「ふーん。思ったよりも賑やかだな」
この世界に帰還した翌日の午後、俺は街を見ながらそう呟く。4年前にトリオン兵による侵略が起こって大量の犠牲者や拉致被害者が出たにも関わらず、思ったよりも賑やかだ。
「それだけボーダーが信頼されてるんだよ。私もその信頼に応えられるように頑張らないと」
「そっか。ハルちゃんも大人になったんだな。怒ると金玉を殴りまくった頃と全然違うな」
「それは言わなくて良いから……!」
ハルちゃんは真っ赤になって胸を叩いてくるが、俺の中ではその印象が強い。
そこまで考えているとゲーム屋を発見する。
「なぁハルちゃん。金はボーダーから支給されたら払うからゲームを買ってくれないか?」
「良いよ。というか上層部からナオ君に向けたお金は沢山貰っているからね。何のゲーム?」
「対戦系はユウちゃんのゲームをやるから、ドラクエだな。5と6と7を頼む」
1から4はやって、5は確かやっている途中に拉致されたからな。結婚相手を誰にするかで兄貴と姉貴が揉めたのは覚えてる。
「良いよ。じゃあ行こっか」
ハルちゃんが頷いて中に入るので俺もそれに続く。そしてゲームを買ったのだが、買った後に18歳禁止の黒い幕に入ろうとしたら、物凄い怖い笑顔で止められてしまった。
2時間後……
「毎度ありがとうございます」
街をある程度回った俺達はおやつとしてハルちゃんのお勧め、カノヤという店のどら焼きを買った。何でもボーダーでは大人気らしい。
「じゃあボーダーに帰って食べようか」
ハルちゃんはそう言ってくる。確かにそれでも良いんだが……
「なあハルちゃん、警戒区域の中って入れるか?」
「?ボーダー隊員なら入れるよ。それがどうしたの?」
「いや、出来れば実家の近くの公園で食いたくなってな」
昔公園のベンチでチョコ菓子などを食べていたからな。
「まあ別に良いけど……もしトリオン兵が来たら守ってね?」
「もちろんだ。何なら黒トリガー持ちが来ても返り討ちにしてやるよ」
「あはは、頼りにしてるよ」
ハルちゃんが頷いたので俺達は警戒区域に向かい、弓手町駅の方まで歩いていき、実家の真ん前に到着するが……
「こりゃひどいな」
思ったよりもボロボロになっていた。住んでいたマンションは壊れていないが周りはかなりボロボロになっていて、家も見た感じ100軒近く崩れている。
「弓手町は被害が酷かったからね」
「ハルちゃんの家族は大丈夫だったんだよな?」
「うん。家は壊れたけど、朝から家族で出かけたから」
そうか。おじさん達が無事なのは良かったな。
俺はボロボロになった道を歩き、よく遊んでいた公園に入ると滑り台などの遊具はグシャグシャに潰れていたが、木のテーブルと椅子は無事だった。
「懐かしいな」
「ナオ君はたっ君やヨウ君と遊戯王で遊んでたよね」
「ああ。まあハルちゃんには負けまくってたけどな。そういやタクヤやヨウジは生きてんのか?」
ハルちゃん以外にもタクヤやヨウジも同じマンションでよく遊んでいたが、もしかしてボーダーにいるのか?いるならキドに頼んで会える機会を作って欲しい。
「生きてはいるよ。けどたっ君はお母さんを、ヨウ君はお婆ちゃんを大規模侵攻で失って県外に引っ越したよ」
なるほどな。まあ幾らボーダーが守っているとはいえ、身内に被害が出たら距離を置くのも仕方ない。
「とりあえず生きているならそれで良い。しかし俺の家族は全滅か……ありがとなハルちゃん」
「?何が?」
「多分ハルちゃんが居なかったら昨日俺の心は死んでたかもしれないからな。改めて礼を言いたかった」
「別にお礼は要らないよ。私だって折角会えたナオ君が苦しむのを見たくなかったしね」
ハルちゃんはそう言って紙袋からどら焼きを取り出すので俺も続く形で、取り出して食べてみる。すると口の中には程よい甘味が広がってくる。
「美味いなこれ」
「でしょー。私も紹介された時に凄く幸せな気分だったよ」
ハルちゃんが嬉しそうにパクパク食べている時だった。
ズズズズズズッッッッ……
公園の入口付近に門が現れてモールモッド3体とバムスターが2体現れる。
それを確認した俺は即座に横に立てかけたケースから絶牙を取り出し……
「絶牙」
そのままトリオン兵達との距離を斬って、距離を詰めてからそのまま全てのトリオン兵を片付ける。トリオン兵はスッパリと斬れて活動停止する。
そしてハルちゃんの元に戻る。
「お疲れナオ君。やっぱり絶牙って凄いね」
「当然だ。リーダーの魂が宿っているからな。絶牙を上回る黒トリガーはおそらくリーダー以上の復讐心を持っていた副リーダーの魂が宿っている死天のみだ」
「そのシテンはどういう黒トリガーなの?」
「自らのトリオンを噴出して大気と同化させて使役するトリガーだ。大気と同化したトリオンは透明となり、使用者の意思一つで一斉に爆発させる事が出来る」
絶牙を使えば大気の中のトリオンを斬れるが、斬った直後にまたトリオンを大気に同化させられるのがオチだ。
「っ!つまり一回使えば、その星の空気は火薬庫になるって事?!」
「そうだ。所有者のオーフィリアはディボロを滅ぼしてから別れて、傭兵時代に再会したがその際には、故国を攻めようとしたキオンって国のマザートリガーと国民を纏めて爆死させた」
俺もマザートリガーを破壊した事はあるが、殲滅力は高くないし、それを考えると死天の方が強いだろう。
「す、凄いね。確かナオ君の先輩達は6人が黒トリガーになったんだよね?他の4本もそうなの?」
「まあそうだな。リーダーを含めて全員10年以上地獄を見てきたからな。「枝の神」も「夢の扉」も「武の鎧」も「嵐獄竜」も中堅くらいの国なら余裕で堕とせるだろうな」
ディボロを滅ぼしてからは別々に奴隷の解放をして、その後に3人とは再会したが、後の2人とは出来てないし、遠征に行ったら会えると良いな。
「そうなんだ……あのさ、リーダーはどんな人だったの?」
「リーダー?いつも若い後輩を最優先にしてくれるとても優しい人だったよ。俺が鉄の棒で背中を焼かれて夜中には痛みで泣いてたんだけど、夜通し俺を優しく抱きしめて慰めてくれたのは今でも忘れない」
しかも後から聞いたらリーダーは4人目の望まぬ子供を産んで取り上げられた直後だったのに、俺を優先して慰めてくれたからな。
「で、黒トリガーになる時も私達を使って全員を故郷に返してあげてねって、いつも通りの優しい笑顔を浮かべていた……ああ、よく見りゃ今のハルちゃんの笑顔ってリーダーの笑顔に似てるな」
「そ、そうなの?」
改めて見ると似ていると思うが、ハルちゃんの笑顔が見れなくなるのは寂しい。
「まあな……ハルちゃんは黒トリガーにならないでくれよ」
「え?!な、ならないよ。そもそも私、優れたトリガー使いじゃないからね」
「なら良いけど、居なくなったりもしないでくれよ。ハルちゃんは今の俺にとって大切な繋がりなんだから失いたくない」
この世界に戻ってきてから家族が全員死んで、親友が県外に去って、残ったのはハルちゃんだけだ。ハルちゃんも居なくなったら俺は折れてしまうかもしれない。
「……居なくならないよ。私にとってもナオ君は大切な繋がりなんだから……」
ハルちゃんは俺を抱きしめて頭を撫でてくれる。それだけで俺は満たされた気分になる。
気がつけば俺もハルちゃんの背中に手を回して、抱き合う形を作っていた。