翡翠の瞳に乾杯 ~日露対魔戦線~   作:D’n A

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第二章 引力

 

 公安対魔庁東京本部のエントランスに、ジャンナとソコロフはキャリーケースを持って佇んでいる。二人がエントランスから続く道を見ると、同じくキャリーケースを転がす三鷹とパワーが現れた。

 

「遅れて申し訳ありません。コイツの準備が遅くて」

「嘘を言うでない!ウヌの方が遅かったじゃろう!」

「あーハイハイ。じゃそういうことでいいですよ」

 

 日本組の二人がロシア組の二人のもとへたどり着くと、三鷹の謝罪からパワーとの口論——もとい漫才が始まった。ジャンナはそれをよそにソコロフに何かを話しかける。それを受けて、ソコロフが漫才を繰り広げる二人の間に割って入る。

 

「お二人が監視役なのですか?」

「あ、はい。説明が遅れました。私達で担当します」

「一課隊長ということはナンバー2でしょう?直々に同伴いただけるとは恐縮です」

「現場のデビルハンターのね。机に座ってるお偉いさんはもっとたくさんいますよ」

「我々にとっては実力が重要です。尤も、信用されていないことの裏返しでもあるのでしょうが——」

 

 三鷹とソコロフが会話をしていると、二台の黒塗りの車がエントランスに到着した。それぞれの運転手が降り立ち後部座席のドアを開けると、三鷹が乗車を促す。

 

「ジャンナさんは私と。ミスター・ソコロフはパワーと乗ってください。分かれてしまう上に長旅で退屈でしょうが、監視のためご理解ください」

 

 ソコロフが促されるままパワーと共に後部座席に乗り込むのを見届けると、ジャンナはもう一台の車に乗り込んだ。三鷹も乗り込み、ジャンナの左側に座ってドアを閉めると、二台の車が出発した。

 車が動き出してからしばらく、三鷹とジャンナは何も話さずただ前を見ている。三鷹はちらちらと右を見ながら、恐る恐る口を開いた。

 

「あー。これから……えっと、ネクスト……ロング、ドライブ。ソー、ユースリープ……」

「……日本語で、イイデスヨ」

 

 滅茶苦茶な英語で話しかけた三鷹に対し、ジャンナはカタコトだがしっかりした日本語で答える。三鷹は一瞬左目を見開くが、すぐに目を細めて前に向き直って言う。

 

「なんだ、やっぱり日本語分かるんじゃないですか」

「ヤッパリ……?どうして、私が日本語分かると思いマシタか?」

「だってアンタ、アイツ……ああ失礼。ミスター・ソコロフがウチらと雰囲気悪くなった時、間に入って怒ったでしょう?」

「アノ時はサーシャがゴメンナサイ、ミスター・ミタカ。下に見られてはイケナイと、気を張っていたミタイです」

 

 ジャンナは深々と頭を下げて謝罪した。それを見ると、非がないはずの三鷹の方が罪悪感を感じてしまう。

 

「……彼がアンタを守っているのはよく分かりますよ。サーシャ……昨日も言ってましたよね。役職ですか?」

「ニックネームです。アレクサンドルという名前のヒトは、親しいヒトからはみんなサーシャと呼ばれマスよ」

「“アレクサンドル”が、“サーシャ”……全然違くて混乱します。ジャンナさんも、そういうのあるんですか?」

「いくつかありマスが……ミスター・ミタカが呼ぶなら、”ジャン()”と呼んでもイイですよ。親しい友人からは、そう呼ばれマス」

「うーん……元の名前とほとんど一緒で益々混乱しそうです。やっぱりジャンナさんと呼ばせてください」

「あはは、日本人のヒトはそうデスよね」

 

 三鷹は楽しそうに笑うジャンナの顔を見る。ジャンナと話していると、自分もまただんだん楽しくなっていることに気づく。

 

 ——浮気?

 

 ナユタに投げかけられた言葉が浮かび、ハッとして窓の外へ視線を逃がした。雲を見ながら、気になっていたことを問いかける。

 

「こんなに話せるのに、どうして通訳を?」

「仕事のコトは正しく伝わるように、プロに任せたいデス。加えて、サーシャは通訳だけじゃアリマセン。私がFSBに入ってから、親みたいデス」

 

 少し不自然な日本語だが、言いたいことは伝わる。補佐と言っていたが、年齢はソコロフの方がずっと上だ。ジャンナをデビルハンターとして育てたのは、あの男なのだろうか。

 

「そうだ。最初に言おうとしたこと……これから長旅なんで、寝てた方がいいですよ」

「でもミスター・ミタカは監視のタメに寝れないデス。違いマスか?」

「まあ、そうですが……」

「私はミスター・ミタカとのお話、楽しいデスよ」

 

 ジャンナの方を見ると、首を右に傾け、目を細めて口角を上げながらこちらを見つめている。まずい——またその翡翠色の瞳に吸い込まれそうになると、慌てて目を逸らした。少しだけ首を左に回せば、眼帯で塞がれた右の死角にジャンナを追いやれる。自分から手を挙げた監視役であることを放棄し、ただ気分を落ち着けようとする。だがそれは許されず、死角の方から声が続く。

 

「その目、何の悪魔にやられたのデスか……?ソレトモ、契約の代償?」

「……悪魔じゃないです。子供の頃に借金返すために売ったんですよ。はした金にもなりませんでしたがね」

「ハシタ……ガネ?」

「ああ、すいません。借金を返すのには役に立たないような、安い値段でしか売れなかったってことです」

 

 三鷹の話を聞くと、ジャンナは悲しそうな顔をして俯く。翡翠の眼から逃げている三鷹には、その様子は見えていない。

 

「ナンデ……子供なのに、借金を持っていたんデスか?」

「オヤジ……ええと、父がヤクザ……マフィアに借りた借金を残したまま死んだんです」

「そう、デスか……」

 

 三鷹はジャンナの声がか細くなったことに気づき、また右を向きその姿をしっかりと視界に入れる。自分の話を聞いて落ち込んでいる彼女の姿が、心臓を締め付ける。

 

「そんな同情されることじゃありません。自業自得……私の責任ですから」

「子供に……責任は無いデスヨ」

 

 ジャンナの優しくもどこか怒りが混じった声で、二人の会話は止まった。それから二時間近く、最初のインターチェンジでの休憩まで黙って過ごした。その間、先ほどの首を傾けてこちらを見つめていたジャンナの貌が何度も頭の中に浮かんだ。その貌を、やはりどこかで見たことがあるような気がしてならなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 四回の休憩を挟みながら、六時間にわたる長旅の末、秋田県にかほ市——戦車の悪魔がいるとされる地点に、直線距離で一番近い浜がある町に辿りついた。浜辺の近くの駅前にあるビジネスホテルに、運転手を合わせ六人がチェックインを済ませる。デビルハンターの四人はホテルを出て、目標地である象潟(きさかた)海岸の浜辺へと向かった。

 

「ホントにこの先の沖に戦車の悪魔がいるんですか?」

 

 三鷹は水平線を見つめながらそう問いかけた。ソコロフが答えようとすると、パワーが先に口を開く。

 

「おるぞ。強い悪魔の血の匂いが、波と一緒に漂ってくるわ」

「全然見えねえけどなあ……」

 

 三鷹が呟くと、今度こそソコロフが説明する。

 

「海中にいると、我々は踏んでいます」

「戦車なのに海ん中ぁ?」

「深傷を追った彼奴(きゃつ)は、ウラジオストクの港から南東へと逃げていきました。日本海を真っ直ぐ、泳いで横断して」

「泳いで……ハッ、水陸両用車ってことですかい?」

「まさに。船のようにしてね。衛星で追跡していましたが、ここ秋田沖で海中へ潜り、それ以来動きを見せていません。おそらく、回復をしているのかと」

 

 淡々と説明をするソコロフ。しかしその目は燃え上がり、握り拳に固く力が入っている。その様子を見た三鷹が続ける。

 

「ウラジオストク……大規模な爆発事故がニュースになっていましたね。あれ、本当は戦車の悪魔の被害だったんですね。犠牲者数は、ニュースの通りだとすると——」

「およそ六〇〇人デス。負傷者は、その十倍……」

 

 ジャンナが言葉を遮り、続く数字を伝えた。垂れた長い髪が俯いたその顔を隠し、表情が見えない。

 

「……爆発事故にしては多いと思いました。被害者のご冥福をお祈りします」

「不意打ちでした。連邦軍はウラジオストクの極秘施設に、戦車の悪魔を拘束保管していました。報告では、保管開始以来ずっと動きを見せなかったのですが……彼奴め、突然自身の身体の半分を爆発させて施設から脱出したのです」

「爆発事故ってえのは、真っ赤な嘘ってわけでもなかったんですね。半身を犠牲にして、無理やり拘束を解いたと……」

「はい。外に出た彼奴は、そのまま街に襲いかかり……あっという間に多くの命が失われました」

「遅くなった私達は市民を守れませんデシタ……。でも、あと少し、あと少しで殺せた……なのに、あの悪魔は逃げた……!!あんなに人を殺シテ!!…… Чёртов трусливый дьявол (クソッタレの臆病悪魔め)!」

 

 ジャンナの叫び声が静かな砂浜に響く。穏やかな波音がその余韻を掻き消す。ソコロフがジャンナの曲がった背中に手を添えながら、話を続ける。

 

「彼奴は身体の半分を失い、本来の力を出せていません。加えて我々が与えた傷で弱っています。日本の方に来たのも、日本を襲うためではなく我々が手出ししにくい場所で回復するためでしょう……そして、万全な元の姿に戻ってから、またウラジオストクに戻り復讐をするつもりなのだろうと考えています」

「つまり、ソイツが弱っている今のうちに叩いておきてぇって訳ですな」

「仰る通りです、ミスター・ミタカ。ここで彼奴に引導を渡す……その為に我々は来ました」

 

 水平線を見ていたソコロフの眼が三鷹を見つめる。俯いていたジャンナもまた顔を上げ、力強い眼で三鷹を見る。彼女らの決意を受け取った三鷹は無言で頷いた。すると、ずっと黙っていたパワーが気の抜けた声で言う。

 

「だがどうするんじゃ、戦車の悪魔は海の中じゃろう?ウヌら、海の上で戦えるのか?ワシらの能力は水中じゃ使えんぞ」

「私の悪魔の力を使って浜まで誘き寄せます。ボートか何かをお借りできますか?できるだけ馬力とスピードが出るものを」

 

 ソコロフがパワーの問いに応えつつ三鷹に要求を出した。

 

「手配します。この浜が戦場になるってえなら、周辺住民にも避難勧告を出しておきます」

「助かります。明日の朝を、決戦の時としましょう」

 

 話を終えた四人は、水平線を沈む夕陽を背にして内地の方へ向かって歩き始めた。途中、ジャンナとソコロフは何度も海の方を振り返る。二人の後ろに立つ三鷹は、その燃え上がるような眼と噛み締めた唇を、嫌と言うほど目にした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 三鷹はホテルの一室でベッドにゴロンと横になっている。食事を取りに出かけるジャンナとソコロフの見張りはパワーに任せ、三鷹は一人明日の作戦の準備に追われていた。ナユタへの報告、船の手配、避難勧告の依頼、もしもの時の為の自衛隊との連携準備……大急ぎで全てをこなした後、コンビニのサンドイッチで簡単に夕食を済ませ、ようやく一息ついたところだった。その時、コンコンとドアをノックする音がした。

 

「なんだパワー、そろそろ休みてぇんだけど……ジャンナさん?」

 

 ドアを開けた先にいたのは、ジャンナであった。仕事用のスーツから、ラフだがお洒落なワンピースに着替えて、下ろしていた髪を後ろで団子にまとめている。何故だか、その顔がさらに懐かしく感じる。

 

「迷惑でシタか……?」

「あ、ああいや、迷惑なんてことは……」

「良かった。嫌じゃなければ、そこのバーに飲みに行きマセンカ?」

「……それじゃあ、是非」

 

 ホテルを出て、近くのバーに向かって歩く。先を歩くジャンナの方から、夜風に乗って香水の匂いが漂ってくる。無言のままバーに辿り着き、三鷹が左側に座る形でカウンターに並んで座った。

 

「ジャンナさん、メニュー読めますか?」

「読み書きはダメです……けど、ボトルが並んでるのでダイジョウブです。ストリチナヤ……あのウォッカをそのまま」

 

 ジャンナは並べられているボトルを指さして言った。

 

「おお(すげ)ぇ。マスター、彼女にこのウォッカをストレートで。僕にはハイボールを」

 

 三鷹が二人分の注文をすると、ジャンナが不思議そうに尋ねる。

 

「何が凄いデスか?」

「日本人でウォッカをそのまま飲む人なんてそういねえですよ。特に女性で」

「美味しいノニ……ミスター・ミタカは、何のお酒が好きデスか?」

「私は……ハイボールとか、たまにワインとか。ビールは苦くて好きじゃないです」

「そういえば、コーヒーじゃなくてお茶を飲んでマシタね」

「コーヒーも苦いから嫌いです」

「あははははは!子供だ子供!」

 

 ジャンナは身体を捻って右腕を三鷹の方へ伸ばし、その肩に手のひらを当てて大笑いした。不意のボディタッチに、三鷹は驚いてジャンナの方を向く。

 

Ой(あっ)!」

 

 ジャンナも意識しての行動ではなかったのか、三鷹の目線に気がつくとすぐに手を引いて身体の向きを戻す。そのタイミングで、バーテンが二人の前に酒を置いた。

 

「ゴメンナサイ……面白くて」

 

 ウォッカに口をつけながら謝るジャンナの頬が、赤く染まっている。それを見ると、三鷹もまた前を向いてハイボールをゴクゴクと喉を鳴らして飲む。眼帯の死角でジャンナが見えなくなる。

 

「いえそんな……ちょっと、びっくりしましたけど」

「ああ……失礼、デシタよね……」

「いや、そうじゃなくて……なんか今の、前にもあったような気がして……」

「貴方も……?」

 

 ジャンナの問いかけに、三鷹は右を向いて反応する。既にしっかりと左を向いていたジャンナと目が合う。お互いがその瞳に釘付けになり、見つめあってしまう。

 

「一目見た時から思ってたんデス……私達、前にどこかで会ったことアリマセンか?」

「私も……同じことを思っていました。だから来たんです。気になってしまって」

 

 アルコールと、バーのシックな雰囲気にあてられる。目と目が合ったまま離れず、首が動かない。まずい——またそう思った三鷹は、必死に目線を下へと落とした。ジャンナの左手薬指に光る指輪が目に入り、やっと魔法が解けた。

 

「……ご結婚、されてるんですね」

「ハイ。ミスター・ミタカもですヨネ」

 

 ジャンナは三鷹がグラスを持つ左手を見ながら言った。三鷹は彼女の視線の先にある、自分の薬指に光る指輪を見ながら聞く。

 

「ご家族は、無事でしたか?」

「ハイ。夫も、子供達も。私の家は、ウラジオストクの中心部からは少し遠いデス。でも……」

「でも?」

「……友達が一人、死にマシタ」

 

 そう言うと、ジャンナは宙を見上げて遠い目をする。

 

「親しい方だったのですか?」

「ボーイフレンドでしタ。結婚する前の」

「別れても、友達だった……?」

「良いヒトでした。若いから、数日で盛り上がって恋に落ちて……でも、考え方が違いマシタ。大事なコト、生き方……彼を、嫌いになってマセン。ただ、私と彼の歩く道が違ったダケ……」

 

 ジャンナは身体ごと三鷹の方を向き、翡翠色の目を細める。首をこてんと倒し、三鷹の左目を見上げて言う。

 

「そんな恋をした男のヒトがもう一人いる……昨日の夜、そんな夢を見マシタ」

 

 ジャンナの表情が更に熱を帯びる。足を組みかえ、ワンピースの裾から白く透き通った太ももが露出する。ごくりと唾を飲む三鷹。

 

 ——昔の女だったらどうする?

 

 ナユタの声がよみがえる。ハッとして目を背けようとしたが、その前にジャンナの左腕が首に組みついてきた。顔と顔が触れそうになるほど近づく。天使か悪魔か——ジャンナの囁きが耳に触れる。

 

「今夜、しちゃいますか?……恋」

 

 グラスを握りしめていた三鷹の左手の力が抜ける。その手で、ジャンナの空いた右手を撫でながら取る。右を向き、優しい目でジャンナの方を見る。左手で取った彼女の右手に、今度は自分の右手を重ね、温もりで包み込む。目を細めてジャンナの翡翠色の瞳を見つめ、ゆっくりと口を開く——

 

「…………戦車の悪魔は持ち帰らせませんよ」

「ええええ〜〜〜〜!?ケチ!ケチケチケチ!!」

 

 ジャンナは組みついていた腕をほどき、大袈裟に身体をのけ反らせて喚いた。

 

「絶対今ラブな雰囲気だったじゃないデスか〜!なんでバレたんデスか?」

「いくらなんでも早すぎますよ。まだ一杯しか飲んでない……そうだ、次も同じのでいいですか?」

「ハイ……あ〜あ、ハニートラップ、失敗デス」

「……ご家庭があるのに、ハニートラップも仕事なんですか?」

「そんな仕事したコトないデス……。今回だけデスよ」

 

 頬を膨らませながらジャンナが答えた。三鷹はハァとため息を吐きながら続ける。

 

「大事にして下さいよ。体も、ご家族も」

「そう……デスネ。戦車の悪魔は欲しいですケド……ドウシテ、私、こんなコトしたんデショウ?」

 

 また赤くなっているジャンナの頬に気づかない振りをして、三鷹はバーテンにまたウォッカとハイボールを頼んだ。次のグラスが届くと、三鷹は思い出したように話題を切り替える。

 

「そういえば、よく『ケチ』なんて日本語知ってましたね」

「……日本語を勉強した時、何故かもう知ってるミタイに覚えられたスラングがいくつかあるんデス。他にも、例えば……いや、やっぱり言いマセン」

「どうしてです?」

「人前で言う言葉じゃアリマセン」

「下ネタってこと?聞きたいなあ」

「それ、セクシャルハラスメントですヨ〜。戦車の悪魔、くれるなら教えてあげマス」

「……やっぱいいです。失礼しました」

「チェ〜、残念デス」

 

 二人とも口を尖らせて会話が終わる。子供のような表情になったジャンナを見て、三鷹は口元が綻んでしまう。二人で話す時間が、ただ純粋に楽しいと思ってしまった。さっきまで漂っていた危うささえ、なんだか懐かしく思えた。

 それからは他愛もない話が続いた。最後の酒が終わりそうになる頃、三鷹は真面目な顔に戻りジャンナに語りかける。

 

「さっきは流しちゃいましたけど……戦車の悪魔を追う理由、元カレの復讐……ですか?」

「……ハイ。でも、それだけじゃないデス。アイツは、私の愛する町のヒト達を沢山殺した」

「大事な人を亡くされた方に対してこんな事を言うのは失礼ですが……()()ぁ色んなデビルハンターを見てきましたけど、早死にすんのは決まって悪魔に復讐心を持っている奴でした」

「…………」

 

 神妙な顔で語る三鷹の言葉を、ジャンナは黙って聞く。三鷹が続ける。

 

「悪魔相手に冷静さを欠いてしまったが最後、結末は二つに一つ。自滅するか、つけ込まれるか……悪魔は災害です。地震や竜巻で人が死んでも、悲しんでも憎まないでしょ?」

「デモ、アイツらは意思がある。言葉を話す奴もイル……!」

「はい。だから憎むのは当然です、デビルハンターじゃなければね。でも、アンタがデビルハンターってえなら……憎しみは忘れることです。(ひで)ぇことを言っているのは分かっています。でも、アンタが死ぬところは見たくねぇ」

 

 三鷹が話し終わると、ジャンナは黙って残ったウォッカを飲み干した。三鷹もグラスの中身を空にし、立ち上がって言う。

 

「すいませんね、最後に暗い話を」

「いえ、ミスター・ミタカの言う通りデス。それに、楽しかったデスヨ」

「ここはウチが持つんで」

「ワオ!アリガトウゴザイマス!」

 

 会計を済ませ、夜空の下で二人並んでホテルへと戻る。東京と違い、星空がよく見える。とりわけ美しい、天の川に目を奪われる。そうしていると、一瞬、事故のように手の甲と手の甲が触れ合った。その瞬間、三鷹は隣にいるその女と手をしっかり繋いでいるような感覚に陥った。心なしか、手を繋ぐジャンナが少女のように見えた。不思議に思って彼女の方を見ると、いつの間にかジャンナもまた三鷹の方を見上げていた。合った目と目が、またしても離せなくなる。彼女もまた同じような錯覚を感じていたのかどうか——気になっても、尋ねる勇気は無かった。

 

 (第三章 決戦 につづく)

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