願いの物語シリーズ【立花朝陽】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
いつの頃だったか。自分は人と違う生き物なのだと気づいた。
いや、私がではない。私たちが、だ。
母も、そしておそらくは父も、見えない物が視える人で、人では無い何かと話をする事が出来た。
私にとっては子供の頃からそれが当たり前の事であったから特に疑問には思っていなかったのだが、お友達になった里菜ちゃんやジョージ君は違うらしい。
彼女たちには視えないし、声も聞こえない。
最初は里菜ちゃん達が普通では無いのだと思った。
しかし、人と接する機会が増えていく度に、私の方がおかしいのだという事に、気づいていった。
でも、私は別にそれで良いと思っていた。
だって、メリーさんも里菜ちゃんも同じ友達だからだ。
どちらか一方とだけ友達だというのはおかしいとおもっていたからだ。
そう、思っていたのに。
里菜ちゃんのお婆ちゃんは、私がおかしいからと『普通』にさせたがっている様だった。
しかもその普通にするというのが、里菜ちゃんたち人間のお友達だけを残して、他のお友達を遠ざけるという物だったのだ。
許せることじゃない。
自分だって、女の子同士だけで仲良くするっていう勝手な考えを里菜ちゃんに押し付けてる癖に。
そして、そんな自分勝手な人の言葉を簡単に信じて、私に話しかけてくる里菜ちゃんに私は酷い苛立ちを覚えた。
だから、里菜ちゃんが怖い目に遭えば良いって考えて、絶対に使っちゃ駄目だってお母さんに言われていた力を里菜ちゃんに使ってしまった。
結果は後悔しかない。
里菜ちゃんは酷く怯えていて、泣いていて、私がしてしまった事がどういう事なのか否が応でも理解する事になった。
力は途中で止めたけど、顔を真っ青にしながら震えている里菜ちゃんの顔は今でも忘れない。
きっと死ぬまで忘れる事は無いのだろう。
だから、そう。
これは償いだ。
里菜ちゃんへの。
そして私を好きで居てくれる人への償い。
私は『普通の女の子』になろうと思った。
周りの人が見えない物は視えない。
私にしか見えない物は視えない様に振る舞う。
彼らと話をするのは誰も居ない時だけ。
そう自分にルールを決めた。
お母さんもお父さんも私の話に、朝陽がそれで良いならと納得してくれて。
私は幼稚園に通いながら普通になる為に頑張る事にしたのだ。
普通の女の子としての生活というのは中々に難しいものだった。
何せ、人間じゃないお友達は人間とそれほど違いがない子だっている。
そういう子が話しかけてきた時に、思わず反応してしまえば周りが反応していないという事が何度もあったのだ。
実に難しい。
でも、頑張らないと、周りの子たちは普通の女の子を求めているのだから。
それから私は話をする時に、なるべく自分からは話しかけず聞き役に徹する事にした。
そして、話をしている相手をよく観察する事にした。
どういう人なのか。
周りの人との関係性はどうなのか。
何を考えていて、何を大切にしているのか。
どんな事が好きなのか。
どんな事は嫌いなのか。
どういう言動を好むのか。
知れば知るほど、人とそれ以外の人を区別できる様になっていった。
それが出来る様になってきたら、段々と二つを切り離せるようになっていって、それぞれと深く交流出来る様になったのだ。
快挙である。
この頃には多くの人に囲まれながら生活出来ており、これが『普通の女の子』として正しい行動だったのだと確信する事が出来ていた。
しかし、そんな生活が安定してきた頃、今度は別の問題が発生した。
それは里菜ちゃんやジョージ君が他の子に嫌がらせをされていたという事であった。
物を隠されたり、持ち物に悪さをしようとしたり。
そんな事は見えないお友達と協力して何とか防ぐ事が出来たけど、直接叩いたりしている事に関しては対処するのが難しかった。
こういう事をする子は、誰も見ていない所でコッソリと里菜ちゃん達に意地悪するのだけれど、見えないお友達ではどうする事も出来なくて、私が直接行かないといけない事が多かったのだ。
だから直接その場所に向かっていたのだけれど、その内向こうも私の対策に足止めをする人を作ったりとか、先生にお願いしたりしてきたのである。
どうしてそこまでして里菜ちゃんに意地悪するのか、分からないけれど里菜ちゃんは私の大切なお友達だ。
それに、他の子とは少し違うお友達だ。
だって、周りの子は私が見えないお友達の話をしていると嫌がるし、無理矢理止めさせようとするけど、里菜ちゃんはあの事件の後も、二人の時は話しても良いよって言ってくれるのだ。
見えないお友達もお友達だと認めてくれていたのだ。
里菜ちゃんはただお婆ちゃんの言う事だけが正しいと信じ込んでいるだけなのだ。
だから、里菜ちゃんは私にとって大切なお友達で、かけがえのない人で、一緒に居たい子なのだ。
そんな里菜ちゃんを守る為にどうすれば良いか。私は考え、そして一つの結論を出した。
「里菜ちゃん。手つなご」
「いいけど。朝陽は、いいの?」
「なにが?」
「いや、その、私と一緒にいて」
「もちろん! 里菜ちゃんが良いの!」
「そ、っか」
安心した様にへにゃりと笑う里菜ちゃんに、私は笑顔を返した。
幼稚園に居る時は、ずっと里菜ちゃんと一緒にいる。
出来るならジョージ君も一緒にいる。
そんな生活を始めると、周りの人はずっと一緒なんておかしいと言ってきたけど、その理由は誰も言えなかった。
後はお母さんの言う通り、臨機応変に動く事にした。
私は天才なので、どんな事でも問題なし。
「あーさーひちゃん! 一緒にあそぼ」
「いいよー。いこっ、里菜ちゃん」
「え? りなちゃんも一緒なの?」
「うん」
「えー。そうなんだぁ」
「駄目?」
「だめじゃないけど、二人でお話したいし」
「そう? じゃあ里菜ちゃん。ちょっと離れててねー」
里菜ちゃんと離れて、見えないお友達に里菜ちゃんをお願いしつつ、私は普通のお友達と一緒に里菜ちゃんから離れていった。
当然お話をするためだ。
「朝陽ちゃんってさ。なんで里菜ちゃんと一緒にいるの?」
「お友達だからだよ」
「へー。そうなんだ。じゃあ私は?」
「お友達だよ?」
「じゃあ私がいるから、もう里菜ちゃんと仲良くするのは止めて」
「なんで?」
「だって、里菜ちゃんって我儘なんだもん。すぐ泣くし。一緒にいても楽しくないよ」
「そうかなぁ。私は楽しいけど」
「私が楽しくないの!! 朝陽ちゃんだってすぐに楽しくなくなるよ!」
「そんな事ないと思うよ。だって里菜ちゃんとはもっと小さい時からお友達だし。全然嫌だなぁって思った事無いよ」
「私が嫌だって言ってるんだよ!」
「そっかぁ。それは困ったね」
「そうでしょ? そうでしょ?」
「うん。どうしよっか」
「簡単だよ。お友達を止めちゃえばいいの」
「そっか。華ちゃんが言うなら仕方ないよね」
「そう。仕方ない」
「じゃあ。お友達。止めよっか。華ちゃん」
「え」
「華ちゃんともまだお友達で居たかったけど、華ちゃんが止めた方が良いって言うなら、しょうがないよ」
「ち、違う! 里菜ちゃん! 里菜ちゃんとのお友達を止めてって言ったの」
「アハハ。華ちゃん。それは出来ないよ」
「なんで!」
「大切だからだよ。それ以外に理由なんて無いでしょ?」
「そんなの!」
「あんまり……我儘ばっかり言ってると、本当にお友達止めちゃうよ?」
私は笑顔を少し崩して華ちゃんを見つめる。
華ちゃんが一瞬息を飲んだ後、何度か頷いてくれた。
分かってくれた事に喜び、華ちゃんの手を握りながら何度かお礼を言った。
やっぱり仲良しが一番だよね。