「……帝国学園がフットボールフロンティアに出場した?」
新聞を持つ手が震える。
帝国学園。
その名前を見間違えるはずがない。
前世で何百時間も遊んだゲーム、『イナズマイレブン』に登場する名門校だ。
つまり俺は――
「イナズマイレブンの世界に転生したのか!」
思わず叫んだ、ラッキーだ。超次元サッカーの世界、必殺技。化身はまだない時代だが、それでも夢のような世界じゃないか。
円堂守、豪炎寺、鬼道、吹雪。彼らと同じ世界で生きられるなんて。
……と、この時の俺は本気で思っていた。
「おい、早く来い! 練習に遅れるぞ!」
外から同年代くらいの少年の声が飛ぶ。
「今行く!」
俺はサッカーボールを抱え、家を飛び出した。
町のサッカークラブへは前世の記憶が戻る前から参加していた。
子どものころから毎日ボールを蹴っていたが、この体は驚くほど運動神経が良かった。
どうせなら最強のサッカープレイヤーを目指したい。
そんな期待に胸を膨らませながらグラウンドへ向かう。
そこで俺は、一人の少年と出会った。
鋭い目つき。
明るい茶色の髪。
年齢の割に妙な威圧感を放っている。
「今日から入る影山東吾だ、よろしく頼む」
「…………え?」
影山東吾
その瞬間、脳が停止した。
いや待て
影山って、あの影山?
鬼道を利用し、帝国を操り、日本サッカーを闇に染めた影山零治?
東吾……東吾って……
「まさか……影山零治の、お父さん?」
「零治? 誰だそれ」
当然である、まだ生まれてすらいない。
俺は頭を抱えた。嫌な予感がする、ものすごく嫌な予感が。
その日の練習後、監督に聞いてみた。
「監督。今年って西暦何年ですか?」
「何を馬鹿なことを。昭和7年だ」
「…………」
昭和7年、つまり1932年
頭の中で必死に計算する。
初代イナズマイレブンの時間設定はたしか2000年代前半のはずだ。
それはつまり――
「70年前じゃねぇか!!」
俺の叫びが夕焼け空へ響いた。
◇
その夜、俺は布団の中で現実逃避していた。
「終わった……」
円堂守の時代まで70年。
それどころか響木監督ですら生まれていない。
円堂大介ですらまだ幼児なのだ。
なんだこの転生。
時間設定がおかしいだろ。
神様、設定ミスじゃない?
……しかし。
しばらく考えた末、一つの事実に思い至る。
「待てよ」
影山東吾。つまり影山零治の父親。
ということは。
「影山零治が闇落ちする前に歴史を変えられる?」
前世の知識がある俺だけが未来を知っている。
フットボールフロンティアを裏から支配する影山。
サッカーを道具として扱う組織。
全部、防げるかもしれない。
もちろん簡単じゃない、だが70年ある。
70年もあれば、未来はいくらでも変えられる。
その時だった。窓がコンコンと鳴る。
「橘」
窓の外には東吾がいた。
「こんな時間に?」
「お前に聞きたいことがある」
俺は外へ出る。
東吾は夜空を見上げながら言った。
「お前、サッカーは好きか?」
「もちろん」
「俺は世界一になりたい」
真っ直ぐな目だった。
悪意など欠片もない。
未来の息子とは似ても似つかない。
「サッカーを日本中が夢中になるスポーツにしたい。誰もが笑ってボールを蹴れる世界を作りたい」
……そうか。
この人は、影山東吾は心の底からサッカーを愛しているんだ。
なら、父親の人生を変えれば。
家族の未来も変えられるかもしれない。
「東吾」
「なんだ」
「日本一、いや世界一になろう」
「…………」
「俺たちで、日本サッカーを変えよう」
一瞬、東吾は驚いた顔をした。そして静かに笑う。
「おう!」
固く握手を交わす。
その手は熱かった。
俺は決意する。未来は知っている。
だからこそ、悲劇も知っている。
ならば俺が止めてやる。
影山零治の暴走も、帝国学園の支配も、復讐に駆られた者たちも全て。
円堂守たちが笑ってサッカーを楽しめる未来を。
誰よりも早く、70年前から作ってやる。
そしてまだ知らなかった。
この時代には、後の必殺技の原型となる技を生み出そうとする者たち。
そしてサッカーを兵器として利用しようとする組織が、すでに暗躍していることを。
俺の知る歴史は、まだ始まってすらいなかった。
これは後に『日本サッカーの始祖』と呼ばれることになる男と、その仲間たちの物語。
円堂守たちがフットボールフロンティアで優勝する70年前、すべての伝説はここから始まる。