「じゃあ次の質問は……おっと、お偉いさんが来たからここまでだな」
訓練室の入口の方からキド達がやってくる。俺に対する質問会は切り上げる。
「全員いるようだな。連絡にあったように城戸隊員が持ち帰った黒トリガーの適正試験を始める。適合者は遠征試験後の研修に参加してもらうからそのつもりで」
「あー、話の腰を折って悪いが、遠征の流れについて教えてくれないか?」
俺はボーダーの遠征について無知だからな。
「まずA級部隊の中から選抜する試験を受けて貰う。そして合格者から約1ヶ月特別研修を受けて、問題ないと判断出来たら出発となる」
「つまり俺も試験と研修を受ければ良いと?」
「研修は受けて貰うが、試験は免除とする。君と太刀川隊の戦闘記録を見たが問題ないと判断した」
「マジで?弾バカはもう戦ったの?どうだった」
頭にカチューシャを付けた男子がコウヘイに質問する。
「誰が弾バカだ槍バカ。黒トリガー相手に太刀川さんと一緒に瞬殺されたわ」
「弧月一本でも、俺から4割取れたし問題ないだろ」
「武器は絶牙に近い重さのレイガストに変えたし、鈍った腕を取り戻せば俺が勝ち越す。そんなわけでタチカワは適正試験が終わったら模擬戦に付き合え」
「悪いな。三門史のレポートがあるから明日にしてくれ」
「慶?!どうしたんだ?!お前がレポートを理由に模擬戦を断るなんて」
するとシノダが声を上げる。キドとかも目を見開いているが、どんだけ勉強が問題にされていたんだよ?
「さっき絶牙を使って一部の人間の勉強に対する忌避感を斬ったんだよ。だからやらなきゃいけない課題を蔑ろにする事はないだろ」
「なるほど……それは感謝するべきだな」
「言っとくが俺がやったのは忌避感を斬っただけだ。宿題などの最低限の事を蔑ろにしなくなっても、予習や復讐をするような勉強に対する意欲は増えた訳でもないし、効率的な勉強法を身につけた訳じゃない。そのあたりは他の連中が頑張らないと改善はしないぞ」
どんな事でも改善するにはやる気は必須だからな。やる気をなくす事は出来てもやる気を増やす事は無理だから俺が出来るのはここまでだ。
「わかった。そのことを忘れないようにしておく。では本題の適正試験を始めるので城戸隊員は頼む」
「了解。んじゃまずは「縛の輪」の説明をする」
俺は絶牙を解除して、「縛の輪」を起動する。同時に黒いコートから白い司祭服のような服に変わる。
そして皆から離れて虚空から大量のリングを顕現する。
「コイツは対象のトリオンを封じる能力を持つ。タチカワとコウヘイは避けないでくれ」
言いながらリングを2人に飛ばす。そして2人に近づくとリングが開き、2人の腰に巻き付き、2人のトリガーが解除される。
「マジか?!トリガーの強制解除かよ!」
「しかも再起動も出来ないぞ」
「封じてるからな。ディボロの奴隷は反乱を起こしてディボロの王を殺そうとしたら、側近が持つコイツによってトリガーを強制的に解除されて殺された」
言いながら2人からリングを離すと、2人の体がトリオン体に変わる。
「今封印が解けた。このリングは他にも使い道がある。コウヘイ、俺に弾丸を撃て。弾は何でも良い」
「んじゃ……アステロイド!」
コウヘイは両手からキューブを展開して、大量に分割して俺に放ってくる。
俺は10のリングを動かして正面に展開する。それから直ぐに弾丸とリングはぶつかり弾丸が消える。
「今コウヘイが放った弾丸はリングに封印されているが、俺の任意のタイミングで解放できる」
俺が手を突きつけると壁に向かって、さっき封印したコウヘイの弾丸が放たれる。
「ま、基本的にはこんな感じだ。弱点はリング自体に攻撃力がない事だ。済まないがトレーニングステージを展開してくれ」
「沢村君」
「了解」
シノダがサワムラに指示を出すと、サワムラはタブレットを操作する。同時に複数の家が展開されるので、リングを近くの家に飛ばす。しかしリングは屋根に当たるとそのまま弾かれる。家は無傷だ。
「こんな感じだから建物が多い場所で使うのは危険だ。後は実戦で学ぶべきだが……適合者の確認からするか?またはもう一つの黒トリガーを使うか?」
「まずはもう一つのトリガーの方を確認したい」
キドからそう言われるので「縛の輪」を解除して、手袋の形をした「鳥の巣」を起動する。それにより青白いシャツとロングズボンの姿に変わるが……
『っ!』
空気が変わるが……大方両手の傷だろう。切り傷や打撃痕、火傷の痕があるからな。
「そこまで気にしなくて良い。戦闘ではトリオン体で影響はないからな」
「戦闘では、だよね?日常生活ではどうなの?!」
ここでハルちゃんが必死な表情で詰め寄ってくる。嘘をつくわけにはいかない。
「特に辛いと思った事は特にない。ただ……」
「ただ?!」
「風呂で頭を洗うために腕を上げたり、背中に手を回そうとすると、小さな痛みが出るくらいだ」
鬱陶しいっちゃ鬱陶しいが我慢出来ないという程ではない。
「……そう」
しかしハルちゃんはジッと俺を見ているが、なんか怖いんだけど……
「と、とりあえず本題に戻るが、コイツの能力を紹介する……っぞ!」
そう呟き背中に力を入れると背中からバキバキバキバキという音と共に、巨大な黒い翼が生える。
同時に俺は翼を羽ばたかせて訓練室を飛び回り、翼を振って黒い羽を飛ばして、住宅を破壊して着地する。
「基本的な戦闘能力はこんな感じだな」
「鳥人になる黒トリガーか?しかし黒トリガーにしてはスペックが低くないか?」
ニノミヤが訝しげに聞いてくるが……
「鳥人になるトリガーじゃない。本命はこれだ。ほいっと」
俺はニノミヤの背中を叩く。同時に俺の手からニノミヤのトリオン体にトリオンが送られて……
バキバキバキバキ……
ニノミヤの背中にも黒い翼が生える。
「っ!トリガー使いに飛行能力を与える効果か」
「そうだ。飛行能力を貰ったトリガー使いは大体30分くらいの飛行時間が与えられる。まあ速度を上げ過ぎたり、羽を飛ばすと時間は短くなるがな。使い方は簡単で翼を振るイメージをすればそれに合わせた動きをする。試しに飛んでくれ」
そう返すとニノミヤは翼を羽ばたかせて、飛び上がり移動を始める。その際に動きがシンプルで直角的だが、初めてだから当然だ。
「飛んだり羽を飛ばしている時もボーダー……本来使用しているトリガーは使えるのか?」
「可能だ。ただボーダーのトリガーは出力が低い代わりに複数のトリガーを組み合わせるスタイルだから、割と難しいと思う並列処理能力が低い人間は慣れるのに時間がかかるぞ」
ニノミヤを見れば飛びながら射撃をしたり、羽を飛ばしながら射撃をすると、動きが固くなっている。
と、ここでニノミヤが着地する。
「どうだった?」
「最初だから当然だが、ボーダーのトリガーを組み合わせ使う場合は結構難しいな。ちゃんとした訓練は必要だ」
「まあそのあたりは俺が前に出てやるが、万が一強大な敵に基地を壊されたら逃げないといけないし、訓練については戦闘員のみならずオペレーターやエンジニア貰ってもらう……で、良いよな」
最終決定権は上層部にあるから確認を取る。
「もちろんだ。場合によっては遠征に持って行くかもしれないし、訓練についてはしっかり考えるつもりだ」
「了解した。んじゃ1人ずつ渡すから適性があるか確認してくれ」
トリガーを解除して「縛の輪」を右端にいるタチカワに、「鳥の巣」を左端にいるジンに渡す。何人いるのやら……
そう思いながらも俺はこっちをずっと見てくるハルちゃんの存在が気がかりで集中出来ないのだった。