帰還者、玄界の生活を満喫するってよ   作:ユンケ

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第5話 帰還者、話をする①

 

 

「綾辻、ただいま戻りました」

 

「今戻った。先にこちらの用事を優先してくれて感謝する」

 

「構わない。かけたまえ」

 

会議室に戻る。しかし会議室にいたのはキド、真面目そうな男性、タバコを吸った男性とジンだけだ。太った男とキツネっぽい男、胡散臭そうな男は居なくなっている。

 

「さて、君達がいない間に方針を決めていたが、井口君」

 

俺とハルちゃんが座るとキドが口を開ける。

 

「何だ?」

 

「こちらとしては君に衣食住を提供、今後の生活を保証したいと思う」

 

「それはありがたい」

 

家族がいない状態だから誰かの後ろ盾が欲しかったからな。ハ

 

「ただし幾つかの条件を呑んで貰いたい」

 

「条件?まあ大抵の条件は呑むが、コイツの所有権の放棄だけは絶対に呑まないからな」

 

俺はケースから取り出した絶牙を指差す。コイツだけは渡すわけにはいかない。

 

「それは構わない。現時点で君からは大量のトリガーや惑星国家の配置図など充分に貰っている」

 

「助かる。で、条件は何だ?」

 

「第一に君がボーダーに入隊する事」

 

「問題ない。こちらも入隊する事を考えていたからな」

 

「第二に今の名前を捨てる事だ。君が拉致される前の人間関係は知らないが、ボーダー隊員の中には綾辻隊員以外に君を知っている人間がいる可能性がある。そこから世間に情報が漏れることは避けたい」

 

そうきたか……まあ確かにな。ハルちゃんによれば市民は近界に人が住んでることすら知らないらしいからな。拉致された俺が帰ってきている事が知られたら周りが煩くなりそうだ。よってキドの考え問題納得出来る。

 

「新しい名前に変えると?俺はこの世界に詳しくないがそんな事が出来るのか?」

 

名前の付け方については知らないが、簡単に変えられるものなのか?

 

「普通は難しいが、ボーダーにその類の仕事を得意とする職員がいる」

 

「なら良いが……変えるのは苗字だけにしてくれ。両親が付けた名前は残したい」

 

もちろん無理強いは出来ないが。

 

「そのくらいならば問題ない」

 

「感謝する。で、第3の条件は?」

 

「最後の条件として、我々も遠征を行っているが同伴して欲しい。近界を渡り歩いた君の知識は貴重だ」

 

それが最後か?随分と緩いな。もう後3つくらいは条件を出されると思ったわ。

 

「全く問題ない。3つの条件を呑もう」

 

「了解した。それではボーダーの入隊を許可しよう。また苗字についてリクエストはあるかね?」

 

「リクエスト?ハルちゃん、リクエストってどう意味だ?」

 

昔聞いたような気もするが、覚えてないわ。

 

「リクエストは要求という意味だよ。田中と山口とかどんな名前が良いのかって聞いてるんだよ」

 

「なるほどな……苗字ねぇ……んじゃタチカワにしてくれないか?」

 

「太刀川?何故太刀川を選んだのかね?」

 

「なんか子供の頃に見てたアニメで好みだった女の子キャラの苗字がタチカワだったような気がしたから」

 

確か帽子をかぶっていたはずだ。

 

「済まないが太刀川は遠慮して欲しい。ボーダーにおいて一番強い剣士の苗字が太刀川なのだ」

 

どんな偶然だよ。この世界の知識は少ないが、タチカワの苗字が少ないのは何となく予想出来るぞ。

 

「もういっそアイツらみたいにやったみたいに城戸さんの親族扱いで良いんじゃない。そうすりゃ第三者も深く調べて来ないでしょ」

 

と、ここでジンがそんな事を言っているが、俺みたいな帰還者が他にもいるのだろう。

 

「よくわからんが、面倒ごとが避けれるならキドにしてくれ」

 

ぶっちゃけこだわりは無いからな。

 

「……良いだろう。では君は私の甥という扱いでボーダーに在籍して貰う」

 

「了解」

 

とりあえずこれで衣食住は確保出来たし第一段階はクリアしたな。

 

「で、次に俺がどうやって帰ってきた話せば良いのか?」

 

「ちょっと待って欲しい。その前に直次君に聞きたい事がある」

 

「何だ?後名前を言ってくれ」

 

「失礼、私はボーダーで本部長をやっている忍田だ。聞きたい事というのは拉致された人間に環境についてだが、どの国も君を拉致した国のようなのか?」

 

「まさか。ディボロが桁違いに酷かっただけで、他の国は最低限の生活は出来てるぞ」

 

逆らったら殺されるような事はあったが、憂さ晴らしによる殺しとかはなかった。

 

「それは4年前にこっちで拉致された人間の現状が気になったからか?その時の敵戦力がわかればある程度の推測は出来るぞ」

 

「確かあの時はバムスターが数十体以上いたな」

 

「じゃあそこまで酷い国じゃないな。バムスターはトリガー技術がない国や劣ってる国に対して便利だけど、雑魚の割にコストが高いから貧乏な国は余り使わないんだよ。俺を拉致したディボロのトリオン兵はトリオン体になれば簡単に倒せるくらいの粗悪品だったし」

 

バムスターはトリガー技術がある程度持っている国に対しては役に立たないしな。

 

「だからそこまで酷い扱いは受けてないと思うが、あくまで拉致した国に逆らわなかったの話だ。逆らった場合は碌な扱いを受けない事は覚えておけよ」

 

「わかった。情報感謝する」

 

「構わない。んじゃ俺の拉致された事を話すぞ」

 

その言葉に隣に座るハルちゃんが不安そうに見上げながら手を握ってくるので、問題とばかりに優しく握り返してから口を開ける。

 

「ディボロに拉致されてから2年ちょっと奴隷として最前線で戦ったな。まあ俺は超直感の副作用持ちで、子供の頃から運動してたからトリオン体の扱いも悪くなかったし、それなりにやっていけたな」

 

とはいえ最初は戦場にビビって、前に進めなかったり、逃げようとしたりと散々だった。まあ逃げたことによって拷問を受けてからは逃げなくなったけど。

 

「で、ある日15年近く奴隷をやってるまとめ役のリーダーが反乱を起こすから協力してくれって言われて俺達はそれに乗った」

 

参加して負けたら殺されるだろうが、参加しなくても戦場や拷問で死ぬ可能性は充分あったからな。

 

「反乱の細かい流れは省くが、俺達は奇襲を成功させて、一気に王城に乗り込めた。そこで王様を人質に取って遠征艇を奪う流れだったが、ここで黒トリガーという予想外の切り札に襲われた」

 

「黒トリガー……さっき渡してくれた二つのうちのどちらかかね?」

 

「輪っかの方だ。ソイツの能力は大量の輪っかを取り出して射出するものだが、一度捕まると対象のトリオンを封じ込める。つまりボーダー隊員が捕まると脱出機能も使えなくなる」

 

「そんな効果があったのか?しかし君達はそのトリガーの性能は知らなかったのか?」

 

「というか存在自体知らなかったな。後から知ったがその黒トリガーは玉座を守るためだけに利用してるらしく、最前線にいた俺達には縁がなかったんだよ」

 

アレを知っていればもう少し犠牲者を減らせたと思う。

 

「それで捕まった仲間は近衛兵によって次々に殺されて、兵士も反乱に気付いて、近衛兵と挟み撃ちにしようとして、完全に負けだと思ったな。そんな中でリーダー、並びに10年以上奴隷をやっていた先輩達10人が禁断の一手を打った」

 

「禁断の一手……黒トリガーになったのか?」

 

ジンが口を挟んでくるので頷く。

 

「よくわかったな」

 

「実はボーダーでも世間に認知される前に似たような事があったんだよ。アリステラ防衛戦がそれで、俺達の仲間からも2人黒トリガーになったよ」

 

迅は腰に差した棒を揺らすが、アレは仲間が命を賭けて作ったようだ。

 

「なるほどな。で、俺達の時は10人中、6人が黒トリガーになることに成功して、残った俺達が託された黒トリガーを使って、遠征艇を操作出来る開発者以外、全員皆殺しにした。その後は生き残った奴隷を元の国に帰すため、黒トリガー持ちが各リーダーとなってバラバラにディボロを去って、最後に残った俺がマザートリガーを破壊して、星そのものを滅ぼした」

 

そこまで話すとキド達の顔に驚愕の色が浮かぶ。

 

「マザートリガーの破壊は出来るものなのか?それに昨日から思ったが、君の黒トリガーはどんな効果を持っているのかね?」

 

キドにそう言われたので俺は絶牙を机に置き、口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の絶牙の効果は単純で、認識したものを全て斬る能力だ。物資以外に事象や感情だろうと何であろうと斬る事が出来る。この世界に来てから斬ったのは脱出機能、俺と狙撃手との距離、俺とナスとの距離、俺とボーダーとの距離だな」

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