「仕事用と
「いえいえ、社長様。今しがたの様に急にスマートフォンが故障して『
禍金が名刺を差し出すのに
「禍金機械商会さんね。助かりました。憶えておきます」
感謝の言葉で
「それでは
長方形の箱を手渡され
「
表記の小難しいスマートフォンのスペック表を読み上げ、感嘆し顔を上げると禍金の姿は無かった
音津が帰社して社長室の椅子に座ると気忙しくスマートフォンの入った箱を開け一緒に渡された
「ぬるぬる~さくさく~」
不気味な声をあげると
「スマホやっぱり壊れていましたか?領収証あったらお願いします」
音津の帰社を見て駆け付けた経理の牧野が言うが
「領収証は無い。
音津はスマートフォンに夢中で
「電話の件ですが、ご指示の通り森さんに打診しておきました。短納期で数がありますが大丈夫ですか?」
牧野は不安そうだが
「設計変更はあるが随分と以前にやったG13のプレートと大差無い今度も出来るさ」
音津は楽観的
「何度も言うけど、無理」
森が
「森ィッ!技術を隠してるんじゃねぞ!どんだけ工場に損害を与えれば気が済むんだ!」
音津はスマートフォンを片手に目を真っ赤に充血させ
「工場に損害?」
森は開いた口が塞がらない
「その技術があれば、もっと仕事を取って工場は稼げるだろうがぁ!スマホ持ってるんだろ、見てみろよ、ネット民が言ってるんだよ!」
「1人で
「山崎は定年後の再雇用だったのが、血尿の検査で
「大隈さんは?」
「高いんだよッ!」
「ハァッ!?それで
「お前が遣ってるの見たんだぞ。ネットでも森が遣ったって言ってるんだ」
「山崎さんと大隈さんの補助役の一人として遣っていた。
森は
「そうだ切削油だ。プログラムで出来るんだろう?全交換すると高く付くからよ。臭い臭い機械工は、キケン、キツイ、キタナイ、の3Kにクサイを足した4Kって…プログラムでチャチャッと浄化して綺麗にしろよ、俺は忙しいんだ」
音津はスマートフォンを握り締めフラフラ揺れていて
「プログラムで切削油の全交換は出来ないぞ。何年も交換しない工場はあるが、
森は心配そうに言うが
「だから其を遣れって言ってるんだ!」
話が通じなかった
闇に飲まれた工場の一角で高い天井に吊るされたハロゲンライトに照らされマシニングセンタは治具に固定された金属のプレートを
「間に合わない。G13のプレートの段取りが其の
森は疲れた表情で呟き
「もっと速く出来るだろ!」
音津は怒鳴り
「速い、安い、
「大丈夫だ!速くしないと間に合わないぞ」
オーバーライドのダイヤルを回すが
ガガガガ
異音に慌て元に戻す
「微粒子超硬を使って機械をブン回し
「
森は困った苦笑で作業着の上着を脱ぐ
「30分で出来る」
「其じゃ遅い」
「その証拠とやらは本当に10分で作れたのか?現実に作れる証拠であっても10分で作れる証拠ではない。1時間位かけて作ったかもな。大切な事なので繰り返すぞ、
「どうしろって言うんだよ」
「現実的に工場の
「お前は社長に向かって言葉遣いが失礼すぎるぞ、尊敬語で話せ!俺は忙しいんだ!黙ってやっとけ!」
音津は高圧的な態度で迫るが
「なんですかぁ~?」
森は右の
「おいッ、
「毎月、毎月、契約を更新している委託派遣社員に、ンな事を言うとどうなるか分かってる?」
バンッ!
顔に作業着を叩き付けられた
社長室でスマートフォンを
「とりあえず50枚。フル稼働でやって貰っています。残りは納期を後ろ倒しにして貰いました。またスマホでゲームですか?
牧野は言うが
「ああ…」
音津はスマートフォンを見詰めたまま生返事
「派遣会社から連絡がありました。只でさえ人手不足なのに森さんまで辞めてしまって。段取りの出来る人が1人減ると他部所にまで
「此からは少数精鋭で行かないとな。色々とやれて楽しいだろう?」
「
牧野は不機嫌
「森が10分で加工出来るプログラムを持ち逃げしたんだ。アレがあれば皆が辛い事も無く数を上げれたんだゾ」
「G13のプレートは30分掛かっていましたし、森さんは『山崎さんと大隈さんとで協力してやった』って言っていました」
「
音津の視線の先はスマートフォンの画面の儘で
「それは
「何が言いたいんだよ」
「社長が
「だからプログラムは森が持ち逃げした。取り戻せば、
「皆が困っているからです。森さんは戻りません。そんなプログラムが存在するなら、今すぐにでも必要です。社長が証明しなければ永遠に水掛け論です」
ドーン!
マシニングセンタが轟音を立て赤いランプを
「ネットで調べなきゃわからないって言ってるんだ!」
音津の怒声が工場に響き渡ると
「ハイススピードが過剰だ。いい加減に
作業着の老人が静かに言った
「だからプログラムは森が持ち逃げした。10分で加工する
「この携帯電話は
「ネットの情報だ!年寄りがコンピュータを理解出来るはずないだろうが、馬鹿ばっかりだ、
「先代も草葉の陰で泣いているぞ」
「人手不足だって解消なんだよ。俺が意見してやればよ、知っているか?森の奴ネット小説なんて書いてやがって…俺は森の兄貴みたいなものだろう?だからよ俺を主人公にして小説を書かせるんだ『俺はだれの命令も受けぬ!!それが神の命令でもな!!』ってな、其れで有能な若者が俺を目指して工場にやって来る訳ぇ」
「そのネット小説は本当に森が書いたのか?」
「文体が森の日報と同じなんだゼ、間違いない」
音津は山崎に詰め寄り
「経営者たるもの
「自分が
二人は顔を突き合わせ
「見てろよ、親父の時代より会社を大きくしてやるからよ…っとぉ!」
音津は山崎の手からスマートフォンを
「目を覚ませ!」
山崎の制止を聞いてか聞かずかスマートフォンを持ち
「ごめんなさい。山崎さん。誰も社長を止められなくて」
牧野は山崎に頭を下げる
「『お前の
「社長室には居ません。社用車の鍵が有りません。スマホを持って社長は何処に行ったのでしょうか?」
牧野は途方に暮れ
「2ヶ月ばかりの入院と手術で工場を開けてみれば、此の有り様だ。先代には申し開きの仕様もない」
山崎は給湯室で煎れた茶を牧野に差し出し
「ありがとうございます。山崎さん。復帰の方は?」
「早期発見で大事は無さそうだが今までの様には働けんな。
2人は休憩用のベンチに腰を下ろす
「壊れるまでスマホを使い倒していたかと思えば、あの巨大スマホです。それから急に『ぬるぬる~さくさく~』と
牧野は大粒の涙を
「凸凹工科大学工学部機械工学科卒業で音津工作所の御曹司。幾つも工業の資格や検定の試験に合格していて正真正銘の工業界のサラブレッドとは音津寿碧社長の事だったはずがな。大隈と併せて『音津工作所のツートップ』と
「でも、あんなスマホが無ければ良かったのに」
「何処かで買うとかして手に入れたんだろ、うっく…
2人は
公園の駐車場に停められた1台のライトバンの側面には【音津工作所】の文字が
「ぬるぬる~さくさく~」
車内の男はガリガリに痩せこけ延び放題の無精髭に真っ赤に充血した目でスマートフォンの画面を凝視し指を滑らせ不気味な声を発していた
そのライトバンを遠くから見ている、黒髪のおかっぱ頭に黒縁の眼鏡、黒い背広の出る所は出て引っ込む所は引っ込むナイスバディ、禍金 忌離子は言った。
「あ~ら、其処の