルーチェは3人揃って寝たいようだがローゼリアは全力で断ろうとしている。諦めろローゼリア。一度言い出したらルーチェは止まらない。素直に従うべきだぞ。俺は断るが。
「ここはルーチェの頼みを聞いたらどうだ?母親だろ?」
「ぬぐぅ……じゃが流石に男と寝るのは……」
「あぁ。俺はソファで……」
「お父さんは私の隣です」
「……くそ」
「諦めましょう兄上。逃げ場はありません」
シオンの言う通りの様だな……くそ。どうにかならないのか……こういう時にレイヤがいたら助かるのだが彼女はリアンヌの所。諦めるしかないか……。
「……ま、一晩だけだしいいか」
「正気かおヌシ?野宿とは訳が違うぞ?」
「君と寝たって何も起きない。どのみち間にはルーチェがいる訳だし背を向けて寝るさ。諦めろ」
「むぅ……しょうがないの。これも可愛い娘の頼みじゃ」
「じゃお休みシオン。良い夢を」
「兄上も。しっかり休んでください」
軽く拳を当ててから部屋に戻る。俺が一番右端に寝てその間にルーチェ。その隣にローゼリア。約束通り背中を向け瞼を閉じると、背後からとてつもない視線を感じる。これはそっちに向けと伝えているのか。どうする?向いてもいいがローゼリアと相当近いな……。
「こっち向かんかヴィクト。距離が近いのは仕方なかろう」
「そうですよ。こっち向いてください」
「……分かったよ」
180度向きを変えローゼリアとルーチェと向かい合う。それと同時にルーチェが抱き付いてきて胸に顔を埋めて瞼を閉じる。ローゼリアが優しく頭を撫でているとあっという間に寝てしまった。それにしても可愛い寝顔だな。少し頬を突きたくなるが起こすとまずいので抑えよう。
「相変らず甘えん坊じゃの」
「年相応だろう。親の愛を受けずに育っているから尚の事だ。正直自信なかったけど」
「ん?あの時の事か?」
「あぁ……」
それはルーチェの事をどうするか決めた時。旅に連れて行き自分で身を護る手段を教えることまでは良かったがその後。ルーチェの親の事だ。話しから分かっていたが改めて聞くと両親の事は知らない。気付けば奴隷として働かされていた。素直に心を開いたのは良かったがどのように接すればいいか分からなかった。そこでローゼリアは言った。
ー妾とおヌシがこの子の親代わりになろう。その方が良かろうて。
ーおいおい。俺はまだ18だぞ。親代わりは務まらない。
ー大丈夫じゃ。おヌシもいつか結婚し所帯を持つ。その予行練習と思え。
とローゼリアに言われた。一晩ゆっくり考え、思ったよりルーチェに懐かれたので決めた。あの子の父親になると。出来ればお父さんと呼ぶのは控えて欲しかったがいいだろう。この辺りは以前に少し話しているし。
「いつか……本当に子供が出来たらルーチェはお姉ちゃんになるのか」
「どうしたんじゃいきなり?」
「いや……子供の頃言われてな。『お前は兄になる。弟か妹の模範となれ』って。今の俺はシオンの模範になっているか怪しいが……いや、どう考えてもなっていないな。それどころか俺は誰に似たんだろうな?」
本当に誰に似たのか。父でも母でもない。顔の知らない祖父母でもないだろうし……もしかして俺はシオンと血が繋がっていないのか?それはないか、髪色は一緒だし。
「その辺は考えない方が良かろう。おヌシはおヌシ。それでよいじゃろう」
「そうだな。……なら尚の事。俺はこの帝国で何が出来るか見つけないと。騎神に選ばれた人間として。選んでくれたエル・プラドーやローゼリア……
「……」
「ん?どうした?」
「いや……何でもない(むぅ……こやつにロゼと呼ばれるとくすぐったいのぅ)」
どこか恥ずかしそうにしているローゼリア。少し頬が赤い気がするが……あぁ寒いのか。恥ずかしいがもう少し寄って貰おうか。
「ロゼ。もう少しこっち来い。少し冷えるからな」
「あ、あぁ……」
ローゼリアの背中に右手を回し抱き寄せる。ルーチェが苦しくない程度に。さらに距離が縮まるが大丈夫。心臓の鼓動が早いが大丈夫……だ。
「「……」」
途端に喋らなくなる俺達。ただ心臓の鼓動だけが大きく聞こえる。どうすればいい。こういった時は何を話せばいいんだ。寝ようにもローゼリアの顔が近いから寝れない。どうしよう……いやここは何とか話題を作ろう。
「ロゼは……使命を継いでからずっと一人か?」
「そんなことはない。とは言い切れんな。里の皆と一緒だが殆どは1人。親代わりは何度も務めたが誰かと一緒はヌシが初めてだ」
「寂しくないのか?ずっと一人で。俺なら耐えれない」
「慣れたからの。550年も生きれば自然と。寂しくないといえば嘘じゃが」
普通はそうだな。ローゼリアの事情や魔女の過去は知ってるが不死とはいえ精神は老いる。俺には分からないがとても辛いだろう。俺は耐えれる自信がない。
「俺の前では素直でいろよ。何かあったら駆け付けるからなロゼ。君は1人じゃない。里の外には君の力になる人がいる。忘れるなよ」
「……おヌシ」
「ん?どうした?」
何かを言いたそうな視線を向けてくる。何かまずい事でも言ったか。そんなことは無いと思うが……一応誤って置こう。
「悪い」
「何故謝る?」
「いや……何か癪に障る事言ったと思って。ロゼの視線が怖い」
「どこがじゃ。妾はただ思っただだけ。妾を口説こうとする男がいるとはと」
……口説く?俺はそんなつもりないのだが……。ローゼリアから見ればそう感じるのか。だとすると事ある度にローゼリアに言っている事って……今更だけど恥ずかしい事ばかり言ってないか?
「なんか……すまん。結構色々と踏みいっているな」
「別に謝らんでいいわい。それがヌシの言い所。妾の事を1人の女として見ているのじゃろ?」
「あぁ……見ている。放って置けない。それは恐らく……止めておこう。俺と君では違うからな」
この高鳴る鼓動の正体が俺の予想通りだとしても、それを伝える時は来ないだろう。俺と彼女の道が交わることは絶対に来ないから。
「という訳だしもう寝るよ、明日は朝早いから。ルーチェの事は頼むよ」
「……分かった。無理はするな」
(ん?今悲しそうな顔した様な……)
「お休みヴィクトリア。無事を祈っている」
「うん。お休み」
瞼を閉じるローゼリア。ちょっと気になるがいいだろう。俺も瞼を閉じる。しかしやっぱり気になって眠れない。
(考えないようにしよう。気のせいだ……)
自分に言い聞かせていると、額に何かが触れる。これは手か?大きさ的にローゼリア。どうかしたのか?そう思い瞼を開けようとすると、ローゼリアの小さな声が聞こえてくる。
「っぅ……妾は絶対に嫌じゃ……絶対に変えて見せる……」
「ロゼ?」
「はっ!起きておったのか!?」
慌てて離れるローゼリア。触れていたのは手ではなく額。それに少し目が赤い。泣いていたのか?
「……どうした?泣いてたのか?」
「気にするな。もう寝る」
瞼を閉じ寝息を立てる。今は聞いても答えてくれそうにないな。頭の片隅に置き、俺も何とか眠りにつくのであった。