ある銀行の・・・   作:適当でいいです

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第46話

「諸君、連合本部からの特別指令だ。四日市の君たちを呼んだのはその指名が入ったのが君たちの支店担当顧客企業だからだ。

 もちろん我々、三重F銀行本店が動いても良かったのでは?と思うだろうが、できれば目立たずに動きたい案件でね。

 苦労を掛けるよ。」

 

頭取の言葉が終わると部屋の明かりが消えてプロジェクターが動き出す。

 

「欧州企業提携計画・・・」

 

なるほど、確かに本店で頭取自ら出てくるし、あの勝鬨の一声を上げるにふさわしい計画だ。

 

「日銀が0.75%の緊急利上げに踏み切り、政策金利を1.75%まで引き上げた大乱高下は、まだ記憶に新しいですよね。

 それにより、日本を除く主要国の中で一段と金利が低いECB(欧州中央銀行)の政策金利は2.75%。日欧の金利差はわずか1%以内まで急速に縮まりました。

 マーケットは今でこそ『円安への回復基調』を見せて落ち着きを取り戻したように装っていますが、あの一時的な、暴力的なまでの急激な円高の爪痕は、海外の足腰の弱い現場を直撃しています。特に、欧州の中堅ハイテク企業たちの中には、現在、運転資金の調達に致命的なほど苦労しているところが続出しているようです」

 

本店部長の説明に私はおおよそ計画の輪郭を掴めた。

 

欧州の企業たちの中には、自国のユーロの高金利(2.75%)に耐えかね、世界で唯一、超低利を維持していた『日本の地銀(あるいは地銀連合の海外融資枠)』からユーロ建て、あるいは円建てで資金を引いて凌いでいた企業が少なくなかった。日本からの低金利の仕送りだけが、彼らの生命線だったのだ。

 

しかし、頼みの綱であった日本の銀行からの融資レートは、この日銀の緊急利上げによって瞬時に跳ね上がった。

本来なら欧州などに逃げればいいと思うが、その地元の方がそれでもまだ高金利という前門の虎後門の狼状態。

 

利息の急増という大ダメージだけでも痛いのに、追い打ちをかけたのが、あのハイテク主導の全世界金融ショックだ。

 

彼らが最後の防衛線としてバランスシート(貸借対照表)にヘッジとして組み込んでいたゴールドや米国債までもが、市場のパニック売りで一斉に目減り。本業の利益だけでなく、保有していた有価証券の評価益まで完全に吹き飛んだ。

 

もはや『財布に火がついた』などという生易しい表現では生ぬるい。

彼らの財政状況は今、文字通りの『完全な窒息(黒字倒産)』の淵にある。

 

「なるほど、そこに四日市の企業を提携させて、資金注入を交渉材料にして技術提携。その技術の一部をいただく、ということですね」

 

私は自分の仮説を口にした。

だが、会議室の正面に座る三重F銀行の頭取は、私の言葉に老獪な目を細め、静かに首を振った。

 

「近い。確かにそれも実行するが、大山くん、本命(コア)ではない」

 

「……本命ではない?」

 

その先、となるとまさか──。

私が思考を巡らせようとした瞬間、頭取は手元のタブレットを叩き、画面の図を切り替えた。

 

「大山くん、それではせいぜい3社か4社くらいしか囲えない。それに、あまり露骨な技術移転をやれば、いくら共同開発の隠れみのを使ったとしても、欧州連合(EU)の厳しい外資規制の網に引っかかるリスクが残る」

 

頭取の声に合わせるように、傍らに控える常務が私に冷徹な事実を突きつけてくる。

 

「大山くん、我々のハイブリッドローンにある最大の武器を思い出せ。……『超優良サプライチェーン』だ。今回のスキームの本命は、資金援助と引き換えに、窒息しかけている欧州中堅企業たちが持つ『独自のサプライチェーン』を、丸ごと我が連合のサプライチェーン網にガッチャンコと組み込ませることにある」

 

「欧州企業のネットワークを、そのまま地銀連合の網に……」

 

提示された巨大な構想図を見つめながら、私はゾクりとした戦慄を覚えた。

 

「そうだ。連合の顧客である日本の事業者は、そのネットワークを通じて、世界最高の欧州ハイテク企業へ『メンバー限定の特別割引価格』でダイレクトに発注できるようになる。つまり、欧州ハイテク企業を連合の顧客は割引で発注できる──そういう環境をこちらで作ってやるということだ。向こうは今、喉から手が出るほど現金を欲しがっているからな」

 

頭取の言葉を脳内で急速に処理する。

これなら株式も経営権も特許も手を付けておらず、EUの外資規制との正面衝突はないだろう。

 

「しかし──」

 

私は資料の一行に目を留め、思わず声を漏らした。

 

「この計画、肝心の『商流』そのものには、地銀連合は一切手を出さないことになっていますが……なぜですか? そこを握れば莫大なマージンが抜けるはずです」

 

すると、それまで黙っていた専務の一人が、冷たい笑みを浮かべて私を見た。

 

「大山くん。商流に手を出せば、総合商社やメガバンクを傘下に持つ『巨大財閥』に正面から睨まれる。彼らの縄張りを荒らせば、我々のような地方銀行の連合など一瞬で圧殺されるからな。だから、我々は商流の裏側に徹する」

 

頭取が深く椅子の背もたれに体を預け、私をまっすぐに見据えた。

 

「商流には手を出さん。その代わり、その新しい国際商流に必要不可欠となる『信用保証』『決済』『為替』『保険』、そして『融資』の全プロセスを、我が地銀連合のシステムで100%握る。……これが、連合中央のブレインたちが描いた計画だ」

 

──ストン、とすべてのピースが音を立てて嵌まった。

私は背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、ただ絶句していた。

 

欧州企業は、名義上の特許も会社も守られたまま、当面の黒字倒産を回避でき、さらに日本市場という巨大なアクセス権を得る。

日本(三重)の企業も、欧州の最先端技術への発注や投資を格安で行える。

そして地銀連合は、そのパイプ役となり、国境を越えた新たな「信用インフラ」として君臨し、そこを流れる膨大な手数料と金利を永続的に吸い上げ続ける。

 

全員が「ウィン・ウィン」の仮面を被りながら、その実、地銀連合が世界経済の窒息をダシにして、最も安全で美味い汁を吸い続けるための完璧な要塞(インフラ)。

 

「理解できたかね、大山くん」

頭取の低く鋭い声が、会議室に響いた。

 

「……はい。恐るべき計画です」

私は深く頭を下げ、自らの仮面を締め直した。四日市のドブ板のような不正調査の先に待っていたのは、世界を舞台にした、地銀連合の底知れない巨大利権の怪物だった。

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