| 枠番 | 馬番 | 馬名 | 騎手名 | 斤量 | 単勝 | 人気 | 馬体重 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 1 | ヒシプレミア | 尾野次郎 | 55 | 92,5 | 14 | 492(+4) |
| 2 | 2 | アロマンシェス | 桂浦正樹 | 55 | 79,1 | 12 | 438(-2) |
| 2 | 3 | シベリアンクラシカ | 五島宏樹 | 54 | 38,1 | 7 | 504(0) |
| 3 | 4 | マイネルフォーグ | 喜多村博士 | 55 | 27,2 | 6 | 440(0) |
| 3 | 5 | ニシノクイック | 田邊宏伸 | 55 | 75,6 | 11 | 470(0) |
| 4 | 6 | マイニングゴールド | 海老名政義 | 55 | 20,7 | 5 | 460(0) |
| 4 | 7 | ゴールドアグリ | 庵道克己 | 55 | 2,8 | 1 | 474(-4) |
| 5 | 8 | マグナアニマ | 由紀心華 | 55 | 70,8 | 10 | 420(0) |
| 5 | 9 | オカールノキセキ | 三家本憲史 | 55 | 176,9 | 15 | 504(+8) |
| 6 | 10 | ワイルドイリーガル | 藤谷慎二 | 55 | 50,1 | 9 | 486(-6) |
| 6 | 11 | マイネルレーニア | 松丘正己 | 55 | 4,1 | 3 | 500(-8) |
| 7 | 12 | サープラスシンガー | 田仲勝晴 | 55 | 38,9 | 8 | 524(+2) |
| 7 | 13 | アドマイヤヘッド | 岩多安成 | 55 | 3,4 | 2 | 450(+2) |
| 8 | 14 | サンダーアロング | 横沢典洋 | 55 | 6,8 | 4 | 516(-4) |
| 8 | 15 | アルコセニョーラ | 芝田嘉富 | 54 | 83,9 | 13 | 426(+2) |
♫〜♫〜♫〜♫〜♫
雨の中、ファンファーレが鳴り響く。それと同時に凄まじいまでの拍手が沸き起こる。
新馬戦や未勝利ではここまでの熱気は感じられなかったと思う。それほどまでに重賞というレースに皆注目しているのだろう。
『東京11レース第42回京王杯2歳ステークスG2芝1400メートルに! 9番オカールノキセキは地方ホッカイドウ競馬からの転厩初戦となっています』
あー、さっきキョロキョロしてた子だ。地方というと、オグリキャップが最初にいた笠松みたいなものなのかな? 初戦でいきなり重賞とは驚きだけど、道理であんなにキョロキョロしてたのかと納得もした。シングレの笠松お客さん観るからに少なかったからな……。
『今年は15頭立てとなった京王杯2歳ステークス。暮れのG1、そしてその先に思いを馳せて集結した15頭の2歳馬が集結した一戦。一頭、また一頭とゲートに向かっております』
ゲートの前をぐるぐるとしていた俺達は係員の指示のもと、順番にゲートへと向かう。
実況の人が言うように、一頭ずつ順番にゲートに収まっていく。中には暴れている子もいるけど、そういう子も最終的には枠のなかに収まっているようだ。
『新潟2歳ステークスの勝ち馬ゴールドアグリ、そして……8番マグナアニマがゲートに収まります』
重賞勝ち馬のゴールドアグリ、そしてその後に入る俺。一頭、また一頭と枠のなかに入り、とうとう最後の一頭がゲートに収まった。
『最後に15番アルコセニョーラがゲートに……収まりました……』
いよいよ始まる。俺は高ぶる心臓を抑えながら、まっすぐとゲートの扉を見据え────
ガコンッ!
『スタートしました!』
ゲートが開くと同時に一気に駆け出した!
『うおっ!?』
『きゃっ!?』
だが、雨で重くなった芝が行く手を阻む。思うように加速できない馬もいれば、足を取られて体勢を崩す馬もいる。
一気に先頭へ飛び出す馬は少なく、各馬の位置取りも普段以上にばらけていた。
一番人気のゴールドアグリも、無理に前へ出ようとはしない。
『くっ!?』
ぬかるみに足を奪われ、大半の馬が出遅れている。きれいなスタートを切ることができたのは半分くらいだ。だが、ゴールドアグリは慌てない。むしろ、すぐに余裕を取り戻して、後方近くの位置につく。
出遅れたから? 否、違う!
出遅れたから後ろにいるんじゃない。自分の意思で、この位置を選んでいるんだ。
『バラっとしたスタート、ゴールドアグリは今日も後方をキープ、マグナアニマと並んでいます』
俺と並ぶゴールドアグリ。近くで見るとよく分かる余裕の表情。間違いない。コイツ、俺同じ追い込みの馬だ!
ゴールドアグリは俺に気付いたのか、チラリとこちらを見て挑発するかのように言う。
『君、遅れてるけど前に行かなくていいのかい? ここは最後方だよ? それとも、他のみんなが速くて前にいけないとかかい?』
馬鹿にしたかのような物言い。なんかすげえムカつく! でも、ここで怒って体力消費してもよくない。でも言い返さないのもそれはそれでもやもやするので、俺は一言だけ言う。
『別に……多分、アンタと同じ事考えてるだけだよ』
『……ほう? 君も追い込みか。面白いね』
それを聞いたゴールドアグリは少し意外そうにする。だが、その後すぐに前を見据え、ともにカーブをぐるりと曲がる。
『3コーナー曲がりました。先頭はシベリアンクラシカ、マイネルフォーグ、ヒシプレミア。マイネルレーニアは四番手、そこにサープラスシンガーが続いて外にワイルドイリーガル、内をついたアロマンシェス、ニシノクイック、マイニングゴールドここまでが集団です』
ここからだと位置関係がよく見える。どうやら先頭集団には人気だった馬はいない様子だ。でも、油断はできない。今回は距離が短い分、相手に逃げられる可能性だってあるのだから。
『……少し前に行ったほうがいいかもね』
そういいながら、ゴールドアグリは少しだけ前に出る。俺も前に出るべきか? しかし、由紀さんの合図はまだだ。
『先頭集団から四馬身ほど離れた位置にゴールドアグリ。少しずつ前との差を詰めていきます。マグナアニマは後方2番手、これはどうだ?』
今回、俺は最後方の馬と数馬身差を開いての後方二番手に位置している。追い込みは常に最後方というわけでもない。というか、一番後ろの馬はあそこまで下がって大丈夫なのかと心配になるレベルだ。単純についていけてないのかもしれない。
(いや、でも確か四番人気だったんだよな……油断しないほうがいいな)
油断すれば痛い目を見るかもしれない。そう考えた俺はじっくりと脚に力を貯めていく。
(だけど……)
俺はチラリと足元を見る。すげえ泥濘んでるんだ。こうして普通に走ってるだけでも、体力を削られていく感覚があるほどに……思えば、調教でもこんな道悪な場所走ったことねえぞ……。
(脚も取られてるし、これは思った以上にヤバいかもしれないな……)
ただ走ってるだけで泥も跳ね上がるし、そもそもこんな泥濘の中で本当に追い込みができるのかという不安も生まれている。
返し馬の段階ではすげえ昂ぶってたからあまり考えてなかったけど、冷静になると一気に不安が押し寄せてくる。
(いや、落ち着け……そんな事考えてたら勝てる勝負も勝てねえよ……)
俺は心を静めながら、改めて前を見る。ゴールドアグリが途中上がったことで前にいるのはニ頭、隣には二番人気のアドマイヤヘッドとやらがいる。
(そういえば、同じ名前付いてるけど、アドマイヤグルーヴとかアドマイヤベガとかと関係あるのかな?)
そんな馬鹿な疑問が頭に浮かぶ。うん、今考えることではないな。でも、おかげで少しリラックスできた。取り敢えずは作戦通り脚を溜めよう。できる限り、いつもの競馬に努めるんだ。
『3、4コーナー中間。ゴールドアグリの外にアルコセニョーラ、三馬身後方に二番人気のアドマイヤヘッドが後方待機。その横に並んでマグナアニマ。最後方に遅れて13番サンダーアロング』
ここで由紀さんの合図が来た! いつもより速い!
いつもの競馬を意識しようとした矢先だから、少し動揺する……が、すぐに鎮める。
俺と由紀さんはこれでも数カ月の長い付き合いだ。彼女はよく俺のもとに来ては背に跨って一緒に走ってくれている。
彼女のことなら信用できると俺は考えている。俺はよくわからんけど、由紀さんのことだから何か考えがあるのかもしれない。そう考えた俺は隣り合っていたアドマイヤヘッドよりも前に行き、アルコセニョーラとゴールドアグリに近い位置をつき────その2頭よりもさらに前をキープした。
****************************
(よしよし、いい子だ……)
マグちゃんは私の意図を汲んで前に行ってくれた。
前走、前前走のペースならアドマイヤヘッドの隣くらいの位置でも良かったかもしれない。マグちゃんは脚を溜めてくれてるはずだし、良馬場で距離があれば十分差し切れる。
(でも、今回は違う)
ただでさえ、1400メートルの短距離寄りの距離に加えて脚が取られるこの馬場状態。マグちゃんはこれまで、こんなに重い馬場で走ったことがない。東京競馬場の直線が長いとはいえ、この泥濘に脚を取られていつもの末脚が発揮できない可能性が高いと感じた。
マグちゃんの父親であるナリタタイシンも良馬場を得意としてた一方で道悪やタフな馬場を苦手としていたはずだしね。
(だから、いつもより少しだけ前に行く。ここまでマグちゃんは脚を溜めてくれたはずだし、直線になれば勝機はある)
『4コーナーカーブを曲がり、残り600メートル。直線コースに入りました』
来た! 私はマグちゃんの反応を確かめながら、鞭を叩いて追い出しを開始する!
重い馬場で脚を取られないよう、体勢を崩さないことを意識して追う!
(お願い、マグちゃん。ここからよ!)
それに呼応してマグちゃんは加速しようと思い切り重い芝生を蹴り込む!
それでも、思ったほどの速度はまだ出てない。感触で分かる。いつも以上に苦戦してる。そりゃ、こんな沼みたいな芝生だとそうもなるはずだ。重い馬場では切れ味勝負は不利。
(でも、マグちゃんなら行けるはず……)
私はマグちゃんを信じて再度鞭を叩いた。すると、マグちゃんはどんどん加速していき────。
****************************
ビチャ! ビチャ!
『ぐぬっ!』
コーナーを曲がると同時に由紀さんからの鞭! それに呼応して一気に追い込みをかけようとしたが、思いのほか伸びが悪い!
やっぱり足場がすげえぬかるんでる! 予想はしてたけど、中々加速しない!
力いっぱい地面を蹴っているはずなのに、いつものように前へ進まない……踏み込むたびに蹄が泥に沈み、思うように力が伝わらないんだ! 普段なら一気に伸びるはずの脚が、まるで重い鎖に繋がれているかのような感覚だ!
『くっ、脚を取られる……』
だが、それはほかの馬も同じだ。一番人気のゴールドアグリも含め、皆この重い馬場に苦戦している。先行してた馬もそれは同じ。脚を取られて後ろに下がったしまうものもいる。
俺自身、かなり辛いぞ……これはヤバいかもしれない……。
ビシッ!
そんな不安がよぎった時、由紀さんからの鞭が入った!
馬の視界でチラリと後ろを見ると、俺の背に跨る由紀さんの顔が目に映った。その表情からは焦りはほとんど感じられない。きっと、俺のことを信じてるのだ。俺なら、この馬場の中でも末脚を発揮すると信じてるのだ。
『ありがとう由紀さん……』
俺は泥濘んだ地面を再度蹴り込み前に行く!
足場が滑ろうが知ったこっちゃない! 条件はみんな同じなんだ! それなら十分勝機はある!
俺は他の追い込み勢が前に行こうとするよりも早く前に上がる! 前へ前へと突き進む!
『外からマイネルフォーグが並んだ! マイネル2頭だ! マイネルレーニアとマイネルフォーグが先頭、200を切って……内からマグナアニマ! 内からマグナアニマが上がってくる!』
前を走る二頭の間に、わずかな隙間が見えた。このまま外を回せば、距離のロスが大きい。かといって、狭い隙間に飛び込むのも危険だ……どうすれば……。
グイッ!
由紀さんが一瞬だけ手綱を動かす。由紀さんは俺ならこの隙間を抜けられると信じているのだろう……なら、それに応えないとな!
その合図を受け、俺は二頭の間へと進路を取った!
『ちょっ!?』
俺は先頭を走る2頭の間に割り込もうとする。道は狭い……でも、俺の小さい体ならうまくすり抜けられるかもしれない。
────位置取りも大事よ。馬場や他の馬達の状態にもよるけど最後方からの一気は基本的に滅多にやるもんじゃない。中段で構えて差すのもありね
ふいにスイープ師匠の教えが脳裏に浮かぶ。確かにスイープ師匠の言う通りだ。今日も最後方からとかだったらまず届かなかったな。
(流石、師匠だな……)
師匠の教えを証明するためにもますます負けられない。
由紀さんがコーナーの前で合図を出してくれたことである程度の加速はできた! ここから勝負をかける!
俺はもう一度、泥濘んだ芝を蹴り込んだ!
やはり、重い! 脚が沈むし、思うように進まない! それでも、一歩。また一歩。どんどん前を走る二頭の背中が、少しずつ近づいてくる。
『追い込み勢も上がってきた! ヒシプレミア上がってくるが、先頭はマイネル……いや、マグナアニマだ! マグナアニマ抜けた! 信じられない! だが、確かに前に出ている、マグナアニマ!』
『なっ!?』
『嘘だろ!?』
俺はマイネルの名を持つ二頭の間から抜け出す! 徐々に二人に追いついていき、並び、そしてついに鼻先だけ抜け出した!
『……タイミングを見誤ったな……』
後ろから悔しそうに呟くゴールドアグリの声が聞こえる。その位置は後方5番手の位置だ。
アンタも十分強かったよ。でも、悪いが今日は俺が勝たせてもらうぞ。
『くっ、ま、負けるかぁ……』
マイネルフォーグとマイネルレーニアの2頭は抜け出した俺を懸命に追いかけようとする。だが、ゴール板までは後僅か!
踏み込みで加速していく俺と2頭の差は徐々に徐々に離れていき────
────バッ!
『マグナアニマだ! マグナアニマ一着ゴールイン! とんでもない事件が起きました!』
俺はそのままの勢いでゴール板を駆け抜けた!