あるファンドの・・・   作:適当でいいです

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第14話

2031年 10月 島根県 松江市 斎藤ファンド本社

 

「そ、そんな・・・」

 

赤坂は先輩社員の言葉にショックを受けていた。

あの実戦が始まってからの連敗、それにより夜も眠れない不安と戦っていたあの1年半前。

それは先輩たちには「想定内」の出来事だったと明かされたからだ。

 

「まあ、テクニカルしか見るな、と言っていたからな。知らなくて当然だ。」

 

実はあの期間はVIXが日足20SMAに支えられるように緩やかに上昇しており、さらにハイイールド債が下落傾向。

そこに米国債まで乗っかってきた。さらには銅価格も下落傾向。

 

「まあ、ファンダ的にはリスクオフ要素盛沢山って感じだった。だからダマシが多かったんだ。

 いや、でもさすがにあそこまで資金を吹っ飛ばしてから3か月で半値以上戻してくるとは予想外だったけどね。」

 

はは、と先輩は笑う。

 

「多分、銀行や証券のエリートさんたちはこれを入社1か月で叩き込まれるだろう。

 でも、新人に相場を触らせてもいない段階で教えてもよく分からんだろう。

 それにだ、もしこれをそのときのお前に教えていたらどうしてた?」

 

「買いは控えるか止めるか・・・」

 

「そう、多分指示通りにした、で終わったはずだ。

 それじゃあ困る。相場にはこういうテクニカルが効きにくい時期があるということを知ってもらうにはちょうどいいタイミングだな、ってことで上の判断で黙っていることにしていたんだ。

 それにしても実戦開始の最初の月にこれってお前、『持ってる』な。」

 

「先輩、それ悪い意味ですか?」

 

「半々だな」

 

先輩は苦笑した。

 

「普通、新人を相場に放り込むと最初は上手くいくことが多いんだよ」

 

「え?」

 

「ビギナーズラックってやつだ。上昇相場なら特にな。本人は自分が才能あると勘違いする。」

 

先輩はモニターを指差した。

 

「ところがお前の場合、実戦初月から相場環境が最悪だった。」

 

「……」

 

「だから最初に覚えたのが『勝ち方』じゃなくて『負け方』だった。」

 

「実はな」

 

先輩はコーヒーを一口飲んだ。

 

「上も、お前がどこまで耐えるか見てたと思うぞ。」

 

「えっ?」

 

「377万まで減った時な。」

 

赤坂の顔が固まる。

 

「もちろんルール違反したら止める。でもルールを守ってる限りは放置だ。」

 

「そんな……」

 

「相場が悪かったんじゃない。お前が悪かったわけでもない。ただ確認したかったんだろ。」

 

「何をですか?」

 

先輩は笑った。

 

「この新人、本当にルールを守るタイプなのかってな。」

 

一呼吸置いて先輩は親指を突き上げて笑みを浮かべる。

 

「合格だ。来週から入って来る新人の教育担当の一人にすることが決定した。

 もちろんまだまだテクニカルしか知らない。さっきのファンダも使い方を知らない。だから新人に比較的近い年齢と立場での指導役だ。『プロ投資家として』なんて気張るなよ。

 分からないことがあれば俺にチャットしてこい。

 それでお前も再確認できるだろう。

 自分が使っているテクニカルについて、説明できない部分がまだ山ほどあるということにな。」

 

同日 埼玉県 草加市 ANSEN

 

先月と先々月に出した売り上げと粗利は予想に反してプラスだった。ごくわずかだが。

常軌を逸した仕入れと配送条件、それを客に飲み込ませたからだ。

各商品ともに当然、想定利益は載っている。普通のスーパーがやる客寄せのために赤字確定商品を置いて購買意欲を誘うなんていうリスクを取るはずが彼らにはなかった。

 

それでも黒字予想。そこに宮内は「行けますよ!」と言って上機嫌だが、高橋たちはまだ安心しきっていない。

 

「宮内さん、8月と9月は黒字でしょう。しかし、それは初期のフル満載状態の条件だからです。

 仕入れ方式お忘れですか?」

 

「あ・・・」

 

そう、普通のスーパーなら減ったらバックヤードにある在庫から補充し、さらに減った在庫を業者に連絡して在庫補充をする多段式の保険を打っている。

それに対してこの店舗では在庫などない。常温製品ばかりなのでエアコンや冷蔵庫すら電源を切っているため、真夏ではチョコレートは溶けるほどだ。そんなところに食品在庫なんて置けるはずがない。せいぜい飲料製品くらいだった。

その上で『優先順位後回し条項』だ。いつにいくつ店に入って来るか。それはその日にならないと分からない。

 

今のところは準備期間中に棚に満載した状態でスタートしていたが、一部商品では案の定欠品のまま放置されている商品も出ている。

 

「これが今後、どう影響するかが勝負どころです。棚から無くなるほど需要があるのにそれが連日補充されない、補充されても少数。」

 

「まずいですよ、それ!」

 

宮内さんが悲鳴を上げる。

 

「棚の見た目は想像以上に重要なんです。空っぽが最悪なのはもちろんですが、それ以上に厄介なのが歯抜け状態ですよ」

 

「歯抜け?」

 

高橋が首を傾げる。

 

「売れ筋だけごっそり抜かれて、他の商品だけが残っている状態です。客は理由なんて考えません。ただ『管理されていない店だな』って印象を持つんです。

 私も若い頃は馬鹿にしていましたよ。棚の見た目なんて飾りだろうって。でも違った。実際に前出しをサボった日だけ売上が落ちるんです」

 

なるほど、と高橋たちは次の監視対象に「棚の状態と顧客行動」を加わえる。

 

「次に欠品商品のリストと供給履歴です。」

 

たとえばメロンパン。

やはりメジャーな菓子パンで売れ行きは良い。

しかし、製造には手間もかかるため仕入れが週に1回有るか無いかレベル。

それに対して袋詰め型の小粒チョコレート。こちらはほぼ毎日入荷がある。工業化が進んだ工場製品の性質が強いからだろう。

 

普通のスーパーなら両方強化すると言うだろうが、ここではそんな贅沢な経営手法は取れない。

 

「当然、メロンパンの方が優先される。チョコは待っていればすぐに納品されるなら問題ない。しかしパンの方は第二の仕入れ先を設ける必要がある。」

 

「ですが、仕入れが重なったときはどうするのですか?在庫を置く場所も陳列する場所も無いですよ?」

 

現場たたき上げの宮内がもっともな疑問を出す。

 

「レジ横に『訳アリ品』として普段より安く置けばいい。在庫切れを頻発させるほどの需要があり、かつ供給が足りないなら第二の仕入先を作って検証すればいい。1商品1メーカー、あれは基本戦略であって絶対の法律ではない。必要となればあの条件で別メーカーに依頼するだけさ。」

 

「メロンパンそのものが重要なんじゃない。欠品が長期化している事実が重要で、客はメロンパンが欲しいのではなく、『いつ行っても置いてあると思っていた商品』が消えることにストレスを感じる、ということですね?」

 

高橋と古谷がたどり着いた対策に宮内は意外な顔をする。

彼はこれまで高橋たちをただ効率だけを求めて現場の常識を破壊するだけに見えていた。しかし、この仕入れの話も現場の意見を取り入れている。

 

「まあ、検証の結果でただ供給不足だから品切れしてただけなら、第二の仕入先は簡単に切れるように弱小メーカーを選んで、契約書にも盛り込んでおくように。」

 

若干、うれしく思った宮内の感情の浮き沈みは大きかった

 

「一瞬でも話が通じると思った私の気持ちを考えてほしいよ・・・」

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