英雄伝説・光の剣神 作:光の剣神
オルディスの一件の次の日。俺は屋敷の庭でガランシャールを磨いている。近くではローゼリアがルーチェと魔術の鍛錬をしており、新しく編み出した魔術を見せている。シリウスはリアンヌと鍛錬でレイヤはお菓子を作っていて、今日は珍しく何も無い日。近くで魔獣が現れたり、大きな戦闘も無いのでゆっくりと過ごしている。
「ふぅ。こんな所か」
刀身が太陽の光で反射して金色の輝く。今日は天気もいい。日向ぼっこや散歩には丁度いい。後昼寝も。
「ふわぁ……眠い……」
「なら膝枕してあげるよっと」
「うぉっと」
背後からレイヤが抱きしめてくる。完全に気を抜いていたので倒れそうになるが何とか耐える。ガランシャールを地面に突き刺してから拘束を解く。
「こーら。いきなり抱きしめない」
「いいじゃない。隙だらけだったから。で?どうする?」
「結構です」
きっぱりと断ってから座ると、レイヤはプクっと頬を膨らます。それを遠目から見ていたのか、ローゼリアとルーチェが近づいてくる。
「妾の目を盗んで何をしようとしておる?」
「膝枕。ヴィクトが眠そうだったから」
「そうか。ならば妾が……」
「いえ。今日は私が」
「いやいやボクがするよ」
(ヤな予感……)
目の前で女性3人の火花が散っている。嫌な予感がとてもするので去ろうとするが、ローゼリアが瞬時に結界を貼る。どうやら俺を逃がさないようで逆に入ってくることは出来るようだ。
「時にヴィクトリアよ。誰の膝枕がいい?」
「いや、俺は部屋に戻って……」
「それなら抱き枕になってあげる。最近はロゼに取られているし」
「む。それなら娘である私がなります。レイさんは下がっていてください」
「おい、人の話を……」
「おヌシは黙っておれ」
「は、はい……」
あぁ。誰でもいいから助けに来て欲しい。リアンヌでもいいしシオンでもいい。誰か俺をこの修羅場から救い出して欲しい。
「なら決めようよ。誰がヴィクトリアを自分の物に出来るか!」
「ほぅ。既に一線を越えている妾に勝てるとでも?」
「私だって負けませんよ!レイさんは兎も角、お母さんと同じぐらいお父さんの傍に居ますから!」
(凄い醜い争いな気がする……)
少し呆れていると、結界内にリアンヌとシオンが入ってくる。2人はローゼリアに声を掛けようとするが、火花を散らしている所を見て俺の方に来る。
「兄上?かなりの修羅場の様ですが……」
「俺に聞くな」
「ヴィクトリア。理由を説明してください」
「……実はな」
一通り説明。2人は呆れつつも揃って『貴方が決めないから悪い』と言われる。それを聞いた俺は少し怒りながら言ってしまった。
「俺はローゼリアが一番好きだ。ルーチェは娘だしレイは相棒。きちんとけじめはつけている。俺の方から手は絶対に出してないし。家族なんだからある程度の甘えは仕方ないだろう?」
「なら早くロゼに指輪を渡しなさい」
「早く父上を安心させてください」
「それが出来たらやってるさ!優柔不断な男で悪かったな!」
珍しく声を荒げて言ってしまう。それがローゼリア達にも聞こえて慌ててこちらに来る。そこでリアンヌ達が来ている事に気付き、何があったのか聞いた。
「……という訳です」
「……すまぬヴィクトリアよ。年甲斐も無く醜い争いをしてしもうた」
「ごめんヴィクト……」
「うぅ……ごめんなさい」
揃って謝る女性3人。色々と燃え上がる前に止まってくれて良かった。これで少しはゆっくりできるはず……。
「それでヴィクトリアよ。先ほど言った件についてじゃが……」
「え?さっきって……」
「ほれ。指輪がどうこう言っておったじゃろ」
「あっ……そんな事言ってたかな?俺は覚えが……」
ードカッ!
「いてぇ!」
背後から手痛い一撃。振り返ると、リアンヌが米神に青筋立てている。隣にいたシオンは距離を取っていた。その気持ちわかるぞ弟よ。
「あれ?親父達ここに居たのか」
「シリウス!」
間が悪いのか良いのか。シリウスが結界内に入ってくる。それを見たルーチェは嬉しそうに傍に駆け付け腕を組む。それをローゼリアが見逃す筈が無く、目から光が消え、杖を取り出して近づいていく。
「おい小僧。妾の愛娘に何故触れている?」
「え?いや、ルーチェから来たんだけど……」
「知るか。覚悟は良いな?」
魔力を杖に流し戦闘態勢。シリウスはあたふたしながら刀を抜こうとするが、利き腕をルーチェに取られていて抜くことが出来ない。あぁ、今日も平常運転だな。
「いつも通りだねヴィクト」
「そうだな。ずっと続けばいいのだが」
「続くと信じよう。だから早くこれ渡す」
コートのポケットに入っている小さな箱に手を置くレイヤ。何が入っているかは想像に任せよう。いつ渡すかは……出来れば早めに決めたいな。
「さてと、俺は部屋に戻って昼寝でもするか。彼がここに来るのも近いし」
「1時間程で起こしに行くよ」
「助かる。それじゃ」
屋敷に戻り俺はレイヤが起こしに来るまで昼寝を楽しんだ。起きた時シリウスが酷い有様だったのは別の話し。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーおーい。そろそろ起きなよ。
(ん……)
聞き覚えのある声が聞こえてくる。ゆっくりと瞼を開けると、強い日差しが襲ってくる。少し眩まれながらも体を起こし周囲を確認。周りは一面木々が生い茂っている。ここは森の中か。おかしい、俺は自分の部屋にいたはず……。
「あぁ。やっと起きた。こんな所で寝てたら風邪引くよ」
(今の声は……)
さっきと同じ声が背後から聞こえてくる。振り返った先にはローゼリアに似た女性が、芝生の上で横になっている見覚えのある青年に手を差し出していた。
「別にいいだろ?今日はいい天気で昼寝に持ってこいだから」
「良くない。今日こそ……の騎神を見つけるって言ってたじゃない」
「さて?記憶にないな」
「思い出させてあげる」
ニコッと微笑みながら杖を取り出すローゼリア似の女性。青年は慌てて置き上がり身だしなみを整える。
「よし。探すぞロゼ。あのチビ猫は?」
「あの子は別行動。で?何処から探すの相棒」
「手あたり次第」
「貴方は馬鹿?力の大半と魂を既にエル・プラドーの核に移しているのにそんな事出来る訳?」
「俺を誰だと思ってる?こう見えて焔の眷属の中でも特異な存在だぞ」
(これは……)
誰かの記憶…かな。それにローゼリアか。俺の知っている彼女ではないという事は先代。確か暗黒竜の時に亡くなったと聞いていたが。
「まぁ何とかなるだろう。今回は難しいけど次の俺なら何とかしてくれる」
「本当にごめんなさい。あんな争いをしてしまったから」
「気にするな。止められなかった俺にも責任がある」
「貴方の忠告を気かなかった私にも責任あるわよ…」
先代ローゼリアが顔を俯かせる。青年は優しく頬に触れて耳元で囁いた。何を言ったのだろう?とても気になって仕方が無い。どうしてだろう?
「ん?この気配は……ロゼ。今日はここまでだ」
「どうかした?」
「騎神の気配。こっちは任せておけ」
「分かった。無理はしないでね。何か分かったらすぐに言って頂戴」
「分かった必ず」
小さく頷いてから、青年は姿を消し先代ローゼリアも転移術で去って行く。それと同時に意識が落ちるがすぐに戻る。視界には見慣れた天井が視界に映る。
「……俺の部屋」
念のために周囲を見渡すが、案の定自分の部屋。隣にはローゼリアもいるし、両隣の部屋からルーチェ達の気配も感じ取れる。どうやらさっき見ていたのは誰かの記憶が夢になった物の様だ。
(今のは一体……?)
「ん……?どうした?」
「大丈夫。少し夢を見ていただけだ」
「ふむ。母に泣きつく夢でも見たか?どれ妾が慰めてやろう」
包み込むように抱きしめてくるローゼリア。何処かとても懐かしい気がする。まるで以前に似たようなことがあったような感じだ。
「どうだ?大丈夫か?」
「大丈夫。それに母上に泣きついている夢を見ていたわけではない。君に瓜二つの女性が男性と話している夢を見ただけだ」
「……それは真か?」
「あぁ。オルディスで聞いた声と同じだ。一体誰なんだろうね」
「……」
口を塞ぐローゼリア。夢で見た彼女と同じ悲しそうな表情だ。心臓の鼓動も何時もより早く、俺は彼女の頬に手を置き、優しく撫でて落ち着かせる。
「どうした?」
「何でもない。ただ……」
「ただ?」
「……」
先を言わないローゼリア。もしかするとあまり話したくないのかもしれない。なら聞かないことにしよう。時が来れば話してくれるだろうし。
「ま、気にしても仕方ない。明日は早いし寝よう」
「……じゃの。お休み」
「お休み」
優しく頭を撫でてから再び眠りについた。