願いの物語シリーズ【立花朝陽】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第4話『デートらしく見える様に、可愛い格好をしていこう。』

杉原君が転校してきてから数カ月、彼はすっかりクラスに溶け込んでおり、私も結構話すようになっていた。

 

そして今、私は杉原君と二人で空き教室に隠れながら、校庭に居る二人を観察していた。

 

「ね。ね。どう思う? どう思う?」

 

「ん。あれは……どこからどう見ても好き合ってるな!」

 

「でしょー!? 見る目あるねぇ。杉原君!」

 

「まぁな」

 

「じゃあ告白出来る様な場所を作って、それで背中押してー」

 

「待て。藤堂」

 

「なに? 杉原君」

 

「夢咲やウィルソンの性格を考えると、周りが騒いだら駄目だ。あぁいうタイプは騒げば騒ぐほど逆効果だよ。自然の成り行きに任せる方が良い」

 

「えー。でも今日までなーんにも起こってないんだよ!? 自然の成り行きじゃあお婆ちゃんとお爺ちゃんになっちゃうよ」

 

「ふっふっふ。甘いな。藤堂。自然の成り行きとは言ったが、人間は台風を起こす事だって出来るんだぜ?」

 

「どういうこと?」

 

「例えば、だ。ここに映画のチケットがある」

 

「あ、これ。有名な奴でしょ?」

 

「そう。今流行りの恋愛映画だ。コイツを使って俺が嵐を起こしてやろう。恋の嵐をな」

 

「おー! 格好いい。恋の嵐!」

 

「という訳で、作戦だが、教室で俺が藤堂を誘うから、藤堂は行きたいと言ってくれ」

 

「うん。分かった。それで?」

 

「それだけで良い。後は勝手に二人とも釣れるさ」

 

「そうなの?」

 

「あぁ。俺を信じろ」

 

「んー。分かった! じゃあ、一緒に頑張ろうね!」

 

私は杉原君の手を取って笑い、杉原君も任せろという様に自信満々の顔で笑うのだった。

 

その姿に、私は胸の奥で僅かに何かが高鳴る様な感覚を覚えるのだった。

 

それから杉原君とは別々に教室へ戻った私は何事もなく授業を受け、放課後になるまで今か今かとその時を待っていた。

 

 

 

しかしいつまで待っていても何も起こらない。

 

やきもきとした気持ちを抱えたまま時間だけが過ぎて、いよいよ帰るタイミングになってしまった。

 

そして、いつもの様に里菜ちゃんが私に話しかけてきたのである。

 

「朝陽―。帰ろー」

 

「うん」

 

どうしたのかな。今日はやらないのかな。

 

そんな風に不安に思っていた私はチラリと杉原君の方に視線を向けた。

 

そして、私の視線を受けてか、杉原君はスッと立ち上がり、私たちの方へと近づいてきた。

 

「と、藤堂!」

 

「ん。なぁに? 杉原君」

 

自然に。自然に。

 

変に見えないように私は心を落ち着かせながら杉原君に返事をする。

 

「その、な。実は父さんから映画のチケットを貰ってさ。一人で行くのもアレだし。藤堂も一緒に行かないか?」

 

「うん「行かない」……え?」

 

「朝陽は忙しいから。行けないの。悪いわね」

 

「いや、俺は藤堂に聞いてるんだけど」

 

「分かってるよ? だから私が代わりに答えてあげてるの。行くなら一人で行きなさいよ」

 

「い、いや。里菜ちゃん」

 

「良いのよ。朝陽。朝陽は忙しいのに、無理して人と付き合おうとするでしょ? だから、私が代わりに断ってあげるから」

 

「……はぁ、話にならないな。藤堂。すまんが、また二人の時に話させてくれ」

 

「はぁ!?」

 

「わ、分かったよ」

 

「ちょっと、朝陽!?」

 

「夜、電話するよ」

 

「うん」

 

「待った! 待って!! 待ちなさい!! 杉原!!」

 

里菜ちゃんの声も聞かず、杉原君はさっさと教室から出て行ってしまった。

 

そしてその夜。電話機の前で私はジッと待機していた。

 

「あら。朝陽ちゃん? お電話あったら呼びますから、ここで待っていなくても良いんですよ?」

 

「ううん。大丈夫」

 

「そ、そうですか?」

 

「うん!」

 

「ふふ。いつかの君を見ている様だね。姫乃さん」

 

「えぇ!? こんな時、ありましたか?」

 

「ほら、僕が任務の終わりに君の窓に手紙を挟んでいた事があるだろう? その時に、深夜だというのに、君は窓を開けて僕が来るのを待っていたじゃないか」

 

「……あ、ありましたね」

 

「何度僕が寝ていて欲しいと言っても、君は聞いてくれなかったね。朝陽は君によく似ているよ」

 

「う、うぅ。嬉しいやら、恥ずかしいやらですね」

 

後ろからお父さんとお母さんが楽しそうに話している声が聞こえるが、私の意識は電話に集中していた。

 

そして、電話が鳴った瞬間、私は勢いよく受話器を取り、名乗る。

 

「もしもし! 藤堂です!」

 

『お、おぅ。元気だな。ワシだ。西宮院源馬だ』

 

「あ。源馬おじちゃん。こんばんはー」

 

『あっはっは。露骨に落ち込んでいるな。なんだ。男からの電話でも待っていたか? アッハッハ』

 

「うん。そうだよ。じゃあお母さんに代わるねー」

 

『あぁ。頼む。って、何!? 朝陽!! 今のはどういう事だ!! 朝陽!? もしもしもしもし!!?』

 

「おかーさーん。源馬おじちゃんからでんわー!」

 

「はいはーい」

 

私は電話機の近くに置いてあった椅子に座りながら、横で話をしているお母さんをジッとみる。

 

源馬おじちゃんはあまりお話が長くない人だけど、今日はいつもよりも長いみたいだ。

 

お母さんも、困った様に対応していた。

 

何かあったのかな。

 

「はいはい。分かっていますよ。まだそんな年じゃありませんから……跡取りって、それはお兄様の方に、いえ。分かってますけど、まだ子供なんですから。縁を切るだなんて。そこまでしなくても良いでしょう? 子供同士の恋愛なんて可愛らしいじゃないですか。はい。はい。分かっております。何かあれば私の方で対処しますから。はい。分かっております。ではもう遅いですから切りますよ。では」

 

お母さんは何だか疲れたような雰囲気で受話器を置きながら、溜息を吐いていた。

 

私は杉原君の事よりも、お母さんの事が心配になってしまい、服を掴んでお母さんの様子を伺う。

 

「あら。どうしました?」

 

「その、お母さん、大丈夫かなって」

 

「ご心配ありがとうございます。私は大丈夫ですよ」

 

「そう?」

 

「はい。お兄様が少し心配性だなと感じてしまっただけで。むしろ朝陽ちゃんの事をお兄様にも愛して貰えて嬉しいという気持ちの方が大きいんです」

 

「そうなんだ。なら、大丈夫?」

 

「はい。私は大丈夫です。ですから、朝陽ちゃんは朝陽ちゃんの気になる方に目を向けてあげてください」

 

「私の、気になる人」

 

私は目を閉じながら、杉原君の事を思い浮かべて、何だか頬が熱くなるのを感じた。

 

なんだろう。この気持ちは。どういう気持ちなんだろう。

 

分からないけれど、嫌な気持ちはしなかった。

 

そして電話の前でうぬぬと悩んでいると、電話が鳴り、私よりも早くお母さんが電話に出た。

 

「はい。もしもし。藤堂です。はい。こんばんは。丁寧にありがとうございます。はい。居ますよ。では代わりますね」

 

お母さんは柔らかい笑顔を浮かべながら、私に受話器を差し出して、優しい声で告げた。

 

「朝陽ちゃん。杉原さんという方からお電話ですよ」

 

「……うん!」

 

私はお母さんから受話器を受け取り、耳に当てた。

 

別に何てことはない会話なのに、ドキドキと心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。

 

「もし、もし?」

 

『あぁ、もしもし? 俺。杉原一真。藤堂で良いんだよな?』

 

「うん。そうだよ」

 

『そっか。いやービックリしたぜ。電話したら、すげえ上品な、お嬢様ーって感じの声がしたからさ。あれ!? 間違えたかって、緊張したよ』

 

「なぁーにー。それ。私が上品じゃないって事ー?」

 

『そうは言わないけどさ。藤堂はお姫様とかお嬢様って感じじゃ無くて、ただの可愛い女の子って感じに見えるって事だよ。少なくとも俺にとってはな』

 

「ふぅーん。そっか」

 

『ま。藤堂がお姫様扱いされたいってんのなら、そうするけど?』

 

杉原君の言葉に、いつかの悪夢がよみがえり、私は急いでそれを否定した。

 

また教室の前でみんなを見ているだけの生活は嫌である。

 

『あー。それでさ。昼間の事なんだけど』

 

「あっ、そうだ。お昼の事。ごめんね? たぶん私のせいで失敗しちゃったんだよね?」

 

『失敗? 何言ってんだ。藤堂。作戦はこれ以上ないくらい成功したぜ』

 

「え!? そうなの!?」

 

『あぁ。藤堂のお陰で状況は最高さ』

 

「えぇー!? 私、何もできてないけど」

 

『んな事はない。これで作戦の第一段階は成功さ。餌に喰いついたからな』

 

「そうなんだ」

 

『あぁ。後は第二段階に移行って所なんだが、ここからは藤堂の助けがより必要になってくる』

 

「そうなの!? 私、なんでもやるよー!」

 

『……あ、あぁ。助かるよ。えっとだな。まず土曜日に、俺と藤堂がデートのフリをするんだ』

 

「ふんふん」

 

『そうすると、夢咲やウィルソンは心配で後を付けてくる。そうすると、だ。二人は俺と藤堂が歩いた場所、行った店に行く事になるんだ。つまり?』

 

「私たちと同じ様に里菜ちゃん達もデートをするんだね!?」

 

『そういう事だ』

 

私は受話器を持ちながら立ち上がり、杉原君の作戦に感動していた。

 

そして遠くでこちらを心配そうに見ているお父さんから視線を外し、電話に意識を集中した。

 

「じゃあ、それっぽく見える様に、おめかしして行くね」

 

『そ、そうだな。その方が良いかもしれん』

 

「うん。じゃあ楽しみにしてるね!」

 

私は電話を切りながら、言い訳の様に言った言葉が頭の中でグルグルしていた。

 

デートらしく見える様に、可愛い格好をしていこう。

 

杉原君はどういう服が好きなのかな。

 

考えれば、考えるほど何だか楽しい気持ちになる。

 

「土曜日か」

 

カレンダーを見ながら、土曜日まで何日か数えて、私はその日を想像し思わず笑みを浮かべるのだった。

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