乃依がプリセットアバターのツクヨミご新規さんをプロデュースする話   作:天号

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超かぐや姫!から受け取った熱量が高すぎて、初めて二次創作小説というものを書いてしまいました。どうぞご覧ください。


乃依がプリセットアバターのツクヨミご新規さんをプロデュースする話

 仮想空間『ツクヨミ』に、今日も夜がくる。

 

 現実の日本時間も夜のタイミング。この時間、ツクヨミの住人たちはお目当てのイベントの会場へと足を運んでいる。

 

 ヤチヨをはじめとした、歌を歌うライバーとファンの交流のための大小様々な「ハコ」が並ぶライブ区画。

 

 KASSENなどの、仮想空間である事を活かした大規模なゲームが遊べるゲーム区画。

 

 ゲーム区画には、大規模なゲームばかりではなく、小規模のゲームが遊べる場所もあり……。

 

 その一角にあるダーツコーナー。そこに、

 

「ブルズアーイ! 三連続! 今夜も俺って、エイム最高ー!」

 

「うーん、乃依は本当に上手いな」

 

 上位ライバーでありアイドルのブラックオニキスの、帝アキラと乃依がいた。

 

 

 

 

 

「彩葉ちゃん、かぐやちゃんが行っちゃって、落ち込んでる?」

 

「彩葉は強いよ。もう立ち直ってるだろ」

 

 かぐやの卒業ライブから1週間ほどのタイミング、ブラックオニキスの面々は、既に気持ちを切り替えていた。

 

「ねえ、今度一人で泊まりに行っていい?」

 

「雷の許可を取りなー」

 

 などと話しながら、乃依は次々とダーツを的の中心に当てていく。それを眺めながら帝は、乃依の提案に返答していた。

 

 ちなみに雷は、一人で1on1の格闘ゲームの大会に参加しており、ここにはいない。

 

「それでさ、泊まりに行ったら、ずっと帰らないの。どう?」

 

「あー……。マジレスすると、それは乃依が成人してからな」

 

 カキッ!

 

 軽い擦過音と共に、乃依の放ったダーツが的の端にぶつかって落ちた。

 

 驚愕の表情で、震えながら帝の方へとゆっくりと振り向く乃依に、帝は、

 

「あと3年待ちな」

 

 厳として答えた。

 

 乃依は目に涙をためて、それをわざとらしく帝に見せつけるが、

 

「だーめ」

 

 帝の最終通告を聞くと、

 

「アキラの、馬鹿ーーーーッ!!」

 

 と乃依は叫び、ダーツコーナーを出て、夜のツクヨミに消えていった。

 

 帝はふう、と一息つくと、ダーツを片付け始め、

 

「まったく、乃依といい、あの人といい……」

 

 と、独り言ちた。

 

 

 

 

 

「もう、アキラの馬鹿……!」

 

 ダーツコーナーを飛び出した乃依は、気が付いたらツクヨミのライブ区画にいた。

 

 乃依はむしゃくしゃしていた。

 

(どこかのイベントで飛び入りで歌って、優勝をかっさらっちゃおうかな。それで得たあぶく銭のふじゅ~で、何か買い物でもしてストレス解消を……)

 

 と、よからぬ事を考えてしまう。

 

 この悪企みに適した、イベントはどこかにないかなーと、手元に出したポップアップスクリーンをイベントタブに切り替えようとしたその時、

 

「あ、乃依さんじゃないっすか。こっち、こっちっす!」

 

 と、声を掛けられる。乃依が声の聞こえた方を見ると、ツクヨミきってのMCライバー、忠犬オタ公がそこにいた。

 

 

 

 

 

「なになに? イベント?」

 

 乃依が近づいて忠犬オタ公に尋ねると、

 

「歌のイベントっすー」

 

 と返してくる。

 

「俺、飛び入り参加しちゃおうかな」

 

 と、乃依が切り出すと、

 

「ほんとっすか!? そいつはイベントも盛り上がって、大助かりっす!」

 

 忠犬オタ公は、しっぽを振って喜んだ。

 

「よーし、何を歌おうかな?」

 

 乃依がそう言って張り切って見せると、

 

「あー、乃依さんが歌うんじゃないっすよ」

 

「えっ、どういう事?」

 

「ちゃんと説明しますね。少々お待ちを」

 

 と言って、忠犬オタ公はこのイベントのこじんまりとしたステージに上がっていった。

 

 

 

 

 

「忠犬オタ公プロデュース! 第1回かぐや記念! ぐんぐんつくしカップーーーー!!」

 

 乃依が周囲を見渡すと、イベント会場にいるのは10人くらい。まばらな拍手が辺りに響く。イベントの大小を問わず、忠犬オタ公のMCはいつもフルスロットルだ。

 

「諸君! 我々ツクヨミの住人は、かぐやを失った。伝説の卒業ライブは記憶に新しい。今、ツクヨミは、かぐやロスという空気に覆われている」

 

 忠犬オタ公が、大げさな感じに語りだす。そして1週間ほど前のかぐや卒業ライブを引き合いに出してきた。乃依はイベント会場にいる人達の反応を見る。誰もが、かぐやロスを憂いているようだった。

 

「このままでいいのか! 否! 涙を拭いて前を向き、失われた伝説を塗り替えよう! 今我々が求めてやまぬもの、それは、新しい伝説だーーーー!!」

 

 ここで忠犬オタ公の左右にポップアップスクリーンが浮かぶ。そこには、『ベテランは新人をプロデュースする』『新人はベテランにプロデュースされる』というキーワードが、簡単なイラストと一緒に踊っていた。

 

「この小さなイベントステージ、ここから新たな伝説が始まるのを見届けよう! むしろ私が見たいです! プロデューサーの皆さん、よろしくお願いします!」

 

 乃依はなるほど、と思った。周囲にいる10人はプロデューサー候補なんだ。そして乃依がブラックオニキスをセルフプロデュースしているように、自分の手腕で新人ライバー候補をプロデュースすればいいのか。乃依はこのイベントに興味が出てきた。

 

「というわけで、ツクヨミベテラン勢のあなた方には、プロデュースするライバー候補をここに連れてきて欲しいのです。エントリー期限は今から2時間後、時間内にプロデューサーに出会う運も実力のうちって事で。さあ、イベント開始だーーーー!!」

 

 説明が終わると、乃依の周囲のプロデューサー候補たちは、四方八方に散っていく。忠犬オタ公はステージを降りて、乃依に近づいてきた。

 

「とまあ、こういうイベントなんすよねー。どうすか乃依さん、いっちょプロデュース、やってみませんか?」

 

「俺、ちょっと興味出てきた」

 

「それじゃあ!」

 

「うん、俺も参加するよ」

 

「あざっす!!」

 

 乃依は冷静さを取り戻していた。むしゃくしゃして格下のイベントを荒らしたところで、乃依とブラックオニキスの汚点になるだけだ。それよりこの『かぐや記念』のような、前向きなイベントの方がよっぽど面白そうだ。

 

「ま、期待しないで待っててね。これはと思ったら、その新人を連れてくるよ」

 

 走り出す乃依のシルエットはツクヨミの夜に溶けていった。

 

 

 

 

 

 とは言ったものの、2時間のうち1時間という時間が無為に過ぎてしまった。

 

 ライバー候補はそれなりにいた。

 

 まずはイベント会場周辺で、プロデューサーを「出待ち」していた子たち。

 

 出待ちをするくらいだから、歌はうまい。自信もある。ポップアップスクリーンに書いたプロフィールもしっかりしている。でもそれだけではだめだった。乃依の心が動かなかったのだ。

 

 次に探したのは、ツクヨミのログイン大鳥居の辺りにいる新人の子たち。

 

 だがここはもっとだめだった。ポップアップスクリーンを見ると、ツクヨミで何をしたいか。それがはっきりしない子たちが多かったのだ。そこに無理やり「アイドルをやらない?」と誘っても、相手を困惑させてしまうだろう。

 

 乃依はツクヨミの中を、何かを求めて彷徨っていた。何を求めているのか、それは乃依自身にも、はっきりとはわからなくなっていた。

 

 ライバー候補に求めるもの。歌う技術? それは後から磨ける。自信? あればいいが絶対ではない。ルックス? それはアバターをカスタムできるツクヨミにおいて、最も条件から外れる事じゃないか。

 

 あの出待ちしていた子たちを思い返す。自分の心が動かなくても、仕事と割り切って、能力を買って受け入れるべきだったのではないか。

 

 エントリー期限まで、あと30分を切っていた。

 

 仕方がない。時間がないんだ。ライバー候補の子のスキルは後で伸ばすとして、初期値は妥協しよう。次に出会ったやる気のある子を、受け入れてエントリーしよう。

 

 そんな事を考えながら歩いていると、

 

 どこかから歌声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 そこはツクヨミの外周区画の、疲れた人が休憩などをする一帯だった。

 

 ちょっとした高台になっていて、ベンチが並んでいて、ヤチヨが住まうとされる城を一望できる、見晴らしの良い広場。

 

 その広場のベンチに座って、天に浮かぶミラーボールを見上げ、歌っている少女がいた。

 

「……はっ!」

 

 乃依は呼吸するのも忘れて、その歌を聞いていた。なので少しして、息をついてしまった。

 

「えっ!」

 

 少女が乃依に気付く。姿勢を変えて、乃依の方に向き直る。

 

 その印象は、普通という感じだった。そう、普通。

 

 なぜなら少女はツクヨミのアバターの中でも、カスタムアバターではなくプリセットアバターだった。

 

 額の少し左から左右に分けた前髪。背中まで伸びるロングヘア。髪色は赤の原色というところもプリセットという感じだ。頭からチョンと鹿の角が生えているが、ツクヨミではそのくらいは普通の範疇だ。

 

 プロフィール欄も未記入。十中八九、ツクヨミに来て日が浅いのだろうと、乃依は感じた。

 

 でもそんな事より、

 

「この歌だ……」

 

 これだ、ここまで聞いてきた歌とは違う。これだ、何が他の歌と違う? ううん、わからない。ちゃんとした違いがわからない。でも、これだ。この歌だ。

 

 乃依は胸が高鳴る思いがした。この歌を聴きたい。ステージに立たせて、みんなにこの子の歌を聴いてほしい。プロデュースプランはその後だ。

 

 歌が上手いかというと、そこまでうまくはないと思う。強いて言えば、普通に聴けるレベルといえる。これから磨けばいい。

 

「何なの君、お嬢ちゃんなの? 何か用なの?」

 

 少女が口を開いた。

 

 自信、というか、物怖じしない感じ。度胸はありそうだ。絶対条件ではないが、自信があるのはいい。

 

「私の顔に、何かついてる?」

 

 ルックス、それこそツクヨミでは結構自在だ。後からなんとでも変えられる。つまり、いい。

 

「この子だ……!」

 

「な、何ね?」

 

 乃依は少女の手をぐいと掴んで、走り出す。

 

「来て! 君の歌を、みんなに聴かせたいんだ!」

 

「ちょ、ちょっと! えええええ!?」

 

 

 

 

 

 イベント会場に戻ってくると、結構な数の人が集まっていた。期待の新人のデビューを見届けようという人が、潜在的にこんなにいるのだろう。

 

 乃依は忠犬オタ公のいるエントリーカウンターまで、少女を連れて行った。エントリー期限まであと5分。ギリギリ間に合いそうだ。しかし、

 

「あー、このままじゃエントリーできませんねー」

 

「えー何で? だるー!」

 

 忠犬オタ公の慈悲のない言葉が乃依と少女に掛けられる。乃依は思わず、忠犬オタ公に言い返していた。

 

「この子がちゃんとしたツクヨミの住人になるためには、今、保留しているツクヨミネームの登録が必要なんです」

 

「あ……」

 

 少女のアバターのステータスを見る。12ケタのツクヨミIDで個人はツクヨミに登録されているが、ツクヨミ内での彼女を現す通り名、ツクヨミネームは空欄になって点滅していた。未登録という事だ。

 

「多分ですけど、プリセットアバターってことは、楽しい楽しいカスタマイズをすっ飛ばしてるんですよ。その時にツクヨミネームの登録も飛ばしちゃった。そんなところでしょうねー」

 

「ツクヨミネームを登録して。お願い」

 

 乃依は両手でハートマークを作る。

 

「この宙に浮いてるスクリーンのここを触って、こんな感じにすると、登録できるっすよー」

 

 乃依と忠犬オタ公に促され、少女が手を動かす。彼女のネーム欄にツクヨミでの名前が刻まれる。

 

「はーい、登録完了を確認! エントリーしました! あなたの歌を聴くのが楽しみっす!」

 

 白い歯を見せて少女に微笑みかける忠犬オタ公。乃依も少女のツクヨミネーム登録完了に、ほっと一息つく。

 

 安心した乃依は、少女のツクヨミネームの欄を見た。

 

「ふーん、君の名前、かわいいね」

 

 誰に向けてともなく、乃依の口からそんな言葉が出る。こんな事をさらりと言えるのが、乃依という少年である。

 

「あ、ありがとさん……」

 

 褒められて悪い気はしないのだろう。少女が照れた素振りを見せる。

 

 少女のネーム欄に、登録した名前が表示されていた。

 

 

『もみじ』

 

 

 

 

 

 ボーイ・ミーツ・ガール

 

 誰も知らない物語が、始まろうとしていた。

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