異世界配信 ~スマホ一つで地球へ配信しながら元の世界を目指します~ 作:JOJI
翌朝。
良く晴れた日の下、カジート宅の庭先で伊織は木剣を持ってもう片手にスマホを持って立っていた。近くには木剣を持ったカジートとメリーナも立っている。
伊織は配信を開始する。朝早くというのにすぐに視聴者が増え始めた、朝食辺りから配信予約をしていたおかげだろうか?
「皆さん、おはようございます。今日はカジートさんに剣術を教えてもらいます。」
───
:おはよう!
:おはよう!
:おはー!
:通知来て即きた
:待ってた!
:剣術キター!
:修行!
:俺も練習する
:木刀持ってきた
───
コメントの流れが早い、流石に読むのは諦めて伊織はカジートに向き直る。
「カジートさん、今日はよろしくお願いします!」
「おう!ビシバシ鍛えていくから覚悟しとけよ!」
「はい!」
「まずは、お前がどこまでやれるか見てみよう。まずは…と、その前にその道具はどうするんだ? そのままやる訳にはいかんだろ?」
「あ、そうですね…」
「それなら、私が持っていてあげるわ。」
「え、いいんですか?」
「えぇ、ずっとという訳には行かないけれど…せっかくなら皆さんにもちゃんと見てもらいたいもの」
「はっはっはっ!任せちまえ!」
メリーナがそう言って微笑み、カジートも笑って賛成する。
「なら、お願いします!」
───
:メリーナさん天使
:マジ天使
:結婚したい
:これはもう俺の事好きなんじゃないか?
:メリーナさんの顔をもっと写して♡
:お兄ちゃん頑張って!
:いい匂いしそう
:スマホ俺と変われ
───
メリーナにスマホ渡して、簡単に操作を教える。
「この部分で画面に映像を写しているので、こうやって構えてくれたら大丈夫です。」
「なるほど…あら、私の顔が写っているわ?」
「あ、内カメラになってます!」
───
:かわっ!?
:ウッ!!
:悔いなし
:まつげ長!?
:ドアップ助かる
:俺氏、無事キュン死
───
なんやかんやありながらも、メリーナに撮影係を任せて伊織はカジートに向き合う。
「よし、まずはなんでもいい。剣を構えてみろ。」
「はい!」
伊織は剣道の授業を思い出しながら、構えてみる。そんな様子の伊織を、カジートは苦笑して肩を叩く。
「違う、そんな構えじゃ肩に力が入りすぎだ。」
カジートは伊織と似た構えを取りながら、語る。
「力を抜け、剣は振るために構えるんじゃねぇ。必要な時に振れるように構えるんだ。」
「…なるほど」
伊織は言われた通り、力を抜いて自然体になるように構え直した。
「おし、いい感じだ。まずは素振りをして見ろ、十回でいい。」
伊織は言われた通り、素振りを始める。ブンッ!と伊織は風を割いて上から下へ思いっきり振り下ろす。それを、3回繰り返したところで止められる。
「違う、早く振るな。真っ直ぐ振れ。」
「はい!」
伊織は言われた通り、今度は真っ直ぐ振るように意識して素振りを再開する。
───
:地味
:地味でも大事だろ
:剣道部の頃を思い出した
:俺も、まっすぐ振るのって意外とムズい
:この基礎、めっちゃ大事なんだろうな
───
伊織は十回振り終える。たった十回、それなのに汗をかき腕が震える。運動不足なのもあるだろうが、それでも意識して振るだけでもこんなに違うのかと伊織は思った。
「よし、次は足だ。」
カジートは伊織から少し離れて、木剣で地面に線を引いた。
「剣は腕で振るもんだと思ってる奴は多いが、実際は違う。」
カジートはそう言うと、1歩踏み込む。足音は少ししか立たない。
「剣は腕で振るもんじゃねぇ、剣は足で振るんだ。」
「……足で?」
伊織は首を傾げた、彼も剣は腕で振るイメージだったからだ。
「試しにその場で剣を振ってみろ。」
「は、はい」
言われるまま、伊織はその場で足を止めたまま木剣を振る。
「次は1歩踏み込んで振ってみろ。」
「はい!」
伊織は左足で地面を蹴り、一歩踏み込みながら振る。先程より自然と勢いが乗った。
「…あっ!」
「違いが分かったか?」
伊織は何度も頷きながら違いを思い出す。
「さっきよりも、軽く振った気がしたのに…」
カジートは木剣を肩に担ぎながら、伊織の足から順に指さしながら説明する。
「腕の力じゃねぇ。地面を蹴った力を腰、肩、腕、剣へと流すんだ。」
「だから足が大事なんですね」
「そういう事だ。」
───
:なるほどな
:勉強になる
:すげー、本格的だ
:実戦って感じがする
:剣道やってるけど分かる
:足大事なんよな
:HEMA勢だけど実戦っぽい
:現役来たw
:有識者おるw
───
「あなた、かっこいいわ。」
───
:メリーナさんの惚気が〜
:俺がカッコイイって?
:いや、俺だろ
:いや、俺だね
:メリーナさん、心の声が漏れてますよ
───
「形は最初は気にするな、まずは動ける事が大事だ。」
「はい!」
「剣は構えたままだ。まずは前」
一歩前へ踏み込む。
「戻る」
一歩後ろへ踏み込む。
「前」
「戻る」
最初は簡単だった。しかし、途中から速度が上がる。
「前!戻れ!右!左!左!右!前!右!後ろ!」
「うわっ!?」
とうとう、追いつかずに足がもつれて尻もちを着く。そんな、様子の伊織をカジートは笑いながら木剣で軽く肩を叩いた。
「目線を下げるな、足を見るな、相手を見るんだ。」
「はぁはぁ、はい!」
───
:やべぇ
:なんか、凄いな
:地味だけど、ためになる
:剣術は地味なのがカッコイイだろ
:地味な積み重ねが強くするんだろ、知らんけど
───
伊織が息を整えていると、カジートが木剣を構える。
「え」
「敵は待ってくれねぇ。前だけ向いて歩けりゃ生き残れるほど、甘くねぇぞ。」
そう言って、カジートは伊織に木剣を振り下ろす。伊織が慌てて飛び退く。
「違う!後ろへ逃げるな!斜めへ避けろ!」
「そんな事、言ったって!」
伊織は何度かカジートの剣を後ろへと避けると、カジートの剣に集中する。
(っ!今!)
伊織は一歩左斜めへ踏み込む、カジートの木剣が生んだ風圧が頬を撫で、髪先を掠めて通り過ぎる。
「そうだ、反撃の糸口は前だ。だが、真正面から受けるな。後ろに逃げれば相手の思うつぼだ、避けながら次の一歩を考えろ。」
「…はい!」
伊織の息が整ったのを見計らって、カジートは木剣を肩へ担ぎ言う。
「よし、最後に一回だけやる。俺に一本入れてみろ。」
「えっ?」
伊織は思わず聞き返す。
「む、無理ですよ!」
「安心しろ、本気じゃねぇ。だが、お前は本気で来い。」
カジートは静かに木剣を構えた。先程までの柔らかい笑みは消え、戦士らしい鋭い目になる。その空気だけで、伊織の喉が鳴った。
___
:空気変わった
:怖っ
:これが元冒険者…
:目が違う
___
「始め!」
伊織は覚悟を決めて駆け出す。
さっき教わった通り、足から。
一歩。
二歩。
三歩。
(肩の力を抜いて……。)
木剣を振り下ろす。しかし…
コンッ
軽い音が鳴る、木剣は受け止められていた。
「遅ぇ。」
「っ!」
押し返される、伊織はバランスを崩す。
「もう一回来い。」
伊織は踏み込む。今度は右へ回り込む。
カジートは半歩体を反らす。
それだけで、また届かない。
「間合いを見ろ、伊織。剣じゃねぇ、相手全体を見ろ。」
三回目。
次は伊織はまっすぐ突っ込む。しかし、途中で。左斜めへ回り込む。
カジートの眉が少しだけ動く。
「ほう。」
伊織は木剣を振る、カジートは受けない。一歩下がるが、しかし伊織の剣先が、服の裾を掠めた。
服の裾ではあるが、初めて剣が届いた。
「そこまで!」
鋭い雰囲気を解いて、カジートが笑う。
「一本とは言えねぇ。だが、今のは良かった。」
伊織は肩で息をする、汗が額から落ちる。
「……届いた。」
「届いたな、最初よりずっといい。」
___
:おおおお!!
:今の惜しい!
:当たりそうだった!
:成長してる!
:ちゃんと教えたこと使えてる!
:感動した
___
カジートは木剣を肩へ担ぐ。
「今日教えたことを忘れるな。剣より足、足より目、目より頭だ。考えて戦え。」
伊織は木剣を握り直し、力強く頷いた。
「はい!」
カジートは満足そうに頷く。
「早いが、今日はここまでだ。」
「ありがとうございました!」
伊織は深く頭を下げた。たった半日。
それだけなのに、腕は鉛のように重く、足は思うように動かない。それでも、不思議と嫌な疲れではなかった。
(……もっと強くなりたい。)
木剣を握った手には、まだ微かな震えが残っていた。その震えさえ、どこか心地よく感じた。
メリーナが笑顔でスマホを返してくれる。
「お疲れ様。」
「ありがとうございます。」
木剣とスマホを受け取りながら、伊織は小さく息を吐いた。
コメント欄には今もなお応援の言葉が流れ続けていた。
───
:お疲れ!
:いい修行回だった
:次も楽しみ!
:頑張れ伊織!
:絶対強くなれる!
:才能あるよ!
───
そのコメントに背中を押されるように、伊織はもう一度木剣を握り直した。
――明日も、頑張ろう。
※作者は剣術とかは未経験です、全て想像と各アニメ漫画ラノベなどのニワカ知識で書いてます。ご了承ください。
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