ある銀行の・・・   作:適当でいいです

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第15話

報告概要

 

【事業型ハイブリッドローン】

 

・契約者数:8,631名

・契約待機人数(再テスト組のみ):1,199名

・脱落者:88名

 

・加入者経営黒字率(事業のみ):89%

・加入者経営黒字率(事業+投資):92%

 

・(参考)生活資金月あたり40万円と仮定したときの加入者生活黒字率:76%

 

・保管ゴールド総額:2億3661万円

・保管ゴールド重量:約12kg

・各種保管維持費(推定年額):250万円

 

【住宅型ハイブリッドローン】

 

・契約者数:9,779名

・契約待機人数(再テスト組のみ):11,067名

・脱落者:221名

 

・投資黒字率:71%

 

・保管ゴールド総額:1億9871万円

・保管ゴールド重量:約11kg

・各種保管維持費(推定年額):250万円

 

「……凄まじいな」

 

思わず、呟きが漏れた。

このインフレ地獄の日本において、中小企業と個人事業主の「本業黒字率」が89%。投資益を合わせれば92%という数字は、他行の融資担当者が見れば「捏造だ」と激昂するレベルの超絶的なスコアだ。

講習会による徹底的な調教と、不合格者を問答無用で弾くスクリーニングが、完全に実を結んでいる。

 

特筆すべきは、住宅型ローンの「契約待機人数:11,067名」という異常な数字だ。

現在契約している約9,700名よりも、テストに落ちて「もう一度講習を受け直してでも1.5%の枠が欲しい」と飢餓感を募らせている人間の方が遥かに多い。

この1万人以上の待機組が、神戸E銀行の講習室(洗脳室)へ何度も足を運び、経済の『公式』を脳に刷り込まれ続けている。

 

そして、当行の地下金庫に積み上がり始めた、合計約23kg(総額約4億3,000万円)のゴールドの山。

この金現物は、二重のレバレッジ(金高×歴史的円安)によって毎月その価値を膨らませており、脱落したわずかな事業者・個人(合計309名)のリスクプレミアムを補填してなお余りある「無敵の防弾チョッキ」として、すでに機能し始めていた。

 

「これを見たまえ、大山さん」

 

樫村課長が、チャットのスレッドに一枚のグラフィックを投稿した。

それは、神戸E銀行のゴールド保管量の上昇カーブと、他行の「ザル類似ローン」の焦げ付き(債務不履行)の予測曲線を重ね合わせた、極めて悪趣味な比較グラフだった。

 

「我々が10分のインターバルすら惜しんでデータを分割し、規律を破った88社をコンサル経由で静かに処刑している間に……無能な地銀たちの足元では、そろそろ『最初の爆発』が起きる頃合いだ」

 

課長の不敵な笑みが、ディスプレイの光に青白く照らされていた。

 

「それにしても、事業者の方々のほとんどは本業が黒字でも、76%……4分の3しかまともな生活費を賄えないんですね……」

 

パーテーションの向こう側で、第2融資課のある若い課員が、画面の数字を見つめたままぽつりと呟いた。

第2融資課は、大都市・神戸の莫大な案件を捌くために人員が非常に多い。本店だけでも4つのチームが存在し、今のやり取りをしていたのは私の隣のデスクに陣取る、別のチームのメンバーたちだった。

 

「なに、まだ半年の集計だ。中には初期投資がかさんでいる新規参入の事業者もいる。これがこのまま続くか、あるいは上向くかは、俺たちのサポートと、何より本人たちがこの窮地の中でも規律を守り続けられるか……それら次第だよ」

 

チームリーダーらしき中堅行員が、若い部下の肩を叩いて静かに諭す。

 

「そうですよね。ここからが俺たちの仕事ですよね」

 

若い行員は小さく息を吐き、再びキーボードを叩き始めた。

 

彼らの会話を聞きながら、私は手元のデータをもう一度見つめ直した。

実力計測のテストを行い、外部コンサルを挟んだサプライチェーンの優遇網に接続して、本業の黒字率を9割近くまで跳ね上げた。それでもなお、経営者個人の生活費を引けば「4分の1が赤字生活」に陥っているという厳しい現実。

これは、私たちの力不足なのかもしれない。

 

一言で「為替の悪化と、容赦のないインフレの暴力」と片付けることもできる。2031年の日本経済の惨状を見れば、それが一般的な正論だ。

しかし、地銀連合の看板を背負い、このデスクに座っている以上、それを言っては見苦しい言い訳に過ぎない。

 

――この地獄の中で、一人でも多くの顧客を生き残らせる。

 

冷徹なデータ。徹底的な合理性。その無機質な数字の羅列を見つめているうちに、私の胸の奥で、かつて泥臭く街を駆け回っていた「信金マン時代の熱意」が、じわりと、しかし確実に復活しつつあった。

 

連合の冷酷なアルゴリズムは、私の脳を支配したかもしれない。

だが、そのシステムを駆動させる私の『心臓』は、まだあの信金時代の、泥水をすすってでも顧客を救おうとした熱を失っていなかったのだ。

 

「フッ……いい目になってきましたね、大山係長」

 

私の視線の変化を敏感に察知したのか、樫村課長が書類の束をトントンと机に叩き、立ち上がった。

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