ある銀行の・・・   作:適当でいいです

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第45話

「さらに社長、こちらが本命です。これがあってこそ、我が行が提唱する『循環戦略』の完成形なのです」

 

私がカバンから取り出したもう一枚の資料──そこに躍る商品名は『NT倍率インバース投信』。

 

投資信託というシステムは、通常の個別株やETFのように「空売り」を仕掛けることができない。基本的には「買い」、つまり市場の上昇方向にしか賭けられないのが構造上の弱点だ。

だが、もし「これから日経平均(ハイテク株)が大きく崩れる」と予測する局面が来たらどうするか。その時は、この『インバース型』に資金を乗り換えればいい。

 

設計はシンプルだ。NT倍率が1%下落(TOPIXが相対的に優位に)すれば、このインバース投信の基準価額は逆に1%上昇する。

もちろん、先物のロールオーバー費用や我が行の割高な手数料があるため、数学的に完全な1対1の逆相関にはならず、多少のトラッキングエラー(誤差)は生じる。だが、相場が動いて含み益が3%も乗れば、そんなコストなど吹き飛んで十分に黒字化できる。

 

当行が設定したこの一連のファンドの手数料体系は以下の通りだ。

 

購入時手数料: 1.5%

 

信託報酬(維持費): 年率 0.8%

 

信託財産留保額(売却時): 0.2%

 

インデックス投資の王道である「オルカン」などの超低コスト投信に比べれば、明らかに割高だ。しかし、一般的なアクティブ投信の平均値(購入時3%、維持1.5%)に比べれば、圧倒的に低い水準に抑えてある。

 

市場のサイクルに合わせて、顧客は「NT倍率投信」と「インバース投信」の間を頻繁に行き来(スイッチング)することになるだろう。だからこそ、乗り換えのたびに確実に行の利益となる「購入手数料」を高めの1.5%に設定してある。

 

実務に明るい事業者(経営者)ほど、ファンドの組成コストの低さ(先物2銘柄だけという事実)にはいずれ勘付く。だからこそ、あえて手数料をアクティブとしては「低め」に見える絶妙なラインに設定したのだ。これでも、管理コストがほぼゼロなのだから、銀行側の利ザヤとしては十分すぎるほどお釣りがくる。

 

中にはこれでもなお「手数料が高くないか」と渋る猜疑心の強い経営者もいるだろう。だが、他行には絶対にない商品の希少性、現物運用の安全性、そして「一般的なアクティブ投信に比べれば格段に優良である」という客観的な事実を並べ立てれば、最後は誰もが根負けしてサインする。

 

「……つまり大山さん。ハイテク大手の調子が良い時期は通常の『NT』を買って、逆にハイテクがバブル気味で崩れそうだと思えば、この『インバース』に全額乗り換えろ、ということか?」

 

社長の目が、ギラリとビジネスマンのそれに変わる。私は深く頷き、極上の笑みを浮かべた。

 

「その通りです。市場が一方向のトレンドを永久に維持することは極めて稀です。一応、東証のETFにもインバース商品は存在しますが、まともに流動性があるのは日経平均型くらいなもの。本場アメリカの市場を探せば選択肢は豊富ですが、あちらは手痛い為替コストがかかりますし、何よりリスクの高いレバレッジ型ばかりで社長の堅実な社風には合いません。

それらを全否定はしません。ただ、リスクを極限まで抑えた『もう一つの選択肢』として、この商品をポートフォリオに組み入れていただきたいのです。……あの激震を生き抜いた社長ならお分かりでしょう。かつて学ばれた、循環商品の典型である『FXのスワップサイクル』のテキストページをめくるように、この株の歪みを循環させてみてください」

 

為替で地獄を見た経営者にとって、「レバレッジなし」「為替リスクなし」で、なおかつ「下落局面でも利益を出せる循環システム」は完璧な救済策に見えるはずだ。

 

こうして、四日市の製造業たちのキャッシュは、地銀連合が用意した「ノーリスクに見える集金マシン」へと綺麗に吸い込まれていく。

 

「係長。」

 

部下の一人が声をかけてくる。

 

「このNT倍率投信ですが、2銘柄を押さえるだけなら他行も簡単に、それこそゴールド条項以上に真似しやすいのではありませんか?」

 

もっともな疑問に私は答える。おそらく連合はこれを予想しているという勝手な妄想だが。

 

「NT倍率は儲かる商品じゃない。歪みを取る商品だ。だが世の中の顧客は、投信を儲かる商品としか見ない。

 三年も横ばいが続けば、きっと『日経平均を買っていた方が良かった』と言い出すだろう。真似はできるさ。商品を作るだけならな。だが問題は売った後だ。

 ゴールドもそうだった。暴落した時に『なぜ持つのか』を説明できる行員がいなければ顧客は逃げる。NT倍率も同じだ。

 上がらない一年、二年を耐える理由を説明できなければ、他行の顧客は投げる。」

 

そう、これは積み立て投資向きではないし、なんならハイテク下落を感じてかつ証拠金取引が嫌なら日経インバースを現物で買うという割安な道もある。

こんな回りくどい商品は買わない。日経が落ちてTOPIXが上がる、あるいはその逆の現象が起きたときに威力を発揮する鈍重な商品だ。

 

「もし、それを理解した上で同じ商品を作る銀行がいるなら──マークしておけ。そいつらは商品を真似したんじゃない。

 我々の思想を理解した可能性がある。」

 

場所は変わり津本店の役員会議室。

私も初めて入る。ここに呼ばれたということはただ事じゃない。いい方面のときもあれば、あの不正事件のような悪い事の可能性もある。

 

「四日市の諸君、ご苦労。」

 

会議室に集められた本店部長たちと四日市の新営業課長とハイブリッドローン融資課の課長・矢島と係長の私。そんな面子に似合わない大物が会議室にやって来た。

常務と専務、まあここまでなら分かる。しかしまさかの・・・頭取・・・

 

「時は来た!」

 

突然、頭取が中二病みたいなセリフを言う。

しかし、そんなことはおくびにも出さない。

連合という組織なら本当にそのレベルのことを計画していてもおかしくないから・・・

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