蜂ガイル〜蜂は再び恋をすることが出来るのだろうか〜   作:龍造寺

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第1話です。


第1話ー蜂は、雪ノ下雪乃と比企谷八幡と出会う。

 

一般棟から特別棟にやってきたわ。特別棟は、音楽室や生物室、図書室と文化系の部活動の部室があるだけの校舎のはず。それ以外に何かあったかしらぁ?

 

千葉県・夕方・総武高校・奉仕部。

 

平塚先生がある教室の前で立ち止まった。プレートには何も書かれていないし、ここって空き教室だよねぇ?

 

「食蜂、着いたぞ」

 

「ここって空き教室なんじゃ?」

 

平塚先生は私の問いに答えず、そのまま扉を開けた。私は教室の中を覗き込む。教室の端っこには机と椅子が無造作に積み上げられていて、倉庫代わりに使われているのかと思ってしまったわ。

 

でも、その中に2人の人物がいるのを確認した。女子の方は斜陽の中で本を読んでいた。もう1人の男子は廊下側で同じく本を読んでいた。

 

女子の方がこちらを向いて

 

「平塚先生、何度も言いますが、入る時にはノックをお願いしていたはずですが?」

 

この女子、丹精な顔立ちに流れる黒髪。女の私でも見惚れてしまうような美しさよ。

 

「ノックしても君は返事をした試しがないじゃないか。前回の比企谷の時もそうだっただろう?」

 

「何度も言いますが、返事をする間もなく先生が入ってくるからですよ。それで、そのキラキラした目の人は?」

 

「……食蜂理沙……なんでここに?」

 

ちらっと彼女の冷たい瞳が私を捉え、やる気のなさそうな──腐った魚みたいな目をした彼も私を見て、フルネームで言ったわ。彼の名前は比企谷八幡。私と同じクラス、2ーF組よぉ。いつも1人で本を読んでいるか、スマホで音楽を聴いているか、寝ているかのどれか。友達がいるようには見えないし、話しかけている人物もいない。

 

つまり、❝ぼっち❞ってことになるわけだけどぉ、私も人のことは言えないわねぇ。そして女子の方は、雪ノ下雪乃。クラスは2ーJ組。もちろん知り合いというわけじゃないわ。学年トップの成績を収める人だし、何かしら表彰されたりするから、そこで顔は覚えただけ。

 

この総武高校には普通科のほかに、国際教養コースというのが1クラスあるわ。普通科よりも偏差値が2〜3高いクラスで、帰国子女や留学志望の生徒が多いのよねぇ。雪ノ下さんは、そのクラスでも異彩を放つ存在よ。

 

「比企谷は食蜂と同じクラスだったな。食蜂は入部希望者だ」

 

平塚先生に促されて、私は軽く会釈をする。

 

「ご紹介がありました、2ーF組の食蜂理沙です。えーとぉ……なんで入部することになってるんですかぁ?」

 

「君にはペナルティとしてここでの部活動を命じる。異論反論抗議質問口答えは認めない。しばらく頭を冷やせ。反省しろ」

 

「はぁ〜その論理はむちゃくちゃすぎますよぉ! それが学校の教師の言うことですかぁ!?」

 

「私は君のためを思っての処置なんだが」

 

「処置って、私が何か悪いことをしたみたいな言い方やめてくださいよぉ」

 

比企谷君がため息を吐きながら私に

 

「平塚先生に何を言っても無駄だぞ。こうと決めたら一点張りだからな」

 

「なによぉ……それって……」

 

「雪ノ下、見ての通りだが、彼女はなかなか捻くれているようだ。比企谷同様に頼めるか?」

 

雪ノ下さんは私をじっと見て、

 

「性格がひねくれているなら、先生が叩くなりして躾ければいいと思いますが?」

 

叩いて躾けるって、雪ノ下さん、あなた随分物騒なこと言うのねぇ。その発言、もうコンプライアンス違反よ!

 

「私だってできることならそうしたいが、最近はうるさくてね。肉体への暴力が許されていないんだ」

 

「平塚先生も物騒なことは言わないでくださいよぉ!」

 

「はぁ〜それは俺も言われたぜ……」

 

「比企谷君も!?」

 

平塚先生は中二病をこじらせただけみたいな感じもするけどぉ、雪ノ下さんは鋭利な刃物でズバッと斬られるような感覚がするわ!

 

「不本意ですが、食蜂さんのことも承りました」

 

「そうか。なら後のことは頼む」

 

とだけ言って、平塚先生はさっさと帰ってしまった。私はポツンとこの部屋に置いていかれることになったわ。

 

 

カチカチと時計の秒針が、やけにゆっくりと大きく聞こえてくる。

 

「食蜂さん、ずっと立ってないで座ったら?」

 

「あ、はい」

 

雪ノ下さんに言われて、近くの椅子を取り出して座った。ちょうど黒板側の席になったわ。まあ、簡単に椅子が出せるところはここしかなかったのもあるけどぉ。

 

雪ノ下さんも比企谷君も互いに干渉せず、文庫本らしきものを読んでいるみたいねぇ。確か平塚先生は奉仕活動と言っていた。でも、この様子を見ると文芸部と何が違うのか疑問になってくるわ。

 

奉仕活動というだけで、肝心な説明はしてもらえなかったし。

 

「あのぉ〜、ここって何をする部活なのぉ? 平塚先生に説明もなしにここへ連れてこられたから」

 

私がそう言うと、比企谷君はため息を吐いて

 

「お前も説明なかったんだな」

 

という表情をし、雪ノ下さんは不機嫌そうにパタンと勢いよく文庫本を閉じたわ。やっぱり聞くのがまずかったかしら?

 

「そうね。ではゲームをしましょう」

 

「ゲーム?」

 

「そう、ここが何部か当てるゲーム。比企谷君、あなたは何も答えないで」

 

「別に何も言うつもりはないが?」

 

ここが何部かを当てるゲーム。普通なら文芸部と答えるのかもしれない。だって2人とも本を読んでいるんだから。でもそれでは問題にすらならないはずよねぇ。奉仕活動というのがヒントなら、ボランティア部なのぉ?

 

「ボランティア部?」

 

「へぇー、その心は?」

 

雪ノ下さんが興味深げに問い返してきた。

 

「私は平塚先生から奉仕活動を命じられたわ。そしてここへ連れてこられた。でもここにいる2人は文庫本を読んでいる……一応言ってみるけれどぉ、文芸部じゃないわよねぇ?」

 

「違うわ」

 

「まあ、そうでしょうねぇ。文芸部じゃ、奉仕活動という言葉がどこかに行っちゃってるし……」

 

部員は雪ノ下さんと比企谷君の2人で間違いなさそうねぇ。周りに埃が積もっているけど、2人の周りだけは綺麗だし、これで2人以外に人はいないって推測できるわ。

 

それにしても奉仕活動がネックよね。ボランティア部が違うなら……うーん、奉仕活動だから奉仕部? まさかよねぇ……安直すぎる気もするけどぉ……

 

「まさかと思うけれどぉ、奉仕部とか言わないよねぇ?」

 

雪ノ下さんがびっくりした表情で私を見てきたわ。比企谷君も驚いてる。

 

「せ、正解よ、食蜂さん」

 

「食蜂、まさか当てるとは……俺は分からなかったぞ」

 

「そうなのぉ?」

 

まさか正解だったわ。雪ノ下さんはそっと立ち上がり

 

「持つものが持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える人は、それぞれボランティアと呼ぶの。途上国にはODAを。ホームレスには炊き出しを。モテない男女には異性との会話を。困っている人に一人の手を差し伸べる。それがこの部の活動よ」

 

なるほどぉ、だから奉仕活動って……って、私もそういう活動をしないといけないの!?

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

 

 

「食蜂がまさか平塚先生に連れてこられるとは思ってなかったからな」

 

「……私があの作文を真面目に書かなかったばかりに……」

 

「高校生活を振り返って、の作文……俺と同じかよ」

 

比企谷君もあの作文で平塚先生にここへ連れてこられたみたいねぇ。

 

「まだ私が話しているでしょう。平塚先生曰く、優れた人間は哀れなものを救う義務がある、のだそうよ。頼まれた以上、責任は果たすわ。比企谷君同様に食蜂さんの問題を矯正してあげる。感謝しなさい」

 

ノブリス・オブリージュ……貴族の責務と雪ノ下さんは言いたいのかしらぁ。腕を組んだ彼女は、まさに貴族のように見えるわ。見せかけじゃなく、本物の貴族みたい。

 

「雪ノ下さん……私ってそんなに哀れに見えるのかしらぁ?」

 

「……自覚がないのかしら?」

 

「自覚って……」

 

「食蜂、お前……友達いないだろ? いつも1人でいるわけだしな」

 

「な、な、それはあなたが言うのぉ? あなただって1人でずっといるじゃないのぉ!?」

 

「俺はいないのではない、作らないだけだ」

 

「私だって同じよぉ!」

 

私と比企谷君が言い争っていると、雪ノ下さんが

 

「そんな低レベルな争い、見ているこっちが恥ずかしいわ」

 

「な、なんだと!?」

 

「あなたたちの問題……長期戦になりそうね。腰を据えてかからないと」

 

すると、教室の扉が勢いよく開けられ、再び平塚先生がやってきた。

 

「苦労しているようだな」

 

「平塚先生、いい加減ノックぐらいしてください。ええ、苦労してますよ」

 

何、このデジャブ感?

 

「雪ノ下が苦労していると思ってな。いい話を持ってきた。これから君たちの元に悩める子羊を導く。彼らを君たち何に救ってみろ。そしてお互いの正しさを存分に証明するがいい。どちらが人に奉仕できるか……」

 

「はぁ? なんで私がそんなことをしないといけないのよぉ?」

 

「食蜂、君たちには拒否権はないのだよ」

 

「横暴、というか無茶苦茶よぉ!」

 

「諦めな、食蜂。この人は無茶苦茶なことを要求するような教師だ」

 

「全て君たちのためだ」

 

こうして私たちは、平塚先生に「誰が一番悩める子羊を救ってみせるか」という勝負をさせられることになったわ。

 

雪ノ下さんは喝を入れられてやる気になったし、比企谷君も渋々承諾したし、私に残された返事は「はい」か「YES」しかないじゃないのぉ!

 

「勝負の査定は私がする。基準はもちろん、私の独断と偏見だ。あまり意識せず、適当に適切に妥当に頑張りたまえ」

 

それだけ言い残すと、平塚先生は教室を後にした。残されたのは私たち3人だけ。私は一段と体が重く感じられたわ。しばらくの沈黙の後、完全下校時刻を知らせる合成音声っぽいチャイムが鳴った。

 

そのメロディーが合図のように、雪ノ下さんはさっさと帰り支度を始めた。比企谷君も同じだったわ。2人とも文庫本を鞄に入れて立ち上がり

 

「食蜂さん、お疲れ様」

 

「……食蜂、俺は先に行くぜ」

 

と軽い挨拶を済ませると、教室から出て行ってしまった。ポツンと残された私。

 

夕日に染まる窓の外を見ながら、今日1日を振り返る。真面目に書かなかった作文のせいで昼休みに呼び出され、放課後にこの教室へ連れてこられ、奉仕部へ強制入部。

 

そして悩める子羊を救う勝負までさせられてしまったわ。誰かを救うって、この私にできるのかしらぁ?なんだかゾッとするほど疲れが出てきたわねぇ……。

 

「はぁ〜、やっぱり真面目に作文は書いておくべきだったわ!」

 

誰もいない教室で、そんなことを呟いていた私だったわ。いつまでもここに残ってるわけにはいかないし、さっさと帰るとしますか。

 

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