プロローグ
王都ルミナリアの朝は、いつも光に満ちている。 白い石畳に反射する陽光、整然と並ぶ建物、遠くに見える王立魔法学園の塔。そのすべてが、この街が「正しく」「美しい」場所であることを疑わせない。――少なくとも、地上にいる限りは。
「おはようございます、カインくん」
店の扉を開けると、向かいの花屋の女主人が手を振った。
「おはようございます」
柔らかく微笑み返しながら、カイン・ヴァルクは小さな店の鍵を開ける。 看板にはこう書かれている。 『アトリエ・ルーチェ』 絵筆、絵の具、キャンバス。店内には色とりどりの画材が整然と並び、かすかに油絵の具の匂い が漂っていた。 この画材店は、彼のすべてだ。 そして――彼の嘘でもある。 カウンターの奥に入ると、カインは一枚の布を外した。 そこにあったのは、描きかけの絵。 夜の街。 歪んだ影。 人の形をした“何か”。 光の王都とはまるで違う、もう一つの顔。
「……もう少し、だな」 筆を手に取り、迷いなく線を重ねる。 見たものを、そのまま描く。 それが彼のやり方だった。
そのときだった。――カランと扉のベルが鳴る。
「いらっしゃいま――」
振り返ったカインの言葉は、途中で止まった。 立っていたのは、客ではなかった。 黒い外套。 顔を隠すフード。 そして、視線だけで分かる“普通ではない存在”。
「……昼間から来るなんて、珍しいですね」
カインは動じずに言う。 その声は、先ほどまでの柔らかさとは少し違っていた。
「仕事だ」
短い一言。 それだけで、空気が変わる。 外の光が、急に遠くなった気がした。
「場所は?」
「リベルテだ。」
それだけ告げると、伝令の男は背を向ける。
「遅れるなよ。」
扉が閉まる。 再び、静寂。 ……まるで何もなかったかのように。 しばらくして、カインは小さく息を吐いた。
「相変わらず急だな……」
だが、その表情に困惑はない。 むしろ、どこか――楽しげだった。 彼は再びキャンバスに向き直る。 今度は、迷いなく“それ”を描いた。 暗い地下。 歪んだ街。 笑う亡者のような人々。 そして中央に描かれる、一軒の酒場。 「リベルテ」 その名をなぞるように、筆が走る。―自由。 だが、その自由が意味するものを、彼はよく知っていた。 すべてを失う自由。 すべてを奪う自由。 そして―
「……今夜も、綺麗に描けそうだ」
少年は、静かに笑った。 それは決して、光の中で見せる笑顔ではなかった。 王都ルミナリア。 その地下深く、誰にも知られぬ美しい街の裏の顔――ノクス・アンブラ。 そこに集うのは、法に背き、影に生きる者たち。 盗賊ギルド《灰狼の牙》。 その一員である少年、カイン・ヴァルクは、 今日もまた、光と闇の境界を歩く。
カインが何を成すのか。
何を選ぶのか。
それはまだ誰も知らない
設定です
カイン・ヴァルク
十代後半の少年。
王都で小さな画材屋を営む青年で、表向きは穏やかな絵描き。
趣味は絵を描くこと。スケッチ帳を常に持ち歩いている。
裏では非合法な盗賊ギルド灰狼の牙の団員。
能力 魔法のコピー
見たことのある魔方陣を描き魔力を流すことでその魔法を使用できる。