赤バーついて嬉しいです!!
時は遡り、2005年12月10日。
『阪神競馬場第5レース、サラ系2歳新馬、芝1200メートル。空は晴天の晴れ模様。今年も新たなるスター候補の新馬たちが続々と登場しました』
阪神競馬場。1907年に開業された歴史のある競馬場。そこに一頭の馬が出走することで話題を集めた。
その名は「エビスゴッデス」。
父ウイニングチケット、母父ビワハヤヒデとかつて競馬界を熱狂させた「BNW」の2頭を祖に持つ芦毛の牝馬である。祖父譲りの芦毛はよく目立っている。
しかし、400キロという小さな馬体に加え、ウイニングチケットも種牡馬としては優秀というわけでもない。血のドラマを感じるため、一部の層からの人気はあるが、最終的には14番人気という順位に落ち着いた。
(ここが、調教師さんの話していた競馬場……たくさんの人間さんが私を見ているな……)
エビスゴッデス────幼名「えい」はかつて
彼女は初めての大観衆に少し気圧されながらも、堂々としていた。
(それでも、やっぱりこんな大勢の前だと緊張しちゃうな……)
エビスゴッデスは緊張から少し身体をこわばらせる。
馬の緊張を感じ取った騎手「
「大丈夫。慌てんな……」
(……そうね。ありがとう、堺さん)
その声と優しい手つきに少しだが緊張がほぐれたエビスゴッデスは係員に促され、ゲートに入る。
『各馬ゲートインが進んでいます。6番エビスゴッデスは落ち着いた様子。小柄な馬体ですが、じっと前を見つめています』
荒ぶってる馬、緊張した面立ちの馬、人の多さに萎縮する馬がいる中、エビスゴッデスは少し深呼吸をしてリラックスする。
『ゲートインが進みます────。大外枠の16番「ダイワリキュール」が今、ゲートに収まりました────』
ガコンッ!
『スタートしました!』
瞬間、勢いよくゲートが開き、エビスゴッデスは前へと飛び出した
『キョウコマチ好スタート。ダイワリキュール押して先頭にかわりますが、間からデヒアサウンドが行きました』
エビスゴッデスは様子をうかがうため、後方の内側に移動する。エビスゴッデスの馬体は牝馬の中でもひときわ小さく、体重は今レース最低の400キロ。パワー勝負では勝ち目はない。勝つためにも脚をためなくてはならないと堺は判断した。
『5番手にはワンダーグローリー、6番手にはエカテリーナ。キョウコマチ、中段の一角。その後ろミスチバスペニー、ダイワリキュール。半馬身開いてエビスゴッデス。後方で折り合いに専念しています』
エビスゴッデスが思い出すのはしゅうの言葉だ。
『さっきも言ったけど、俺が重要だと思ってるのは地面を蹴る力なんだよね。でも、ずっとそれだと疲れちゃうから最後の最後で本気出すみたいなことを意識してるんだ』
この言葉を思い出しながら、エビスゴッデスはさらに力を抑える。力を解放する際の合図は背に乗る堺さんが教えてくれる。
堺さんとは一月程度の付き合いだが、それでも彼女は堺のことを信頼していた。
『各場3、4コーナー中間です。先頭はデヒアサウンド、2番手にフローラルジュノー追走、三番手にホウライマドンナ。ワンダーグローリーが三番手に接近────』
レースは中間コーナーを越え、最後の直線に向かおうとする。最後の直線、そのタイミングで堺の鞭が彼女に入った。
(いまッ!)
『最後はフローラルジュノー先頭か、デヒアサウンド粘っている。ホウライマドンナ三番手の位置。内に入ったサンキンレター。外からエレガントロリー、大外エビスゴッデスが追い込んでくる!』
エビスゴッデスは懸命に脚を伸ばす。溜めに溜めた力を爆発させ、一気に先頭集団に食い込もうとする。
『デヒアサウンド粘っている。2番手にサンキンレター、外からホウライマドンナも追い込んできた。エレガントロリー沈んだか。しかしエビスゴッデス伸びる。小さい馬体がグングン伸びる』
エビスゴッデスは懸命に前を行く。前に前に、ゴールを目指して走る。しかし、現実は甘くはない。エビスゴッデスは2番手のサンキンレターにこそ追いついたが、ついぞデヒアサウンドの影を捉えることはできなかった。
『デヒアサウンド、先頭逃げ切ってゴールイン。2着にサンキンレター、3着は僅かにエビスゴッデス体勢有利か』
(負けた……悔しい……)
エビスゴッデスは悔しさを感じながら勝者を見る。しかし、すぐに切り替えてレース場をあとにする。
(あの娘、確かに強かったけどしゅうくんほどじゃない……)
しゅうと牧場で競争をした時には怖さがあった。
故郷を離れ、「八取敏行」調教師の元でトレーニングを受けるようになったことでほかの馬についてある程度は知れた。
同じ厩舎で唯一の重賞ウィナーにしてG1馬であるブルーコンコルドは底しれない力を感じた。この感じはかつてしゅうに感じ取ったものに似ていた。
もちろん、厚みも凄みもブルーコンコルドの方が上なのだが、確かにしゅうからも異質な空気を感じ取れたのだ。
(多分、しゅうくんには才能があるってことなんだろうな……)
思えば、同じ牧場のオープン馬マイネベレーザもしゅうには目をかけていた。
今はまだ年の差で勝てているが、いずれは勝てなくなるだろうということは彼女が一番感じ取っていることだった。
(それでも、お姉さんとしてしゅうくんにはカッコ悪いところを見せたくない。次は絶対に勝たないと……)
エビスゴッデスは密かに決意し踵を返す。姉としての誇りを目に宿して……。
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2006年8月某日。
ドドドドドッ!
「よし、順調だな」
「いいタイムですね……」
マグナアニマの坂路調教の最中、調教師の鶴田に男が話しかけた。
「あ、森沢さん。マグナアニマを見に来たんですか?」
鶴田は相手がマグナアニマの馬主「森沢大信」だとわかると笑顔でそれを迎え入れた。
「はい、どんな感じですか? マグナアニマは?」
「いい感じですね。調教も順調ですし、9月の新馬戦には出せると思います」
「それはよかった……」
調教助手の言葉に森沢は笑みを深める。そんな様子に鶴田はふとした疑問をぶつけてみることにした。
「そういえば、マグナアニマは個人経営の牧場で購入したという話ですけど、何故その決断をしたんですか?」
「え?」
「あ、いや、マグナアニマは素晴らしい馬だと思います。重賞を勝ってもおかしくない……そう思わせる能力がある。でも、ナリタタイシンの産駒は地方でも中央でもほとんど走ってない……なんで、そんな血統の馬を買ったのかが純粋に気になっちゃって……」
森沢は元々地方馬主であり、中央へ参戦したのは4年前となる。しかし、中央での勝利は未だに経験していない。故に、気になった。中央で勝つつもりならば、現在の主流であるサンデーサイレンスの血を引く馬を買うはずだ。だが、森沢は本来、複数頭の馬を購入するはずの予算を全て使い、マグナアニマを購入したと言う。何故、そのようなことをするのかが気になった。それを尋ねると、森沢はポリポリと頬をかいて語り始める。
「確かにそうですね……。如何に牧場主に勧められたからといっても、普段なら一億も使って一頭の馬だけを買うなんてことはなかったかもしれない。ナリタタイシンは私が競馬を始めるきっかけとなった馬なんですよ。ほら、私の名前って「たいしん」って読むことができるでしょ? それで、気になっちゃって……何より、私が始めて地方で勝利した馬も、タイシンの産駒でした……」
森沢は1999年。高知競馬にてナリタタイシンの産駒「セルヴァブレイブ」で「黒潮皐月賞」「黒潮菊花賞」の二つの重賞を制覇した経験がある。今回マグナアニマを購入したのもその縁を感じてのことだった。
「思えば、セルヴァブレイブの時もうだつが上がらない時でした。叔父から受け継いだ馬主の立場だと言うのに、勝てなくて……そんな時、ナリタタイシンの産駒を買ったんです。そしたら、その子が走ってくれて、おかげで地方とはいえウィナーサークルに立つことができた。アレは嬉しかったな……」
「……」
「だから、思ったんですよ。セルヴァブレイブと同じタイシンの産駒なら……中央で一勝もできてない今の現状を打破できるんじゃないかって……」
「そうだったんですね……ならば、是が非でも勝たせないと……。先ほども言った通り、マグナアニマは重賞だって勝てるポテンシャルを秘めています……きっと、森沢さんに中央1勝目をプレゼントしてくれるでしょう」
鶴田は理由に納得すると、改めてマグナアニマを見る。実にいい馬だ。馬体は小さいが、その末脚には目を見張るものがある。それこそ、本当にナリタタイシンのようだと思うことすらあった。
マグナアニマならば重賞だって勝てるかもしれない。鶴田はそう思っていた。
「ところで、彼の騎手は決まってますか?」
「あ、いえ……実はまだなんですよ……多分、そのままいけば生沿さんになるのかな? とは思ってますけど……」
それを聞いた森沢はふむと思案する。
「……でしたら、是非とも彼の主戦騎手にしてほしい騎手がいるんです。中央ではまだ勝利数も少ないですが、地方ではお世話になった騎手でして……」
最初に言っておきますが、騎手は完全オリジナルです。
生沿とか堺さんと違ってモロなモデルはいません。