英雄伝説・光の剣神 作:光の剣神
朝早く目覚め、最初に視界に映ったのはローゼリアの顔。後頭部に柔らかい感触を感じるって事は膝枕か。一種の公開処刑だろうか。まぁいい、朝の挨拶ぐらいはしよう。
「おはようロゼ。朝から君の顔を見れるとは幸運だろうか」
「分かってるのヴィクトリア。おはよう」
優しく頭を撫でてくるローゼリア。そう言えば昨日殆ど消費した霊力が戻っている。もしかしてローゼリアの奴変なことしていないだろうな?
「霊力は戻っておる。妾に感謝するのじゃ」
「何した?」
「ん?なーにも?」
怪しい。絶対何かしてる。だってそう言った笑みを浮かべてるから。問い質したいが答える訳ないか。それより聞きたいことが沢山ある。
「これからどうするんだ?帝都が掌握され2騎の騎神が目覚めた。何か知っているだろう?」
「残念だがそれをこれから知りに行く。妾と2人でな。他の3人にはリアンヌと共にレグラムで備えて貰う」
「君でも知らないのか。そうなると地精の仕業か」
「恐らくは。それと問題がもう一つ」
「緋の騎神……」
ローゼリアから聞いた通りだとすると一番放って置く訳にはいかない。状況からしてまだ魔王に昇華はしていないだろうが、仮に昇華した場合の事を考えると命を懸けて止めに行かないといけない。俺とリアンヌで何とかなればいいが……。
「まだ魔王には昇華しておらん。最悪の事態になる前に帝都に行き起動者を特定し倒す。その為にもおヌシやリアンヌ以上の心と魂を持った皇子を探す」
「……それなら心当たりがある。今は何処にいるか分からないが」
「本当か?」
「あぁ。昔リアンヌやサンドロット伯と一緒に皇帝陛下が主催した舞踏会に参加して事があってな。その時リアンヌが気にしていた皇子がいる。アイツは結局声を掛けなかったが俺は少し話してな」
「成程。ではそ奴を探しに行こう。今日は一日ゆっくり休め。出発は明日じゃ」
「分かった。なら暫く甘えさせてもらう」
心を落ち着かせ全身の力を抜く。霊力は戻っているが体は本調子ではない。特に左腕は完全に回復するまで時間が掛かりそうだ。
「騎神相手に生身で挑むのは自殺行為か」
「何当たり前の事を言っておる。目覚めたばかりで良かったが、完全に扱えていたら死んでおったぞ」
「生きてるからいいだろう?」
「そういう問題ではないわ」
「むぐっ」
左頬を全力で抓ってくる。全力でしてくるという事は相当怒ってるな。次からは気を付けよう。普段怒らない女程怒ると怖いからな。ルーチェがいい例だ。
「失礼します……あら?」
「ん?リアンヌか」
部屋に入ってくるリアンヌだが、膝枕をされている俺の姿を見るなり扉を閉めようとする。俺はすぐに起き上がろうと試みるがローゼリアに肘で鳩尾を抑えられ起き上がれず、代わりに彼女がリアンヌを止め、この状態でこれからの事を話すことに。
「ではお二人は第三皇子を探しに向かわれるのですね」
「うむ。その間は娘たちを頼むぞ。あ奴らも渋々了承しておる」
「渋々って……ルーチェ辺りが苦戦したか?」
「まぁの。じゃがシリウスが上手く言ってくれた。よもやルーチェが素直に聞くとは思わなかったが……全くいつの間に……」
また始まったか。少し前にも言った気がするが、最近はルーチェとシリウスの仲が良い。俺は良いと思うのだがローゼリアは良く思っていないらしい。以前2人が温泉で遭遇した時なんて魔術でシリウスを殺しに行ってたほどだ。
「ロゼ。別に2人の仲が良いぐらいいいだろう?母親なら見守ってやれ」
「無理じゃ」
「ふふ。ヴィクトリアの言う通りです。ルーチェに『お母さん大嫌い』と言われたら嫌でしょう?」
「安心せい。妾の可愛い娘がそんな事……」
「そうだ。ロゼが姿を消したって聞いた時に『何も言わずにどこかに行くお母さんは嫌いです』って言ってたぞ」
「な、なんじゃとぅ!?」
何か大きなものが突き刺さったのだろう。本気で傷ついているのが顔を見て分かる。まぁ……俺はいつも一緒に居るし何かと縛られているから何も言われないが。
「うぅ。妾は育て方を間違えたか……」
「いえ、貴女がだらしない……こほん。抜けている所があるのでしょう」
「だらしない……じゃと」
「自覚ないのか?倉庫や書庫がヤバいのはそういう事だろ」
「そ、それならヴィクトリアにも責任があるじゃろ。暗黒時代の遺物を大量に手に入れて倉庫に放り込んでおる」
「きちんと仕分けしてルーチェに呪いの類が無いかを確認してからな。ヤバい奴はきちんと我が異能で浄化している」
「べ、便利な異能じゃの……」
羨ましそうな視線を向けてくる。本当に俺も思ってる。光を纏う事で身体能力や霊力の大幅上昇。騎神との同化による騎神の進化。加えて封印指定されている古代遺物の呪い除去……完全に扱えている訳ではないが末恐ろしい異能だ。
「ではシオンと話をしてきますね。お二人とも羽目を外さないように」
釘を刺してから出ていくリアンヌ。羽目を外す以前に何もしないし起きないぞ。
「ったく。何を期待してるのか。自分の事だけを心配しとけよ」
「友として言っておる。素直に聞いておけ」
「俺は素直じゃないみたいに言うな」
「事実じゃろ。もっと自分の気持ちに素直になれ」
そう言ってから顔を近づけてくるローゼリア。彼女の神秘的な瞳が目の前に迫る。ローゼリアから誘ってくるのはかなり珍しい。
「綺麗な瞳だ。とても愛おしいよ」
そっと頬に触れ指で撫でる。ローゼリアは何も言わずに瞼を閉じ更に近づけてくる。俺は何もせずそのまま唇を重ね、確かな温もりを感じてから離れる。
ローゼリアの頬は思ったより赤く染まっており、恥ずかしそうにしていた。
「初心だな」
「……慣れてないだけじゃ」
「そういう事にしておく。ちょっと外出るよ」
「分かった。ルーチェ達は湖畔に居るぞ」
「了解」
重い体をゆっくりと起こし、赤いコートを着てから外に出る。朝早いのにも関わらず、レグラムは住民で賑わい、所々に甲冑を纏い得物を持っている戦士がいる。
ローゼリアの話ではリアンヌがレグラムの精鋭を集め部隊を結成したらしい。その名も≪鉄騎隊≫。リアンヌを筆頭に副隊長にシオンと斧技の使い手であるアデク。他にもリアンヌの教え子などが数人。そして俺がかつて詰め所に放り込んだ傭兵崩れも居るらしい。この辺りはローゼリアが集めたらしいが。
(大きな力は争いを生むが……)
リアンヌ達なら大丈夫。窮地になればアルグレオンを呼ぶだろう。俺は俺のやるべきことをやるだけだ。
(その為にも光凰神剣を完成させないと。帰る場所と家族を守り抜くためにも)
「……お父さん?」
「ん?」
背後から聞こえたのはルーチェの声。振り返った先にはルーチェとシリウス。レイヤは……近くにはいないか。
「揃ってどうした?」
「姿を見かけたので声を掛けました。体は大丈夫ですか?」
「あぁ。優しい魔女のお陰でな。それと話は聞いた。ルーチェを頼むぞシリウス」
「分かってる。親父の代わりにリアンヌの姉貴達と一緒に全部守る」
ギュッと握りこぶしを作るシリウス。あぁ……本当に立派になったな。もしものことがあっても心配なさそうだ。
「ふっ……」
「気持ち悪いぞ親父」
「こ、こら!」
ガツンと杖でシリウスの頭を殴るルーチェ。痛々しい音が響き渡り頭を抑えるシリウス。
「痛いなおい!事実だろ!」
「それでもですよ!」
(おいおい……)
本当に仲が良いな。お互いに似た境遇だからだろうが。うん、本当に大丈夫そうだ。
「おや?ヴィクト達?」
「お。レイか」
今度はレイヤが来る。そして仲良く喧嘩しているルーチェを姉のように微笑みながら見守りながら言った。
「数年後にはお爺ちゃんかな?」
「あり得そうで怖いわ」
「アルゼイドのおじ様より早い孫?」
「さり気無く痛い事を言わないでくれ……」
本当にあり得そうで怖いわその話。ま、その辺りは可愛い弟に任せたから俺は知らないが。
「で?ヴィクトはこれからどうするの?ロゼと二人旅だけど」
「当面の目標はドライケルスだな。何処にいるか分からんからまずはロランに接触する」
「あの双剣術の使い手だよね。行方をくらましているらしいけど」
「だったら尚の事だ。過酷な旅になる。もしかすると俺は帰ってこないかもな」
「冗談きついよ」
レイヤは溜息を付くが俺は冗談で言ったつもりはない。もしもの事は本当に来る。騎神に選ばれた時点で碌な死に方はしないと感じている。
「さて、俺も準備するか。アイツらの事は任せたぞ相棒」
「任されました。無茶しないで」
拳を突き出してくるレイヤ。俺も拳を出し軽く当てた後旅の準備を始める。そして次の日の朝早く。俺とローゼリアはドライケルスを探す旅を始めるのであった。