異世界配信 ~スマホ一つで地球へ配信しながら元の世界を目指します~   作:JOJI

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第5話 ……書けません。

 

 

 カジート達と村の奥へと足を進める。その間にも、コメントの質問に答えたり村人と会話したりと寄り道があったがようやく他の家より一回り大きな石造の家にたどり着く。

 

 木の柵に囲われ、庭の手入れが行き届いている。

 

「ここが、村長の家だ。」

 

 そういうと、カジートが扉を叩く。しばらくすると、年老いた男が出てくる。頭は寂しいことになっているが大きな髭を蓄え、腰は曲がっておらずどこか知的な雰囲気を感じる老人だ。

 

「おお、カジート。珍しいのう。」

 

「よう村長、実はこの坊主について相談があるんだ。」

 

「ふむ、君が噂のカジート夫妻が拾った青年かな?」

 

「はい、田中伊織です。」

 

「ふむ、変わった名前じゃな。苗字があるのも珍しい。ワシは村長のエルビじゃ、よろしくのう。立ち話もなんじゃ、中に入りなさい。」

 


:村長!

:禿げてる

:髭ながい!

:ハゲ

:優しそう

:髪が…

:賢者っぽい

:髪の話はやめてあげて

:異世界でも禿げるのか


 

 コメントの6割ほどが村長の頭部に触れているのは見なかったことにしよう、そう思いながら伊織はカジート達に続いて村長宅に入っていった。

 

 

 中央に机とそれを挟むようにソファーが二つ置かれ、奥には書斎机が置かれ、その周囲の壁という壁を本棚が埋め尽くしている。仕事部屋なのだろう。

 

 村長が座った対面のソファーにカジート達と続いて伊織も座る。そのあと、村長の奥さんと思われるおばあさんがお茶を運んできてくれる。

 

「それで、話というのは?」

 

 伊織が不安そうにカジートとメリーナを見ると、伊織の不安を感じとったメリーナが手を握ってくれる。カジートが口を開く。

 

「坊主、いや、イオリ。村長は信じられる人だ、話しても悪いようにはしない。」

 

「…分かりました。村長さん…実は、僕はこの世界の人間ではありません。」

 

村長は眉一つ動かさず、静かに続きを促した。

 

「続けなさい。」

 

 そこから、地球という星の日本という国に住んでいたこと、突然霧に包まれたかと思えば森にいたこと、遭難して魔物に襲われたところをカジート夫妻に助けられたところまでを詳細に話す。

 


:悲惨すぎる

:これマジ?

:魔物いるのか

:コンビニにも助けられたな

:息子を助けてくれてありがとうございます

:魔物怖え

:カジートさんたちにマジ感謝だな

:それな

:いま親御さんいなかった?


 

 伊織の話を最後まで聞いていた村長が、口を開く。

 

「その話が真実だとして、一つ聞こう。」

 

「はい。」

 

「君自身は、どうして自分が異世界から来たと確信した?」

 

 伊織は少し考えて質問に答える

 

「一つは魔物です、現代の地球にはあんな化け物はいませんでした。二つ目はエルフです、こちらも地球にはいない人種です。三つめは二つの月です、地球には月は一つしかありませんでした」

 

「ふむ…」

 

「それに、この道具が……」

 

 スマホを机へ置く。村長はその道具を不思議そうに見つめる。

 

「この道具は今、地球に繋がっています。」

 

「なんと、それは本当かね」

 

「はい」

 

 村長はスマホに顔を近づけて観察する。内カメラになっているため、スマホの画面には村長の顔面が映っている。

 


:いぇーい、村長さん見てる~?

:ちけぇ

:スマホの充電持つ?

:めっちゃ画質のいい爺さん

:じじいよりメリーナさん映せ


 

「わしの顔が映っておる、それに何か文字が書いているようじゃが?」

 

「あ、はい。今その画面に映っているものを地球にいる人たちが見ていて、見ている人数と見てる人たちの言葉が書かれています」

 

「……本当に繋がっているなら。」

 

 村長はスマホをもう一度覗き込む。

 

「何か、向こうへ問い掛けることはできるかね?」

 

「やってみます。」

 

 伊織はカメラを持ってエルビの隣へと座る。

 

「皆さん、この人が村長のエルビさんです。」

 

コメントが一気に流れる。

 


:こんにちは!

:村長さん!

:お辞儀してる!

:めっちゃ優しそう

:ハゲいじってごめんなさい


 

 伊織は思わず苦笑した。

 

「……だそうです。」

 

「ほう、少し読んでもよろしいか?」

 

「はい。」

 

村長はスマホのコメントの文字をゆっくり追う。

 

「『こんにちは』……『優しそう』……。」

 

 少し笑う。

 

「なるほど…これは確かに、人の言葉じゃ。しかし、なぜこれは君の世界に繋がっているのかね?」

 

「昨日までは動かなかったんです…でも突然、この機能だけが使えるようになりました。どうしてなのかは、僕にも分かりません。」

 

「……少し妙じゃな。」

 

「え?」

 

「君は先ほど、"地球"や"日本"という聞いたことのない言葉を使った。つまり、本来なら我々の言葉は話せぬはずじゃ。」

 

 そこまで言われて伊織もハッと気づく。確かに異世界には異世界の言葉がある筈だ、今まで自然と話せていたため違和感を持たなかった。

 

 村長は立ち上がり、書斎机から紙とペンを取り出すと伊織の前に置く。

 

「試してみよう、この文字は読めるかね?」

 

「……こんにちは。」

 

「では、こんばんはを書くことは?」

 

 ペンを動かそうとした。しかし、何を書けばいいのか分からない。頭の中には意味だけがある。だが、その形が思い浮かばない。

 

「……書けません。」

 

「違う……。君は書けないのではない、文字そのものを認識しておらんのじゃ。君は、この文字を理解している。しかし、知っている訳ではない。」

 

「…なるほど。」

 


:鳥肌たった

:やべぇ

:どういうこと?

:俺たちも読めるのやばくね?

:確かに

:俺も書けない

:書けない

:つまり、なぜか異世界語が分かるし話せるし読めるのに、書けないのがヤバい。

:鳥肌ヤバい

:何がヤバいん?

:理解力のクズがこの野郎…

:つまり翻訳されてるってこと

:読むのと書くのは別なのか

:AI翻訳みたいな感じ?

:理解はできるけど知識じゃないってこと?

:なるほど……


 

 

「君は我々の言葉を学んだ訳ではない、何者かの力で"理解させられている"。ならば、その力には必ず理由がある。」

 

村長は静かに立ち上がると、本棚へ向かって歩き出した。




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