「なあ、お前は誰に賭けた?」
「俺はドリームジャーニーだな。厩舎も自信たっぷりって感じだし、馬体もいい感じだ。アレは走ると思うぞ」
「俺はデスコベルタ。古馬を煽るほどの有望株だし、なかなか期待できると思うんだよな……」
新潟競馬場の観客席では、大勢の観客が今から始まる新馬戦についてを語り合っていた。新馬の中には将来の大物もいるかもしれない。そんな気持ちが新馬戦の話題を加速させていた。
「……俺は、あのナリタタイシン産駒が気になんだよな……」
「はあ? 言ってタイシンの産駒だろ? 走らんだろ……」
「そうだな……実際、軽く調べてみたけどタイシンの産駒って本当に走らないからな……」
ナリタタイシンの産駒に活躍馬はいない。中央で最も活躍した産駒が2勝クラスのサーストンガールの時点でお察しである。
地方では重賞馬がでたというニュースは聞いたが、あくまで地方。それも、4歳以降は活躍することができず、乗馬入りしたという話だ。
「でもさ、いやに陣営が自信満々なんだよな……評価もAつけてるし……」
「2歳馬のA評価とか当てにならんだろ……」
「う〜ん、でも気になるな……」
そうこう話しているうちにゲートが開く。
肝心のナリタタイシン産駒は……後方に位置していた。
「新馬だし、いきなりの最後方は駄目だろ……ありゃ終わりだな……」
「騎手は……由紀心華か。……可愛いんだけど、あんまりなんだよな……連対率も低いし……。それより、ドリームジャーニーは中段か……」
「デスコベルタも馬群の中だな……前も塞がれてるし、こりゃきついか?」
観客の目に映るのは最後のナリタタイシン産駒ではなく、一番人気のデスコベルタに二番人気のドリームジャーニー。
しかし、マグナアニマの馬券を買った観客は、しっかりと最後方に構えるその姿を見据えていた。
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『スタートしました────各馬バラっとしたスタート。好スタートはアポロファンタジー。まずは先行争い。外からホットファッション、ショットモード並んでいます』
俺はスタートしてすぐに後ろに構える。今は脚を溜めるターンだ。先行争いにいるのは……スペシャルウィークの子供のホットファッションとキングヘイローの子供のショットモード……もう一頭は知らん馬の子供のアポロファンタジー。
内側にも並んでいる……ジャングルポケットの子供のムーランヴェールにメジロライアンのオークロイヤル、知らん馬の子のヤマニンリシェス……横並びに並んでるな……。
あんな序盤から競って大丈夫か? 見た感じ、皆焦ってるな……多分、こんな大勢と一緒に並走とかしたことないから気が気じゃないんだろう。
『ひっ……ま、負けるか!』
『まだまだ!』
先行の位置にいる馬たちはやはり横並びになってる他の馬を意識して最初からフルスロットルになってる様子だ。
『くっ、負けないわよ!』
『馬群のデスコベルタ、追い上げていきます』
あ、デスコベルタちゃんも馬群の中で位置を上げようとしてる。だけど、まだ序盤も序盤。今焦ったら台無しになるぞ。
……いや、デスコベルタちゃんもそれは分かってるはずだし、走りつつも温存って感じかな? 少し前目の位置についたけど追い抜こうとはしてないっぽいな。この位置をキープする腹づもりか。
先行はこんなもんか……中段グループは……。
『そして二馬身開いて中段グループマイネルファヴール。外に二番人気のドリームジャーニー』
ドリームジャーニー……やはり不気味だな。じっと目の前を見据えてやがる。
周りの馬が前を気にしたり横を気にしたりしている中、あいつだけ静かに前を見ている。焦りもなければ気負いもない。
(確か……ドリームジャーニーはウマ娘だと差し、追い込みだったな……。今回は差しで来たってことかな?)
『更に二馬身開いて二番のタケデンヴィーナス。その後ろ、エーシントゥルボー、クリノマジョリカ、フジマサレインボー。続いて二馬身開いてアンカラシチー、最後方マグナアニマ』
おっといけない、相手はドリームジャーニーだけじゃないのだ。他の馬のことも気にしないとな……。
俺のすぐ目の前にはアンカラシチーという馬。差は……大体半馬身くらいか?
コイツも追い込みを狙ってるのか? だとすると油断できないな……。
『まもなく600メートルの標識』
そうこうしているうちに標識が見えてきた。曲がりコーナーを曲がり、馬達はさらに勢いをつけて駆けていく。
『……今!』
ドッ!
『デスコベルタ上がっていった。デスコベルタ、一気に先頭グループ!』
ここでデスコベルタちゃんが仕掛けてきた! 外から一気に追い抜くつもりだ!
だが、仕掛けるタイミングを見ていたのは俺も同じだ。俺も直線まで来た……外側の位置にいたおかげで進行方向に他の馬はいない。ここから一気に行く!
「行くよまぐちゃん!」
(おう!)
由紀さんの鞭を合図に俺は一気に加速していく! このためにずっと温存していたんだ……全員まとめてぶち抜いてやる!
『『『なっ!?』』』
『なんと、大外からマグナアニマ! 一気に先頭グループに食い込む!』
俺は直ぐ様前のアンカラシチーを抜き去り、三番手のグループを抜き去り、ドリームジャーニーのいる二番手のグループをも抜き去る!
このまま先頭まで────
『……させない』
ドンッ!!
────っ! やっぱりそうだよな……いかに
『ドリームジャーニーも来ている! 内から一気に追い抜くか!』
俺が大外から一気にグループを追い抜くと同時に、ドリームジャーニーもまた馬群の外側に抜け出し、俺達を差そうと追い込んでくる!
『デスコベルタ、抜け出した。しかし、外からドリームジャーニーとマグナアニマも来ている!』
『くっ、負ける……もんですか!』
デスコベルタちゃんはさらにスピードを上げようと脚を伸ばす。しかし、序盤の位置を上げようとした時に消耗したのか、最初に比べると確実に遅くなっている。それを逃がす俺じゃない!
最後方でずっと俺は足を溜めてたんだ! 体力は十分! あとは末脚で抜き去るだけだ!
『マグナアニマ、抜けた! マグナアニマ、先頭!』
『そんなっ!?』
よし、抜けた! デスコベルタちゃんもドリームジャーニーも抜き去って────
『脚を溜めてたのは君だけじゃない……行かせてもらうよっ!』
『っ!』
『残り100メートル! 並んだ! 並んだ! ドリームジャーニーがマグナアニマに並んだ!』
ここからさらに加速するのか! ドリームジャーニーが僅かに前に行く!
『まだだっ!』
俺も負けじと身体を伸ばす。しかし前へ出たと思えば、すぐに奴も差し返してくる。
完全に競り合いの状態! 距離も残り僅かだし、ここからはもう根比べになる!
『ふ、ふざけないで……負けてたまるかぁ!』
俺とドリームジャーニーの競り合いに割り込もうとデスコベルタちゃんも足を前に前にと出していく。
────しかし
『ドリームジャーニーとマグナアニマの激しい追い比べ! デスコベルタは苦しいか!』
『ぐ、ぐぅ……』
デスコベルタちゃんもすでに体力を消耗した身。闘志も虚しくズルズルと後ろに下がっていく。デスコベルタちゃんの姿が視界の端へ消える。
ここからは、俺とドリームジャーニーの二頭の世界! 鞭を叩く由紀さんとジャーニーの騎手! 俺達はほぼ同時にゴール板を通り過ぎた!
『マグナアニマとドリームジャーニー並んでゴールイン! これはわかりません! 写真判定です!』
はあ……はあ……しゃ、写真判定……どっちが勝ったんだ?
「どっちだった……?」
「わかんないです……」
ドリームジャーニーの騎手さんが由紀さんに尋ね、由紀さんもそれに答える。
電光掲示板をチラリと見ると、三着にデスコベルタちゃんの馬番「13」の文字。右斜め上には1/2と書いてある。これは二分の一馬身差ということかな……その下はスペちゃんの子供のホットファッションちゃんが5馬身差。5着はアサクサヴェールって娘か。
『……アンタ達、覚えたから……次会った時、覚悟しなさいよ……天才の私がぶっちぎってあげるから……』
デスコベルタちゃんは俺達に向かってそう言うが、ドリームジャーニーはどこ吹く風だ。ドリームジャーニーの目線にあるのは────俺か?
『……君、名前は?』
ふと、ドリームジャーニーが俺に尋ねる。その瞳には確かな闘志が宿っている。
あのドリームジャーニーに話しかけられたと少し感動を覚えながらも俺は闘志を持って答える。
『マグナアニマ。ナリタタイシンの子供だ』
『……そう、俺はドリームジャーニー。ステイゴールドって馬の子……らしいよ……』
ああ知ってるよ。今は生まれてないかもだけど、お前が後に金色の暴君の兄になることもよく知ってる。
ドリームジャーニーはクスリと笑いながら後ろを振り向く。
『楽しかったよ……また走ろうか。次も俺が叩きのめしてやるからさ……』
『……上等だ。次は負けねえ』
電光掲示板には「ハナ」という文字。その左斜め上にあるのは────ドリームジャーニーの番号だった。
『確定しました! 一着はドリームジャーニー! 二着にマグナアニマ! その差は僅か5センチ! 上がりハロン34.0。マグナアニマはなんと上がり最速33.8でした』
『いや、いいタイムですね。新馬でこれは凄いの一言です。これは今後が楽しみになってきましたよ』
実況の人たちが俺たちを称賛する。だけど、俺の心にあるのは悔しさだ。
「ごめんねまぐちゃん……負けちゃった……」
悔しそうに言う由紀さん。由紀さんは悪くない。由紀さんの指示は完璧だったし、俺も行けたと思ったんだ。
今回は完全に向こうが上だった。敗因は俺が弱かったから……それだけだ。
(負けた)
ドリームジャーニーが相手だからなんて言い訳はしない。ドリジャには憧れもあるし、会えて嬉しいという気持ちももちろんあった。だが、それと勝負は完全に別。俺は正真正銘本気でやった。それでもドリームジャーニーに及ばなかった。
(だけど、追いつけない差じゃない……)
走って分かった。確かにドリームジャーニーは強い。でも、絶対的な差は感じなかった。相手がウマ娘になるほどの名馬? それを言うなら俺だってあのナリタタイシンの子だ。
『舐めんな』
俺は一言嘶いてから、由紀さんに導かれて馬房に戻る。
次は負けない。絶対負けない! もっともっと強くなって、今度はドリームジャーニーをぶち抜いてやる!