ある銀行の・・・   作:適当でいいです

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第23話

我が神戸E銀行のハイブリッドローンは、発売以降、売れ行きも返済も極めて順調に推移していた。

 

いや、「順調以上」と言っていいのが、地銀連合の心臓部であるゴールドの担保評価総額だ。

ドル建ての世界基準であるNY金(XAUUSD)の年間騰落率チャートを振り返ってみても、その異常なまでの勢いがよく分かる。

 

2030年:+33% (ハイブリッドローンは夏頃に解禁)

 

2031年:+27%

 

2032年:+20%

 

2033年現在、さすがに複利の重みもあって年間の「伸び率」自体は鈍化しているように見えるが、それでも2桁%の上昇を毎年維持し続けているのだ。

ベースとなる価格がすでに高値圏にあるため、そこからの20%上昇は、実額ベースで見れば初期の33%上昇をも凌駕する資金流入を意味する。

 

そして何より、ここに日本の致命的な「円安の上昇率(通貨価値の暴落)」が、乗算シートのようにそのまま掛け算で加算されるのだ。

これこそが、我が第2融資課の、ひいては地銀連合全体の盤石な「キャッシュフロー計算書(C/F)」の数字を裏から支えている絶対的な核(コア)だった。

だが――。

 

「……係長。おかしいですね。他行の類似商品と彼らの経営、全然失速しないですよ」

 

新システムの画面から顔を上げた部下が、怪訝そうな表情で私に端末を見せてきた。

画面には、かつて営業課長が騒いでいた兵庫産業銀行をはじめとする、ライバル他行の最新の四半期決算速報が映し出されていた。

そこには、私たちの予想に反して、依然として好調な利益を叩き出し続けている「右肩上がり」のグラフが並んでいる。

 

「まあ、そうだろうね」

 

私は驚きもせず、ぬるくなった缶コーヒーを口に含んだ。

 

「今は歴史的なインフレ相場だ。株だって、よほど致命的な地雷銘柄(仕手株やAI敗者組)に手を出さない限り、インデックス全体が勝手に上昇していくイージーモードだからね。

 実際、足元の日経平均株価の上昇率なんて、あのアメリカのS&P500より高いんだぞ?」

 

「あ……」

 

「ウチは契約者の『知性と規律』を重んじて、あえて個人の裁量(個別銘柄選びやFXのタイミング)に委ねる部分を残している。

 だが他行は、3%超のボッタクリとはいえ『新興国や上位指数のインデックス投信』を顧客に半強制的に買わせているんだ。

 下手に個人の感情で動かせない分、このイージーな上昇相場においては、むしろ個人裁量の罠にハマったウチのワースト顧客たちより、他行のシステムの方が安定して好成績を出してしまうだろうさ」

 

高い手数料を毟り取られながらも、市場全体の浮力によって、他行の顧客たちの泥船もまた、水面へ無理やり押し上げられている。

そして、それを見た他行の頭取たちは「自分たちのやり方は正しかった」と、さらに風船を膨らませ続けているのだ。

 

「でも、係長。それってつまり……」

 

「ああ」

 

私はモニターの青い光の向こう側、他行が積み上げている「ヘッジなき砂の城」を見つめた。

 

「潮が引いたとき(市場がクラッシュしたとき)、初めて誰が裸で泳いでいたかが分かる。……彼らは今、歴史上最も高い崖の上で、命綱なしのダンスを踊っているんだよ」

 

はっきり言って、今の市場は完全なバブル状態だ。

AI-IoTという「実体のある確かな需要」。

そこに世界規模の「超高速インフレ」がガソリンのように乗っかって形成されたこの熱狂は、その最前線にいる我々ですら、弾けるタイミングや兆候の候補を定めることすら極めて難しい。

 

だからこその『規律』であり、地銀連合が社運を賭けて開発した『管理警告システム』なのだ。

 

もはや、企業の財務諸表や業績見通しを追う「ファンダメンタル分析」だけでこの相場を読むのは、プロであっても不可能に近い。

世界中のAIサプライチェーンが複雑に絡み合った現代、地球の裏側のちょっとしたニュースを1つ見落としただけで、翌朝には奈落の底へのダイビング開始、なんてことも十分に有り得る。

 

しかし、テクニカル分析をベースにした機械的なシステムがあれば話は別だ。

システムが客観的な数値で警告を出してくれれば、人間側の感情を挟まずに逃げる判断が可能になる。

『日足手法のサポートラインを割った。テクニカル的にはここまでだな、損切しよう』

『月足で長期保有するつもりだったが、事前にシステムに設定しておいた「投資用融資額枠の50%」まで含み損が増えてアラートが鳴った。規律通りここでポジションを切る』

 

そうやって、致命傷を負う前に冷徹に市場から足を洗うことができる。

 

だが、もし。

このバブル相場で「自分のファンダメンタルズ分析(思い込み)は正しい」と意地を張り、システムの警告を無視し続ければ、最悪は――。

 

「……レバレッジ商品ならマージンコール(強制ロスカット)、財産を溶かして、ウチへの返済原資ごと市場に『蒸発』させられる可能性もある。」

 

私は、赤色灯のように明滅するワースト顧客の画面を見つめながら、その先の最悪の結末を静かに呟いた。

 

「そしてその時、高手数料の投信に全額を縛り付けられ、命綱(ゴールド)も持たずに崖の上で踊っている他行の顧客たちは……連鎖倒産のドミノの最初のピースになるだろうな」

 

バブルが大きければ大きいほど、弾けた時の爆風は凄まじいものになる。

私は、まもなく訪れるであろう「その日」の光景を思い浮かべ、背筋を走る冷たい戦慄を必死に抑え込んでいた。

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