After the last bullet is fired 作:蓮太郎
これは、一人の男の話である。
その男は傭兵であった。数多くの戦場を渡り歩き生き延びてきた猛者だった。
何故有名になっていないかと言われたら、戦場で『異能』ですら治せない傷を負い声を出せなくなった事と彼の前に立った敵が全滅したからである。
無名の傭兵、どこまで言っても死んだと思わせておいてしれっと帰ってきて報酬を振り込ませるのが日課となっていた。
その男は前世があった。このような『異能』という特殊能力がなく平和な世を堪能してきた男という前世が。
自分自身に『異能』があったことは喜びはしたが、戦闘にはあまり使えないと思い傭兵と違う別の仕事をしようと思っていた。
ただ、自堕落な生活を許してくれるほど世界は甘くなかった。
戦火に巻き込まれて家族は死に、独り身で生きていくためには戦う術を学ばざるを得ず、多くの人間を殺していった。
悲しいくらいに誰かの死に関わるようになってしまっていた。
そんな彼の休日は優雅に過ごす。
とある少女とその親戚が二人で経営しているカフェでパスタを頼んでゆったり過ごすことが彼の休日において最もリラックスできる時間となった。
このカフェの常連となった今では、つかの間の平和は傭兵にとって憩いの場だ。
恋愛とかしてみるのもいいが、いつ死ぬか分からない傭兵にとって下手に愛することは喪失時が非常にダメージが大きい。
彼の友人であった男も恋人の死をきっかけに引退したのだから間違いない。
自分は大丈夫、何て思えるはずもない。あれだけ冷淡だった友人が情で熱くなって折れる姿は見ていられなかった。
自分も誰かを愛したらそうなるのだろうか。そんなことを考えながらパスタに付属するスープを口に含んでいたその時だった。
爆発音、それも一度ではなく何度も発生した明確な悪意が乗った攻撃だった。
そして、彼のいるカフェにもその爆発は空から降り注いできた物体により巻き込まれることとなる。
「あう、う…………」
少女、オルカ・ドリムは意識を取り戻す。
叔父と共に非戦闘地区でカフェを経営して過ごしていた一般人、だった。
各国が決めた協定により非戦闘地区として定められた『クワイエット』街が突如攻撃されるまでは。
降り注ぐミサイル、逃げ惑う住人達、そして銃を乱射し無抵抗の市民を虐殺する兵士たち。
地獄だった。目を開けて、恐る恐る瓦礫をどかして外へ出ると殺戮が行われていた。
「おじ、さん?」
彼女の叔父は、彼女を守るために降り注ぐ瓦礫の盾となり死んだ。
頭が凹んでいたのだ、打ちどころが悪いという話どころではない。
そんな彼女が思ったのは叔父の死を悲しむことではなく、逃げないという事だった。
冷徹に見えるが彼女なりの防衛反応だった。
身近にいる人間が突如理不尽に死んだら、目を背けたくなるのも当然なのだから。
呆然としていたが、いきなり肩を叩かれて体を震わせる。
誰が肩を叩いたのか、未だに現実味がないまま振り返る。
「……………………」
「…………誰?」
そこに立っていたのはヘルメットを着けた男らしい人であった。
男らしい、というのは無機質なスーツを着ていたせいで明確なボディラインが分からなかったのだ。
だが、彼は膝をついていたオルカに手を伸ばして無理矢理立たせる。
そうしなければ生き残れないのだ。
「え、あ、ぁ、ああっ!?」
そしてようやく町が攻撃されたことに気づいた、気づいてしまったオルカは混乱し始めるも男はこっちに来いと言わんばかりに手でジェスチャーしながら廃墟となった喫茶店を脱出する。
おいていかれてしまいそうなことに気づいたオルカもその後を追った。
どこまで行けばいいのか分からない、そこらかしこが攻撃されて美しかった街並みが見るも無残に変わり果ててしまっていたのだから。
人々は倒れ、逃げ惑い、そして泣き叫ぶ。
「だ、だずけで!ア、足が挟まれ!」
「…………」
「ママ、ママー!」
目を覆いたくなるような惨状、それでも先導してくれているヘルメットの男は見向きもしていない。
いつまた攻撃が来るのか分からないため、戦地となった町から脱出して安全地帯に逃げるのが一番なのだ。
だが、その道行きも上手くいかなかった。
「帝国の為に!」
「勝利を!帝国の為に!」
ざっざっと走ってくる兵士たち。中立地帯ではありえない銃火器での武装を施しており、明らかに敵対心を光らせながら逃げ惑う人々を虐殺していく。
帝国、というのは恐らく今物理的にホットな『ディルシア帝国』のことで間違いない。
世界各地から『異能』を持つ者を集めており、世界中で戦争の火種をばら撒いているのだ。
今、中立地帯を攻撃したのもその一環であろう。
だが、そのような狂気の真似をするのか?
一方的に蹂躙される市民たち、もはや太刀打ちできないのか?
「殺せ殺せ殺せ!占領しろ!」
「奪え、うば、うぎゃっ!?」
「なんだ、敵か!」
「……………………」
否、1人だけ抵抗できる人間が居た。
「……………………」
無口、無表情のヘルメット、無我のような銃捌き。
そう、彼である!
「(やっべ、これ俺の知ってるゲームの展開やん?俺死ぬ?死ぬキャラに転生した?何で今になってこのことを思い出すんや!?)」
心の中で絶体絶命の危機を悟り、喋れないため心の中で絶叫した。
この世界は『アンダー・タクティカル』。
『異能』と銃火器の戦いが飛び交い常に戦争が起きている戦闘狂以外に厳しい世界である。