「ブラックで」
「私はカフェラテで」
勧誘を受けた俺は時間もあるし、車に乗って街に入り、カフェで話を聞いていた
店員へ俺達は飲み物の注文をする。
「奢り?」
「もちろん会社経費」
俺が聞くと、ノープはニッコリと笑って経費で落とすと言った。
いい性格してるぜ。
「それで、どうして俺をスカウトに?」
「そうですね、何から話したものだろうか」
理由を聞くと女性は頭に手を当てて悩んでいる。恐らく複数の理由が重なって勧誘に至ったということが分かる。
「先ずは、我々の仕事が運び屋であることは把握していると思う」
「ええ」
ここからは要約するが、運んでいる物、売っている物もあって積荷を狙われる事もあれば、恨みを買って報復に来ることも多い。その為、女性は個人的なボディーガードを雇っている。その中でもモビルスーツを使っても含まれている。つい先日、モビルスーツのボディーガードが一人戦死してしまった。
そんな中、俺の部隊の襲撃事件を聞きつけた。ということだった。
「君の経歴は全て洗い出させてもらった。特に秀でていたのはモビルスーツ戦による撃墜記録だったわね。確か124機の撃墜だと」
立派なエースね。とノープは言う。
俺は珈琲を飲みながら、正式な軍との戦闘はほとんどありませんし、テロ組織の戦力がほとんどだと言う。
すると、ノープはフフフと笑って、
「貴方の活躍でここら辺のコロニーの治安は飛躍的に上昇したらしいけどね」
「そりゃ、サイド間での戦争でもタブーとされているコロニーへの直接攻撃をやらかすテロリストなんぞ、そのままにしておく訳にはいかんでしょ」
「確かに」
笑いながら同意の頷きをしながら同じように珈琲を飲んでいる。
コロニーに対する攻撃はサイド間の条約にも記載されており、この宇宙において大戦犯となる。
「話を纏めるとパイロットの空きが出来てどうするか悩んでいたら、偶然このコロニーに来て軍関係の商品を卸していた時に俺が丁度、解雇になる事を知ってスカウトしたと」
PMCか……。
思わず眉をひそめる。
民間軍事会社。
戦争を商売にする連中。
軍人だった頃は、正直あまり良い印象はない。
何だったら撃って撃たれての殺し合いをしたことだってあるし、何回も死にかけた。
それになんの因果か、俺はそっちになりかけている。まぁPMCは元々軍隊崩れが多いしな。
そう思うとなんだか笑えてくる。
俺は自傷気味に笑った。
「それだけではないけど、まぁ合ってるかな」
「それだけでない?」
「軍の報告書も読ませてもらったわ」
「……」
どれだけの権限があるんだ、この女……
普通、重要ではないだろうが、報告書なんて機密の一種だぞ……
「あなた、一度も部下を見捨てようとしていない」
「……まぁ、目の前で部下がやられるのは見たくないし、それに……」
「それに?」
「その方がカッコイイだろ?」
俺がそういうとノープは少しポカンとするとぶふっと噴き出して笑った。
ひとしきり笑った後、ひー笑ったと言って元に戻る。
「確かに部下や名前を見捨てないのは立派だわ。その上で任務もこなしているんだから更に立派」
「だろう?」
「それに……」
ノープは鞄からタブレットを取り出してこちらへ差し出してくる。
その画面には、俺が正体不明の機体に襲われている動画だった。
というかこれは……
「ちょ!おまっこれ機密情報」
「しー」
俺がここにあるはずのない動画データに驚くとノープは人差し指を立てた。
仕方ないので俺は黙ってこの動画を見る。特段におかしい所はない。遠距離からビームライフルで狙撃されまくって必死に回避運動をしながら、四肢をもがれながらデブリ帯へ逃げ込んで難を逃れた所で映像は終わった。
「これが何か?」
「貴方をスカウトするのに、一番決め手になったのはこの正体不明の機体と戦闘して唯一生還したパイロットだからよ」
「えぇ……」
「ふふ、動揺してる。だけどね、私の部隊に穴をあけたのもこの機体なの」
ノープは手を合わせて肘を机に着いてため息を吐いた。
「ではこの機体に復讐する為に雇われろと?」
「ああ。いやそういう事ではないんだ。勿論恨みはあるけど。こんな仕事だ、覚悟はしている」
「なら何故?」
「貴方、なんであの攻撃を避けられたの?」
「?」
「ここ」
ノープが動画を止める。
「この一秒前」
俺は画面を見る。
「この時点で貴方、敵を見ていない」
「……」
「それなのに回避している」
確かに。
俺は敵を視認していない。
なのに、無意識に左へ機体を振っていた。
その直後。
ビームが通り過ぎる。
「普通の人間にはできないわ」
何か高性能の感知装置でも積んでいたの?とノープは疑問を投げる。
なんだか、よくわからない物を見る目を向けられているけど、まぁいいか。
なんで避けられたのか、かぁ……強いて言うなら、
「感……かな?」
「感?」
「そう、感。というかそれでしか表現できない」
もっと詳しく言うなら、殺気というほどではないが、自身に危険が迫る攻撃についてだけは直ぐに気づくというべきか。
そのようにノープに説明すると興味深そうに聞いていた。
「なるほど、なんだかおとぎ話の『ニュータイプ』みたいね」
「ははっ、ニュータイプか。一時は思ったけどね」
何十年も前に流行った言葉だそうだが、余りにも定義が曖昧な上によくわからないということで廃れていった言葉だ。
何より……
「俺に人の思考だか、心だかを読める能力はないよ」
そんなのが居たら気持ち悪いだろ、逆に。と言って笑った。
「まぁ冗談はさておいて貴方のその感の良さ、パイロットとしての腕と実績。そして仲間を見捨てない性格。それらを加味して私は改めてスカウトするわ」
「フム……」
と俺は考える。再就職先を決めれるのは大分先だろうし、軍人だった経験も活かせるだろう。
それに軍は俺を切った。
それでも俺はまだモビルスーツに乗りたかった。
「俺もあの正体不明のモビルスーツについても気になる。復讐とかではないけど出会う事もアンタと一緒ならあるだろう」
「それでは?」
「そのスカウト、謹んでお受けする」
「そう、良かった」
ノープは右手を出した。
俺はその右手を掴んで握手を結んだ。
「これからよろしく。カイン」
「こちらこそ。社長」
俺は無職になった1時間後には再就職先を決めていた。
そしてその場でタブレットの画面を切り替えて、契約書の画面へと切り替える。
そこに名前を書けばこれから護衛としてPMCとなる。
ふと、財布を取り出して、中にあった軍籍剥奪で無効になったIDカードを取り出す。
つい数時間前まで、自分のちょっとした誇りだったものだ。
指先でなぞり、小さく息を吐く。
「……終わったんだな」
若干の寂しさはあるが、その未練を断つように俺はカードを財布の奥へしまい、契約書にペンを走らせた。
契約を交わして俺とノープは別れた。
ほとんど帰らないマンションの自室に戻ると、スマートフォンにノープからメッセージが来ていた。
『そうそう、正体不明のMSなんだけど、奇跡的にカメラに収められた画像があるから送っておくね』
そのメッセージの後に画像が送られてきた。
「……嘘だろ」
思わず声が漏れた。
画質は悪い。
それでも見間違えるはずがない。
V字アンテナ。
白い装甲。
二つ目。
教科書や歴史資料で何度も見た姿。
伝説の兵器。
『ガンダム』だった。
『ちなみに、この画像は社外秘だから誰にも見せないでね』
俺、出会って数時間なのに結構信用されているのか。