ハルちゃんに案内された墓場に到着すると、ハルちゃんの後に従って歩く。
「ここだよ。私は入口にいるから」
ハルちゃんはそう言って去っていくので墓石を見ると井口家之の文字が刻まれている。
俺は来る途中に買った花とチョコレートクッキーを鞄から取り出す。
こっちの世界の記憶は殆どない。
しかし妹の好物がチョコレートクッキーで、買い物に行く度に欲しい欲しいと駄々をこねて、母さんが買ったクッキーをテレビゲームをやりながら家族皆で食べたのは覚えている。
「っ……」
思い返すだけで胸が苦しくなる。あの光景はもう2度と見れないのだから。
俺は花とチョコレートクッキーを備えてから両手を合わせる。
「待っててくれよ。父さん達がどう思っているかはわからないが、4年前に父さん達を殺した連中を必ず俺が滅ぼす。殺しをダメだと思うなら、あの世で俺を叱ってくれ」
決意を告げて改めて両手を合わて、安らかに眠ってくれる事を祈る。
それから15分くらい両手を合わせてから目を開けて手を下に降ろす。
「また来る。あの世では身体に気をつけて元気でな」
最後にそう言ってから入口に戻り、ハルちゃんに話しかける。
「待たせたなハルちゃん」
「全然良いよー。もうちょっと話しても良かったのに」
「いや、全部話したら長過ぎるからな」
そう返しながら俺達は薄暗い街を歩く。
15分くらい歩いて基地まであと少しの時だった。
「歌歩ちゃん!」
ハルちゃんは突如走り出すので走った方向を見れば、小柄な女子がガラの悪い男に壁際に追いやられていた。ハルちゃんの友人みたいだが、今度はハルちゃんが危ないだろうに助けに行こう。
「歌歩ちゃん大丈夫?!歌歩ちゃんに手を出すのはやめてください!」
「心外だなぁ。彼女が俺にぶつかったけど、ぶつかった際に腕の骨が折れたから有金を慰謝料として求めたんだよ。けど拒否したからちょっと付き合って貰おうとしたんだよ」
「いや普通に動かしてるし、折れてないだろ?お前馬鹿か?」
「あぁ?」
ハルちゃんに追いついた俺がそう口にすると男はいきなり俺の腹を殴ってくる。
「部外者が口挟んでんじゃねぇよ。俺が折れてるって言ったら折れてんだよ……ってよく見りゃ綾辻遥じゃん。お前が代わりに付き合うか?」
「なるほど。つまりお前は骨が折れてるから金を寄越せと……わかった」
「はっ?」
言いながら俺は足払いをして男を転ばせてから、思い切り男の腕を踏みつける。
バキィッ!
「へっ……がぁぁぁぁぁぁっ!」
男は叫びながらのたうち回る。
「っ!」
「ちょっ、ナオ君?!」
ハルちゃんとカホちゃんとやらが驚く中、男の腕を確認する。
「確かに折れてるな。カホちゃんとやら、財布をくれ」
「えっ……は、はい」
カホちゃんが戸惑いながら財布を渡してくるので、俺は財布から紙幣と硬貨を取り出して男に投げる。というか10000円の絵柄が変わってるような気がするような……まあ今は良いか。
「ほらよ。カホちゃんの有金全部だ。これで問題ないだろ?」
「ひっ……悪かった!悪かったよぉ!」
男は腕を押さえながら去っていくが……
「アイツ金を持って行ってないぞ。何がしたかったんだ?」
「ナオ君?ちょぉぉぉぉっと基地に戻る前にお話をしよっか?」
何だ?ハルちゃんから尋常じゃないほどの怒りを感じるぞ?
俺はハルちゃんに首根っこを掴まれて、引っ張られるのだった。
「良いナオ君?さっきのは明らかにやり過ぎだからね?」
人が少ない河原に引っ張られるとハルちゃんにそう言われる。
「いやいやハルちゃん、向こうは骨が折れたから、有金かカホちゃんを求めてきた。金かカホちゃんが欲しいなら骨が折れてないといけないんだよ。俺としては向こうが言った通りにしただけだぜ」
「暴力に暴力でやり返しちゃダメなの」
「そうは言われても、向こうじゃ暴力に対してそれ以上の暴力を、殺意には殺害を返していたからな」
自分から進んで暴力や殺しをするつもりはないが、向こうから仕掛けてきたら躊躇いなく返すつもりだ。
「ナオ君はこの世界に残るんでしょ?だったら日本にいる間は日本のルールに従わないと」
……まあそれはそうだな。
「わかった。とりあえずハルちゃんに従っておくよ」
「そうしてくれるとありがたいよ。とりあえず過剰な暴力はダメだからね、約束を破ったら怒るよ」
「怒ったら音痴なハルちゃんの歌を聴かせるの?」
だとしたら約束を破るわけにはいかない。ハルちゃんの歌は本当に酷いからな。
「音痴言うな!」
「まあまあ遥ちゃん。落ち着いて落ち着いて」
ここでカホちゃんがハルちゃんを止めに入る。
「止めないで歌歩ちゃん!ナオ君には私の歌は上手くなっている事を理解させないといけないんだよ!」
「(でも正直遥ちゃんの歌については酷いからなぁ……)」
ん?カホちゃんから同意を得れた気がするな。
「とりあえず話を戻すけど、やり方は過激だけど助けてくれてありがとう。正直言ってかなり怖かったからね」
「気にするな。というかカホちゃんはハルちゃんと同じボーダーなのか?」
「そうだよ。遥ちゃんと同じオペレーターの三上歌歩。名前は井口直次君って聞いてるけど、何て呼べば良いかな?」
「ナオ君でもナッさんでもナオっちでもナオピーでも良いぞ」
「ナオ君以外どっから出てきたの?」
「奴隷時代と傭兵時代に仲良くなった女子から呼ばれていた呼び名だな」
まあ一番しっくりくるのはナオ君だけど。
「あ、あはは……じゃあ遥ちゃんと同じナオ君にしようかな」
「どうぞどうぞ。ボーダーで関わる事になったらよろしくな」
「うん。それと今回の件は今度お礼するね」
別にお礼にするほどのものではないが、くれるというなら頂くとしよう。
「じゃあ今度ラーメンを奢ってくれ」
「ラーメン?ラーメンが好きなの?」
「まあな。けど、向こうの世界じゃ食えなかった。グルシスには寿司はあったし、カレーに近いものもあったが、ラーメンはなかったからな」
「グルシスって近界で美味しいご飯が有名な国?」
「正確に言うと数十ヵ国の料理が集められた美食国家だな。麺料理はあったが、麺の味は薄く、スープが淡白すぎて健康食に近かったらし」
少なくともアレをラーメンとは認められない。ラーメンといったら凶暴な旨みを持つこってりものだからな。
「へぇ〜、そんな国があるんだ。てっきり全ての国がバラバラに競い合ってるものだと思ったよ。他にもあるの?」
「あるぞ。医療国家のライフ、風俗国家のエルドラドとかは沢山の国が利用してるぞ」
『っ!』
と、ここでハルちゃんとカホちゃんが真っ赤になる。
「どうした?」
「い、今風俗って言わなかった?」
「言ったが?沢山の美男美女とエロい事をするために各国の金持ちが足を運んでるぞ」
「ま、まさかナオ君も行ったの?」
「行ったけど、当時は16歳になってないから性行為店には入れなかったし、高級レストランを満喫していたな」
金持ちの利用場だから飯も美味かったし、それだけでも満足したな。
「16歳?18歳じゃないの?」
「ん?この世界だと18歳が大人か子供の境界なのか?向こうじゃ国によるが15か16で大人扱いだぞ」
微妙に価値観が違うようだ。というかそれだとこの世界じゃ酒が飲めないって事かよ。ショックだな。
「っと、そろそろ基地に戻らないと五月蝿く言われないか?」
カホちゃんを助けて20分くらい経っているぞ。
「確かにちょっと寄り道しちゃったね。じゃあ歌歩ちゃん、私達は一旦失礼するね」
「うん。またね。ナオ君は落ち着いたら美味しいラーメン屋さんに連れていくよ」
「楽しみにしてる。またなカホちゃん」
俺達は会釈をしてからカホちゃんと別れる。
「さて基地に戻ろっか」
「ああ」
俺はハルちゃんと一緒に肩を並べて基地に向かって歩き出す。価値観の違いは少しの外出でわかったし、少しずつ折り合いを付けて頑張っていかないといけない。
その為にはまず……
「あ、ハルちゃん。ここから基地までの間に本屋があるなら漢字ドリルを買ってくれないか?」
ひらがな以外全く覚えていない日本語の勉強をしないとな。