## 第一話 売れないVTuberと洋楽の女神
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「視聴者数、5……」
わたしは、配信終了の画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。
5人。今日のライブ配信、ピーク時視聴者数5人。コメントは数えるまでもなく、片手で足りる。
「はぁー……」
ヘッドセットを外し、机に突っ伏す。VTuberデビューしてから、もうすぐ三か月。最初の一週間くらいは「新人だししょうがないよね」と思えていたが、三か月経ってこの数字だと、さすがに笑えなくなってくる。
そもそも、自分がVTuberになろうと思ったきっかけは、両親だった。
母親は涼宮ハ◯ヒの朝◯をアバターに使い、古い◯撃文庫や◯川スニーカー、富◯見ファンタ◯アのレーベル解説をするVTuberをやっている。マニアックながら、そこそこ固定ファンがついているらしい。というか、なぜ◯倉なのだ。ハ◯ヒでもなく、長◯でもない。まだキ◯ンやみ◯るというならわかるのだが…
父親はもっと意味不明だ。なぜか、上半身がガチで作り込まれたオグリキ◯ップのアバターで競馬解説をしている。いや、せめてウ◯娘版にしとけよ。
最初は「お父さん、頭ぶっこわれた?!」と本気で思ったが、これがまた地味に当たっているらしい。メンバーシップまで運営し、いまやファンから支援を受けているという。ついには「あなた、自分で小遣い稼いでるんだからいいわよね?」という理由で、父親の小遣いが引き揚げになったらしい。ふんっ、ざまぁみろ。
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最初はそう思っていた。両親が好き勝手にVTuberをたのしみ、あまつ趣味で稼いですらいるのだ。自分にもできるはずだと。
JKという属性、今どきの感性、それだけで十分武器になるはずだ。
軽く考えていた。
現実は甘くなかった。
「はぁー……売れねぇ。マジ売れねぇ」
ベッドに倒れ込みながら、天井を見上げる。
少し前、リスナーの一人――おそらく中年男性――に、それなりにオブラートに包んだ言い方で言われたことを思い出す。
「いや、話が合わないっていうか……話題がいまいち合わないんだよな、話題が」
(いや、おめーあきらかにおっさんじゃねーか。16のワタシと話題が合うと思ってんのか)
そう内心で突っ込みを入れたものの、すぐに自分の話題もまた微妙だという自覚が頭をもたげてくる。
学校の出来事をボヤいて誰が喜ぶというのか。
クラスの誰々が誰々と付き合った、定期テストがしんどい、購買のパンが売り切れていた――そんな話に需要なんてあるわけがない。自分でもよくわかっている。
「だからってさぁ……」
特別なスキルがあるわけでもない。誇れるほど面白い知識があるわけでもない。
ただ一つ、心当たりがあるとすれば――父親に小さい頃から聞かされ続け、今もリビングから漏れ聞こえてくる洋楽だけは、それなりに詳しい、ということだった。
「洋楽、かぁ……」
そう思いついて、すぐに頭を振る。
(いや、需要なさすぎでしょ。それより、まだこっそり読んでるBLのほうが需要あると思う。多分)
BL。さすがにそのままコンテンツ化するわけにはいかないが――。
(ガチムチのキャラとかやったら、面白いかな)
頭の悪い考えが、ふと頭をよぎる。けれどそれもすぐに、現実的な不安に押し流されていった。
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## 第二話 ガチムチアニキ、爆誕
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BLっていってもなぁ……
本棚を見る。会社のイケメン上司とイケメン部下、そんな表紙が並んでいる。こんなのをそのままVTuberでやったら、絶対ダメだろう。BANか、閑古鳥か。多分どっちもだ。
かといってなぁ……
売れ線を見ると、いかにもなYouTuberの企画。VTuberなら歌ってみただの、ゲーム配信だの。
いや、ライバル多すぎでしょ。新参でどうやって戦えと?
そんな程度はわたしでも見ればわかる。
そんなとき、ふと、VTuberがゲーム配信をしている動画が目に入った。
ストリート◯ァイターか……ゲームに興味があったわけではない。けれど、ガチガチにムキムキなプロレスラーのキャラクターが、プロレス技をしかけている画面に、なぜか目が止まった。
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BL……ではないけど。男の人、多分、こういうのをJKがやってたら面白いかも。
我ながら頭の悪い考えだと思う。思うが。
別にVが上手くいかなきゃいけないわけじゃない。このまま終わっても、別に害があるわけじゃない。
だから。
じゃあ、そういうおふざけもありかもしれないな、と思った。
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決めたら早かった。我ながら、やると決めたら早い方だと思う。それがいいか悪いかはともかく。
そのままのデザインにするのはアレだったので、いくつかゲームを探してみた。
あ、これもそうじゃん。
ファイナル◯ァイト。これもまた、Vのゲーム配信でやっているのを見て見つけた。
これと、これを足したようなデザインで――◯ガーと◯ーディと…ザン◯エフを足したような感じだ――ラフを書いて、ちゃっ◯ーに渡す。便利な世の中だ。思ったようなキャラクターを作ってくれる。
いまのV配信ソフトはありがたい。これだけあれば、あとは上手いことやってくれる。
イラストを組み込むと、いつものキャラクターと全く違う、ガチムチアニキ、みたいなキャラが鎮座。普段の背景に全く似合わないのに、思わず笑ってしまう。
あ、こういうギャップもいいかもしれないな。うん。頭が悪い。頭が悪いからこそ、面白いと思ってくれるかもしれない、と思った。
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あとは、話をなににするか、だよなぁ。
このキャラで学校の話をしても、秒で回れ右だろう。
BL本で見たトレーニングの話でもする?ちょっとだけなら自信がなくはないし。
そう思い――いや、まぁ一日寝かせよう。変なテンションで変なことしても、うまくいく気がしない。
そう思い、ふて寝するようベッドに入った。
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## 第三話 ガチムチアニキと洋楽の女神(仮)
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学校から帰ると、やってみることにした。
変なところで覚悟が決まっていたようで、新しい案が思い浮かばないなら、やってしまえ。そう思っていたのだ。
配信のボタンを押す。
常連がいれば驚くだろうけど……まぁ常連がいないわたしには関係ない。
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配信を始めると、まずキャラクターに興味を持ってくれる人がいた。
え、アニキ?!
え、そのキャラで女の子?!!
は? 16歳?!!
いいぞ、のってこい。
気づけば視聴者数がじわじわ増えていた。30人。いままでで最高だと思う。たかが30人で喜んでいる自分が、なんだか少し惨めにも思えたけど、贅沢は言えない。
話題はBLで見たジムやトレーニング、パンプアップの話をしてみた。とは言え雑談ベースだ。専門知識なんてあるわけがないので、適当に聞きかじった単語を並べているだけにすぎない。
じきにネタは尽きると、また日常の話しかなくなった。
ギャップから聞き続けてくれる人はいたけど、やはりわたしの平凡な日常など、所詮平凡でしかない。
……で?
それで?って感じだな
ガチムチキャラで女子高生トークされても、ふつうにキツイwwwww
一人、一人と減っていく。視聴者数のカウンターが下がっていくのを見るのは、地味にメンタルにくる。
家族のことを話せば多少は……と思ったが、それはやめておいた。あの両親のことを話せば多分ウケるんだろうけど、変な形で身バレするのも嫌だし、なんというか、それは反則っぽい気がした。
代わりに、自分のことや、趣味も話してみることにした。
した。が、やはり世の中、平凡なJKの日常の話題など需要はないようだ。
減るペースが止まらないところで。
あ、さっきトレーニングの話してるとき使ってた音楽なんだけどさ、洋楽?
コメントが来た。
ふーん、つまんね、そういった辛辣な言葉と、ナンパ以外が初めて来た。
あ、はい! あれ、お父さんが好きで……まぁわたしもちょくちょく聴くんですけど。
やっぱり! めずらしいね、JKで洋楽なんて。
その話が興味を引いてくれたのか、コメントが増える。
え、洋楽? JKで?
なに聴くの?
マジ? 今どきの子で洋楽って珍しいな
おい、わたしより洋楽のほうが魅力あるのか? 流石にピチピチのJKなんだが? お前らわたしがちょっとエッチな声でも出したらわらわら湧いてくるだろうが――そう思うと少しイラッとこなくもない。
あー、さっきのはANGRAっていうブラジルのメタルで……
は? ANGRA? JKがANGRAはガチ過ぎでしょw
草。ANGRA聴くJKは新しい
おいおい、チョイスが渋すぎるだろwww
思ったよりも反響がある。なんだそれ。
結構聴くって言ってましたけど、ANGRA以外も聴くんですか?
たしかに、ANGRA聴くJKが他に何聴くか気になる
意外なところから興味を持ってくれたのに、感謝すればいいのか悪いのか。
あ……まぁ、SteelHeartとか……メジャーなのだと、Bon Joviに、Def Leppardとか、Europeとか……
そう言って、80年代の大ヒットバンドをいくつか挙げる。
まじか
ANGRAとSteelHeartとか渋いとこ突いてくるな
Bon JoviとDef Leppardは知ってるけど、JKの口から聞くと変な感じだなw
いや待ってwwww渋すぎていろいろおかしいwwww
Europeは草、Final Countdownかよ
えぇ……なにそれ。わたしガチムチアニキにガワ変えてANGRAの話したらよかったってこと? そんな無茶苦茶なJK Vなんて聞いたことがない。それこそアングラもいいとこでしょ。
そう思っていると、配信を終える時間が来た。
あ、また明日もやるので……よかったら来てください。
来る来る。洋楽の話もっと聴かせてよ
洋楽話すんだったら俺も来るわ
次回も期待してるぞ、アニキ(?)
あ、じゃぁ色々準備しておきますね!
そう言って、配信を終えた。
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……なにこれ。洋楽っておっさんホイホイなの?
とはいえ、期待されているのは初めてだったし、素直に嬉しかった。視聴者数のグラフが、最後にちょっとだけ上向きになっていたのを見て、何度も見返してしまう。
いくつか、聴き直して……それから調べておくかぁ……
ANGRAとSteelHeart、それとBon JoviやDef Leppardを挙げたが、後半の方はどちらかと言えば誰でも知ってるレベルの、わかりやすいド定番に近い方だ。
自慢じゃないが、父親の影響で――家のリビングで流れていた洋楽は、さっき挙げた比ではない。
気づけば頬が緩んでいた。
「多分、あの人達よりずっと詳しい自身、あるんだよね……」
そう思い、明日に備えて床についた。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第一話〜第三話は、いわば「助走」の部分です。
視聴者数5人から始まり、ガチムチのガワを思いつき、洋楽というきっかけを偶然手にするまで。
まだ何も成し遂げていない、ただの売れないJK VTuberの試行錯誤の記録。
次からは、怒涛の洋楽トークの成り上がり。
なんでこれがウケるんだ、と思いつつ、これなら確かにウケるわ、という納得できない納得に、乞うご期待!