俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~   作:ねこねこてんちゃん

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トモリの集落③ 昔の居場所

 ユキの集落。もうすっかり日が落ちて辺りは真っ暗。

 俺たちは、ここに住む人々のお祭りのような集会に混ぜてもらっていた。

 広場の真ん中、焚き火が辺りを照らす。結構冷えてきたから、デカい火があるのはありがたい。

 

「急な集まりやけど、全員おるみたいやね~」

 

 ユキの言葉を聞き、俺はあたりを見回す。

 合わせて……20人くらいか?

 人によっては料理を振る舞うための鉄板とか出して作っていたりする。若い人や子供もいて、人数よりは賑やかだ。

 

「ライト。君はまだお酒飲めんもんなぁ。残念残念。にひひ。ユキちゃんだけ楽しむな?」

「わかった! わかったから! 行ってきていいって!」

「おいしいジュース貰ってくるからな~」

 

 笑いながら楽しそうに手を振り離れていくユキ。

 ふぅ。とひと段落。

 地べたに直接座っちまうか。メチャクチャ冷えてる。ただこの感触と炎の照らし、そんで騒がしさが祭りって感じがして心地いい。

 

「おや。この子が例のライト君かい?」

「そだよ。あっお酒はダメだからね? まだ若いんだから!」

 

 集落の人……おばちゃんと、デカい木のジョッキを持ったミツイに話しかけられた。

 

「どもです。お邪魔してます」

「里長から聞いたよ! 大変だったんだってね!」

 

 俺はおばちゃんに返事するとき、思わず敬語っぽくなった。

 ルミエルネのばあちゃん……ミカゲ婆さんに話しかけるときもそうだった。

 親とか、ばあちゃんくらいの年齢の女性と話すときってビビるよな。妙に背筋が伸びるってか。

 おばちゃんは手に持っている料理を俺に渡しながら、話を続ける。

 

「ここの夜は冷えるからね! 温かいものを食べて、備えるんだよ!」

 

 これは……チーズの乗った肉と米の料理?

 とろっとした白いチーズと赤いソースの色合い。肉の香り。

 すんげぇ美味そうだ。受け取った料理を持ちながらおばちゃんの顔を見上げる。

 

「いいのか? ありがとう」

「熱いからね! 冷まして食べな!」

 

 うん。なんだか久々だな。街にいたときのことを思い出す。

 すっかり寒いってことは気にならなくなっていた。

 スプーンで食おうとしたときに、世界で一番聞き慣れた声がした。

 

「ライト! お前なんだそれ! なに食おうとしてんだ?」

「流石だぜハルン。鼻が利くな相変わらず」

 

 ずけずけとした足取り。ドスンと俺の隣にハルンが座る。

 うちのメシ担当はさっそく俺の貰い物に興味津々。

 おばちゃんも目が真ん丸だ。

 

「ほーぅ。こいつはあれだ。ドリアとか何とかいうメシだな。分けろ!」

 

 ハルンは俺のスプーンを早速握りながら、ドリアをすくって持ち上げる。

 とろりと伸びたチーズ。一気に匂いが広がって腹が減ってきた。

 

「おばちゃん。この子がカラクリ猫のハルンだよ? かわいいっしょ」

 

 なぜかミツイが自慢げにご紹介。

 頭をポンポンされてもメシにロックオンしてるハルンは気にしない。とにかく匂いを嗅ぎまくってる。

 おばちゃんはハルンの目を覗き込みながら、不思議そうに話しかける。

 

「はぁ~。すごいね。生きてるカラクリなんて初めて見たよ。ご飯も食べられるのかい?」

「食えねぇ! ただメシは嗅いだり見たりでなんとなくわかるぜ。 おいライト!」

「あ?」

 

 ずめり。熱っつ!

 返事をするために、ぼさっと空いた俺の口へハルンはスプーンを突っ込んできた。

 おっまえ……! 熱っちい!

 

「おっと、大丈夫かい!?」

 

 大丈夫。おばちゃんの心配に対して、手ぶりで答える。

 いやマジで熱い。

 

「うん。うん。美味い。すげー美味いなこれ」

 

 ようやく声が出せるようになった。

 肉とソース、米とチーズで……豪華なんだけど暖かい。ドリアはいいなこれ。おばちゃんの言ってた通り寒いところで食うのが合う料理だ。

 おばちゃんも満足げに頷く。

 

「トモリは今の時期、夜冷えるからねぇ。でもそれくらいのがこいつは美味いのさ!」

「トモリって……この集落の名前なんすか?」

「そうだよ。みんなの希望がずっと灯されてますようにって里長がつけたんだ」

 

 ふぅむ。里の人たちも、里長もそういうところあるな。

 周りを見渡すと、トモリの人たちはみんな明るく盛り上がっている。

 ユキが酒をもらおうとしてる茶髪の女性。あの人は若い男の人とも分け隔てなく笑顔で話してる。

 里長と一緒に座ってる男性はユキやミツイと同じように刀持ってるから戦う人か?

 

「なんだい。うちの娘に惚れたかい?」

「……んあ?」

 

 突然のおばちゃんからのぶっこみに変な声が出ちまった。

 なんだってんだ急に。ユキの隣の人っておばちゃんの娘さんだったのか。

 

「マナはモテるからねぇ。トモリの中でも一番人気さ! おかげで村の男がよく家に来るのが困りもんだがね。見惚れたっておかしくないよ」

「……一目惚れってそう無いと思いますぜ?」

 

 まぁモテるんじゃねぇの。とちょっと思ったが集落一番はすごいな。

 ユキだって男受けしそうな見た目。ミツイとかめっちゃ顔良いのに話しやすくてモテそうなのに。

 なんか手に届きそう感とかあんのかね……。って俺が考えても仕方ねぇか。ライトくんには色恋は早いって、ルミエルネやラージスにもよく言われてるしな。

 

 するとハルンがすぐに立ち上がり、両手に力を込めこう言った。

 

「おばちゃん! オレにもドリア教えてくれ!」

「なんだいこの子。料理も作れるのかい。本当にすごいねぇ」

 

 おばちゃんはハルンに対してずっと驚きっぱなし。

 もうな。カラクリの街頭販売並みのウケなんだよ。

 ジジイのカラクリをデカい街で売りさばくときは、こういう反応になると儲かった。

 

「よし! それじゃしっかり教えてあげるから。ついてきな!」

「おう! ありがとう! 頼むぜ!」

 

 あっという間に、うちの料理担当はおばちゃんと意気投合。

 二人してずけずけと、歩いてどこかに向かって……。

 

 あっ。待った。

 

「ハルン!」

 

 俺は大きめの声で呼び止める。

 

「あん?」

「充電。こっちこい」

「おーおー」

 

 寄ってきたハルンの胸にある宝石へ向けて、バチン。

 雷魔法を当ててやると、しっかりと青く輝いた。

 

「よし。ハルン。行ってこい」

「おう! ライト! 集落の奴らに迷惑かけんなよ!」

 

 お前は俺の母ちゃんか。

 騒がしさも一段落。したら隣にはミツイが座ってきた。

 

「さっきのバチン。なにあれ」

「あぁ。ハルンの充電。あれがアイツのメシだな。たまにしてやんないと止まる」

 

 ほほ~。とミツイは頷いている。

 俺はわりかしハルンがカラクリだって忘れがちで、昔は充電もよく忘れてた。自分自身でハルンが充電しろって言ってくれるから出来てることも多い。

 ただ、あいつが何かに夢中になってるときは申告してこなくなる時がある。

 だからハルンが楽しげに俺から離れるときは、充電。

 

「アイツもあんだけメシが好きなら、充電に頼らず食えればいいんだけどな」

「あー。飲み食いできた方がいいよねぇ。一緒に食べたり飲んだりできるもん」

 

 俺がこぼした一言にニヨニヨとした表情でミツイが答えた。

 なんか、含みがあるな?

 

「……なんだよ」

「んにゃあ? ハルンはライトの家族だねぇって」

 

 ……だからなんだんだ?

 ニマニマと楽しそうなミツイ。

 

 その隣に、とすん。ともう一人座った。ユキがいくつかジョッキを携え戻ってきた。

 

「どしたんみっちゃん。楽しそうやん」

「いえいえ~。ライト君は可愛いなぁってね?」

「おっと。あかんよ~? ライトはユキのやからねぇ。あげられませんよ~?」

 

 小気味よくふざけあうユキとミツイ。

 俺が酒の肴なのは何とも。

 もそもそと、座ったままユキが隣まで移動してきて、飲み物を渡してくる。

 すんすん。念のため匂いを嗅いどこう。酒の可能性がある。

 

「ジュースですよジュース! みかんのジュースやんか!」

 

 ユキ本人はそう言うが酔っぱらいは怪しい。

 ただ、匂いも平気そうだ。軽く舐めて味も見て、酒ではないと判断。

 

「めっちゃ疑われてんじゃんユキ。飲ませたことあんの?」

「ないよ! みっちゃんやないんやから! 子供に飲ませたりしませーん」

「なんだこいつ。ライト。ミツイお姉さんはそんなことしないから安心してね~」

 

 あ~。酔っぱらいの絡みだなぁ。

 

「ね。どうよ。この集落の人たち」

 

 ミツイは急に少し真面目な声で、中央の焚き火を見ながらそう言った。

 俺も、同じ火を見ながら率直に答える。

 

「まだ、ミツイと里長。さっきのおばちゃん。そんでユキとしか話せてねーけど。いい人ばっかだな」

 

 見ず知らずの俺たちの話を聞いてくれて、歓迎みたいなことまでしてくれて。

 ハルン見ても嫌な顔しないし。すんなり受け入れてくれた。

 俺の顔に伝わる熱が、この集落の温かさみたいに感じる。

 

 嬉しそうに少し微笑んだミツイ。また話しかけてくる。

 

「……よかった。私たちもさ。居場所がなくて。拾ってもらって。またそこが壊されて。ここにいるんだ」

 

 座っていた地面の冷たさを急に感じた。俺はミツイの方を少し驚いてじっと見る。

 

「君の隣にいる白い髪の人いんじゃん? その人とおんなじ綺麗な白髪の……優しい人たちに。助けられて。生きてたんだよ」

「みっちゃん!?」

 

 しんみりと語りだしたミツイをユキが言葉で制する。止められた方は少し不満気につぶやく。

 

「な~んだよ~。話しちゃダメなの?」

「こういうのはルミエとかラージス、ハルンにも! みんなに聞かせな! というか『ユキが言います』ってさっきライトたちに伝えたばっかりなんよ。 ほかの人探してくるからちょい待ち!」

 

 ユキはすぐに立ち上がり、慌ただしく去っていく。

 恥ずかしいとも言ってらんないか。無理矢理聞き出す手間が省けて俺はラッキーかも。

 

「よし。なら、おねーさんがあの子だと照れて話さないところを先に伝えておきましょう!」

 

 むふん。と言わんがばかりにミツイは切り出す。

 それって聞かれたくないところなんじゃないのか……?

 悪い女だミツイ。勝手にしゃべったらユキが嫌がる。俺からもしっかり言っとかないとな……。

 

「詳しく聞かせてくれ」

「良いね少年。素直が一番だよ」

 

 しゃーない。そりゃ止めないよ。聞くよ。

 だってこういう話は面白いと相場が決まってる。ルミエルネだって、きっとそう言う。

 

「私たちがここに来る前。暮らしていたのはハレノヒってところ。ここよりもちょっと北、雪積もってる山の中にあったの」

「マジか。寒くねーの」

「ふふん。それが寒くないのよ。だからハレノヒのことを私たちは『奇跡の街』なんて呼んでたり。もう白くて綺麗な建物がいっぱい!」

 

 ほほう。雪山の中にある白い街ってことか。

 滅茶苦茶綺麗そうだな。俺あんま積もった雪とか見ねぇし、一回見てみたかったかも。

 くいっとジョッキから酒を飲み、乗ってきたミツイはどんどんと喋る。

 

「わりかしね。栄えてたんだよ。吹雪く渓谷の中にある街なのにさ。千人くらいはいたんじゃない?」

「そんなにか。なんでまた?」

「その山を越えるとさ。なににも縛られない新天地がある! だなんて言われてて」

 

 両手を広げ、ちょっと呆れトーンになるミツイ。

 いろんな顔や仕草で話すのはユキに似てるな。

 

「国や街で本当に居場所のなくなった人たちが険しい山を登っていくわけよ。山を越えても厳しい他所の国しかないのにね。そんで、途中で行き倒れ」

「ああ……。それはしんどいな」

「相当だよねぇ。私も子供のころ家族に連れられて山越え挑戦。そんでやっぱり無理だからみんなして倒れちゃう。そんなときに私たちを助けて、街まで連れて行ってくれたのがハレノヒの領主様一族」

 

 思いだしながら語るミツイの瞳は相当柔らかくなっていた。懐かしむような。慈しむような。

 

「通称“白の人”。本当にみんなユキみたいな白くてきれいな髪してんだよ~」

「白の人……。あまりにも直球な名前だな。髪が白いから?」

「そのとーり。あの人たち建物とか、着るものも白いの好きだったしね」

「なるほど。ユキも今度そう呼んでみよ」

「そういやぁユキをそう呼ぶ人いないね。んで、その優しい人たちに背負われて見えたハレノヒの光景は、子供の私には忘れられないものだったの」

 

 ぱちぱちと。焚き火の燃える音がする。

 あたりはあんなに騒がしかったはずなのに、俺はすっかり喧騒が気にならなくなっていた。

 

「見えてきた白い街は、ふわっとした丸い光に包まれていて。その光を越えるとさ……急に暖かくなったの。外なのに。あんなに冷たくて、寒くて、辛かったのに」

「……マジかよ」

 

 そんなことあるのか。感覚が消えたとかじゃなくだろ?

 白い光の中入ったら暖かくなる街……。

 

「信じられないよね。天国かと思ったもの。どうしようもなくなって、行き倒れた人たちを温かい街が迎えてくれる。だからハレノヒは、人がたくさんいたんだ」

 

 そりゃそうなるか……。俺だって天国だろと思う。

 山を越えなくたって、求めてた暖かい居場所があったんだ。

 目の前のミツイは話が伝わったことに手応えを感じた顔。

 

「街だけじゃないのよ! 白の人たちはね……優しかったんだぁ。みんな穏やかで、争いとか全然しないし。暮らしの中で揉め事があったら、とりなしてくれて、私みたいな子供の困りごとも聞いてくれて」

 

 すごく嬉しそうにまた語る。いい場所だったんだな。心底伝わってくる。

 だからこそ、心が痛む。俺がハヴィーの街のこと話してるとき、ミツイもそう思ってたのかもしれない。

 

「私はさ。あの人たちのこと凄く尊敬してる。だから、あの人たちみたいに優しくなりたくて。この場所がライトたちのこと、そうやって迎えられてたら、いいなって」

 

 そうか。だからでっかい焚き火なのか。

 だから……優しいんだな。

 

「あったけぇよ。ここは」

「……そっか。よかった」

 

 そういや。ハレノヒの街はなんで暖かいんだろうな。

 焚き火とかじゃねぇだろ。耐寒の魔法でも街を包むとか全然無理だろうし……ああいうのって吹雪相手に通用すんのか?

 

「なぁ。ハレノヒはなんで暖かかったんだ?」

 

 率直に切り出すと、ミツイは目線を斜め上に上げて考える。

 

「んっとねぇ。それは……」

「みーっちゃん!」

 

 少し遠くから大きな声で、そしてちょっと怒ったようにユキの声がした。

 あっという間に駆けてきて、ユキはミツイに詰め寄る。

 

「アンタぁ! 先に喋ったやろ!」

「喋ったよぉ~? なんだよ~」

 

 ミツイは悪びれてない。俺は共犯だということを黙っとこう。

 

「なに喋ったん! 吐け!」

「そりゃハレノヒのことだよ。ね~?」

 

 ミツイは俺をガッツリ巻き込みに来た。もはや逃れるすべはないか。

 近づいてきて、じっとこちらをうつむいた目で睨むユキに向けて俺も伝える。

 

「そんなたくさん聞いてないって。白の人」

 

 はぁ~。とユキはため息をついた。

 うん。大分すでに聞いてる。

 頭をぶんぶんと振ったあと、ユキからあきれた声が出る。

 

「ユキちゃんのお家に、みんないるから。続きはそこで話すよ。ほれ立って! ちゃちゃっと行きますよ~?」

 

 ぱんぱん。ユキは俺の背中をはたき、促す。

 わかったって。悪いと思ってるよ。言わねぇけど。

 先に立ち上がったミツイがユキの耳元で呟いた。

 

「まださ。ノブレスオーブのこととか、話してないよ」

「みっちゃん……。アンタ。面倒なとこばっか残したな?」

 

 ……ノブレスオーブ?

 聞いたことのない言葉。大方聞いたつもりだったけど、まだまだ話はありそうだ。

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