蜂ガイル〜蜂は再び恋をすることが出来るのだろうか〜   作:龍造寺

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第5話です。


第5話ー蜂は、八幡と家庭科の調理実習をサボる。

 

千葉県・昼前・総武高校・特別棟1階特別棟の1階。

 

この少し奥まったスペースは、私の隠れ家でもあるわねぇ。私は女の子座りで壁に寄りかかっていた。まあ、誰かが階段を登ってきたらスカートの中が見えてしまうかもしれないけれど……ここはほとんど人が来ないから大丈夫よねぇ。

 

体育の準備運動をするクラスの声が遠くから聞こえてくる。音楽室からは歌声も響いてきた。

 

「今は授業中よねぇ……こうやって授業をサボるのも何回目かしらぁ……」

 

今、私は絶賛家庭科の授業をサボっているところ。別に好き好んでサボっているわけじゃないのよ。

 

うちのクラスは家庭科の時間で、班分けをして料理をするんだけど……女子の人数的にどうしても1人余ってしまうのよねぇ。

 

いつもそれが私。

 

1年生の時にその辛さを味わったから、2年生になってからはこうしてサボるようになったんだけど……。家庭科の教科書やノート、エプロンは一応持ってきてはいるけれど。

 

「今日の家庭科って……カレー作りだったわねぇ」

 

私がいなくても授業はつつがなく進んでいるでしょうけど、家庭科が3・4時間目だから、作ったカレーがそのままお昼ご飯に直結するのよねぇ……。参加していない私は、お昼ご飯が無しってことになるわ。

 

「はぁ〜、今日はお昼無しかぁ……」

 

ううん、4時間目が終わったら購買部にダッシュしてパンでも買えばいいわよねぇ。

 

私は懐からスマホを取り出し、ニュースや芸能サイトを眺める。めぼしい情報は特になし。

 

「さすがに寝転ぶわけにもいかないわねぇ……」

 

そんなことを呟いたその時、音もなく誰かがそこに現れた。

 

「は? し、食蜂、なんでお前がそこにいるんだよ?」

 

え? 比企谷君!? 比企谷君こそ何してるのよぉ?

 

「な、なんでって……!!」

 

比企谷君が慌てて視線を逸らした。私はすぐに自分の座り方に気づいて、慌てて開いていた足を閉じた。

 

「……比企谷君、見たでしょ?」

 

「は? 何を見たって? 俺は何も見てねえぞ……()()なんて……」

 

「見てるじゃないのよぉ!!」

 

私はさっき比企谷君が口にした黄色の下着を身につけていた。だから余計に顔が熱くなる。私は比企谷君をジト目で睨みつけた。

 

「見たくて見たんじゃねえぞ! こっちに登ってきたらお前がああいう座り方してたんだろうが……あれで見るなっていう方が無理な話だろ」

 

比企谷君はため息をつきながら、私が座っている場所の反対側の端に腰を下ろした。

 

彼も家庭科の教科書とノート、エプロンを持っているのに、家庭科室には行かないのねぇ。まあ、私が女子の余り物なら、比企谷君も男子の余り物ってことよね……。

 

「……お前は家庭科嫌いなのか?」

 

「別に料理自体は嫌いじゃないけどぉ……班分けがねぇ……比企谷君は?」

 

「同じ意見だな。料理は嫌いじゃねえ。ただ、班分けしてそいつらと一緒に作らなきゃいけないってのが理解できねえだけだ」

 

「……班分けができない人間にとっては辛いよねぇ」

 

「……班分けより、1人で作る方がよっぽど実践的だろ?」

 

「家庭科室、クラス全員が1人ずつ調理できるほどの設備はないと思うんだけどぉ?」

 

比企谷君はテニスコートの方を見ながら、ぽつりと言った。

 

「しかし……奉仕部、人助け……俺たちにそんなことができると思うか?」

 

「そうねぇ……普通に考えたらできるわけないわねぇ……」

 

「だろ? 平塚先生が見張ってる以上、嫌でもやらなきゃいけないんだけど……そもそも、そんな依頼が来ると本気で思ってるのか?」

 

「私に聞かれてもわからないわよぉ……」

 

お助け部ならまだしも、ただ背中を押すだけの奉仕部に相談に来る人がいるのかしらねぇ。

 

「依頼が来るまで、奉仕部の教室でぼーっと待ってるだけじゃないかしらぁ?」

 

「それもあるが、そもそも奉仕部ってこの学校で認知されてんのか?」

 

「聞いたことないわよぉ……」

 

「だよな。同じクラスの連中すら話してねえ……本当に依頼とか来るんだろうか……」

 

風に乗って、家庭科室からカレーのいい匂いが漂ってきた。おそらくもう出来上がりかけているのでしょうね。

 

「カレーの匂いがしてきたな。まあ、俺らのクラスの連中が作ってるわけだが」

 

「時間的にももう昼前だもんねぇ……」

 

「さてと、俺は朝に購買部で買ってきたパンでも食うか」

 

比企谷君はエプロン袋からパン3個を取り出した。ああ、今思えば私も朝に買っておけばよかった……。

 

私がじーっと見つめていると、比企谷君が気づいた。

 

「な、なんだよ? 言っとくがやらないぞ!」

 

「べ、別に欲しいなんて言ってないでしょ!?」

 

「いやいや、欲しそうにこっち見てたじゃねえか!」

 

「だ、誰がよぉ!」

 

その時、私のお腹が『ぐぅ……』と鳴ってしまった。

 

それを比企谷君に聞かれてしまい……顔が一気に熱くなる。は、恥ずかしい……!比企谷君はため息をついて、

 

「……ったく、仕方ねえな……」

 

そう言って、パン1つを私の方に差し出してくれた。アンパンだった。

 

「くれるのぉ?」

 

「……腹の虫の音聞かされたからな。俺もそこまでの鬼じゃねえ」

 

「比企谷君、ありがとう」

 

私は素直に受け取り、心から感謝しながらアンパンを食べ始めた。

 

「ただのアンパンだぜ、そこまで美味しそうに食べるの初めて見たぞ」

 

「……ただのアンパンでも、なぜかすごく美味しく感じるのよぉ……」

 

「全く大げさなやつだな」

 

「あなただってお腹が減ってればそうなるんじゃないのぉ?」

 

「さあ、どうだろうな」

 

「はぐらかす気?」

 

「はぐらかすつもりはねえよ……」

 

比企谷君はそっぽを向いて自分のパンを食べ始めた。

 

私はふと別の方向を見て、今頃登校してくる女子生徒を見つけた。

 

茶色のロングヘアに制服を着崩し、カバンを後ろに回して歩いてくる。あれって確か、うちのクラスの麦野静乃よねぇ……?

 

「何見てんだ?」

 

「今頃になって登校してくる人がいたから見てただけよぉ」

 

「今頃って社長出勤かよ……って、誰だよ?」

 

「比企谷君……あの女子生徒は同じクラスの麦野静乃よ」

 

「わりぃ、クラスの名前なんてほとんど覚えてねえよ」

 

「はぁ〜、さすがにそれはヤバいでしょ!?」

 

どれだけ周りに興味がないのよぉ……。私もそこまで興味深いわけじゃないけど、名前くらいはねぇ。

 

私たちは4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴るまで、そこに隠れて時間を潰し、昼休みになったら何食わぬ顔で教室に戻ることにしたのだった。

 

(この後、何か波乱の予感がするんだけど……)

 

 

千葉県・昼前・総武高校・2ーF組。

 

私は何食わぬ顔で5時間目の準備をしていたら、クラス委員長の黒田杏子が目の前にやって来た。

 

黒田さんは黒髪のロングヘアで、その髪は雪ノ下さんよりさらに深い漆黒。日本人形のように整った顔立ちをしているけれど、性格は活発で真面目な普通の女の子だわねぇ。

 

「食蜂さん、あなた家庭科の授業サボったよね?」

 

「え? サボったというかぁ……気分が悪かったのでぇ、休ませてもらってました」

 

「気分が悪くて休んでた? 保健室の先生に聞いたら来てないって言われたけど、どういうこと?」

 

黒田さんにきっちり睨まれて、頭の中をフル回転させたけれど、いい言い訳が全く浮かばない……。

 

「まあ……いいわ。鶴見先生からの伝言。放課後、食蜂さんと比企谷君は平塚先生のところに行ってちょうだい」

 

比企谷君が机に突っ伏したままビクッと反応したわねぇ。まさか自分の名前が出るとは思っていなかったのでしょう。

 

「は? 鶴見先生の伝言って……平塚先生のところに行くってことなのぉ?」

 

「そうよ」

 

「行かなきゃダメ?」

 

「行かなかったら放送で呼び出されるんじゃないの?」

 

う〜、鶴見先生、なんで平塚先生に丸投げするんですかぁ!? 

 

平塚先生は現国の先生で、家庭科の先生じゃないのに……!黒田さんはそれだけ伝えると、自分の席に戻っていった。

 

でも、なんで私たちだけ呼び出されるのよぉ? 遅刻してきた麦野静乃は普通にスマホをいじってるし……。

 

あ〜、また職員室に行くイベントになってしまったわ……。

 




今回は昼投稿です。
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