英雄伝説・光の剣神 作:光の剣神
旅を再開して半年。相変らず人助けしながら鍛錬を積んでいる。因みに家の方だが、あの後フクロウ経由でお怒りの手紙が届き、一応謝りの手紙は出している。それで許してもらえるかは分からないが暫く戻るつもりが無いので、戻る頃には怒りが冷めている……だろう。
さて……この半年で少しずつだが現在の帝国が見えてきた。その上で立ち回りを考えないといけないのだが、まずはローゼリアのいるエリンの里に向かわないといけない。何でも騎神の武器が完成したと連絡が来た。ので、今はエリンの里に通じる転移石を目指しミストリア大森林へと向かっていた。
「ん?あれは……」
少し先に人影を見える。1人の少女が重い荷馬車を引っ張っている。それに関しては問題ない。大抵は後ろから誰かが押している。だが彼女の場合は1人で引っ張っている。少し違和感がした俺は気配を消して近づくと、違和感に気付く。
少女は泥だらけで傷だらけ。服もボロボロで裸足。髪も汚れている。その近くには鞭を持った1人の男。そこから出る答えは一つだ。
「奴隷か……度し難い」
近づき声を掛ける。男は少し警戒したが、俺の身なりを見て警戒を解く。その隙を逃さず、男の鳩尾に痛い一発を入れ意識を落とす。近くに寝かせてから少女の前に立ち塞がる。
「ちょっと待ってくれる?」
「……え?」
少女は困惑しながら立ち止まり視線を向けてくる。近くで見るとさらにひどい有様。所々怪我もしている。蛆が沸いていないのが幸いだがこのままだと危ないだろう。
「その荷馬車は引っ張らなくてもいい。君に怖い思いをさせていた人は懲らしめたからね」
「懲らしめた……?引っ張らなくていい……?どうして?」
「君がそんなことをする必要がないからだ。俺と一緒に行こう」
少女を抱き上げミストリア大森林へと走る。森に入り周囲の気配を探っていると、普段感じない気配に気付きその場所に向かう。その場所には淡く光っている石柱が立っていてその隣にはローゼリアがいた。
「遅いぞヴィクトリア……ってどうしたその子は?」
「すまないローゼリア。ここに来る前に保護してな。見てくれるか?」
「任せておけ。すぐに転移するぞ」
ローゼリアが石柱に手を触れると光が俺達を包み込み里の中へと転移。魔女の里……エリンの里に来るのは1年振りか。相変らず不思議な場所だ。
「妾のアトリエに連れていく。その方がいいじゃろう」
「頼む。ほら、このお姉さんに捕まって」
「……」
「ん?どうした?」
少女が俺の顔とローゼリアの顔を交互に見る。何かついているかと思い俺達も見合わせるが何も付いていない。何かあったのかと考えていると、少女がローゼリアを見ながら言った。
「お母さんに……似てる」
「え……?」
「む。ヌシの母と似ているのか?」
ローゼリアが問い返すと少女は頷く。そういえば半分誘拐に近い形で連れてきたけど家族の事を聞いていなかったな。仮に一家揃って奴隷なら他に誰かいても良いと思うのだが……もしかして。
「お父さんやお母さんは?」
「……分からない。気が付けばあの怖い人と一緒だった」
「ふむ……あまり考えたくないのじゃが……」
「取り合えず頼む。後で考えよう」
「そうじゃな。ヌシは食事の用意を頼む」
「任された」
ローゼリアに少女を頼み、俺は宿屋に向かって女将さん(と言っても魔女だが)に食べやすい料理をお願いして作ってもらう。出来上がった料理を持ちローゼリアのアトリエに向かう。
「持ってきたぞローゼリア……ってまだいないのか」
2人はまだ来ていない。待っているうちに来るだろうと思い、料理を机の上に置いて椅子に座って待っていると、奥の部屋からローゼリアが姿を現す。
「あの子は?」
「そろそろ出て来るぞ。きっと驚くじゃろう」
ローゼリアが部屋の方を向くと、部屋からすっかり綺麗になり、ローゼリアと色違いの服を着た銀髪の少女が恥ずかしそうに姿を現す。
「うぅ……恥ずかしいですローゼリア様。こんな服私にはもったいないです……」
「そんなことは無い。ヴィクトリアもそう思うじゃろ?」
「あぁ……綺麗になった。良かったな」
少女の頭を優しく撫でると頬が真っ赤に染まり蹲る。自分で撫でておきながら相当恥ずかしいだろうな……ローゼリアもにやけてるし……。
「所で名前は?」
「名前は……ありません」
「それは困ったな……どうするローゼリア?」
「折角だし名付けるかの。そうじゃな……」
どんな名前がいいか考える。しかし名前を考えたことの無い身とすればどんな名がいいのか分からない。ここは600年近く生きているローゼリアに期待しようとしたのだが……。
「折角だしヴィクトリアが考えろ。良い名を期待しているぞ」
「だよな。俺が保護したわけだし。うーん……」
「……」
少女が何かを期待している目で見てくる。これは責任重大だぞ。何かいい言葉があればいいのだが……。暫く考えているとある言葉が出て来る。うん、これで行こう。
「ルーチェでどうだ?」
「ほぅ……良い名じゃな」
「どうかな?」
「……ルーチェ……はい。嬉しいです」
嬉しそうに笑う少女……いやルーチェ。気に入ってくれて良かった。性はまた考えるとしてこの子のこれからを考えよう。個人的にはローゼリアに見て欲しいが、彼女も使命があって忙しい。かといって俺の旅に連れて行くのは危険だし……ルーチェに聞いてみようか。
「ルーチェはどうする?君は自由だ。君のやりたい事をやって言い」
「やりたい事……その、ヴィクトリア様に付いて行っていいですか?ローゼリア様に治療していただいている時に教えて頂きました。ヴィクトリア様は剣を極め乍ら旅をなさっていると。そして私の様な人を救っていると」
「そうだけど……危ないよ?危険な魔獣と戦うし。出来る限りは君を守ることは出来る。でもついてくるなら最低限自分の身は守れないといけない。それでも?」
「はい。それでも付いて行きたいです。足は引っ張りません。助けて頂いたご恩をお返したいです」
真剣な眼差しで伝えてくる。個人的には反対だがルーチェの決意を斬る事も出来ない。しかし、1人で旅をするのも中々寂しい。ローゼリアと一緒に旅をしている時は楽しかった。色々振り回されて大変だったけど。
「いいよ。その代わりローゼリア。この子に色々と教えてやって欲しい。弟子にしろとまでは言わない。必要最低限自分の身を守れるぐらいには」
「別に構わんが教えるのはヌシの方がうまいじゃろ」
「まだ俺の剣を託す気はない。まだ未完成だし至っていない。暫く滞在する予定だし使命の片手間でいい」
「仕方ないのぅ。ま、妾も丁度暇だしルーチェがよいなら」
ローゼリアがルーチェに視線を送ると、ルーチェは小さく頷く。ローゼリアも頷いて答え一安心。ローゼリアが真面目に教えるか分からないが里に長期滞在する理由は出来た。エル・プラドーとも色々話してみたいし。
「では明日から始めるとしよう。ヴィクトリアも休むといい」
「そうさせてもらう。温泉に入ってみたいし、ここ数日は野宿だったからな」
「野宿……ですか。大変ですよね?」
ルーチェが心配そうに聞いてくる。彼女の言う通り野宿は大変だ。寝ている所に魔獣が襲ってきたり、食事を持っていかれたり。まぁこの辺はあまり気にしないが一番きつかったのはローゼリアとの旅で起きたある事だ。
「野宿と言えば、ローゼリアが寝ぼけて川に落ちたことがあったな」
「そんなこともあったの。しかも真冬だったから死ぬかと思ったわい。ヌシに裸体まで見られるし」
「自業自得だ。他にも色々あるぞ?酒を飲み過ぎて次の日二日酔いで死んでる日もあったな」
「な、何の事かの……」
目を逸らすローゼリア。言っておくがこれだけではない。他にも色々あるのだが上げるとキリがない。その辺はまた後程話すとして、旅の過酷さに付いてもローゼリアに教わって貰おう。
「取り合えずルーチェ。ローゼリアに魔術を教わるんだ。厳しくても音を上げないように」
「はい。ローゼリア様、ご指導お願いします」
「ふふ……厳しくするから覚悟するのじゃ」
とても嬉しそうな表情を浮かべるローゼリア。明日からルーチェの指導が始まる。俺も少し休んでからこの地で剣とは別の修業を始めよう。
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晩食を食べた後、俺は里にある温泉に来ていた。温泉に入る機会は殆ど無いのでこういった時に入ってきちんと疲れを取って置かないといけない。しかし……ローゼリアから聞いていたがこれは凄いな。この半年の疲れが抜けていく。毎日入れば万全の状態で旅を再開出来そうだ。
「それにしても……霊力が満ちてるな。この霊力を利用し技に加えれば……どうなると思う?」
背後から感じる気配に声を掛ける。温泉には俺以外にもう1人、ローゼリアも居た。
「ま、技の威力は上がるじゃろ。他にも色々と出来る事は増える。ヌシに必要か分からんが」
「出来る事は増やしたい。というかこっち来たら?その方が話しやすい」
「おヌシな……まぁ良い。今更だからの」
呆れながらローゼリアが隣に座り、俺は視界をそちらに向ける事無く話を続ける。
「それにしても珍しいな。外から来た人間に魔術を教えるなんて」
「本来は宜しくないが、ヌシの為じゃ。それに……」
「それに?」
「……ふむ……」
(ん……?今一瞬……」
とても深刻そうな表情を浮かべる。この顔は何かを隠している証拠。それも後になって大きな騒ぎが起こる。俺が騎神の起動者候補である事を隠していたように。
「ローゼリア。君が秘密主義なのは分かる。だが隠しすぎるのは良くない。たまには話すのもいいだろう。何でも1人でやろうとしない事だ」
「それが出来たらいいの。少なくとも
「なら近い内に話すんだな?」
「……考えておく」
あぁ……これは話さない流れだな。旅をしている間も考えると言っておきながら結局言わなかった事が多い。これからの事も考えると、彼女の秘密主義はどうにかしないといけないのだが……。今はあまり強く言わない方が良いだろう。
「何かあったら頼れよ。君の事はリアンヌと同じぐらい信用してる。君からしたら俺は頼りないかもしれないが」
言いながら左手でローゼリアの頭を鷲掴みすると、ローゼリアは黙り込んでしまう。すこしやってしまっただろうか?沈黙の時間が少し続き、どうしようかと思っているとローゼリアがゆっくりと口を開く。
「本当にどうしようも無かったら頼る。ヌシの光の心と剣に」
「了解だ……って光の剣は分かるが心はどうしてだ?」
「なんじゃ分からんのか?ヌシの強さの秘密じゃろう」
そう言われても実感がない。自分の強さを支えているならまだ分かるが強さの1つなら話は別だ。俺が知らずローゼリアが知っているのも気になる。ここは聞いてみるか。
「光の心ってなんだ?」
「そのままじゃ。ヌシの心が光のように輝いている。それも日に日に増しておる」
「成程。自覚ないが……心に止めておく」
「それがいいじゃろう(ま、その異能が花開くのはまだ先じゃろうが)」
「分かった。さて……そろそろ上がるよ。ルーチェの事はよろしく頼む」
「任された。ヌシも程々にな」
「あぁ……」
湯船から上がり温泉から出る。脱衣所で軽い服装に着替えてローゼリアのアトリエへと戻って行った。