帰還者、玄界の生活を満喫するってよ   作:ユンケ

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第3話 帰還者、生きる理由を作ってもらいボーダーに入る事を考える

 

 

 

 

 

「はははははははははっ!」

 

会議室に笑いが響く中、綾辻遥は苦しい気持ちで一杯となった。目の前には8年前に連れ攫われた大切な幼馴染の直次が泣きながら笑っている。

 

しかし目には怒り、悲しみ、苦しみ、諦観などあらゆる負の感情が混ざっていた。

 

遅かれ早かれ直次の家族の死は伝わっていたが、想像以上の反応だった。

 

誰もが口を挟めない中、直次は涙を溢しながら遥を見る。

 

「笑えるだろうハルちゃん。元の世界に帰る為だと殺しを正当化して、近界で何百何千と殺しをした結果がこれだよ」

 

笑えるはずがない。そこまでして帰ってきた人間を笑うなんて出来ない。

 

「なぁハルちゃん。あの世ってあると思うか?」

 

「……いきなり、どうしたの?」

 

「いや、あの世があるなら俺が自殺すれば、家族や奴隷時代に出来た友人や後輩、先輩や部屋長達に会えるかなぁって……」

 

もう限界だった。

 

遥は正面から抱きついて目を合わせる。

 

「自殺なんて絶対にダメ!もし自殺なんかしたら私も後を追うからね!」

 

「っ!馬鹿か!俺が死ぬからってハルちゃんが死ぬ必要ないからな!」

 

ここで直次から漸く驚愕の感情が見える。何とかして絶望から直次を引き摺り出さないといけない。

 

「だって漸く会えたナオ君とまた離れ離れになるなんて絶対嫌だよ!残される人の気持ちを考えて!」

 

「ハルちゃん……でも俺はもう生きる理由なんかないんだよ。家族が生きてんなら、街を守る為にボーダーに入ってたかもしれないけど……」

 

泣きながらそんな風に話す直次に対して、遥はある一手を思いついた。これを実行すれば殆ど確実に直次に生きる理由を作れる。

 

しかしその一手は諸刃の剣である。生きる理由を作ることは出来ても、命の危険が険しい道のりだから。

 

遥は一瞬悩むが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あるよ!おじさん達を殺したトリオン兵を派遣した国に報復しないと!」

 

最終的には迷わずに口にした。

 

「綾辻!」

 

「綾辻君?!」

 

自身が所属する派閥の長である忍田本部長や自分の隊を広報部隊にすると決めた根付メディア室長が驚きの声を上げるが、遥はそれを無視する。

 

復讐を生きる理由にする、それは完全に城戸派の考えだ。

 

しかし遥は撤回する気はなかった。復讐に染まるのは命の危険があるが、生きる理由にはなるし、生半可な理由では直次の考えは変えられないからだ。

 

直次を見直すが、意外そうに見ている。今がチャンスとばかりに畳み掛ける。

 

「ナオ君は良いの?何も悪いことをしてないおじさん達が殺されっぱなしで。今のナオ君には仕返し出来る力があるんでしょ?」

 

遙には確信があった。先程直次と再開した後、基地に入ろうとしたら迅が内部通信で城戸にこう言ったのだ。

 

『今から連れてくけど、絶対に戦いは避けてね。戦った場合、最低でも10人死ぬし、太刀川さんと風間隊の3人は確実に死ぬから』

 

その発言があったからか、もしくは直次の発言を聴かせるべきでないと判断したのかは知らないがA級隊員を全て退出させている。

 

しかしボーダーの精鋭を最低10人殺せるという事は桁違いの実力を持っているのは明白だから仕返し出来る力というのは間違っていないだろう。

 

「自殺するとしたら、家族を殺した近界民の国を潰してから判断しても遅くないと思う。私としてもナオ君には死んでほしくないし、どうかな?」

 

もちろんこれは先延ばしでしかないが、今死なれるわけにはいかない。

 

遥としては今先延ばしにして、復讐を果たすまでに別の生きる理由を作りたいと考えている。

 

直次の顔を見ると、先程と違って落ち着きの色が出ている。

 

「そうだよな……どこの国かは知らないが、泣き寝入りするなんてあり得ないよな……」

 

そんな風に呟きつつも、直次は遥を見る。

 

「悪かったなハルちゃん。少し早まり過ぎた。自殺するかどうかはとりあえず元凶を皆殺しにしてから決めるわ」

 

直次は落ち着きを取り戻したが、皆殺しと躊躇いなく口にするあたり、8年間で価値観が相当変わった事は明白だ。

 

(ナオ君、復讐を終えても絶対に死なせないから。私が何としてもナオ君に生きる理由を作るからね)

 

遥は価値観もそうだが、直次の生きる理由を変えると改めて決意を胸に宿すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先程は失礼した。みっともない姿を見せた」

 

俺は当面の目標を決めて落ち着きを取り戻した後はボーダーの首脳陣に謝罪する。みっともなく泣いて笑ったからな。

 

「気にしなくて良い。君の立場ならば仕方ない事だ」

 

「そう言って貰えると助かる。とりあえず本題に入るが、可能なら俺をボーダーに入れて欲しい。俺自身、トリガーはそれなりに持ってるが遠征艇は破壊されたから近界に行く手段はない。アリステラと組んでたって事は遠征艇を持ってるんだろ?」

 

「確かに我々は持っている。しかし破壊されたと言ったが、航海中どうやって帰ってきたのかね?」

 

「言い方が悪かったな。玄界に向かってる最中に壊れたんじゃなくて、2年前にシュルツって星に停泊していたら、シュルツに侵攻していたハロイドって星の兵士に壊されたんだよ」

 

あの時はマジで焦ったからな。

 

「随分前だな。でも黒トリガー持ちなら傭兵として働いて、報酬としてこっちに送って貰えなかったのか?」

 

煙草を持つ眼鏡の男性に聞かれるのでポケットから指輪を取り出して、トリオンを注ぐ。

 

同時に惑星国家の軌道配置図が展開される。数にして40近くの惑星国家が表示される。

 

「俺を拉致したディボロはこの星で、軌道は桁違いに長く、一周するのに凄く6年近くかかるほどだ。で、俺が船を壊されたシュルツはこの星で、この世界から大分離れた上に軌道上にないから、他の星々を伝って帰ってきた」

 

それがまた大変だった。シュルツを出た後はシュルツと仲のいいパキンという星に行ったが、そこもこっちの世界を通らない国だったし。

 

「っ!こんなに多くの惑星国家を渡り歩いたのか?!」

 

太った男が驚きながら聞いてくるので首を横に振る。

 

「いや、ディボロの兵士を皆殺しにして奪った時は30くらいだったし、俺が新しく開拓したのは10くらいだな」

 

まあその星々ごとに過ごす時間も長かったし、帰るのに時間がかかったけど。

 

「ねぇナオ君。皆殺しって言ったけど、何があったか聞かせてくれないかな?」

 

「加えて何故こちらの世界を通らない国に行ったのかね?兵士を皆殺しにしたのならば、時間はかかるかもしれないがディボロに残った方が良かったのではないか?」

 

ハルちゃんに続いてキドもそんな風に聞いてくる。

 

(ボーダーに所属する事を目標にしている以上、こちらの情報やトリガーについては惜しみなく渡さないとな)

 

「わかった。けど話を終えて、俺が持つトリガーを渡したら、一旦解散にして欲しい」

 

「何故かね?」

 

「大分夕日が傾いているが、暗くなる前に家族の墓に行きたい。ハルちゃんは場所わかるか?」

 

手は血で汚れているが、帰ってきたことの挨拶はしたいからな。

 

「あ、うん。わかったよ」

 

ハルちゃんは躊躇いなく頷く。

 

「ならばそちらを先に済ませて構わない。ただし綾辻隊員を同伴させる事、腰に差した黒トリガーは使わず、ケースか何かにしまって市民に見られないようにする事を約束して欲しい」

 

そのくらいで良いのか。怖い顔の割に優しいな。

 

「わかった。ハルちゃん。墓はここからどれくらいだ」

 

「片道30分くらい……あ、花を買うと40分くらいかな?」

 

結構遠いな。絶牙を使えば短縮……いや、今は無理だな。

 

まあ少し歩くのも良いだろう。

 

「わかった。じゃあ行こうか……」

 

言いながら扉に向かうがその前に……

 

俺はキドの前に立ち、腰の袋を取り出しと口を開けて、3つの箱を取り出す。

 

「気を遣ってくれた礼だ。先にトリガーだけ渡しとく」

 

「その袋は収納用なのか?」

 

「そんなところだ。赤い箱には生活を楽にする関係のトリガーが18本、青い箱には戦闘系のトリガーが10本、黒い箱には黒トリガーが2本入ってるから好きに利用してくれ」

 

『っ!』

 

俺の言葉に部屋にいる面々の顔に驚愕の色が現れる。大方黒トリガーの存在のせいだろう。

 

しかし俺からしたらリーダーの魂がこもった絶牙さえ手元にあれば何の問題もない。これを持つ権利があるのはディボロの奴隷だった人間のみだ。

 

俺はそのまま会釈してから案内人のハルちゃんの手を引っ張り部屋を出ていった。

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