「ふぅ……」
俺は備え付けの風呂で身体を洗って部屋に戻る。向こうの世界には石鹸などはあるが、こっちの石鹸やシャンプーのほうが性能が良い。やはりこの世界はトリオン以外にも技術が沢山あるからな。
「ハルちゃんは帰ったし……どうしようか」
ハルちゃんは既に家に帰ったが、明日朝一に来ると言っていたしそこまで不安はない。
「よし、売店に言ってみるか」
既に売店の場所やお金の使い方はハルちゃんに教えて貰ったし、金もハルちゃんが置いていってくれた。後は俺が勇気を出すだけだ。少し緊張するが、やってみよう。
金を持って、絶牙を黒いケースに入れてから部屋を出る。そして貰った地図を参考にエレベーターに乗って1階に降りる。
そして目的の売店に入り、おにぎりとパンを明日の分を含めて6つ、ペットボトルのお茶を買う。
特に問題なく購入出来た俺は売店から出ると人とぶつかってしまう。
「っ。済まない」
「いやいや。こちらこそ余所見をしてたからお互い様……おや?」
不思議そうに呟かれたので見れば、緩やかな雰囲気を出す女子がいた。ハルちゃんと同じ格好をしているな。
「誰かと思えば例の帰還者君ではないかね。ボーダーに保護されたのかね?」
「そんなところだ。お前はハルちゃんと同じ格好だが、同じ部隊の人間なのか?」
「違うよ〜、これはオペレーター専用の服……って、オペレーターってわかるかね?」
オペレーター……どっかで聞いたな……あ、もしかして。
「ネットナビを操作する人の事だよな。俺が拉致された間にネットナビが実現したのか?」
俺がそう尋ねると目の前の女子は楽しそうに笑う。
「残念だからまだ実現してないよ〜、でもそう答えるって事はエグゼが好きなのかね?」
「宇宙の巨人に全然勝てなかったのは覚えてるな」
「デューオだね。アレは確かに慣れるまでが大変だったよ。ちなみに他に好きなゲームはあるかね?」
「ハルちゃんや妹とスマブラはよくやってたな」
ハルちゃんが下手で負けまくって拗ねていたのは覚えてる。
「スマブラ?だったら今から一緒にやるかね……あ、勝手な行動は大丈夫なの?」
マジか。懐かしいから是非やりたいな。
「基地の外に出る時はハルちゃんの同伴が必要だけど、基地の中なら黒トリガーを出さないなら問題ない」
「じゃあ問題ないね。折角地獄から帰ってきたんだし、思い切り楽しんだ方が良いよ」
「考えとく……あ、そういや名前を聞いて良いか?」
「私?国近柚宇だよ。君は井口直次君だよね?」
「いや、第三者に帰還者とバレないようにキドの親族と扱われるからキド直次だな」
「そうなんだ〜、流石に城戸君は気が引けるし、遥と同じナオ君で良いかね?」
「問題ない。カホちゃんもナオ君って呼ぶようにしたからな」
「おろ?みかみかとも知り合ったんだね。じゃあ私も柚宇ちゃんで良いよ〜」
「了解した。よろしくなユウちゃん」
「じゃあ行こっか」
「あ、その前に飯を食べて良いか?」
元々飯を買いに売店に来たからな。
「全然良いよ〜、折角だしナオ君の借りている部屋に行って良いかな?」
ユウちゃんはそんな風に言ってくる。行くのは構わないが……
「ユウちゃんの立場からしたら特に面白いものはないと思うぞ」
「まあそれならナオ君がいない間のゲームの歴史を話すよ」
それは楽しみだな。エグゼやポケモンあたりはどこまで進んでいるのか興味がある。
俺はユウちゃんの言葉に頷いてエレベーターに乗って自分の部屋がある階に止まる。
「あ、この階なんだ。私の部隊の作戦室もこの階なんだ」
「なるほど。というか作戦室でゲームをやるのか?傭兵時代、幾つかの国の作戦室に入ったが娯楽物はなかったぞ」
まあ向こうの世界には脱出システムがないから、緊張感の度合いが違うからかもしれないけど。
「ボーダーの作戦室は第二の自宅って考えてる人も結構いるからね。というか傭兵?奴隷じゃなかったの?」
「いや、2年ちょっと奴隷で、反乱起こして国を潰してからは奴隷仲間を元の国に返して、こっちに帰ろうとしたら遠征艇を壊されて傭兵活動をしていたな」
「傭兵ねぇ〜、流浪の傭兵と言ったらお酒や女性を嗜んだのかね?」
こっちの世界では傭兵ってそんな風に思われてるのかよ。
「酒はそこそこ嗜んでたが、女を味わった事はないな。大半が俺を味方につけようとした国の手先だったし……ん?」
話していると俺のが借りている部屋の前に複数人の女がいた。
「あら、ちょうど帰ってきたわ」
長髪の女性がそう口にすると一斉にこっちを見てくる。
「貴方が例の帰還者の井口直次君、で良いかしら?」
先頭にいる金髪の女性が話しかけてくる。
「ユウちゃんにも言ったが、今の俺はキド直次だ。キドの親戚と名乗るようになった」
「あらそうなの?じゃあ城戸君で良いかしら?」
「任せる。で?複数人で何の用だ?こっちの状況は少し知ったが、向こうの情報を欲しいのか?」
「それはそれで興味はあるけど、別件よ」
「じゃあどんな用だ?というか名前を聞いて良いか?」
「確かにこちらの名前を言わないでお願いするのは筋が違うわね。私は加古望。加古隊というチームを率いているけど今後組むことがあったら宜しくね」
「月見蓮よ。宜しく」
「私は氷見亜季。頼み事に加えて聞きたいこともあるから時間を取らせてくれない?」
「草壁早紀です。入隊したのなら宜しくお願いします」
4人が順番に自己紹介をしてくる。
「宜しく。で、4人は俺に頼み事が、ヒヤミは聞きたい事もあるんだな。じゃあさきにヒヤミの話を聞こう」
「ありがとう。実は私のチームメイトは弟が拉致されたんだけど、貴方の過去を聞いて凄く不安になっているの。実際のところ、どの国も拉致した人間に対しては扱いが悪いの?」
「さっきシノダにも聞かれたが、俺を拉致した国が酷過ぎるだけでは大抵の国は逆らわなければ理不尽な行為はしてこない筈だ。で、当時の状況を聞いたが、コストがそこそこあるバムスターを大量に導入した事からそれなりに豊かな国で、多分そこまで酷い国じゃないと思うというのが見解だ」
「ありがとう。これを話せば少しはマシになるかも。私から聞きたい事はこれだけ」
ヒヤミは小さく頭を下げてくるので会釈をして返す。
「じゃあ頼み事を聞こう。何だ?」
「ええ。さっき綾辻ちゃんに会ったのよ」
「ハルちゃん?それがどうかしたか?」
「どうしたもないわよ。数時間前に会った時に比べて圧倒的な美しさになっていたから事情を聞いたら、ありとあらゆる要素を斬ることが出来る城戸君の黒トリガーによって美しさの邪魔になる要素を全て斬って貰ったって返したのよ」
あ、なるほど。要は同じように斬って欲しいという訳か。実際向こうの世界で1人の女子にやったら、他の女子も私も私もと要求したからな。
「え?ナオ君のトリガーってそんな凄い効果なんだ」
「まあな……話はわかった。全員に対して斬ってやるから部屋に入って飯を食わせろ」
「本当?どうもありがとう。じゃあお邪魔して良いかしら?」
「問題ない。というかユウちゃんに対しても斬ろうか?」
「じゃあお願いしよっかな」
ユウちゃんも了承したので俺は5人を連れて自分の部屋に入るのだった。
「ん?何だあれ……おっ!加古さんに月見さんに草壁ちゃんに氷見先輩に国近先輩とA級美女が、男の部屋に……凄え!」
6人が部屋に入った直後、防衛任務を終えて今から狙撃訓練場に行こうとした「本物の悪」別役太一は今の光景を見て驚きの声を上げていた。