大心を宿して   作:はんたー

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サブタイが仮題のままだった…


京都大賞典、決着

 

 

『各馬バラっとしたスタート。キーボランチ前を伺います。前に出たのはマイソールサウンド! 先頭です』

 

 ついに始まった、京都大賞典。先んじて前に出たのはマイソールサウンドとキーボランチの二頭だ。だが、キーボランチは前を伺う形で後ろに下がり、代わりに三頭の馬が上がってきた。

 

『二番手ローゼンクロイツ、前に上がっていきます。このままマイソールサウンドに並ぶか? 続いてアルファフォーレス、あるいはトウショウナイト』

 

 スイープ師匠の同期だというトウショウナイトさんは前目の位置。そしてその後ろに見覚えのある影がピッタリと後についている。マイねぇだ! 

 

『さらにその後ろにいるのはマイネベレーザ。四番手の位置から出を伺っている。続いて中団グループにはインティライミ、外めの位置にアイポッパー。スイープトウショウは後方、後ろのグループ』

 

 スイープ師匠がいるのは後方で一段となってるグループだ。最後方のファストタテヤマさんと並んでいる形になっている。

 スイープ師匠は少しずつ前に出ている。最終的には後ろから二、三番手の位置。

 ここならば後ろを警戒しつつ、前のこともよく見えるってことか……。

 

(思えば、スイープ師匠のレースを見るのは初めてだな……)

 

 マイねぇのレースは故郷の牧場で何回か見たことある。俺がマイねぇと仲良くしてるのを見た天野さん達がたまに映像を見せてくれていたからだ。

 でも、スイープ師匠はここしばらくレースもやってなければ、見る機会もなかった。アレがスイープ師匠の走りなのか……併せ馬の時とはまるで違う。参考になるぜ。

 

『ここでローゼンクロイツ先頭に立った。リードは一馬身から二馬身、マイソールサウンド二番手、インティライミ、トウショウナイト、マイネベレーザが追走しております』

 

 先頭に立ったのはローゼンクロイツという馬だ。そのままローゼンクロイツは逃げて三馬身まで差を広げる。

 画面越しだけど、全然疲れてる様子はないな。あの逃げがローゼンクロイツさんのスタイルなのだろう。

 

『ローゼンクロイツそのまま差を広げる。三馬身から四馬身、大分スローなペースで先頭しています』

 

 新馬戦や未勝利戦で見た、ただ何も考えずに前に行こうとするスタイルとは違う。ゆったりとした逃げだ。

 俺が感じた感覚は間違ってないらしく、実況もスローペースだと言っている。

 

(確か、シングレの逃げ馬……ロードロイヤルだっけ? あの馬が逃げでペースを乱すみたいなことしてたし、多分ローゼンクロイツさんも似たようなことをしてるんだろうな……)

 

『二番手にマイソールサウンド、三番手にトウショウナイト、インからインティライミ、外にマイネベレーザと併せた形になっています。続いて五番手にストラタジェム、アルファフォーレス、アイポッパー。内側にスイープトウショウ。その後ろにキーボランチとニッシングリン、最後方にファストタテヤマという形になっています』

 

 スイープ師匠は後ろから四番手の位置。追込と差しの中間みたいな場所にいる。あの場所で脚を溜めているんだろう。

 俺はまだ機会がないけど、展開によっては差しと追込は切り替えるのもアリだとスイープ師匠も言ってたしな。

 やがて、スイープ師匠は緩やかに後ろへ沈んでいく。だが、それは嵐の前の静けさのように感じる。

 

(でも、スイープ師匠っぽくはないかも? 最後方はあんまりやらないって以前本人言ってたし)

 

 何か策があるのだろうか? スイープ師匠の方も気になるが、カメラを操作してるのは人間達だ。カメラは切替わり、全体アップの形となる。

 

『各馬3コーナーを登っていきます。先頭から最後方までおよそ八馬身。ローゼンクロイツ、リード二馬身を保ちました。そのまま坂を上がります。馬順は変わりません』

 

 馬達は坂を駆け上がっていく。その勢いにより、どんどんスピードが速くなっていく。

 ────ここから展開が動き出す。

 それを予感した俺はより一層集中して画面に食い入った。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

『まさか、お前が逃げに出るとはな、ローゼンクロイツ。お前、ダービーの時は後方だったよな?』

 

『毎回それで痛い目に合ってるからな! ならば、一か八かで新しいことに挑戦すべきと思ったまでだ!』

 

『なるほど……だけど、付け焼き刃の逃げで勝てると思ってんのか?』

 

『付け焼き刃かどうか試してみろ! 今回こそ負けん!』

 

 私の前で言い合っているローゼンクロイツにインティライミ。おそらく同期なのだろう。共に憧れのダービーに出走した実力者ってところか。

 

(まだだな……騎手の合図もないし、勝負を仕掛けるなら坂を登って直線に入ったところだ)

 

 この騎手……河田さんといったか。コンビを組むのは初めてだけど、なかなかにいい手綱だ。明らかにまだ若い……新人さんだというのに大したものだ。

 私たちは徐々にペースを上げて、坂を登りきる。登りきったら後は下るだけ。私は坂を下ると同時に一気に加速していく。

 

『各馬坂を下り切る! 残り600メートルを通過、流れが速くなってきました! アイポッパー三番手まで上がった、先頭は変わらずローゼンクロイツ、二番手にマイソールサウンド、トウショウナイトと続いている!』

 

『よし、ここだ!』

 

『今ッ!』

 

 ダッ! 

 

 トウショウナイトとマイソールサウンドが前に上がる。それを見たローゼンクロイツは息を乱しながらも前を見据えて走っていた。

 

『まだまだ!』

 

 ローゼンクロイツは負けじと踏ん張ろうとする、しかし抜け出したのはトウショウナイトとマイソールサウンドだ。

 ……いや、それだけじゃなさそうだ。後ろから最後方にいたファストタテヤマが追い込んできた。インティライミも間にねじ込もうとしている。

 

『舐めるな……薔薇一族の誇りを見くびるな!』

 

 ローゼンクロイツはすぐ隣の馬に負けじとさらに脚を伸ばす。前を抜いた二頭を差し替えさんとする勢いだ。

 本当、大した根性だ。だが……。

 

『隣ばかり見ていたら、後ろを見逃すぞ』

 

『っ!?』

 

 ローゼンクロイツだけじゃない。

 トウショウナイトも、マイソールサウンドも、インティライミも揃って一瞬後ろへの警戒が遅れた。

 隣り合って横一列に競り合った弊害だな。多分、私も同じ状況になれば横に気を取られる。

 

 ビシッ! 

 

 鞍上の鞭が入る。ここが勝負どころだ! 

 私は一息入れて一気に加速! マイソールサウンドとローゼンクロイツの間を抜け、一気に抜け出す! 

 

『マイネベレーザ抜けた! マイネベレーザ先頭!』

 

 ああ、そうさ。私がいま先頭に立った。だが、動き出したのは私だけじゃない。

 当然のようにこの隙を狙っていたもう1頭も、一気に抜け出して私を差し切ろうとする! 

 

『捕まえたわよ!』

 

 ダッ!! 

 

『スイープトウショウ! 内からスイープトウショウだ! 二頭並んだ!』

 

 やっぱり来たな! スイープトウショウ! 

 紛れもない本物の輝き! 一度は私も諦めた頂へ登り詰めた者の輝き! 

 

『やはり来るか……お前ほどの馬が来ないわけないもんな!』

 

『当然よ。言ったでしょ。アンタは叩きのめすってね』

 

『流石だな……』

 

 スイープトウショウはそう言いながら、ギロリと私を睨む。凄まじい気迫だ。思わずビビってしまうほどの恐ろしさを感じる。

 流石は天下のスイープトウショウといったところか。

 

『だが、負けない……弟分のあいつがいい走りをしたんだ! 姉貴分の私が負けてたまるかってんだ!』

 

 私がそう言いながら、さらに速度を上げようとする。

 

『っ!?』

 

 瞬間、スイープトウショウの纏う空気が一変した。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 バシィッ! 

 

 イケゾエの鞭が入る。鞭はそこそこ痛いし、これも好きじゃない。でも、鞭が入るということは、それが加速の合図ということ。

 

『アンタのことは嫌いだけど、そういうところは信用してるわよ、イケゾエ……』

 

 ドンッ! 

 

 私は一気に加速して、他の馬達を一気に追い抜く! するりと合間を縫って、先頭に立とうと脚を伸ばす! 

 

『くっ、スイープ……』

 

『くそっ……』

 

 トウショウナイトを含めたその他の奴らはもはや眼中にない。私の先にいるのはあの女(マイネベレーザ)ただ一頭! 

 

『捕まえたわよ!』

 

 私はたちまちあの女に追いついた! 奴は私に驚きながらも納得したような顔をしている。

 

『やはり来るか……お前ほどの馬が来ないわけないもんな!』

 

 私とマイネベレーザの二頭が抜け出す形となる。後続との差はこの時点で半馬身ってところかしら? 

 

『当然よ。言ったでしょ。アンタは叩きのめすってね』

 

 私が睨みつけると、マイネベレーザは強い目をしながら睨み返してくる。生意気ね。

 

『流石だな……だが、負けない……弟分のあいつがいい走りをしたんだ! 姉貴分の私が負けてたまるかってんだ!』

 

 そう言いながら、さらに脚を伸ばすマイネベレーザ。

 

 ────だからどうしたってのよ。

 

『悪いけど、負けられないのはこっちも同じなの』

 

『っ!?』

 

 姉貴分……ええ、そうね。確かにアンタは私より長くあいつの側にいたんでしょう。

 でもね、アンタが姉貴分としての意地があるように、こっちにだって意地はあるのよ。

 

『私は認めてない。認めてないけど、アイツにとっては一応師匠らしいからね』

 

 アイツは言った。私の走りは魔法みたいだと。

 たかが練習の走りでそんな事を言うなんて、可愛いものよね。じゃあ見せてあげましょうか? 

 

『本当の魔法の走りをねっ!』

 

 ダンッ! 

 

『スイープトウショウさらに追い込んできた! そのまま抜け出す!』

 

『くそっ!』

 

 私は駆ける。ターフの上を。やっぱり走るのは気持ちいいわね。ゲートは嫌、調教で走りたくもない土の上や木材に敷き詰められたデコボコの道を走るのも嫌だ。

 でも、ターフの上なら話は別だ。嫌なものは嫌だけど、ここで走るのは好きだ。  

 

 バッ! 

 

 ゴール板を過ぎる。瞬間、歓声が鳴り響く。目の前には誰もいない。この瞬間も割と好きだ。自分が主役になったのだと実感できるのだから。

 ちらりとカメラを見る。聞こえるわけもないけど一応言っておくか。

 このためにわざわざ最後方からの一気にしてあげたんだから。

 

『見てた? マグ……これが本当の追込よ!』

 

『スイープトウショウだゴールイン! 二番手マイネベレーザ! 三番手にファストタテヤマ追い込んだか!』

 

 はあ? 他に追込で着内持ってった奴いるの? 台無しじゃない! 

 私はギロリと後ろを睨みつけた。そこには、疲労しながらも闘志を燃やしているあの女の姿があった。

 

『……完敗だ。アンタ、しゅう……じゃないな、マグナアニマのためにわざと追込えらんだのか』

 

『ええそうよ。差しでも良かったけど、アイツが追込にこだわってるから、見本を見せてあげようと思ったまでよ』

 

『……流石はスイープトウショウ。勝ち方を選ぶ余裕があるってことは、私もまだまだだな』

 

 だが、そう言ってマイネベレーザは私に向かい合う。

 

『次は負けない。さっきも言ったように、アンタがアイツの師匠なら、私はアイツの姉貴分だからな』

 

『……あっそ。ま、次も私が勝つけどね』

 

 私の返答を聞くと、マイネベレーザは後ろを振り向き、スタスタと歩く。私もまた、イケゾエにエスコートされて口取り式に向かうのだった。

 

 

 

 

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