「ナオ君、私が帰ってから太刀川隊の人と仲良くなれたんだ。それとも太刀川さんがナオ君に勝負をふっかけたの?」
ハルちゃんは美しさを全開にしながら不思議そうにしてくるが、その仕草はこちらをとことんドキドキさせてくる。
「い、いや。タチカワって人は会ってないな。昨日売店に行ってみたらユウちゃんと会ってゲームをすることになって、寝落ちするまでユウちゃんと遊んで、朝食を食べに行こうとしたらコウヘイと会って一緒に行くことになって今に至る」
「なるほどね。ナオ君ゲーム好きだったし納得だよ。私なんかしょっちゅういじめられていたからね」
ハルちゃんは半目で俺を見てくる。昔はしょっちゅうハルちゃんをゲームでボコしていたからなぁ。
「悪かったな。けど俺もユウちゃんにボコボコにされたから……って何だその表情?」
ハルちゃんは不満そうに俺を見てくる。今なんか怒らせることしたか?
「別に。それよりご飯食べに行くなら私も行って良いかな?」
「俺は構わないが、ユウちゃんとコウヘイは?」
「私は全然良いよー」
「俺も問題ないぜ。というかさっきから思ったけど、何で柚宇さんをちゃん付けなんだ?」
「いや、本人がユウちゃんで良いと言ったからだな。嫌なら変えるが」
「全然良いよー。出水君も柚宇ちゃんで良いよ〜」
「い、いやそれはちょっと……」
楽しそうにそう言ってくるが、コウヘイはたじろぎながら遠慮する。同じチームだから遠慮する必要がないだろうに。
「そういやハルちゃん、今日ちょっと外に出たいんだが、暇な時間はあるか?」
「え?今日は嵐山隊の仕事がなくて、ナオ君のサポートの為に来たからいつでも大丈夫だよ。ナオ君も今日は一日自由だからいくらでも付き合うよ」
「じゃあ午前はユウちゃんとゲームをやって、午後から街を歩きたい。昨日墓参りに行った際は薄暗かったし、寄り道はしてないからな」
街がどのくらい変わったか知りたいし、美味いものがあったら食べたい。
「オッケー。あ、たださっき連絡あったけど、明日以降はお仕事を手伝って欲しいんだって」
「了解した。で、仕事の内容は?」
「ナオ君がボーダーに渡したトリガーの情報の擦り合わせとかだね」
「わかった。ただハルちゃん、明日ボーダーのトリガーを触れるか?絶牙を手放すつもりはないが、万が一の事に備えてボーダーのトリガーを慣れておきたい」
使うことがなくても備えておく必要はある。実際手に入れたトリガーは試しに使っていたからな。
そう思った時だった。
「明日からと言わず、今直ぐどうだ?」
いきなり背後から話しかけらるので振り向くと、もじゃもじゃした髪の男がいた。
(コイツはかなり強いな。ジンと同格くらいか?)
俺のサイドエフェクトがかなりの手練れであると告げてくる。
「あ、太刀川さんだ〜」
「おう。お前が例の帰還者の井口だな。俺は太刀川慶、そこの国近と出水の隊長をやっている」
「キド直次だ。この世界で生きる為にキドの親族扱いとなったから、井口呼びは控えてくれ」
「りょーかい。で、直次よ。トリガーを使いたいなら、ウチの作戦室で付き合ってやるよ」
「は?あの狭い部屋でトリガーを振るうなんて危ないだろ」
ボーダーのトリガーがどれほどのものかはわからないが、室内で使うなら最低でも体育館くらいの広さはあるべきだ。
「あ、それなら大丈夫だよ〜、近界暮らしが長かったナオ君には想像出来ないかもしれないけど、ボーダーでは電子機器とトリガーを上手く組み合わせて、仮想空間を作って訓練が出来るんだよ」
ユウちゃんがそう口にする。仮想空間とやらがどんなものかはわからないが、玄界の技術とトリガー技術を組み合わせるというのは予想外だ。
「よくわからんが、安全に使えるなら是非頼む」
「おう、その代わりといっちゃなんだが、黒トリガーと戦わせてくれ」
『あ〜』
タチカワの好奇心全開の表情にハルちゃん達3人は苦笑いを浮かべているが、どうやらタチカワは戦闘に悦を感じる人間のようだ。向こうでも似たような人間がいたからな。
「まあ別に構わない」
訓練でも絶牙を使ったことはあるし、負けるつもりはないからな。
「というわけでユウちゃん、ポケモンやる前にタチカワに付き合うわ」
「全然問題ないよ〜」
「悪いな国近……つーか、国近も綾辻も随分変わったな。もしかしてヤったのか?」
「太刀川さん、それはセクハラだからね〜」
そんな会話をしているが……
「ハルちゃん。セクハラってどんな意味だ?2人の言葉の意味がわからないからわかりやすく説明してくれ」
「え?!そ、それは……」
「とんでもないキラーパスするなよ……」
俺が質問するとハルちゃんは真っ赤になって、コウヘイは俺の頭を軽く叩いてくる。
どうやら今とんでもないことを言ったようだ。早く日本の常識や知識を身につけないといけないな。
そう思いながら俺はハルちゃんに謝ってから食堂に行って、朝食を食べたが8年ぶりに食べた鮭は美味かった。向こうの世界にも美味い魚料理はあったが、鮭のような味の魚はいなかったからな。
数十分後……
「ふっ!」
例の仮想空間にてタチカワが嬉々として刀を振るってくるので、絶牙を振るい……
「マジか。豆腐のように切れたよ」
「言ったはずだ。絶牙に切れないものはない。剣の腕にあまり差がない以上、武器の差でお前に勝ち目はない」
刀を斬ってからそのままタチカワ本人も斬る。
『太刀川さん、ダウ〜ン』
「バイパー!」
ユウちゃんののほほんな声が響くとタチカワの後ろにいるコウヘイが巨大なキューブを生み出して100以上に分割してから、あらゆる軌道の弾丸を放ってくる。
真っ直ぐ飛んできたり、俺の背後に回り込もうとしたり、ジグザグに進んできたりと相手を翻弄させることに特化した弾丸だ。トリオン体の耐久力は基本的に差が生まれないので、一撃当てることに特化した弾丸は良いものだ。
まあ馬鹿正直に食らうつもりはない。
俺が絶牙を一振りすると全ての弾丸は弾けて消える。
「はぁ?!今のは何だ?!何を斬ったんだ?!」
「俺に向かっている攻撃がある空間を斬った。俺が認識した攻撃は全て効かない」
「マジかよ……出鱈目に程があるだろ……!」
「否定はしないが、終わりにするぞ」
言うなり俺はコウヘイとの距離を斬って、瞬時に距離を詰めてか、改めて絶牙を振るってコウヘイを真っ二つにする。
「出水君もダウ〜ン」
「くっそ。全く何も出来なかったぜ」
コウヘイが悔しがる。
「悪いが絶牙を使っている間は負けるわけにはいかない。それよりも約束通り黒トリガーを使ったし問題ないな?」
「ああ、ありがとな。あ!折角だしボーダーのトリガーを使ってやってみようぜ。仮想フィールドなら自由に武器を使えるからな」
本当に便利だな。何回も負けてもトリオン体が破壊されるわけじゃないし。これを遠征先で売れば莫大な利益を……無理だな。向こうにはコンピュータはないし。
「まあ別に構わない。久しぶりにノーマルトリガーで戦えるからな。ユウちゃん、タチカワが使っている刀を俺にも使えるようにしてくれ」
『ほ〜い』
ユウちゃんから了解の返事を受けると俺の手元にタチカワが持つような刀のトリガーが現れる。
「よし、じゃあやろうか。俺も弧月1本で戦うわ」
タチカワは楽しそうに笑いながら構えるので俺も似たような形で形を取る。
あらゆる勝負で勝てる絶牙を使うようになったから、単純な剣の腕が結構鈍っているのは間違いないし、強者を相手に少しずつ取り戻しておこう。
『じゃあ行くよ〜、模擬戦始め〜』
ユウちゃんの気の抜けた声が響くと同時に俺とタチカワは距離を詰め合って、互いの武器をぶつけ合った。