――警報が鳴り響く。 ヴィヴァルディ銀行の静寂は、完全に破壊された。
「侵入者だ! 金庫区画に複数!」
「魔封じの結界を展開しろ、逃がすな!」
重厚な廊下に、鉄靴の足音が雪崩れ込む。
「カイン、走れるか!」
「もちろんです!」
巻物を抱えたまま、カインは迷いなく駆け出した。 来た道をそのまま戻る
――そんな単純な話ではない。 すでに防壁が降り始めている。
「正面ルートは閉じられます!」
「なら横に抜ける!」
レイナが壁際へ跳び、短剣で石の継ぎ目を叩く。
――ガンッ! 一見ただの壁。しかし、その裏に“空洞”があることを彼女は知っていた。
「裏通路だ、続け!」
崩れた壁の隙間に滑り込む。 広くはあるが暗い通路。だが警備は薄い。――はずだった。
「……来るぞ」
レイナの声と同時に、空気が震えた。
次の瞬間、通路の奥に光が走る。――魔法。 一直線に放たれた光弾が、空間ごと貫こうと迫る。
「チッ!」
レイナが身を翻すが、回避はギリギリだ。 そのとき
「――下がって!」
カインが叫ぶ。 彼はすでに帳面を開いていた。 描いていた防護の魔法を発動させ紙を突き出した。
――バチンッ! 衝突。 だが、爆ぜたのは光弾の方だった。
「……防いだか?」
「完全じゃないですけどね!」
カインの即席防壁は、半壊していたが、致命傷は防げた。
「行きます!」
二人はさらに奥へ。 だが―
「囲まれてるな」
前方、背後。 気配が増えている。 魔法使いたちだ。
「……面倒ですね」
カインは小さく息を吐く。 そして、腕の中の巻物に視線を落とした。 微かに、熱を帯びている。
(さっきの反応……)
思い出す。 あの紋様。 あの“爆ぜる”構造。
「……レイナさん」
「なんだ」
「これ、多分――」
カインは巻物を広げた。
そこに記されていたのは、ただ一つの術式。 複雑で、狂気じみていて、そして美しい。
「――爆裂魔法です」
「は?」
「広域破壊型。たぶん、制御前提じゃない」
「使う気か?」
レイナの声が低くなる。 当然だ。 こんな広いとはいえ閉じた空間で撃てば―
「死ぬぞ、私たちも」
「普通は、そうですね」
カインはペンを握る。 目は狂気に飲まれかけていた。
「でも俺なら描ける」
静かに言う。
「大爆発じゃなくて、抜け道を作るくらいの火力に落とします。」
「……」
「三秒だけ、守って下さい。撃てれば、外に行ける」
狂っている。 だが―
「……やるなら早くしろ」
レイナは笑った。 短く、鋭く。
「責任はお前が取れ、カイン」
「もちろん」
カインは描き始めた。 迷いはない。 頭の中で、すべてが組み上がっている。 爆発の範囲。圧力。崩壊の方向。周りの音が聞こえないほどの集中の中でカインは純粋に楽しんでいてすらいた
「――今です!」
紙を叩きつける。 空間が、歪む。
巻物に触れた瞬間外に接していた右側の壁に向け魔力が、噴き出した。 制御不能な力。 だがカインは、それを制御できる、そんな根拠のない自信が沸き上がる
「――エクスプロージョン」
静かに、唱えた。 次の瞬間。 世界が、爆ぜた。 轟音。 閃光。 すべてを焼き尽くす爆発が、一直線に外へと突き抜ける。 石壁を、通路を、空間そのものを抉り取りながら。
「飛ぶぞ!」
レイナがカインの腕を掴む。 二人はその爆風の流れに乗るように跳んだ。
背後で、すべてが崩壊する。 追ってきていた魔法使いたちの気配も――消えた。--
次の瞬間。 二人は王都の外縁、水路近くに叩き出されていた。
「……っは」
カインが地面に手をつく。 呼吸が荒い。 だが、笑っていた。
「……成功、ですね」
「成功どころか、やりすぎだ」
レイナも息を整えながら立ち上がる。 背後を見る。 遠く、銀行の方向から煙が上がっている。
「明日には王都中が騒ぎになるぞ」
「いいじゃないですか」
カインは巻物を握りしめる。 まだ熱を帯びている。
「これで、もっと面白くなる」
その目は、完全に玩具を前にした幼児のような好奇そのものだった。
王都ルミナリア。 その秩序に、今― ひとつの大きな亀裂が入った。
爆裂魔法
はるか昔に禁忌として封じられた魔法
広範囲を破壊しつくすが制御できず、かつては負けた魔法使いが相手を巻き込み自爆するといった使い方がされていた。
銀行の頭取であるガルド・ヴィヴァルディは闇オークションにて手に入れたようだ