異世界配信 ~スマホ一つで地球へ配信しながら元の世界を目指します~ 作:JOJI
職員に案内された先は、小さな個室だった。部屋の中は十畳ほどの広さ。余計な装飾はほとんどない。
中央には白い石で造られた円形の台座。その上には、人の頭ほどもある透明な水晶玉が静かに置かれていた。そして四方の壁には、それぞれ赤、青、緑、黄を基調とする何かの紋章が埋め込まれている。
どれも淡く輝いており、不思議と視線を惹きつけられた。
(思ってたよりシンプルなんだな……。)
神殿のような厳かな雰囲気を想像していたが、必要最低限の物しか置かれていない。
それでも、この部屋だけはどこか神秘的な空気が漂っていた。
職員は水晶玉の横へ立つと、穏やかに説明を始める。
「難しいことはありません。この水晶へ両手を添えてください。力を入れる必要も、魔力を意識する必要もありません。水晶が自動的に魔力の流れを読み取り、四つの適性を判定します。」
「それだけですか?」
「はい。数秒で終わります。」
ずいぶん簡単なんだな、健康診断くらいの気軽さだ。メリーナにスマホを持ってもらい、伊織は台座へ歩み寄る
「それじゃあ、お願いします。」
水晶へ両手をそっと添えた。ひんやりとしている、まるで水に触れたような感触だった。
その瞬間――
透明だった水晶の奥に、小さな光が灯る。
「……!」
淡い光がゆっくりと広がり、壁の四色の紋章へ流れ込んでいく。
最初に反応したのは――青。
青い紋章が一瞬で強い輝きを放ち、部屋全体が淡い蒼光に包まれた。
「……これは。」
職員が思わず小さく声を漏らす。
続いて黄色。こちらは落ち着いた、安定感のある光。
そして少し遅れて赤が弱く点灯する。
最後に緑が、かすかに灯った。
数秒後。
すべての光が静かに消えていった。職員は水晶を確認すると、穏やかに頷く。
「終わりました。」
「どうでした?」
「かなり制御適性が高いですね。」
青い紋章へ目を向ける。
「あれだけ強く反応する方は、それほど多くありません。」
続いて黄色を指差した。
「変換適性も高い水準にあります。将来的には魔道具や付与魔法との相性も期待できますね。」
赤と緑を見る。
「放出は少し平均より低めで循環はかなり低いですが、ご安心ください。」
「魔力適性は得意不得意を示すものです。使えないという意味ではありません。努力すれば、どの系統の魔法も習得できます。」
メリーナが安心したように微笑む。
「よかったわね。青が高いのはとてもいいことなのよ?」
「ええ。制御系は魔力を丁寧に扱う素養が高いという事ですから。」
職員はそう説明しながら記録用紙へ結果を書き込んでいく。
伊織も胸を撫で下ろした。
(思っていたより、あっさり終わったな。)
終わってみれば、健康診断の結果を知ったくらいの気軽さだった。だが、これで俺も魔法が学べると思うととてもワクワクする。メリーナからスマホを受け取るとコメント欄でも
___
:制御が高いってことは制御が高いって事
:↑小泉構文やめい
:想像が広がリング
:変換が高いと何があるんだ?
:魔法の授業来るかな?
:エルビさん昔は剣士らしいから、魔法は専門外じゃね?
:メリーナ先生来る?
___
こんな感じの様子だった。やっぱり、みんなも魔法には興味津々のようだ。
検査結果がまとまるまで少し時間がかかるらしい。ホールの椅子に腰掛けて待っていると――。
ピコン
とスマホが鳴る。気になって見てみると
────────────
異世界ライブ配信システム
新しい情報を取得しました。
────────────
「新しい、情報?」
その文字をタップすると
────────────
魔力適性
赤 放出 C-
青 制御 A+
緑 循環 D-
黄 変換 B
────────────
《お知らせ》
魔力適性を取得しました。
条件を達成しました。
PPショップ更新中……
更新完了
新カテゴリー
【魔法】
を解放しました。
────────────
「これって…」
___
:なんか表示された
:これ伊織の適正か?
:適正見れるのか
:便利だな
:ゲームみたいだ
___
どうやら視聴者からも見えるようだ、内容としては先ほどの検査通り青が高く黄が続いて高い。緑はかなり絶望的な低さに見えるな。
検査結果をもらって魔法協会を後にする。結果用紙は高中小で表現されているだけで、スマホの内容とほとんど一緒だ。違いとしては、備考欄に習得する魔法の方向性のアドバイスが記載されているところだろうか。これは素直にありがたい。
「カジートさんとメリーナさんの魔力適正ってどんな感じだったんですか?」
「俺は、赤が中で他は全部小だったな。」
「私は、青と緑が中で他は小だったわね。」
「なるほど…」
魔法協会を出ると既に昼下がりの陽射しが石畳を照らしていた。街路を歩きながら、俺はもう一度スマホを開く。
「魔法……。」
新しく追加された項目をタップする。
────────────
【魔法】
・習得魔法
・魔法図鑑
・魔法補助
・魔法適性
────────────
試しに習得魔法の欄をを開いてみると空白だった、同じく図鑑の方も空白だ。おそらく、まだ一つも魔法を覚えていないからだろう。
「……補助?」
試しに開いてみる。
────────────
【魔法補助】
現在利用可能
・魔力操作補助 Lv1
300PT
・魔力感知補助 Lv1
300PT
※補助機能です。
魔法そのものを習得することはできません。
────────────
「……なるほど。」
思わず苦笑する、少し期待してはいた。ボタン一つで魔法が使えるようになるのかと。だが、そんな都合のいい話ではないらしい。
説明欄を読む。
────────────
魔力操作補助
魔力操作の練習を補助します。
使用者自身の訓練は必要です。
────────────
「補助、か。」
つまり努力は必要ということだ。だけど、少し安心した。
もし本当に魔法を買えるなら、この世界で何年も修行してきた人たちに申し訳ない気がしてしまう。その時だった。
「どうかしたの?」
スマホを見つめる俺を見て、メリーナさんが声を掛ける。
「あ、いえ……魔法について少し考えてました。」
「ふふっ、楽しみなのね。」
「はい。」
正直、かなり楽しみだ。せっかく異世界へ来たんだ。剣だけじゃなく、魔法も使ってみたい。そんな俺を見て、メリーナさんは少し考えるように微笑んだ。
「それなら、帰ったら少し教えてあげましょうか。」
「えっ、本当ですか!?」
「ええ。基礎だけならね。」
思わず表情が明るくなる。するとカジートさんが豪快に笑った。
「はっはっは! 今度は魔法修行か。忙しくなるな、坊主!」
「望むところです!」
コメント欄も一気に流れ始める。
___
:メリーナ先生きたあああ
:魔法講座始まる?
:これは神回の予感
:基礎から見られるのありがたい
:魔力操作って何するんだろ
:剣術の次は魔法編か
:先生いるから実技見られそう
___
どうやら視聴者も、俺と同じくらい楽しみにしているらしい。
異世界へ来て約一か月、次に始まるのは――魔法使いへの第一歩だった。
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