蜂ガイル〜蜂は再び恋をすることが出来るのだろうか〜   作:龍造寺

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第3話です。


第3話ー蜂は、逃げようとするが、平塚先生に捕まる。

 

千葉県・朝・総武高校・2ーF組。

 

私は自分の席に着くと、窓の外をぼんやりと眺めた。運よく窓際の席になったからよかったわねぇ。授業中でも外を見ているだけで時間を潰せるのだから。それにしても、あの陽キャたち、朝から本当にうるさいわねぇ〜。

 

三浦優美子を筆頭とするグループ、相模南を中心としたグループ……その他、名前もよくわからないグループ……毎日毎日、話題が尽きないみたいねぇ。

 

比企谷君は机に突っ伏して、音楽でも聞いているのかしら。……私もスマホで音楽でも流そうかしら。その方が自分の世界に入れるらしいもの。そう思いながら、私はこっそり授業の準備を進めるのだった。

 

千葉県・放課後・総武高校・2年生廊下。

 

今日も一日、ダラダラと過ごしてしまったわねぇ……。すぐに変われるわけないわよねぇ。比企谷君もいないみたいだし、このまましれっと帰れるかしら?そう思って教室を出た瞬間、平塚先生と逃走に失敗した比企谷君がそこにいた。

 

平塚先生は私を見て、にやりと笑った。

 

「比企谷、逃げられると思わないことだ。食蜂、君も逃げようと思ったのかね?」

 

「え?」

 

私は鋭い視線にビクッとなって、逃走を諦めた。比企谷君が必死に言い訳を始める。

 

「あのですね、思うんですが、生徒の自主性を尊重し、自立を促す学校教育という観点から考えても、こうやって強制されることに異議を唱えたいのですが」

 

総武高校は確かにそれを掲げている学校よねぇ! 比企谷君、ナイスよぉ!

 

「残念だが、学校は社会で通用させるための訓練の場だ。社会に出れば君たちの意見など通らない。今のうちから強制されることに慣れておきたまえ」

 

平塚先生は私たちを鋭い視線で圧し、

 

「次に逃げようとしたらわかるな? あまり私の拳を煩わせないでくれ」

 

「わ、私も拳で!?」

 

平塚先生は男女関係なく拳で語る人だから……これ以上言い訳をしても物理的攻撃が待っているだけよ。

 

「二人ともわかっているな。今度逃げたら雪ノ下との勝負は問答無用で君たちの不戦敗ということにしておこう。ついでにペナルティも科す。3年で卒業できると思わない方がいいぞ」

 

「な、なんだと!?」

 

「え?」

 

平塚先生は私たちの逃走経路を完全に塞いでしまった。これは精神的にも将来的にもキツイわねぇ……。結局、私と比企谷君が前を歩き、平塚先生が後ろからついてくるという構図で奉仕部の教室を目指すことになった。

 

「あの、俺も食蜂も逃げたりしないんで大丈夫ですよ」

 

「そう、寂しいことを言うな。私が一緒に行きたいのだよ」

 

 

ふっと平塚先生が優しげに微笑んだ。普段の釣り上がった瞳とは全然違っていて、そのギャップがたまらないという男子は多いのでしょうねぇ。

 

「君たちを逃がして後で歯噛みするぐらいなら、嫌々でも連行した方が私の心理的ストレスが少ない」

 

「理由が最低ですね」

 

「それって教師が言うことなのぉ!?」

 

「何を言うか。嫌で嫌で仕方ないが、君たちを更生させるためにこうして付き合っているのだぞ。美しい師弟愛というやつだ」

 

「これが愛かよ」

 

「私、平塚先生と師弟関係に覚えはないですよぉ! それにこんな愛はいりません」

 

「はぁ〜、さっきの言い訳といい、君たちは全く捻くれているなぁ……捻くれすぎて秘孔が逆の位置にあるんじゃないのか? 聖帝十字陵とか作るなよ?」

 

平塚先生、中二病をこじらせた人なのかしらぁ? 先ほどからずっとアニメや漫画のネタばかり……。

 

「もう少し素直な方が可愛げがあるぞ。特に食蜂、お前は素直になれば男子も寄ってくるぞ。世の中を斜めに見ていても別に楽しくはないだろう?」

 

「余計なお世話です」

 

「楽しいだけが世の中じゃないですよ。楽しきゃいいって価値観だけで世界が成立していたら、全米が泣くような映画は作らないでしょ。悲劇に快楽を見出すこともあるわけですし」

 

確かにそれは一理あるわねぇ。

 

「今の発言など、まさに典型的だな。世に噛まれているのは若者によくあることだが、比企谷、君のそれはもう病気の域だな。高校2年生特有疾患——やはり君は『高2病』だ」

 

比企谷君、勝手に高2病認定されちゃったわねぇ。それもいい意味じゃなく、病気扱い……。

 

「平塚先生、さすがにそれはひどくないですかぁ? それに高2病って何ですか?」

 

「君たち、問題アニメは好きかね?」

 

私が説明を求めたのに、平塚先生は自分勝手に話題を変えてきた。

 

「は? アニメや漫画ですか……嫌いじゃないですけど」

 

「私も好きな方ですよぉ……」

 

「そうかそうか。では一般文芸はどうだ? 東野圭吾や伊坂幸太郎は好きかね?」

 

チョイスの仕方がピンポイントですねぇ……。

 

「読みはしますけど、正直売れる前の作品の方が好きですね」

 

「まあ〜嗜む程度には読んでいますけどねぇ」

 

「好きなライトノベルレーベルはどこだね?」

 

「……ガガガ文庫と講談社ボックスですかね。まあ後者のラノベかどうかは知りませんけど」

 

「……富士見ファンタジア文庫や電撃文庫とかですかねぇ……」

 

「ふむふむ、君たちは本当に悪い意味で期待を裏切らないな。立派な高2病だ」

 

平塚先生は呆れた表情で私たちを見つめてくる。

 

「高2病は高2病だ。高校生にありがちな思想形態だな。捻くれているということがかっこいいと思っていたり、『働いたら負け』とかネットで持て囃されたり、それらしい意見を常に言いたがったり、売れている作家や漫画家を『売れる前の作品の方が好き』とか言い出す。皆がありがたがるものを馬鹿にし、マイナーなものを褒め称える……」

 

それは人それぞれなので、私がどこをどうとは言えないんですけどねぇ。

 

「そのうえ、同族のオタクを馬鹿にする。変に悟った雰囲気を出しながら、ひねくれた論理を持ち出す。一言で言って嫌なやつだ」

 

「私はそんなことしていませんよぉ!」

 

「嫌なやつって……くそっ! 大体合ってるから反論できねぇ!」

 

「いや、褒めたぞ。近頃の生徒は実に器用に現実と折り合いをつけてしまうからな。教師としては張り合いがないのだよ。工場で働いているような気分になる」

 

それはそれで優等生をこっそり馬鹿にしている気がするんですけどぉ……。

 

「近頃の生徒は、ですか」

 

「私や比企谷君は、つまり決められたレールから外れた問題児ということですよねぇ?」

 

「問題児? 確かに周りから見ればそう見えるかもしれん。が、私から見ればそれは高2病だな」

 

なんか反応するのもバカバカしくなってきたわねぇ。比企谷君も同じようだった。

 

「勘違いしないで欲しいのだが、私は割と本気で褒めている。考えることを放棄しない人間は好きだよ。捻くれているが、ね」

 

好きだよって……平塚先生、熱血教師なのかそうじゃないのか、一体どっちなのよ……。

 

「そんなひねくれている君たちから見て、雪ノ下雪乃はどう映る?」

 

雪ノ下さん? どう映るって……学校で一、二を争う美少女で、頭も良くて……男子からは好意を向けられ、普通の女子からは嫉妬の眼差しを向けられる存在よねぇ。

 

「嫌なヤツ」

 

比企谷君は即答したわねぇ……。私も好きになれるタイプではないわ。苦手な部類よねぇ……。

 

「私も正直に言えば、苦手な部類の人間ですねぇ……」

 

「そうか……」

 

平塚先生は苦笑いをした。

 

「非常に優秀な生徒ではあるんだが……まあ、持ち物は持ち物でそれなりの苦悩があるのだよ。けれど、とても優しい子だ」うーん、優しい子ですか……どう捉えていいのかわからないわねぇ。

 

「きっと彼女もやはりどこか病気なんだろうな。優しくて往々にして正しい。だが世の中が優しくなくて正しくないからな。さぞ生きづらかろう」

 

「あいつが優しくて正しいかは置いといても、その点には概ね同意ですね」

 

「……確かに優しくないというのには同感ですねぇ」

 

平塚先生は『だろう?』という顔でこちらを見てきた。

 

「やはり君たちは捻くれているな。うまく社会に適応できそうもない部分が心配だよ。だから、君たちを一箇所に集めておきたくなる」

 

「私や比企谷君は、隔離病棟の患者か何かなんですかぁ!?」

 

私は思わず声を荒げてしまった。比企谷君が横でびっくりしている。

 

「隔離病棟の患者か……そうかもな。けれど、君たちのような生徒は見ていて面白くて好きだよ。だから手元に置いておきたいだけかもしれんな」

 

「……それって束縛彼氏ならぬ束縛彼女の発想ですよぉ!」

 

平塚先生は楽しげに笑っていて、私の言葉に全然耳を傾けていないわよぉ……。私も比企谷君もため息を繰り返しながら、奉仕部へと向かう廊下を歩かされていたのだった。

 

(奉仕部での新たな一日……? なんだか逃げ場がどんどんなくなっていくわねぇ☆)

 

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