「は〜い、ナオ君ダウン。後5本だから頑張ってね〜」
太刀川隊作戦室にて国近柚宇がのんびりした声がそう告げる。
「いや、しかし直次の奴、マジで強いな。伊達に死線をくぐり抜けてきたってわけか」
「寧ろ8年間戦場を歩いていたナオ君に勝ち越してる太刀川さんがおかしいんじゃない?」
出水が柚宇の後ろからモニターを見ると10ー15と表示される。15が太刀川なので勝ち越しているが、自分の隊長の強さを一番知っている出水からしたら25本中10本、4割取れている時点で直次も黒トリガー頼りの凡夫ではないことは理解させられる。
「それにしても本当に勝ちに拘る戦い方だね」
綾辻がモニターを見ながら悲しそうに呟く。これまでの直次の試合を見たが、異端の一言だ。
弧月で斬り合うことはあまりなく、あらゆる手段を使って太刀川から隙を作り出している。
足払い、猫騙し、目潰し、合気道に似た動き、挙句は目の前で弧月を放って太刀川の意識を弧月に向けてからの顔面パンチを放って太刀川を殴り飛ばした事もあった。
勝ちに特化した戦術であるが、戦場で嫌でも身につけたと考えると悲しくなる。
「後、この戦い方は人に好かれなそうなのが怖いかな」
直次については現在はA級隊員にしか知られてないが、来期に入隊してS級に昇格するというストーリーとなっている。
しかし迅や天羽のようにノーマルトリガーを持って模擬戦に参加したら一部の正隊員から嫌われそうである。
「まあ否定はしないけど、直次と互角以上の勝負できる人の中で嫌う人はいないだろうから良いんじゃね」
「実際太刀川さんは楽しそうだしね。迅さんと戦っていた頃に似た表情だしね」
出水と柚宇がモニターを見ると、太刀川は嬉々として直次の剣を捌きつつ、体当たりを受け止めていた。
(ははっ、良いな。ここまで勝ちに執着する奴は久しぶりだな。悪くない)
出水と柚宇の予想通り、太刀川は気分が乗っていた。相手を崩す為に武器以外の要素を使う事は珍しくないが、目の前の直次は高い技術で再現して、一回でも崩れたら即座に首を刎ねられてしまう。
加えて小細工抜きでも悪くない。直次の剣の腕は軽く見積もって自分の8割程度だが、超直感のサイドエフェクトによってその差を埋めているのは間違いない。
(迅と戦っているような気分だな)
思い出すのは自分のライバル。弧月を使った勝負では勝てないからとエンジニアと共にスコーピオンを開発して、あらゆる場所に盾を生やすエスクード、未来視のサイドエフェクトを組み合わせたトリッキーなスタイルを確立して、自分との戦績を五分五分に戻したのは懐かしい話だ。
卑怯と言うつもりはない。そこまでしても勝ちたいと挑んでくるのは嬉しかった。
そして目の前にいる直次の戦い方を卑怯というつもりもない。生き抜く為に身につけたであろう戦術だろうが、これからは味方なのだから頼りになる。
それを考えると目の前の男は迅に似ている。
未来視に超直感という対人戦では有効なサイドエフェクト
エスクードやトリガー抜きの技術を駆使して相手を崩すスタイル
自身より劣る剣を他の形で穴埋めして差を詰めてくる戦い
太刀川の剣に気持ちが宿る。しかも直次は今日ボーダーのトリガーを使ったばかりなのにこれだ。
他のトリガー……グラスホッパー、カメレオン、鉛弾、スパイダー、エスクードなどのサポートトリガーを使えば、よりに崩しに磨きがかかって、自分と互角以上に戦えるだろう。
(それを超えていつか、いつか風刃を持った迅を倒す……!)
思い出すのは風刃の争奪戦。自分は適合しなかったので参加しなかったが、当時の迅は圧倒的で参加者全員簡単に蹴散らしていた。
現在A級部隊の隊長の風間や嵐山、加古や三輪も普段は迅に勝ち星を挙げているが、この時は迅に手も足も出ずに負けていた。
当然の話だ。風刃は迅の師匠の形見だから誰よりも気合いは入る。気持ちの強さは勝敗に関係ないと太刀川は考えるが、あの時の迅だけは例外と見ている。
それによって迅はS級となり、ランク戦には参加しなくなった。偶に遠征前の訓練として戦う事はあったが、毎日のように勝ったり負けたりとはいかなくなった。
仕方ないと思う反面、物足りないと思うのも事実。迅がS級になった当初はやる気を失い、小南にもランキングを抜かされた。
そんな中、少し前だが迅がある日こう言ったのだ。
『なんか薄っすら、ほんの薄っすらだけど夜の警戒区域で風刃を持って太刀川さんとやり合う未来が見えたんだけど、心当たりない?』
その言葉に太刀川は歓喜した。どんな未来があるかはわからないが、夜の警戒区域である事である事は模擬戦ではない。
そして模擬戦以外でトリガーによる戦闘が禁止されている以上、違反行為である事は明白だ。それでも戦うという事は互いに譲れないものがあるのは間違いない。つまりは本気の迅と戦えることを意味する。
学業においてはぶっちぎりの馬鹿な太刀川だが、戦闘が絡むと話が変わる。直ぐにその事実を理解した太刀川はやる気を取り戻し、ランク戦に明け暮れるようになった。
その際に大学の勉強が疎かになり風間にしばかれ、忍田本部長に怒鳴られたりしたが些細なことである。
2人が聞いたらブチ切れるだろうが、今はただ風刃を持った迅と対峙する未来を期待する太刀川は更にギアを上げて、直次に弧月を振り下ろして、トリオン体を破壊する。
『ナオ君ダウン。ラストだよ〜』
(ちっ、思った以上に鈍ってるな)
ユウちゃんからの言葉受けながらそう呟く。現時点で29本戦って12勝17敗して向こうが勝ち越している。
向こうの剣が一流なのは認める。向こうの世界でもタチカワに匹敵する剣士はいるが、そこまで多くない。
しかもそいつらは物心ついた頃から鍛えている連中で、それに対してタチカワはこの世界でボーダーが出来るまでは剣を握ってない。つまり4年でここまでの実力の実力をつけたのだろうが、同じ条件の人間は近界全体で見ても少ないだろう。
(しかしそれを引いても俺本人の力は衰えている。絶牙に頼り過ぎたな)
絶牙はありとあらゆるものを斬る黒トリガーで、黒トリガーの中でも間違いなくトップクラスの性能を持っている。実際これまでに何人もの黒トリガー使いを屠ったが、そこまで苦戦した記憶はない。
それ故にディボロを滅ぼしてから剣の腕や立ち回りが鈍っているのが嫌でも理解させられてしまう。一応自主訓練はしていたが、実戦では死にたくないから絶牙以外のトリガーを使っていなかったのは事実。
(少しでも勘を取り戻しておかないとな)
もしかしたら今後絶牙でも斬れない敵が現れるかもしれないからな。その場合は別の策を練る必要があるが、基礎能力を高めないと実行出来ない策もあるからな。
俺はタチカワの重い一撃を受けて後ろに跳ぶが、タチカワが追撃として直ぐに詰め寄ってくるので、身を低くしながら走り、そのままタチカワが剣を振おうとしたタイミングでスライディングをしてタチカワの足に蹴りを仕掛ける。
「っと、やるな!」
しかし俺が斬り上げる中、タチカワはバランスを崩しながらもガードして、足をこっちに向けて振ってくる。
俺は仰け反りながらも剣を構え直して全力で振る。まだ体勢を立て直している最中のタチカワには対処出来まい。
すると次の瞬間だった。
俺が振った一撃はタチカワの剣を簡単にを切り裂いたが、余りにも呆気なかったので、タチカワの左腕を斬り落とせたが、勢いが余って前に倒れてしまう。
慌てて体勢を立て直そうとするが……
「残念だったな。弧月は切れ味を0にする機能があるんだよ」
タチカワがそれよりも早く真っ二つにした。
『しゅうりょ〜、18ー12で太刀川さんの勝ち〜』
ユウちゃんの結果通知が来る。最初は押していたが、徐々に地力の差が出てきた感じだな。
まあこれは少し埋めていくとしよう。その為には……
「悪いタチカワ。もう10本頼む」
「おう、良いぜ」
実戦経験一択だ。
結果、俺は最終的にタチカワと80本戦って31ー49で負けた。本当はもう少しやりたかったが、シノダが大学の提出物とか言って連れ去っていったので、中断してユウちゃん達とポケモンを楽しんだのだった。