異世界配信 ~スマホ一つで地球へ配信しながら元の世界を目指します~ 作:JOJI
充電が切れ、真っ暗だったスマホが不意に起動した。画面には見覚えのない文字が浮かび上がり、何かのロード画面へと切り替わる。
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設定進捗率 2%
地球との通信経路を構築しています……
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「なんだ、これ……?」
さっきまで電池切れだったはずだ。電源を押した覚えもない。
よく分からないが壊れた訳ではなさそうだ、地球との通信経路だとか配信者登録だとかの文字が見えるがこのスマホに何が起こっているのか。
そんな事を考えていると、扉が開く。現れたのは若くて美人な女性だった。金色の長い髪に今時見ない古めかしい感じの服装でフリルの丈の長いスカートを履いている。特徴的なのは、金髪の隙間から覗く長い耳だった。
まるでファンタジー作品に出てくるエルフだ。
(…コスプレ? いや、それにしても耳まで作るか普通…)
女性は起き上がっている伊織と目が合うと微笑んで近づいてくる。
「良かった、目が覚めたのね。1日中寝ていたから心配したわ…。」
「1日中も…」
窓の外を覗くと、ちょうど日が沈む頃だ。窓の外には住んでいた地域では見ないような畑が広がっていた。
「まだ、足は痛むでしょう? 薬草で処置はしたけれど、まだ無理はしない方がいいわ。」
「あ、はい…あの、ありがとうございます。助けてくれて…」
「いいのよ、お礼なら夫に言って…森がいつもよりザワついているのを不思議に思った夫が探索に出ると言い出したのよ。」
「おぉ、坊主! 気がついたか!!」
扉の先から大きな声が聞こえると、40代後半くらいに見える男性が入ってきた。茶髪の短髪に薄い皺を蓄えた渋い顔立ち、服越しから分かるほどに逞しい筋肉がとても印象的だ。まるで、壮年のアー〇ルド・シュワル〇ネッガーのようなイケおじだった。
「あら、あなた。あまり大きな声を出さないの、この子がビックリするでしょう?」
「おっと、すまんすまん。それより坊主、腹が減っただろう。詳しい話は飯の後にしよう!」
「え、い、良いんですか!?」
─ぐぅ〜
その話を聞いた瞬間に、思い出したかのように腹の虫が鳴り出した。
「はははっ!勿論だとも、メリーナこの子の着替えを手伝ってあげてくれ。」
「分かりましたわ。」
俺の古で悪いがなっ!と言い残して去っていく男の後にメリーナと呼ばれた部屋に残った女性が、どことなく中世の庶民が着ていた感じの服を取り出して着せてくれる。
流石にズボンだけは自分で履くと言って断った。……そういえば、俺の服は誰が着替えさせたんだ?
…考えないことにしよう。そうして着替えを終えるとメリーナに支えられながら、リビングらしき所へと案内される。料理が並べられた机と4つの椅子が置かれている、そのひとつに座っている男性の向かいの椅子に案内され、メリーナは男性の隣の席へと着いた。
(…なんか、どこか古いというか…最近の田舎ってこんな感じなのかな…?)
目覚めた部屋にここに来るまでの廊下、このリビングに至っても家電がひとつも見当たらない。天井には照明は着いてないし、自分がいま着ている服と2人の服装も古風な感じがする。どことなく原始的とまでは言わないが、今どき電気製品を使わない田舎も珍しいのではないか。
「改めて、俺はカジート。こっちは妻のメリーナだ。」
「よろしくね。」
「あ、はい…よろしくお願いします…」
外国の人か? 日本人って顔立ちでは確かになかったが、俺は一体どこに迷い込んだんだ。そう思いながら、こちらも自己紹介をする。
「俺は
「…タナカ、イオリ?」
「聞かない感じの名前ね…? 出身はどこなのかしら?」
「…え?」
日本人を知らない?そんな事あるのか、日本で住んでいて?いやそもそも、ここは日本なのか? そもそも、こんな美人コスプレイヤーとイケおじが住んでいる田舎が話題にならないはずが無い。今はSNS時代だぞ、こんな美人とイケおじをネトカス共が放って置くはずが…等、考え事が飛躍していく伊織を見かねてかカジートが助け舟を出す。
「メリーナ、無理に聞かなくても良いじゃないか。かなり訳があるんだろう、混乱しているようだしもう少し時間を置いてからでも良いじゃないか?」
「あ、そうね。ごめんなさいね、昨日は大変だったでしょうに無理に聞いてはいけないわよね。」
「い、いえ…そんな。こちらこそすみません…。」
めっちゃ良い人…と心の中で呟くと、机の上にある料理に視線が向く。野菜と思われる物が入っているスープに黒いパン、香草の香りがする燻製肉が少しと今まで見たことのない種類の料理が並んでいる。少なくとも、現代の家庭料理に並ぶラインナップでは無い。
しかし、その香りは凄く食欲を誘う。2日もまともに飯を食べていない腹が存在を主張する。
「ふっ、すまない。冷める前に食おう!」
「今日は野菜スープと燻製肉だけだけど、ごめんなさいね。」
「い、いえ…ありがとうございます。」
むしろ同じ2人と同じ量を頂いていることに申し訳なさがあるほどだ。しかし、遠慮をするほどの余裕はない。ありがたく、両手を合わせる。
「いただきます」
2人が少しだけ首を傾げる。
「それは?」
「え、えっと…食べる前の、挨拶です」
「ほぉ、食前の祈りか! 聖王国以外で使っている場所があるんだな!」
「素敵な習慣ね。」
「聖王国のより堅苦しくなくて良い言葉だな! よし、じゃあ今日から家でも使うか!」
そういうと、2人も両手を合わせて「「いただきます」」と言うと食事に手を付け始める。
「…」
なんだか、毒気が抜かれるような気分を味わいながら伊織も食事に手をつける。木製だが、食器に大きく違いはなくスプーンでスープを味わう。
「美味しい…」
「あら、口に合って良かった。」
「良かったな!こいつ村以外の客人に料理を振る舞うのは初めてだからか、ずっと大丈夫かと心配していたんだぞ」
「もう、言わないでください!」
「あ、あはは…」
家の両親でも全く見たことがないほどにラブラブだ、見たところ夫婦になって長そうなのに…口が甘くなりそうだ。と、塩っ気の強い燻製肉を口に放り込みながら思う。
「しかし、森の魔物も最近増えたな。」
「近くの村も被害に遭ったそうよ。」
「今年は王都から討伐隊が来るといいが…」
魔物…討伐隊…まるで、ファンタジー作品に紛れ込んだようだ。いや、まさか本当に?
「…あ、あの! 失礼かもしれないですけど、その耳って…」
そこで伊織は思い切ってずっと気になっていたメリーナの長い耳について聞いてみる。その質問にメリーナはきょとんと首を傾げる。
「耳?」
メリーナは髪をかき上げて、髪に隠れていた付け根まで見えるように見せてくれる。しっかりと付け根から先端までしっかり生えた先の長い耳だ、当然地球上では書物上でしか存在しない人種だ。
「エルフを見た事が無いんじゃないか? 最近は人族の地域にくるエルフは珍しくは無いが、多くもないしな。」
「エ、エルフ…」
「そうね、まだ国は鎖国に近い状態だし。知らなくても仕方ないかもしれないわ。」
エルフ、神話とか現代だとファンタジー作品でよく登場する人種だ。いや、そんなのはどうでもいい。本物か、本物だろう特殊メイクにしては質感がありすぎる。
嫌な予感を抱えながら、伊織は食事を進めて食べ切ると2人が食べ終わったタイミングで切り出す。
「あの、ここって日本ですよね?」
2人は顔を合わせて首を振ると、答える。
「……聞いた事のない国だな。」
「…ごめなさい、私も知らないわ…。」
「っ! じゃあ、アメリカは? イギリスとか?」
そこで、イオリは思いつく限りの国名を聞いてみたが全て知らないと答えられる。2人の様子を見るに嘘をついている様子はない。
エルフがいて、魔物がいて討伐隊やら知らない国の名前が出てくる。
ここは地球では無い。
「…異世界転移ってやつか…」
─ピコン
机に置いていたスマホが再び光る。夫婦は食器を片付けていて気が付かない。
──進捗率50%─
「…もしかしたら…」
充電が無いはずのスマホがこうして動いている、何か超常的な力が働いていることは確かだ。このスマホが、この状況を解決するための鍵になるかもしれない。
「坊主。」
すると、カジートが伊織の前に腰を下ろす。
「お前がかなり厄介な状況になっている事は俺でも理解できる、整理する時間も必要だろう…今日はゆっくり休むと良い。」
「行く宛てが無いなら、しばらく家に居るといいわ。部屋なら空いているもの。」
「え…?」
見ず知らずの人間を、普通ここまで助けるのか?そんな伊織の疑問を感じ取ったのか、カジートが語る。
「昔な、俺も旅先で知らないやつに助けられて世話になった事があるんだ。だからって訳じゃないが…まぁ、今度は俺の番ってやつだな。」
「…」
そんな事で、とは思ったが嘘という感じはしない。この人達は信用できる、そう思う。
「ありがとうございます、お言葉に甘えて…しばらくお世話になります。」
「今日はここを使ってくれ。」
「客室だけど、自分の部屋だと思ってゆっくり休んでね。」
「はい、ありがとうございます。」
「おう!」
「何かあったら遠慮なく読んでね。」
そう言ってメリーナとカジートは部屋を後にした。
ベッドへ腰を下ろす。異世界、エルフ、魔物、知らない国、知らない世界。
現実離れした出来事ばかりなのに、不思議と恐怖は少なかった。
……あの二人がいてくれたからだろう。
「…」
─60%
─65%
スマホを見ると少しづつ進捗率とやらが進んでいる。おそらく、このスマホに何か秘密があるかもしれない。そうじゃなかったら、こんな現象は起きていないだろう。
ランタンの光が僅かに部屋を照らす中、伊織は数字を刻むスマホの画面をじっと見つめる。そして…
──進捗率100%─
──異世界ライブ配信システム─
──初期設定完了─
お気に入りと高評価よろしくお願いします(*^^*)