「んじゃ改めて。名前はキド直次。年齢は16、8年前に拉致されて数日前に帰ってきたら。好きなものはドラクエとラーメン。所有する黒トリガーは絶牙。ありとあらゆるものを斬る能力で、既にここにいる何人かの女子の汚れや無駄な脂肪などを斬っている」
俺は改めて自己紹介する。さっき好きなものにダブルぱふぱふと言ったらハルちゃんがキレたから、ダブルぱふぱふを除いた自己紹介をする。
ただし、大半がハルちゃんとユウちゃんに注目している。ユウちゃんはいつも通りの表情だが、ハルちゃんは未だに恥ずかしそうだ。
「黒トリガー適正試験まで10分ちょっとあるから質問があるなら聞くぞ。ただし質問の際は挙手して名乗ってくれ」
そう口にすると多くの人が手を挙げるが……
「じゃあカホちゃんがいる列の1番前にいる人で」
「風間隊の風間蒼也だ。今回適正試験をする黒トリガーは2つと聞いているが、それは奪ったものの場合、こちらの世界に報復の危険性はあるのか?」
まあそれは心配だよな。でも心配する必要はない。
「問題ない。こっちの輪っか……「縛の輪」は俺を拉致したディボロが所有していたが、ディボロの人間は1人残らず皆殺しにした。もう1つの「鳥の巣」は2年前にハロイドという国から奪ったが、ハロイドの移動軌道はこの世界に干渉しないし、ハロイドが所有する「鳥の巣」以外の黒トリガー3本は俺が所有者諸共殺した事で国力が落ちてる」
俺の言葉に大半が恐怖の感情を抱くが、やはりこの世界では殺しに関するハードルが高いらしい。まあ裏を返せば平和だってことになるし、良いんだけどな。
「疑うなら適正検査が終わってから俺の部屋に来てくれ。ディボロ殲滅の記録はないが、ハロイドの黒トリガー使いを殺した記録はあるから見せられる」
「いや、嘘ではないようだから問題ない」
カザマはそう口にするが、ヤケにあっさり信じるし、サイドエフェクト持ちか。
「質問は終わりなら次行くぞ。カザマの隣のいるスーツの男の質問は?」
「二宮隊の二宮匡貴だ。さっきお前の黒トリガーは何でも斬れると言ったが、感情も斬れるのか?」
「斬れるぞ。全ての感情を斬って人形にする事もできるし、捕虜が持つ忠誠心を斬って尋問を楽にさせた事もやったぞ」
「そうか。ならば太刀川の勉強に対する忌避感を斬って欲しい」
するとニノミヤはそう言っているが、忌避感って嫌な気持ちってことだよな。
「俺も賛成だな」
「ええ。それが良いわね」
「賛成するわ。昨年度の前期の単位は6しか取れていなかったしね」
「ちょっ……!」
「それが出来るならウチの陽介の忌避感も斬って欲しいな」
「ちょっ、秀次?」
「ウチの当真の忌避感も斬ってもらわないとな」
「真木ちゃん、冗談がキツい「は?冗談なわけないだろ」あ、はい」
「ヒカリも斬ってもらえよ。お前ウチの隊でもぶっち切りの馬鹿だろ?」
「あん?カゲだって目くそ鼻くそだろうが!」
次々に意見が出てくる。どうやら勉強嫌いはそれなりにいるようだが……
「勉強が嫌なら学校を辞めれば良いじゃねぇか。ここにいる人間の大半は腕がありそうだからボーダーで食っていけるだろうし、行かなくちゃいけないのは小学校までで、中学からは個人の自由だったはすだろ」
少なくとも俺は学校に行かなくても苦労したことがないからな。
「ナオ君、行かなくちゃいけないのは中学までで、個人の自由なのは高校からだよ」
「そうだったのか。何にせよここにいる面々は多分大半が高校生以上だし、辞めれば良いじゃねぇか」
「そういうわけにはいかない。世間ではボーダーを嫌っている人間はかなりいるが、ボーダーの為に学生の本業の勉強を疎かにした場合、それを理由にボーダーの評判を下げようとしてくるだろう」
カザマが俺の意見を反対してくるが……
「何でボーダーに風当たりが強いんだ?トリガーを使う組織ってボーダーしかないんだし、寧ろ大事にするべきなんじゃないか?」
ボーダーがなくなったら4年前のように大量の被害が出るだろうに。
「色々理由はあるが、近界民が現れる場所は基本的に三門市くらいだ。三門市から離れた人間にとって対岸の火事のようなものだから、危機感が薄く、面白いネタとする為に叩く人間も多い」
なるほどな。危険を知らないが故の言動か。
「それはわかったが、それなら三門市が一丸となって対抗するべきじゃないのか?」
「そううまく行かないのが現実だ。三門市民の中には家族を失った人が多いが、近界民に八つ当たり出来ないからボーダーのせいにする事もあるから」
「迷惑な話だ」
これでボーダーが仕事を放棄したらどうなるかを考えろって話だ。
「まあ良い。話を戻すが、何でニノミヤはタチカワのやる気の無さを気にしてるんだ?他人の成績の悪さなんてほっとけば良いだろ」
「そうしたい気持ちはあるが、太刀川はA級1位という事で世間に知られている。そんな奴が留年なんかしたら、ボーダーの評価が落ちる」
「リュウネン?何だそれ?」
「高校や大学にある制度で、成績が悪過ぎるともう一回同じ学年をやるんだよ」
「え?つまり大学1年生から2年生になれず、もう一回大学1年生をやると?」
「正確に言うと3年生から4年生に上がれない。大学では勉強して単位を得るんだが、大学3年生の終わりまでに104単位獲得する必要がある。104単位獲得出来なかったら4年生には上がれない」
「つまり1年間で35の単位を……ん?ちょっと待てニノミヤ。大学って1年で前期後期なのか?前期中期後期なのか?」
「前期と後期だ。つまり各期で17単位か18単位取る必要がある」
さっき月見はタチカワは前期で6単位と言っていたが……
「それヤバくないか?」
「ああ、ヤバいな。だから1年の後期は俺達他の大学生が太刀川の勉強を見る羽目になった。何とか21単位を取らせて少し遅れを取り戻せたが、二度とゴメンだ」
ニノミヤは吐き捨てるように言ってくる。相当嫌なようだ。
とはいえ……
「わかった。タチカワ、トリガーを解除しろ」
俺は言うなり、腰から絶牙を抜く。
「え?マジでやるの?」
「当たり前だ。ボーダーの評判が下がるという事はボーダーの広告をやってるハルちゃんにもダメージが入るし、それは避けないといけない」
別にタチカワがリュウネンしようが、どうでも良いがハルちゃんにダメージが入るなら話は別だ。
「お前どんだけ綾辻ちゃんが好きなんだよ」
「当たり前だ。向こうの世界には友人は多いが、こっちの世界じゃ家族は皆死んで、友人は皆この街から出て行ったから、ハルちゃんは俺の中の心の支えだ。好きに決まってるだろ」
「お、おう。そうか……」
コウヘイは聞いておきながら恥ずかしそうにしているが、それなら最初から聞かないで欲しいものだ。
そう思いながら俺は背後にてハルちゃんが真っ赤になって俯いている事に気づかず、太刀川が生身になるのを待つのだった。