弊ワット戦記 〜愛しの雷神と偽旅人の夫婦旅〜 作:マクロソラックス-03(旧っっt)
ザザぁーん、ザッ、ザァーん...
ヒィ、ヨロヨロヨロ...ヒーィ、ヨロヨロヨロ...
今日の璃月沖の海はとても穏やかだ。波も低く、天気も快晴だ。陸の上ではどこぞの偉大なる占星術師がアビスの畜生相手に雷を落とし、周囲の全生命体を怯えさせていたのが嘘のようだ。
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!
そんな静寂の海を船体で切りつけながら大海原を走り抜ける変わったデザインのボートが一艘。そう、旅人とパイモンが金リンゴ群島でもらったウェーブボートだ。
「見えた、死兆星号だ!旅人!」
「あいよ、パイモン!信号を送信する!」
チカッ!チカッ!チカッ!(こちら天権様の依頼を受けた旅人とパイモンだ。接舷許可を求める。荷物を届けにきた。合言葉は......)
「よし、送ったぞ。どうだ、パイモン?なんか見えるか?」
「まだ何も......あ!返事だ!こちら...死兆星号...貴船の接舷を許可する...だって!」
「ようし、でかした!エンジン全開!」
死兆星号からの返事を受け取るや否やレバーを倒して一気に加速する。とてつもないGが内蔵を圧迫するような感じがするがそれもまた気持ちいい。その感触を楽しみながら俺たちはそのままボートを孤雲閣にある南十字船団の基地に進ませていく。
死兆星号にウェーブボートを接舷させた俺たちを出迎えたのは大柄な女性だった。ハイヒールで背を盛った凝光より頭半分ほど背の高い彼女の目は凄みを放っていて、実際よりさらに背が高く見える。凄みと言っても凝光のような商人や天下人の凄みではない。ジン団長や幕府時代の上司のような武人としての凄みだ。おそらく彼女がこの船隊の長である北斗なのだろう。
「荷物は確かに受け取った。ご苦労。しかし、凝光のヤツがこんな大物を使いパシリに寄越すとは思わなかった。」
「大物ってオイラたちのことか!?」
予想通り北斗と名乗った女傑は凝光からの荷物を受け取ると、俺たちを労ってそう言った。初対面の人に大物と評価されたからかパイモンはウキウキのようである。
「お前ら以外にいるもんか。この前、あの凝光が『ある旅人が魔神とファデュイの執行官を退け、璃月を救った。見聞が広く、実力も相当』ってお前たちを高く評価していたんだ。あの、目が高い凝光がだぞ!?」
ご冗談を。
「俺たちを買い被りすぎだ。あの時は調子に乗った若造をシバいて帰終機に群がるハエを片付けていたに過ぎん。神の目無しで弩級のデカブツ仕留めたお前さんと、魔神みたいな戦い方していた天権サマの方がすげえよ。」
「ハハっ!聞いていた通りに謙虚なやつだ。気に入った!是非とも南十字武闘大会に参加してくれ!」
んんん?
「南十字武闘大会ってなんだぁ?」
聞き覚えのない話が出てくる。隣のパイモンも覚えがないのか首を傾げている。凝光との会話でも武闘大会の話が出てきた覚えはない。ただ、
『稲妻に行くなら南十字船隊を頼るといいわ。北斗船長に話はつけておくから、ついでにこの荷物も届けてくれると嬉しいわ。』
と、だけ言われたのだ。そこからどうして武闘大会の話が出てくるのか、凝光から北斗船長に話がどう伝わったのか、不思議で仕方がない。
「......」
「......」
「......」
「......」
唖然とした俺らが沈黙した結果、死兆星号の甲板に寒々しい気まずい空気が流れてしまう。そして、このタルタリヤがいたら故郷を思い出してしまうレベルの寒々しさに、海竜を生身で討ち取った女傑は耐えられなかったらしい。恐る恐る口を開ける。
「え...おい、アタシはてっきりそれの申し込みに来たのかと思ってたが、違うのか?」
「違うぞ。オイラたちは凝光に、『稲妻に行くなら南十字船隊を頼るといいわ』って言われたからそっちを頼みに来たんだぞ。」
「そうだよ(便乗)」
「えぇぇ、そんな。アタシは凝光から...」
思わず北斗の目が点になる。俺はその点と目を合わせた時、俺たちの心は通い合い、一つの結論に至った。そして頷き、大きく息を吸う。
いっせーのーせ!
『『g凝おぉぉぉぉぉぉぉぉぉお、k光おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!』』
アンタ、お互い勘違いすることを分かっていて態とやったろ。玉京台のオフィスで絶対ニヤニヤしてるだろ。許すまじ。
「…という訳なんだ。お前たちにはどうしても我々の武闘大会に参加して欲しいんだ。先ほど言った通り優勝賞品は神の目。お前はちょうど神の目を持ってないからこれを機に手に入れてはどうだ?」
「うーん。旅人、お前はどう思うんだ?」
「申し訳ないが遠慮するよ。なるべく早く稲妻に行きたいんだ。」
「頼むよ。稲妻行きも副賞につけるから。」
「でもな〜。そもそも誰の神の目だよ。」
お互い落ち着いたところで再び交渉に戻るがお互い譲らず膠着状態に陥って半刻が経とうとしていた。一刻も早く稲妻に帰って任務完了報告(500年遅れ)と、例の任務に推薦してくださった方々の生き残りへのアイサツ(物理)をしたい俺と、俺という強者(?)を自分が企画する武闘大会に参加させることで武闘大会と船隊の知名度を上げてビジネスを拡大したい北斗船長。両者の思惑はぶつかり合い、平行線のままだった。
「おーい、万葉!アタシを手伝ってくれ。全く旅人がウンともスンとも言わないんだ!」
テコでも動かない俺に痺れを切らしたのか、北斗はマストの上の方を向いて誰かを呼ぶと、白い大きなものがフワリ、と降りてくる。白い髪に着崩した着物とブーツ、帯とベルトの二段構えという組み合わせの侍。もし小柄で赤いメッシュという要素がなかったら完全に某出版社から訴えられそうな出立ちの少年だ。そんな少年がゆっくりと近づいてきて俺とパイモンの匂いを嗅ぎ始める。なんだこれは。たまげたなぁ。
「其方たちが噂の旅人とそのお供でござるか。なるほど、お二人からは風と大地の匂い以外にも、何か少し・・・うむ・・・星空の匂いがするでござる。」
「「ファッ!?なんだこの兄ちゃん!」」
これって、俺が風元素と岩元素が使えることを見破ったって、コト?星空の匂い?(身に覚えは)ないです!
「アタシの連れが変なことを言ってすまないな。コイツは楓原万葉。訳あってウチで面倒を見ている。お前と同じ稲妻人だ。」
「よろしくでござる。」
北斗の紹介に万葉と呼ばれた少年は頭を下げる。楓原という苗字に語尾が「ござる」のたたら砂特有の方言、500年前の稲妻を知っている俺にはピンと来るものがあった。
「よろしく、万葉。ところでお前さん、楓原っていうと一心流の楓原かい?」
「よくご存知であるな。我が家は没落して久しいから一族で刀鍛冶をしているものは殆どいないでござるよ。」
「ええ...嘘やろ。うちの部署は一心流の刀が支給されてたから残念だよ。楓原百葉先生には随分お世話になったなぁ。」
「んん?楓原百葉?お主は何歳でござるか?」
「524歳、御家人です。」
俺がそう言った途端、万葉や北斗だけではなくパイモンすら固まってしまった。例の任務という体のいい処刑に参加したのが24歳の時、そこから500年封印されたんだから524歳で合ってるはずだ。皆しばらくポカンとしてからようやく万葉が口を開いた。
「うむ、やはり其方は面白い。底の見えぬ面白いお方だ。やはり其方はあの神の目を手にするに相応しいでござる。」
「其方には是非とも、この武闘大会の頂点に立ち、我が亡き親友の神の目に再び光を灯してほしいでござる。」
ファ!?
北斗船長を小物っぽく書いてしまった。ごめんツァイ。