スイープトウショウ
魔女を名乗る祖母の元で育てられ、その影響で魔法使いを目指すようになったウマ娘。「魔法少女スイーピー」を名乗っており、ツンツン駄々っ子で気まぐれな性格。
しかしながら、そのキャラクター性と容姿から愛されており、前世のウマ娘でも高い人気を誇っていた……。
そんなスイーピーの大元となった馬が……今、俺の目の前に立っている!
『……なんなのよ、ジロジロと人の顔を見て』
『い、いや、なんでもないです……』
ビビったぁ……まさか、あのスイープトウショウと同じ調教師さんの元で競走馬することになるとは……これって、大分いいんじゃない?
だって、あのスイープトウショウよ? 魔法少女スイーピーよ? 実際の競走馬としての彼女は知らないけど、相当強かったのは間違いない。
そんなスイーピーを育てた
『まあいいわ、私寝るから煩くしないでよ』
スイープトウショウはそう言いながら、隣の馬房に入る。
うわ、隣の馬房なのかよ! 気になる! 俺は少しだけ顔を出して様子を見ることにした。こういう時、馬の目って便利だよな。ほぼ後ろまで見えるから、角度によっては隣の馬房もギリギリ見える……。
「よし、じゃあ早速馬体の検査を……」
『やっ! 私は眠いんだから、邪魔しないでよ!』
スイープトウショウは馬体検査のために入ってきた厩務員さんたちに不機嫌そうなオーラを放ちながら、脚で軽く蹴る素振りを見せることでそれを拒否しようとしている。
「うお、暴れようとしないでくれよスイープ……」
「すぐ終わるからな……蒲田さんどこ居るんだろ……」
暴れようとするスイープトウショウだが、厩務員さんはそれをなだめながら馬体検査を始める。
対する厩務員さんも慣れてるのか、ちゃっちゃと検査を済ませてすぐに退散する。
『まったく、なんでこんな面倒臭いことしないといけないのよ。全然大丈夫だって言ってるじゃない』
プンプン怒りながら、スイープトウショウは横になる。なんていうか、イメージ通りのワガママっ娘! スイープって本当にこんな感じなんだ!
なんか、感動すら覚える!
ウマ娘で見たスイーピーが、今、俺の目の前にいる!
……いや、正確にはウマ娘じゃなくて競走馬なんだけど、それでも、滅茶苦茶嬉しいわ!
俺は興奮を抑えながら、敷き藁に身を沈め、ゆっくりと目を閉じた。これは明日が楽しみだ。そう思いながら、俺もまた馬房にある敷き藁の横になり、明日に備えて眠りにつくのだった。
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次の日から、俺の調教の日々が始まった。
とはいっても、最初は他の馬との挨拶から始まり、スタッフや厩舎に慣れるための見学みたいなことからだ。
俺としては、元人間の感性からか、新しい場所に来てもそこまで気にしないが、ほかの馬にとっては違うらしい。
同時期に入厩した同い年の馬たちは戸惑ったり、故郷を恋しがって嘶いたりしていたから、だいぶ重要なことなのだろう。最初は不満だったけど、後から来た馬を見ると仕方がないことだと納得する。
ドドドドドッ!
今俺は細かく砕かれた木材が敷き詰められたコースを走っている。鶴田さんによると、「ウッドチップコース」というらしい。最初は木材を敷き詰めるの? と戸惑ったが、実際に走ってみると、結構走りやすい。
ある地点まで進むと、調教助手の方がカチッとタイマーを止める。
「5ハロン67秒台……か……」
「はじめてにしては相当いいんじゃないか?」
「フォームもかなり良かったですね。このまま成長してけば、重賞を1回くらいは取れるんじゃないですか?」
「ああ……これは期待できるぞ……」
67秒……うむ、どれだけ速いのかイマイチわからんな……だけど、褒められてるのは悪い気しない。
ちなみにハロンとは競馬で使われる長さの単位。確か、1ハロンが200メートルとかそこら辺だったはずだから、だいたい一キロをほぼ1分で走り切ったということか……。やはり、馬の身体はスピードが出るな……。
「よし、次はスイープ……だが……」
「どうだ、
「……駄目ですね。全然動こうとしません……」
ちらりと見ると、そこにはスイープトウショウさんが騎手を背に乗せて仁王立ちしていた。手綱を引いて進むことを促す調教助手さんのことを見ようともせず、ずっと立ち止まっている。
「なあ、スイープ……頼むからさ、進んでくれよ……」
騎手の“
『嫌っ! 今日はここの気分じゃないの!』
スイープトウショウさんは相変わらずのワガママぶりを発揮。なんか、いまだに感動を覚えるわ……。しかし、そう思っておるのは俺だけのようで、俺と併せ馬をする形で走っていたほかの馬は関わりたくない様子だ。
『うげ〜……スイープさん、今日も機嫌悪いよぅ……』
『まったく……なんで、あんなワガママな人が強いんだ……』
『今、G1勝ってるのって、ここだとスイープさんくらいだからな……』
『シーイズさんもあんまり注意しないしな……』
皆、スイープトウショウさんのことを苦手としているみたいだな……まあ、放牧でもあの人に進んで関わろうとすると、シーイズトウショウさんくらいか?
俺? 俺は話してみたい気持ちは滅茶苦茶あるけど、今のところ難航してる。話しかけようとしても、他の馬に止められることすらあるからな……曰く、関わらないほうがいいとのこと。俺は別に気にしないけどな……。
ちなみにシーイズトウショウさんとはこの厩舎のボス格の馬で、G1こそ逃しているものの、既にG2を2回、G3を2回も勝っているベテランさんだ。
現在、重賞と呼ばれる位の高いレースを勝っているのが、この厩舎だとスイープトウショウさんにシーイズトウショウさん、あとアサカディフィートさんの三頭しかいないから、この三頭は他の馬たちからも別格であると囁かれている。
『……俺も、早くあの人達に追いつきたいな……』
まだ来たばかりの俺の目から見ても、この三頭は強いと思える。
まだ関わりも薄いし一緒に走ったこともないが、なんていうか他の馬とはオーラが違うのだ。
あれが歴戦を戦ってきた風格と言うものなのだろう。少しマイねぇを思い出す。
(今思うと、マイねぇも本当にすごい人だったんだな……)
育成時代の大田さんや天野さんのお話。そして、ここの馬たちの話を聞くことで、1年前よりだいぶ知識が増えてきた。だからこそわかる。そもそもG3に出走すること自体が大変なのだ。牧場には、重賞に出たこと自体を自慢する馬だっているくらいなのだから。ましてや、それに勝つことがどれだけ大変なのか……。
(俺も負けてられないな……)
俺も、そんな凄い馬達に追いつきたい……いや、追いつくだけじゃ駄目だ。何故なら、俺はナリタタイシンの後継者なのだから!
『よし! もう一回走るぞ!』
『え? また走るの?』
『流石に一回走ったら十分だろ?』
他の馬達が呆れたように言うが、構うものか。俺はナリタタイシンのように凄い馬になることが目標なんだ!
立ち止まってはいられない! 舐めんな!