願いの物語シリーズ【立花朝陽】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
人間関係は難しい。
本当に難しい。
「そう! それでさ。藤堂さんって好きな男の子、いるのかなって」
「好きな男の子ー?」
クラスメイトである斎藤さんの言葉に私は目を閉じ首を傾げながら、考える。
ただ、見えないお友達から、クラス中の人……それこそ里奈ちゃんやジョージも含めて全員が私に注目していると聞き、ちょっとだけ緊張する。
さらに追加で廊下から教室を覗いている人もいるというのだからたまらない。
正直、許して欲しいところだ。
でも、みんなが期待している気配を感じてしまい、私は何だか怖くなりながら口を開いた。
「えっと、男の子からだけ選べば良いのかな?」
なんて。
ちょっと確認もあって聞いてみたのだけれど、何故か私の答えに教室は湧き上がる。
男の子は少し残念そうな感じだけど、それでも興味津々という風で、近くの人と話ながらワイワイと盛り上がっていた。
うーん。やりづらい。
「それで!? ど、どの子なの? まさか、夢咲さん……!?」
「うん。里奈ちゃんの事は好きだよ」
里奈ちゃんの名前も出たし、私は勢いのままに話し始める事にした。
「それにジョージ君の事も好きだし。斎藤さんの事も好きだよ」
「お、おう? ありがとう? え?」
「お母さんもお父さんも好きだし。勿論クラスのみんなも」
「待って待って待って。藤堂さん。少し待って」
「うん? うん。分かったよ」
私は腕を組みながら悩む斎藤さんを見つめながら笑みを浮かべ、待つ。
それから少しして、酷く困惑した様子を滲ませながら、私に笑いかけた。
「もしかして、なんだけど。藤堂さんって、恋とか、したこと……ない?」
「恋、恋かー。恋って、どんな感じ?」
「どんな感じって、そりゃー。その、さ? 直接話すのも恥ずかしいとか、話すだけでドキッとするとかさ。色々あるじゃん?」
「そっかー。うんうん。それだと、無いかなぁ。じゃあそんな感じの事があったら、気にしてみるね」
なんて返したからか、この日から私の日常は一変してしまった。
ある日の事。教室の掃除で箒を使おうとしたら、サッとクラスの女の子が寄ってきて、私から箒を奪い取ってしまったのだ。
え? と驚きその子を見ると、その子はニッコリと笑って、私の手を取った。
「藤堂さんがこんな事しなくても良いんだよ。向こうで座ってて」
「いや、みんなで掃除しないと駄目だよね?」
「いやいやいや。良いんだよ。藤堂さん。これはクラスみんなの意見だから」
「え」
「ねぇ、みんな? そうだよね?」
その子の問いに、その場にいたクラスの子はみんな笑いながら一様に頷いた。
もはや恐怖を感じる様な光景である。
しかもそれはごく当たり前の様に私の前で繰り広げられていたのだ。
結局私は何も言えず、まるで先生の様に黒板の前に置かれた椅子に座らされ、みんなの掃除を見ている事になってしまったのだ。
状況を変えたくて私は里奈ちゃんやジョージ君に助けを求めたが、二人でもクラスのみんなの考えを変える事は出来ず、これから掃除の度にこの場所で座り続ける事になったのだった。
しかし、こんな日々を続けたくなかった私はお母さんに相談してみる事にした。
「でね。私、嫌なの」
「あらー。それは困りましたね」
「そうなの! お母さんも分かってくれる?」
「えぇ。分かりますとも。私も昔は同じでしたからね」
「お母さんも同じなの!?」
「そうなんです。お母さんも昔は大きな部屋の奥に座って、皆さんを見守っていたんですよ。でも、見ているだけです!」
「えー。たいへん!」
「そうなんです。そうなんですよ」
「じゃあ! じゃあ、お母さんはどうやって、みんなと混ざったの!?」
「……あ」
「お母さん?」
「いやー。思い返すと、私は自分で解決したわけでは無いので、朝陽ちゃんの役には立てないかもしれませんね」
「そうなの!? なら、なら! お母さんはどうやって解決したの?」
「それは、そのー。実は、お父さんに連れ出して貰えたんです」
「お父さんに?」
「はい。閉じこもった世界から、外の世界へ。お姫さまから姫乃という一人の女の子へ。お父さんが変えてくれたんです」
「そうなんだ……。ねぇ。お母さん。私にもさ。お母さんにとってのお父さんみたいな人が、いるかなぁ」
「そうですねぇ。未来はまだ確かではありません。ですが、貴女にも確かな縁はありますよ。どれだけ神に妨害されていようとも、貴女を救う確かな縁が」
「えにし?」
「はい。それは人や世界を繋ぐ、糸の様なものです」
「糸、かぁ」
私は手を見てみたり、腕を見てみたりしたが、変な物は付いていなかった。
首を傾げながらお母さんを見るが、お母さんはニッコリと笑って、私の手を取った。
「朝陽ちゃんに縁は見えないみたいですね」
「えー。私も見たいなー。お母さんと同じもの!」
「いえいえ。朝陽ちゃんが視えないという事は、朝陽ちゃんには必要がないという事なんですよ」
「そうなの?」
「はい。朝陽ちゃんにはこんな物が視えなくても、人に寄り添う事が出来ますし。誰かの支えになる事が出来る。それは特別な物が視えるよりも素敵な才能なんですよ」
「そっかー」
「だから、視えなくても怖がらないで下さい。どんな苦境も乗り越えて、貴女と共に歩んでくれる方は必ずいますから。貴女をお姫さまではなく、ただの朝陽ちゃんとして愛してくれる方が、必ず」
「そうなんだ。じゃあ、私もその人を探しに行く!」
「ふふっ、朝陽ちゃんはお母さんと違って、元気ですねぇ。素晴らしいです!」
「へへっ! その人に会えたら、お母さんにも紹介するね!」
「……っ、そう、ですね。楽しみにしています。朝陽ちゃん。いつか。貴女とその家族の、幸せな笑顔を見る事が出来る日を」
お母さんは私を抱きしめて、そう囁いた。
何故かお母さんは、この時少し震えていて、声も涙が混じっている様な声だった。
でも私はそれを疑問には思わず、温かいお母さんの感覚に嬉しさを感じていた。
そして、こんな話をお母さんとした数日後、私の悩みは緩やかに解決へと向かってゆく事になる。
その切っ掛けは、とある転校生がやってきたことだった。
その少年は勝気な笑みを浮かべながら自己紹介をして、私達のクラスにやってきた。
「はじめまして! 俺の名前は杉原一真。これからよろしく!」
少年は気持ちが良いくらいの明るさで、挨拶をした後、クラスに自然と溶け込んでいった。
そして、私もそんな彼と話す機会があり、何だか初めてのタイプにやや緊張しながら頭を下げた。
「はじめましてー。杉原君」
「うおっ! びっくりした! めちゃくちゃ可愛い子がいるな!」
「そう? 私でそんなに驚いてたら、里菜ちゃん見てもっとビックリしちゃうよ」
「いやいや。そんな訳無いから」
「えー? ね。杉原君。ほら。この子が里菜ちゃんだよ。可愛いでしょ?」
「うん。確かにね。藤堂さんの言う様に。凄い可愛いよ。アイドルにだってなれそうだ」
「ほらほらー! 里菜ちゃん。私の見る目は確かなのだ!」
「い、いや、そんなの、そんな訳ない」
里菜ちゃんは顔を真っ赤にしながら、モジモジと指を合わせて視線をさ迷わせた。
可愛い。
しかしそんな可愛い里菜ちゃんを見ていると、私と里菜ちゃんの前に立つ人が現れた。
「僕はジョージ・ウィルソン。よろしく」
「あ、あぁ。よろしく」
「ん!」
ジョージ君はやや怒ったような姿で杉原君の手を取ると、上下に勢いよく振り、挨拶も終わっただろと私と里菜ちゃんを引っ張って自席へと戻らせるのだった。
これはアレだ! ドラマでやっていた奴! 嫉妬って奴だ!
私はニコニコと笑いながら、言い合っている里菜ちゃんとジョージ君を見つめるのだった。
最初の出会いはこんな感じ。
でもそこから加速的に杉原君はクラスに溶け込んでいって、私が席に座ってただ掃除を見ている事とか。
他の行事も見ている係になっていたのも、止めた方が良いとクラスに言ってくれるのだった。
その結果、最初は反発もあったのだけれど、少しずつ変わってゆき、数か月後には前と同じような学校生活を送れるようになっていたのだった。